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幼女には頭を打つ呪いがかかっている!?

※軽い怪我と流血描写あり




~幼女には頭を打つ呪いがかかっている!?~




未だに思考があっちの方に飛んでいるらしい兄さまを見上げつつ、溜息を一つ。

頭を打ったのは確かだけど、そこまで心配されるレベルのものじゃないと思うのは私だけか。

まぁ……もんのすっっっっごく痛かったけどさ。

それでも今はもう大丈夫なわけだし、本人がそうなんだからもう気にしなくてもよさそうなものなのに。


確かに今までの我儘放題で癇癪持ち、小さな暴君且つ女王様フローレンからしたら、散らかし放題で片付けを一切しなかったというのは頷ける。

私でも有り得ないと思うもん。

それだけに限らず、記憶が戻ったその瞬間からありとあらゆるフローレンの所業が私にとっては常識外で有り得ないことばっかりだったけどな。

『矯正じゃあ~!』『躾直しじゃあ~!』と一瞬で決意させるほどの有り得なさだったから無理ないわ。


だから、まずはできることから一つずつやっていこうと、人として当たり前のことを実行していただけにすぎないのに。

お礼を言ったり、謝ったりがその最初の一歩だった。

今までの常識外れじゃない、聞き分けのいい普通の子になろうと思ってのことだった。

片付けだってちゃんとできるんだよ、迷惑かけないよ……って、手のかかる子からの卒業を図ったつもりだった。



────だけど、さ……

────頭を打ったことでいい子ちゃんにシフトチェンジしたんだって

────出したら片付けるのが当たり前だと考える()()()()になったんだと思ってもらえないのはなんでなのかな~??



ここは『いい子になって偉いね』って言ってもらいたいところなんだけど。

病気を疑われるレベルで心配されるってなんか違うと思うんだ。



────家族なのにマジで失礼じゃね?

────いや、逆に家族だから失礼なのか?



……解せぬ。


家族ぐるみでフローレンをベタベタに甘やかしてるんだったら、当然のようにそうなる───イイコイイコされる───もんだと思うんだけど、実際はちょっと違うっぽい。

ゲームの設定ではとにかく甘やかされて育ってあんな人格になったとされたフローレンだったけど、今のこの家庭環境で育っていたら『ああはならないんじゃないかな』って思えたのがその証拠。

実際にダメなことはダメだと兄さまは窘めてくれたし、叱られもした。

ただ甘やかすだけじゃないから、私の記憶がないままのフローレンだったとしても、あんな風に傲慢で救いようのない悪女に育つことはないのかもしれないなって。

だってここは、ゲームじゃない現実の世界だし。

ただ文字で()()()と簡単に書かれただけの設定通りの生活環境とはまるで違う場所だから。


だから。

皆突然すぎる私の変化に戸惑っている。

今までとはまるで違う、豹変とも言えるべき私の変化を本気で心配していた。

頭を打って気を失って、目覚めて最初に向かい合ったメリダの驚きがその最たる例だ。

『ありがとう』の言葉に本当に驚いてた。


驚いてたけど。

でも。


そんな私をちゃんと受け止めてくれた。

だから、これでいいんだと思った。

これが本来あるべきの、普通の子どもの姿だと思った。


うん。

やっぱり間違ってない。

私はこれでいい。


今までのフローレンの暴君ぶりは過去のこと。

頭を打って私は生まれ変わったんだ。

文字通り、前世の記憶を持った()()()()普通の子どもにな!


