属性相反による弊害―兄さまの攻撃的魔力
~属性相反による弊害―兄さまの攻撃的魔力~
「……さてと。あまりのんびりともしていられないね」
兄さまのその言葉を聞いたことで、私の意識が現実へと引き戻されました。
今は『キズモノでいい』とか『俺様殿下との婚約回避』とか考えている場合ではないのです。
もちろん、先の将来のためにもそれは大事なことですが、そんな何年先になるか分からない不確定な現実よりも、今は血で汚れたタオルや兄さまのシャツをどうにかすることの方がもっともっと大事なのです。
優先順位の違いというやつですね!
だから兄さまの言うように、あまりのんびりとはしていられないのです。
ぐずぐずしている間に、誰かが探しにやって来ないとも限りません。
いくら兄さまが人払いをしたといっても、やっぱり私たちはまだ子どもなわけですし、長い時間姿を見せなければ心配されて探されるというのは容易に想像できます。
それが分かっているからこそ、兄さまは『のんびりしていられない』と言ったのでしょう。
自分の取ってきた行動が、使用人たちに対する完全な抑止力にはならないということも合わせて。
「汚れてしまったタオルや僕のシャツを早いところ処分してしまわないと」
「……うめますか?」
場所はちょうど奥庭ですし、掘り返す土は至るところにあります。
選ぶ場所によっては、生い茂った草や、植わっている木で覆い隠せてカムフラージュにもなると思うのです。
そう思って兄さまに埋めることを提案したのですが、兄さまは緩く首を振ってその案を却下してしまいました。
「いや、庭に埋めるのはやめよう。一部分だけ掘り起こされて土が新しく見えるというのは不自然だ」
「くさとかきでごまかせますよ?」
「素人目にはそうだろうね。でも、土いじりのプロである庭師の目はきっと誤魔化せない。不自然に思われて、埋めた部分を掘り返されて。それで血に汚れたシャツやタオルが出てきたら? そうなったらどうなると思う?」
「……おおさわぎに、なります」
「うん。間違いなく大騒ぎになるだろうね。だから、埋めるのは得策じゃない。誰の目にも触れないようにするには、跡形もなく消してしまうしかないかな」
「けすんですか?」
「そう。消すんだよ」
「どうやって?」
────手品じゃあるまいし、パッと消すなんて無理じゃね?
そう思って、どうするのかを兄さまに訊ねると、軽く目を眇めながらこう言われました。
「……燃やす」
「!?」
────うわぁ……
────なんだかすっごく悪い顔してるよ……
────兄さまって、こんな顔もできたんだ……
表情筋が仕事を放棄した無表情がデフォルト。
大人になったらなったで今度は能面顔の鉄面皮。
そんな兄さまのイメージというか、認識がどんどん崩れていく。
もちろんゲームで知っていたそれらの情報と比べると、今こうして目の前で見ることができている現実の兄さまの方がずっといい。
────けど、さ……
────さすがにそんな悪そうな顔は見たくなかった……
あまりに予想外の兄さまの悪い顔に、ちょっぴり引いてしまったのはここだけの話だ。
顔が不自然に引き攣っていないことを祈ろう。
すぐ顔に出る私だからたぶん無理だろうけど。
「そういうわけだから、ここから少し離れようか。少し奥の方に行こう」
そう言って兄さまが奥庭の更に奥の方を指差します。
今いる場所よりも目立たない場所で汚れたシャツやタオルを燃やすと、つまりはそういうことだと思います。
私たちをすっぽりと隠してしまうような木の側とかでしょうか。
でも木の側もある意味危ないと思うのです。
下手に引火したら大変ですし。
そのあたりは大丈夫なんでしょうか。
ちょっと心配です。
奥の方へと足を進めて、邸の窓が多少見えなくなったところで兄さまが立ち止まりました。
木に覆われた場所ではありますが、すぐ側に植わっているというわけではなく、少し開けたミニ広場みたいな感じです。
ちょっとした焚き火でもできそうな、そんな場所でした。
なので、火が木に燃え移るという心配はしなくてもよさそうです。
その事実にホッと胸を撫で下ろします。
怖いですからね、火事。
次から次へと木に火が燃え移っていく山火事なんて恐怖どころの話ではありません。
見るも地獄、聞くも地獄、ですよ。
────あ~怖い
思わずぶるっと身震いしたところで、兄さまが片手に魔力を集中させました。
魔力の流れを肌で感じた瞬間、私は兄さまの挙動に意識を集中させます。
『燃やす』と言っていた兄さまの取った行動が、まさか魔法によるものだとは思わなかったからです。
またここで兄さまの魔法を見られると知り、それを観察しない手はありませんからね。
「危ないから離れてて」
「はい」
魔力を発動させた状態で兄さまが私の方へと振り返りました。
もう何度も目にしてきた、魔力発動によって強く輝いた兄さまの目が、真っ直ぐと私を射抜くように見つめてきます。
強く輝く琥珀色の光。
けれど、今まで見てきたどの輝きよりも強く見えたのは私の気のせいなんだろうか……?
