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封印魔術の応用編です! 2




~封印魔術の応用編です! 2~




さてはて。

現金な私、再びですよ!


ロイアス兄さまが協力してくれるおかげで、潰えたと思った『魔法でポップコーン作ろうぜ』計画が復活したのです。

単純な私は瞬時にしてむくれ顔からニコニコ笑顔で、兄さまの腕の中をしっかりと陣取っています。

そしてあれだけ飽きたと思っていた封印魔術やその応用魔法を、また頑張ってみようという気持ちになっていったのです。

試したいと思っていたのは『見せる』方の応用だけじゃなかったんですよね、実は。

ただ先に思いついた方がそっちだっただけの話です。

別の応用の方は『見せない』を前提とした、正真正銘、封印魔術の応用なのです。


「ロイにいさま、わたし、やるきでました!」

「ん?」

「にいさまがいっしょにおかしをつくってくれるとわかったので、それをごほうびとおもってまほうのれんしゅうをがんばるのです!」


兄さまの腕の中、グッと拳を握り締めながら兄さまを見上げてそう宣言すると、当たり前のように苦笑されて頭を撫でられました。


「頑張る動機としては不純だけど、レーンがやる気になっているならそれでもいいかな」

「えへへ~」


動機が不純なのは自分でも分かってる。

お菓子のために頑張るなんてお子ちゃまの主張だもんね!

……って、今の私は幼女だからお子ちゃまで合ってるか。

前世の記憶がある分、中身は大人であるはずなんだけど、どうも身体の方に精神が引っ張られてる感じなんだよね。

その証拠に涙腺コントロールがめっちゃくちゃ。

感覚的には泣くのを我慢できるって思えることが全然我慢できてない。

『この程度のことで泣く!?』って何度泣いた後に思ったことか。

考え方はどうであれ、感情的な部分は身体に合わせて年相応に落ち着くようにでもなってるのかもしれない。

……よく分かんないけど。


「それで? 今度は何を頑張ろうと思ったのかな?」

「ふういんまじゅつです」

「うん、さっきもたくさん試していたね。まだやりたいの?」

「はい! でも……」

「でも?」

「ふういんまじゅつって、えほんとかおてがみだけにしかつかえないんですか?」

「……ああ、そういうことか。別のもので試してみたいんだね、レーンは」

「はい。……できますか?」

「できるよ。封印魔術は人の目から隠すことを目的に編み出されたものだからね。本や手紙に限らず、『開ける』『閉める』という概念のものには全て通用するよ。やってみせようか?」

「はい! みたいです!」

「じゃあ……こっち」


そう言って兄さまは腕の中の私をそのまま抱えた状態で立ち上がり、私のお絵描き道具一式を収納してある棚の前まで移動しました。


「それじゃ見ていて」


棚の引き出しの一つに手を添えて兄さまは言います。

……が、なぜか私は兄さまの腕に片手で抱っこされたままの状態です。

いくら幼女とはいえ、人一人抱えたままの状態で辛くないのか、兄さま。

負担になるのは嫌だったので下ろしてもらった方が絶対にいいです。


「にいさま、おります」

「いいよ、このままで」

「おもいですよ」

「重くないよ。全然平気」


声の調子に全く変化がないので、平気だという言葉に嘘はないのでしょう。

じっと見上げると笑って頷かれたので、そのまま兄さまの言葉に甘えることにしました。

前世の記憶が戻ってからロイアス兄さまにべったりだな、私。



────しょうがないじゃん、ゲームでは最推しだったんだから!



……って、また一つ前世のゲームのことを思い出したよ。

キャラ単体で言えばビジュアルが好みだからという理由で俺様殿下が好きだったんだけど、シナリオやキャラ背景とかを総合するとダントツでロイアスが好きだったんだよな、私。

確かにゲームのシナリオでは、我儘で傲慢な妹フローレンはめちゃくちゃロイアスから嫌われてた。

だけど、最初から嫌われていたわけではないということがところどころでストーリーに登場するんだよね。

自分なりに妹を更生させようと必死になって、悩んでたところも多かった。

だけど無表情がデフォルトで、常に眉間にきつく皺を寄せてて、更には単調な物言いであることが災いして、それらは全部裏目に出た。

できるだけ穏便に窘めようとしても、フローレンには全て鬱陶しいお説教にしか感じられず、いつも兄からは優しくされずに叱られてばかりだと勘違いしてしまった。

なのにフローレンの時とは違って、ヒロインには優しくするし、柔らかい表情を見せる。

その扱いの差が許せず、フローレンは怒りのあまりヒロインに当たり、それが酷い虐めに発展し……その後は察してくれ。

乙女ゲームの悪役令嬢に待ち構えているお約束の結末ですよ。


そんな妹が私なわけですよ?