「………………」


しかし兄さま、いつまであっちの方に思考を飛ばしているんだ。

お腹すいたし、ごはんを食べに食堂に行きたいから、そろそろこっちに戻ってきてもらいたいんだけど。

声をかけて我に返ってくれるかどうかも怪しいよね、あの状態じゃ。

とりあえず無駄かもしれないけど、一応声をかけてみるか。

ダメだったらダメでその時だ。

迷子覚悟で一人で食堂に向かえばいい。

適当に歩いてれば誰か捕まるだろうし。

うん、そうしよう。


「ロイにいさま……」


ててて……っと、離れた場所に立っている兄さまの元へと駆け寄り、あと少しで手が届くところまで近付いたその時だった。

グラッ……と地面が、床が軋むように揺れたのは。


「!?」


いや、違う。

この邸全体が強く揺れていた。

ビリビリと窓ガラスを震わせ、壁に飾られた絵画の額縁もガタガタと音をたてて激しく揺れている。

それは本当に一瞬のことで、激しい揺れはあっという間に駆け抜けていったけど、もちろん私は無事では済まされなかった。

幼女の小さな身体では激しい揺れに耐えられず、更には兄さまに手が届かなかったため、兄さまに掴まることさえできずに転倒してしまったのだ。

それも運の悪いことに、倒れたその場所はベッドのすぐ近くの、それも端の方。

勢いよくそちらに向かって転倒した私は、しこたま強く頭をぶつけた。

ベッドの四柱の一つに、真っ正面から派手に。

『ゴンッ……!』と鈍い音が部屋に響いたと同時に私は叫んだ。


「いっっっっったぁ~~~~い…………ッ!!」

「レーン!?」


ここでようやく兄さまが我に返った。

さっきの地震じゃなく、私の叫び声を聞いて、だ。

あれだけ揺れて、窓ガラスまで震わせたほどだったのに、そっちには何の反応も示さないとか、兄さまの感覚は一体どうなってんだ。


……それはともかく、痛い。

超痛い。

後頭部をやった時もそれなりに痛かったけど、真っ正面からおデコ直撃は更にその上をいく。

じわぁ~っと涙が滲んだのはしょうがないと思う。

さすがにこれは大人でも涙目になるわ。

一応前世(むかし)の私の感覚からすれば、泣くのを我慢できないほどのダメージではない。

けど、今の私は幼女だ。

いくら気持ちの部分で我慢できたとしても身体は別だ。

しっかりと精神は身体に引っ張られている。

だから……


「……ひぐッ!」


当然泣いちゃうよね~? っていう話。


「うえっ……」


そんだけ痛かった。

大人で涙目レベルの痛みなんて、幼女には号泣レベルの痛みだろう。

泣き叫ばなかっただけ相当押さえ込んだ方だと思うよ、私。

ボロボロと零れ落ちてくる涙を拭おうとしてふと上げた手が、なぜかおデコの方へと向かっていた。

痛みのせいで無意識にそうしたのかもしれない。


そしてピタッと触れた瞬間、明らかな違和感。

タンコブだったならまだいい。

そっちの方がずっとマシだ。

けど、このぬるっとした感触は……



────あ~……見なくとも分かるわ、コレ……



明らかに 流 血 し と る ……!

この痛みといい、不自然な筋状の触感といい、パックリいってますな。


「うぇぇ~……にいさまぁ~……」

「待って、レーン! それ以上触らないで! 擦っちゃダメだ!」

「おデコ……ち……」

「分かってる! すぐ治すから、それ以上は触らないで!」


無意識のうちにまた傷に触れそうになる手を掴まれて、サッと顔から引き剥がされた。

それと入れ替わるように、兄さまのもう片方の手が伸びてきたと同時に、ふわっと温かな光がおデコに触れた。

涙がボロボロ零れて不鮮明に歪んだ視界の中、なぜか目にした色だけは鮮明なままだった。


淡い水色。

柔らかく触れてくる温もり。

ロイアス兄さまの、水属性の魔力。


触れる光の温もりを強く感じれば感じるほど、段々と痛みは引いていく。

残念ながら涙が引くことはなかったけれど、兄さまの魔力の光が収まる頃にはもう、おデコの痛みは完全に消えていた。


「治ったよ、レーン。もう大丈夫」


ホッとした表情で頭を撫でながらそう言われて、私はそっと兄さまを見上げる。

視界は相変わらず涙でぐちゃぐちゃだったけど、なぜか兄さまのホッとした表情はハッキリと分かるんだから、私の兄さま好きは相当なものだと思う。


「にいさま……」

「まだどこか痛む?」


そう問われてふるふると首を振る。

痛みはもうない。

ビックリするくらいキレイになくなった。


「へいき……」

「ん。それならよかった」

「にいさま」

「ん?」

「ありがとう……」

「うん、どういたしまして」


また頭を撫でられたことで、自然と兄さまのシャツの袖をキュッと掴んでいた。

そのままばふっと倒れ込むように兄さまに抱き着いてハッとなる。


「……あ」

「ん?」


ちょうどおデコを押し付けたあたりだろうと思われる、兄さまのお腹の部分。

それと、掴んだシャツの左腕部分。

べったりと付いた赤いものは明らかに私の血だ。



────おぉぅ……!