強いけれど、いつだって穏やかで優しいそれが。
今はただただ、強いだけにしか感じられないのはどうしてだろうか?
そう思った瞬間、さっきとは違う意味での身震いが起こった。
恐怖とは違う何かが急激にせり上がってくる。
なんか、嫌な予感がするとでもいうか、よく分からないけど、なんかそんな感じ。
────決して怖いっていうんじゃない……
────だけど……
────兄さまが今からやろうとしている魔法、どういうわけか、使っちゃいけない気がする……
『どうして?』って訊かれても理由は分からない。
たぶん勘。
なぜか、直感的にこれはダメって、そう思えたんだよ。
そして、私のその感覚は間違ってなかった。
「────ッ!?」
次の瞬間、溢れ出た兄さまの魔力に触れた肌がビリビリと痛んだ。
今までのような、柔らかく優しく包み込んでくれるような温かい魔力ではなく、その真逆の、刺すような痛みをビシバシと伝えてくるような、そんな攻撃的な魔力だ。
『燃やす』と言ったからには、その属性は紛れもなく『火』。
それに兄さま自身が『少しだけど使える』と言っていたから、今兄さまから溢れ出ているこの魔力は『火属性に染まったもの』で間違っていないと思う。
だけど……
────なんだろう、これ……?
────肌を刺すように痛いのもそうだけど、それとは別にゾワッとするものがある……
ものすごい違和感だ。
兄さまが『火属性の魔法を使うこと』が、あまりにも有り得ないことのように思える。
嫌な予感と身震いとが増していく中、それでも私は兄さまから目が離せない。
見ない方がいいのかもしれないけど、決して目を逸らしちゃいけない気がした。
そう感じたのとほぼ同時だった。
肌を刺すような痛みが増したのは。
兄さまの手から放たれた魔力が膨れ上がり、徐々にその色合いを変えていくのが目に入る。
今や兄さまの魔力の色は、優しい水を思わせる柔らかな淡い水色とは似ても似つかない、凶暴な炎を彷彿とさせる赤とオレンジが入り交じったような色へとその姿を変えていく。
それから……色を変えた魔力を取り囲むように宙を舞う、意味不明な文字列で綴られた何かの文言のようなものが見える。
呪文?
紋章?