────やっちまった……



まさかの血染め。

それも巻き添え。


「にいさま、ごめんなさい」

「えっ?」

「ち……」

「?」

「シャツ……よごれました」


汚れたんじゃなくて、汚したの間違いだけどね。

でもこれわざとじゃないから。

ホント、無意識でやっちゃったものだから。


「あ……本当だ」


そして兄さまも私から言われるまで気付いていなかったというこの事実。


「さすがに治癒魔法では、流れた血までは消せないからね」


先に出ちゃったものはそのまま残るらしい。

だから、今のこの状態になっているわけで。


「レーン立って」

「? はい」

「くるっと回れる?」

「?? ……はい」

「……見た限りでは大丈夫みたいだね。あと手を上げてくれる?」

「はい」


どうやら、私のドレス───動きやすいワンピース風のドレスです───が血で汚れていないか念入りに見てくれていたようです。


「着替えの必要がなくて助かったよ。仮に着替えが必要だった場合、ドレスに付いた血の痕を見て大騒ぎになるだろうからね」

「うぅ……しかられます……」

「叱りはしないだろうけど、かなり心配されたはずだよ。昨日も頭を打って倒れたんだからね」


昨日のアレは自業自得だ。

でも今回のは事故。

心配の度合いはきっとこっちの方が大きいんだろうな。

それを思うと、今着ているドレスが血で汚れなくて本当によかったと思う。

その代わり、兄さまのシャツにべったりと付いてしまった。

逆に兄さまのシャツが血で汚れていることをどう言い訳───いや、説明すればいいのか。


「にいさま……」

「大丈夫。手に付いた血は洗えばいいし、額も濡れたタオルでしっかりと拭けばキレイになるよ」

「そう、かもしれませんけど……」

「とりあえず僕のシャツと血を拭った後のタオルを、誰の目にも触れないよう、どう処分するか……」

「え……?」


そこはお洗濯じゃないの?

処分決定ですか~?


洗い落とすのはちょっと手間がかかるけど、何も捨てなくたって……と、ここまで考えてハッとなる。

そういやうち、貴族なんだっけ……って。

それも四大公爵家の一つのオンディール家だよ。

洗ってまた使えるものを簡単に捨てちゃうとか贅沢の極みだけど、貴族だからそれが普通の感覚なんだ、きっと。

前世日本人、それも一般庶民の私からすると、その感覚にはあんまり慣れたくないところだけど……やっぱ段々それに染まっていくんだろうなぁ。


うん。

いくら裕福な家庭だといっても、贅沢はよくない。

物は大事に使おう。


……っていうか、前世の記憶が戻る前のフローレン(わたし)が癇癪起こして散々物を壊していた記憶があるから尚更に。

乱暴に扱っちゃいけません。

もう一度言います、物は大事に使いましょう!


そう決意したところで、あることに気付きました。

外が騒がしいのです。

兄さまが扉側の壁一面に音声遮断の結界を張っているにも関わらず、外の騒ぎがしっかりと聞こえてくるのです。

それとも外には中の音が聞こえないだけで、中からは外の音がしっかりと聞こえるようになっているのでしょうか。


「騒がしいね」

「さっきおおきなじしんがあったからだとおもいます」

「……ジシン?」


えっ?

通じてない?

この世界では地震って言わないの!?


「え、っと……ゆか、じめんがおおきくゆれました。まどもビリビリとふるえてました」

「そんなことが起きたの?」


……オイ!