よく分からないけれど、とにかくそんな感じの謎の文字の並びが兄さまの魔力を取り囲んでいる。
いくつも……いくつも。
初めて見るその光景に、また身体が震えた。
────こんなの違う……
頭の中に、真っ先にそんなことが浮かんだ。
初めて見たはずなのに、これは違うと思った。
兄さまがこんな風に魔法を使うはずがないと。
心の奥から叫ぶように、そんな思いが溢れ出てくるのが分かる。
それが私のものなのか、それとも記憶が戻る前のフローレンのものなのかは分からない。
だけど、そんなことはどうでもいい。
今の私は、ただただ兄さまを止めたかった。
こんな風に、刺すような痛みを伴う魔力を放出させながら、攻撃的な魔法を使おうとしている兄さまを止めたかった。
危ないとか関係ない。
今の兄さまを止めない方が、きっと、もっともっと危ない。
そう思った瞬間、私の身体は走り出していた。
ロイアス兄さまへと向かって一直線に。
「にいさま、ダメです……っ!」
「レーン!?」
兄さまの元へ着くなり、私はギュッと兄さまの腕へとしがみつき、火属性魔法を発動させないように邪魔をする。
相変わらず兄さまを中心に取り巻く魔力は刺すように痛い。
だけど、ここで痛みに負けて兄さまから離れて、火の魔法を使わせるのだけは絶対にダメだと思った。
「離れてレーン! 危ないと言っただろう!」
「いやです! はなれませんし、はなしません!」
「レーン!!」
「つかっちゃダメです! ひのまほうは、にいさまのまほうじゃない!」
「!?」
「こんなにいたいとかんじるまりょくは、にいさまのまりょくじゃない!!」
「レーン……?」
ホントに、痛いんだよ、兄さま。
ビリビリして、ビシバシと突き刺すように肌が痛むんだよ。
すっごくすっごく攻撃的なんだよ。
そんな凶暴な魔法は、兄さまの魔法じゃない。
包み込むように優しい魔法を使う兄さまには似合わないよ。
「こんなにいたいまりょく、ずっとだしてたらみつかります」
「レーン」
「だから、つかっちゃダメです」
それ以上に。
こんな凶暴で攻撃的な魔法を使っていたら、兄さまが兄さまじゃなくなる気がする。
そんなのは嫌だ。
なぜか、ゲームの中のロイアスのように冷たい視線でフローレンを蔑むように見る、あんな兄さまになってしまう気がして、それが嫌で嫌で仕方ない。
兄さまは今のまま、優しい兄さまでいてほしい。
そうじゃなきゃ嫌だ。
私の自分勝手な我儘だけど、兄さまには優しい兄さまのままでいてほしい。
「レーン」
「はい」
「僕の、魔力が痛かったというのは本当?」
「はい」
「どこか切れたりした?」
眉間にぎゅっと皺を寄せ、どこか苦しそうな顔でそう訊ねてくる兄さまに緩く首を振ることでどこも傷ついていないことを伝えます。
刺すような痛みはあっても、表面的な傷はどこにもないのです。
「けがはしてないです。でも……」
「でも?」
「ビリビリしたり、つきさしたりしたようにいたかったです」
肌に感じた痛みを正直に告げると、兄さまはどこかショックを受けたように目を瞠りました。
まさか自分の魔力で私がそんな風に感じるとは思わなかったのでしょう。
おそらく兄さま自身が、自分の魔力をそのように感じたことがなかったゆえに。
「今も痛い?」
そう問われて首を振りました。
今はもう何ともありません。
兄さまが魔力の放出を止めてくれたので、肌が痛みを感じることはなくなりました。
「にいさま」
「ん?」
「にいさまのまりょく、どうしてあんなふうになっちゃったんですか?」
「……そうだね。レーンにはちゃんと説明しておかないといけないね。自分でも気付かないうちに、僕の魔力がレーンを傷つけていたのかもしれないんだから」
相変わらず眉間に皺を寄せたまま、どこか言いにくそうに兄さまは続けました。
本当は言いたくないのかもしれません。
だけど、私が兄さまの魔力を『痛い』と感じた以上、言いたくなくても言わなければいけないという、ある種の葛藤と戦っているようにも見えます。
それなら私も、聞かずにいるという選択肢を選ぶこともできます。
別に言いたくないことを無理に言う必要はないのです。
あくまでも話してもらえるのであれば話してほしいというのが私のスタンスですし。
ただし『命に関わらないことであれば』という条件がが入りますが。
ただ単に、肌を刺すような痛みを感じるだけで、危険なものではないというなら、それはそれでいいのです。
そういうものかと割り切って、自分でその痛みに対処できるようになればいいだけの問題ですから。
でも。
だけど。
そうじゃないというのであれば、それはちゃんと教えてほしい。
それが今私が一番に思うこと。
「にいさまがいいたくないならそれでもいいです。きけんじゃないなら、そういうものだとおもってがまんします」
怪我をしたわけじゃないし、我慢できない痛みでもない。