あんだけ大きく揺れたのに全く気付いてないとか、兄さまは一体どこまで思考を旅させてたんだ。


「……だからころんだのに」

「そうだったの!?」


……有り得ないよ、兄さま。

あれに気付かないとかホントに有り得ないよ。

私以上にイノシシじゃん。


「……ということは、確実に誰かが様子を見にくるね。騒ぎが起きているのはそのせいか」

「にいさま、どうしましょう? ちでよごしたのみつかります」

「困ったな……。さすがに血で汚れているのを見られるわけにはいかない。更に騒ぎを大きくしてしまう」


兄さまがそう言ったのとほぼ同時でした。

扉が慌ただしくノックされたのは。


「お嬢様、ご無事ですか!?」

「!!」


この声はエルナだ。

声の調子から、かなり焦っているみたいに思える。


「にいさま……っ!」


扉を開けられたら大変だ。

そう思って兄さまを見上げると、兄さまは人差し指を唇に当てて一つ頷きました。


「しぃ……」

「にいさま……」

「大丈夫だから。レーンはなるべく声を上げないようにね」


言われた言葉に頷き、声を出さないよう咄嗟に口元を押さえます。

そうして今更ながらに気付いた事実。

私の片手、血塗れじゃん。

おデコだけじゃなく口の周りまで血で汚す気かと、慌てて手を離すと、その様子を見ていた兄さまに苦笑されました。


「もう乾いているみたいだから口周りは汚れてないよ」

「ホントですか?」

「うん、大丈夫」


これ以上血の汚れを拡大せずに済むとホッとしつつも、状況は何も変わりません。

扉の外から焦った様子のエルナの呼びかけとノックがずっと続いているのです。


「フローレンお嬢様っ!」


更にノック音が強くなり、微かにドアノブに手をかけたと思われる音がしました。

このままでは扉を開けられてしまう。

そう思った瞬間、ロイアス兄さまが扉の向こう側のエルナへと向けて声を張り上げこう言い放ちました。


「大丈夫だ! 然したる問題はない!」



────オイ、コラ待てや!



この嘘つき兄さまめ!

問題ないどころかしっかり問題だらけだよ!

さっきの地震で転んで、おデコぶつけてパックリいっちゃって流血して、更にところどころ血染めになってる今のこの状態のどこが問題ないと!?


「え……? ロイアス坊っちゃま……!?」


兄さまの言葉を聞いたエルナの声に戸惑いが混じった。

どうやらエルナは、部屋にいるのはフローレン(わたし)だけで、一緒に兄さまがいるとは思っていなかったようだ。


「坊っちゃま、こちらにいらしたのですか……?」

「そうだ。レーンも一緒にいる。何も問題はないから心配は無用だ」

「左様でございますか」

「ああ」

「あの、部屋に入っても大丈夫でしょうか?」



────それはダメーーーーーーーーッ!!!

────絶対、絶ッッッ対に、ダメ!!!

────ここは立ち入り禁止だッ!!!



必死な表情で兄さまを見上げながら、頭の上で両腕をクロスさせて大きくバッテンを作り、断固入室拒否の意思表示を行う。

それと同時に、更にぶんぶんと強く首を振ると、兄さまも心得たとばかりに頷いてくれた。


「部屋に入るのは勘弁してくれ。先ほどの揺れの影響でレーンの絵本が散乱してしまったんだ。それを片付けなければならない」


はい、嘘~!

絵本なんて一つも散乱しておりません。

かなりの揺れでガタガタいってたけど、物一つ落ちてませんからね、奇跡的に。


「片付けならわたくしどもが致します。坊っちゃまやお嬢様のお手を煩わせるわけにはまいりません」

「いいんだ、構わない」

「ですが……」

「レーンが絵本の並びにやたらと拘るんだ」


……はい~?


「少しでも並びが違うと気に入らないようで、機嫌を悪くしてしまうから手に負えない」


いやいや、何言ってんの兄さま。

別に絵本の並びなんて気にしたこともないし、そんなの適当でいいのに。 


「それでまた散らかされでもしたら結局は同じことだ。それなら最初からレーンが好きな順番になるように一緒に片付けてしまうのがいいと思ってね」

「左様でございますか……」

「ああ。だからエルナは気にせずに自分の仕事に戻ってくれて大丈夫だ。僕の部屋も自分で確認するから、誰も入らないよう伝えておいてほしい。あと、片付けが終わり次第自分たちから出向く。呼びにくる必要はない」