だから、言えないならそれでもいいという本心からの言葉をそのまま兄さまに伝えました。
「……いや、言いたくないことではないよ。僕の魔力の特性上、これはどうしようもないことだから」
「まりょくのとくせい、ですか……?」
「そう。魔力の特性」
兄さまの口から同じ言葉が繰り返されたのを耳にしたことで、私にはその言葉が『私にではなく、兄さまが自分自身に言い聞かせている』もののように感じられました。
それはまるで、魔法に関してあんなにも優秀な兄さまが、自分自身に対して『自分の魔法には欠陥がある』と言っているようにも聞こえたのです。
だから私は、兄さまの言葉の真意を知ろうと、兄さまの目をじっと見つめました。
そんな私の視線に気付いて、兄さまは小さな呼吸を一つした後に、続きを話してくれました。
「ちゃんと話してはいなかったと思うけど、レーンは僕の魔力の属性が何なのか、なんとなく気付いているよね?」
「……みず」
「そう。僕の魔力の属性は水。オンディールの直系であることもそうだけど、僕自身との相性の関係もあって、ほぼ生まれた時から僕の魔力は水属性だったと言ってもいい」
「うまれたときから……?」
「うん。レーンはまだ何の属性にも染まっていない素の魔力の状態だから、あまりピンと来ないかもしれないけど……」
────いや、寧ろ私は『無属性の素の魔力』の方がピンと来なかったわ
……とは、さすがに言える状態じゃないね。
ちゃ~んと空気は読みますよ。
頭の中でそんなことを考えつつ、兄さまの言葉の続きを待ちます。
兄さまの魔力が生まれつき水属性だというのは分かった。
それと兄さま自身、水属性との相性がすごくいいということも。
たぶん。
だからこその、何かがあるんだろう。
それが兄さまの言う『魔力の特性上、どうしようもないこと』なんだと思う。
「魔力の属性が固定されて、且つ、その属性との相性が良すぎると、他属性の魔法を使おうとした際に、魔力が反発を起こすことがあるんだ」
「まりょくが、はんぱつ、するんですか……?」
────ある意味それって拒絶だよねぇ?
────嫌がってるともいうか
……ってことは、さっきのあれもそういうことになるんだろうか。
水属性の魔力を持つロイアス兄さまが、火属性の魔法を使おうとした。
確かにその時、放出された魔力の色は、火や炎を思わせる赤とオレンジが入り交じったような色へと変わっていった。
そうなっていくのを、兄さまの魔力は嫌がった。
火や炎に染まりたくない、と。
それゆえの反発。
────っていうか、普通に考えたら水と火って相性最悪じゃん!
大抵、火は水によってかき消されていくものだ。
けれど、それをかき消されないようにするためには、水以上に火の力が大きいことが必須条件となる。
自分が消される前に相手を消すほどの力ともなると、その規模は相当なものでなければならない。
ましてや、水属性100%と言ってもいい兄さまの魔力で、それを上回るだけの力を持つ火属性の魔法を使うなんて到底無理な話だと思う。
そう。
あくまでも、普通に考えたらの話だ。
現にロイアス兄さまは、自分自身の水属性の魔力を上書きするように、魔力の色を火属性のそれへと変化させていった。
たぶんそれは色だけでなく、性質までも。
そうでなきゃ、あんな風に肌に触れただけで『痛い』と感じるはずがない。
今まで触れてきた兄さまの魔力は、いつだって柔らかくて温かくて、包み込むように優しいものだったから。
そんなロイアス兄さまの優しい魔力が、なぜああも攻撃的で痛みを感じるようなそれになったのか。
考えられること……というか、疑わしい要素は一つだけある。
兄さまの魔力を取り囲むようにして宙を舞っていた、あの謎の文字列だ。
何かの記号のような、暗号のような。
それでいて、妖しく不気味なまでに鈍く光っていたアレを見て、咄嗟に呪文だとか紋章だとか思ったのはきっと間違っていないと思う。
たぶんあの謎の文字列が兄さまの魔力の質を変化させた。
悪質なまでに嫌な方向へと。
そういった様々な考えを頭の中で巡らせていた私の顔は、今にも『むぅぅ~……』と唸り出すような、そんな表情を浮かべていたのだろう。
珍しくも難しい表情(あくまでもフローレン基準)で考えごとをしている私は、兄さまにとってはさぞ異様な姿に見えたことと思う。
困惑するような、でもどこか訝しむような、そんな顔で見られてることには気付いてたけど、今はそんなことはどうでもいいのだ。
問題は、兄さまにとって相性最悪である火属性魔法を如何にして使わせないように言いくるめるか、だ。
正直、舌っ足らずな幼女の口調でどこまで説得力のある言葉を紡げるか不安だ。
仮に言えたとしても、舌っ足らずな口調ゆえに、言ったことの全てを真剣に捉えてもらえるかどうかも疑わしい。
────くっそ……八方塞がりってやつ……?