「かしこまりました」


デタラメで嘘だらけの理由だったけど、エルナを遠ざけるには十分な説得力があったらしい。

ついでに、ここと自分の部屋の両方からしっかりと人払いまでしてしまうとは。

私が言うならともかく、兄さまが言ったのだからさすがにそれに背いてやってくる人はいないだろう。


「それじゃ行くよ、レーン」

「えっ?」


兄さまにそう言われて手を取られるも、どうも向かう先がおかしい。

部屋を出るなら、向かう先はドアの外じゃないのか。

なのにどう見ても兄さまは奥庭へと面している窓の方へと向かっている。


「にいさま?」

「一応人払いはしたけど、まだしばらくは人が行き交うだろうからね。かち合うと面倒だから窓から出入りした方が安全だ」


ナルホド、そういう理由でか。

確かに奥庭はあんまり人が通らないもんね。

いくら兄さまの部屋が私の部屋の隣にあっても、そこは貴族のお邸、部屋の一つ一つが大きいものだから、必然と扉と扉の距離が開いてしまう。

その間にそこを通りかかる人がいたら、私たちにとって非常に都合が悪い。

その分、奥庭は安全だ。

時間が時間だけに外はもう薄暗いし、誰かに見られる心配をしなくていい。

だから安心だと、つまりはこういうわけだ。


兄さまに手を引かれるまま、窓から奥庭へと出て、それから隣の兄さまの部屋を目指す。

邸の中は相変わらず騒がしいけど、奥庭は静かなもんだ。

少しの距離を歩くと、私の部屋と似たような作りの窓が見えてきた。

カーテンを開け放したままだったためか、薄らと部屋の様子が見て取れる。

無人の部屋だから当然灯りはない。


「暗いから気を付けて」

「はい」


音を立てないよう、そっと窓を開けながら兄さまが言います。

先に部屋へと足を踏み入れて、それから私も中に入るよう促しました。


「ああ。そうだ、レーン」

「ふぇ?」

「そこ、段差があるから転ばないようにね」

「みぎゃっ!?」


言われた瞬間、段差に躓いて転びました。

ええ、しっかりと転びましたよ。

おまけにまた頭打ちましたけど何か?


「大丈夫、レーン?」

「……いたいです」


泣かなかったけどな。

とりあえず兄さま、一つだけ言わせてほしい。

段差があるとか、気を付けなきゃいけない部分がある時はもっと早く言ってくれないだろうか。

そしたらこんな風に、簡単にすっ転んだりしないだろうからさ。


「うぅ~……」


ぶつけた部分はまたもおデコ。

さっきみたいな大惨事ではないし、コブもできてないから大したダメージではないけど、痛むものは痛む。



────それにしても私、昨日から頭打ちすぎじゃね?



少なくとも、頭を打つ呪いでもかかってるんじゃないかって疑うくらいには。

それくらい頭打ちすぎてる気がする。


「治癒魔法かけようか?」

「だいじょぶ、です……」


この程度ならまだ、な。


「そう? なら、痛みが我慢できなかったら言ってね?」

「はい」


兄さまに心配されつつも、治癒魔法は丁重にお断りし、部屋の奥へと入っていく兄さまについていきます。

灯りがないため、恐る恐るです。


でも……見えづらいからこそまたやらかしてしまうわけで。


「……いたッ!」


ゴンっと鈍い音と共に再び痛み。

今度は何にぶつかった、私の頭よ。

天辺部分のちょっと右側、何かの角にゴツンといったぞ。


「レーン?」

「……またゴツンってぶつかりました」

「頭?」

「はい」

「……机の角かな」

「うぅ~……」


感覚的にはたぶんそうなんだろう。

今回のは小さいながらもコブになっていたようで、今度こそ問答無用で兄さまの治癒魔法のお世話になりました。

申し訳ない。



そんなこんなで、今日だけに限らず、この先もまた幾度となく頭をぶつけることになる私だけど。

やっぱり頭を打つ呪いがかかっているのだと確信するには十分なほどの時間が経った頃にはもう、すっかりと兄さまの治癒魔法で怪我を治してもらうことが習慣化しているのでした。





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