ギリリ……と奥歯を噛み締める。
どうやってロイアス兄さまから火属性魔法を引き離してしまえばいいか。
その方法が全く見つからない。
せめて私が。
私が、火属性と相性がよくて。
私が何の問題もなく火属性魔法を使えたらよかったのに。
そんなどうしようもないことしか浮かんでこない。
尚も奥歯を噛み締めていた私の口から、無意識のうちに唸り声が漏れていたのか、そっと兄さまに頭を撫でられた。
それと同時に『ゴメン』の言葉が降ってくる。
「ゴメンね、レーン」
「……にいさま?」
「少しだけなら火属性魔法を使えると言ったけど。本当は、普通に火属性魔法を使えるだけの力はないんだ」
「………………」
困ったように苦笑しながら兄さまがそう告げてくる。
分かってた。
普通に考えたら、水と火の組み合わせなんて最悪でしかない関係性だもん。
だけど『やっぱりね』なんてことは言わない。
だって私は、この世界の魔法というものをよく分かっていないから。
水と火の相性なんて、あくまでも互いが打ち消し合う関係であるという、前世でも当たり前だった性質から導き出したことだ。
ただの水と火の関係だけなら、きっと前世もここでも変わらない。
だけど、それが魔法となると『100%そうだ』とは言い切れないと私は思う。
だって、人によっては水も火も、同じように操れるかもしれないんだから。
その証拠に、この世界には複数の属性の魔法を使える人が存在している。
それが、王宮魔術師団に所属する魔道師たちだ。
彼らにとっては、魔法は何よりも身近なもの。
そんな彼らの中に、水と火の相性が最悪だなんて思う人はいないかもしれないのだ。
あくまでもそれは、使い手によっての考え方の違いもあると思うけど。
「属性魔法はね、レーン。さっき教えた封印魔術とは違って、魔力を練り上げて、術式を構築していくことで発動させるのが大半なんだよ」
「まりょくを、ねりあげて……じゅつしきを、こうちく……?」
「そう。レーンも見たよね。古代言語で描かれた法術陣が魔力を取り囲むようにしていたのを」
「………………」
ああ、あれか。
あの謎の文字列。
法術陣というのか。
呪いじゃないならいいけど、あの兄さまの魔力の変化を見る限り、大丈夫だと言えるようなものでないことは確かだ。
────どうやらその法術陣とかいうやつがネックだな……
兄さまから火属性魔法を引き離すには、そいつのことをもっとよく知らないと。
だから兄さま。
その法術陣のことをもっとちゃんと聞かせてほしい。
『危険だ』とか。
『レーンにはまだ早い』とか。
そんな想像に易い理由での拒否なんて受け付けないから。
寧ろ兄さまが『危険』とか言ったその時点で、揚げ足取って『兄さまだって危険だ!』って言ってやるつもり。
だから兄さま。
私を『ただの幼女』だと思わず『真剣に魔法と向き合う一人の人間』としてその話、包み隠さずぜ~んぶ正直に話してよねっ!