こんな風に甘やかしてもらって嬉しくないはずがないじゃない!

ゲームのシナリオのように嫌われるような最悪な妹になんて絶対なりたくないのは当たり前。

目指すは可愛い妹であり、悪役令嬢にはならない私だ。

甘やかしてくれるなら全力で甘えるまでですよ!


えっ?

それじゃブラコンまっしぐらじゃないかって?

いいじゃん、ブラコン上等!

かかってきなさい!


ゲームの中でだってシスコンがいたんだから───誰とは言わない───ブラコンがいたっていいじゃない。

それだけ私はロイアス兄さまが好きだ。

だから甘えまくる。

兄さまが『このままでいい』と言ってくれたのをいいことに、ゴロゴロとネコのように擦り寄ってぎゅっとしがみつくと、ぽんぽんと頭を撫でてくれたので、また更に擦り寄ってゴロゴロゴロゴロと甘えまくってますなう!

幼女である今だけの特権だからね、これ。

できるうちに存分にやっておいて損はない。

いや、むしろ得だらけでしょ。


でもあんまりゴロゴロ擦り寄って甘えてばかりだと、兄さまに別パターンの封印魔術を見せてもらえずに甘やかされただけで終わってしまう。

だから存分に兄さまに甘えながらも目的は遂行する。

そう、おねだりという形でだ!


「にいさま、にいさま」

「ん? そろそろ封印魔術をかけてもいいの?」

「はい! みたいです」

「それじゃ……この引き出し。レーンの大事なお絵描き道具の一つである水彩絵の具が入っているここを閉ざすよ?」

「!」

「ここを開けられなくなってしまったら、今度からレーンは水彩画が描けなくなってしまうね」

「……にいさま、おどかすのはずるいとおもいます」

「あははっ、確かにそうだね」


絶対に面白がってるな、兄さまめ。

ますます仕返ししてやるんだから。

今こうやって甘やかしてもらってるのとは別問題なんだからねッ!

ビックリさせてやるんだから!


私がむうっとむくれていても、兄さまはそれを笑いながら軽く躱してしまった。

まぁいいんだけどね、別に。

邪険にされてるわけじゃないからさ。


「それじゃ、行くよ」

「はい」


引き出しの一つに手を当て、軽くグッと押すようにしたところで兄さまの掌から魔力が溢れ出たのが分かりました。

兄さまに片腕で抱かれた状態でいるので、当然ながら今の私は兄さまと密着状態です。

だからなのか、触れ合っている部分からなんとなく兄さまの魔力の流れみたいな不思議な波動を感じ取ることができたのです。

包まれているという感じではなく、弱い風がする~っと肌を撫でていくような、そんな柔らかな何かに触れているみたいでなんだかとても不思議な感触でした。

そしてこの時の私は、触れた感覚が気になったためか触覚の方に集中してしまっていて、迂闊なことに兄さまが封印魔術をかけた瞬間を見逃してしまったのです。

なんてこったい。


「終わったよ、レーン。開けてみて? まぁ開かないけれどね」


分かり切ったことを笑顔で告げる兄さまですが、封印魔術はかけた本人には効果が現れないので、私が開けなければどんな状態で閉ざされているのか確かめようがないのです。

なので促されるまま、引き出しの取手に手をかけて引っ張って見ました。

結果は言うまでもないです。

ガタッと引っ掛かるような音が出ただけで終わりです。

若干の抵抗があったので隙間をびっちり固めたようなやり方ではないと思います。



────何だろう?

────そこまで頑丈ではなさそうな何かで引き出しを押さえつけたような感じ……?



じっと考え込んでいると、兄さまが頭を撫でながら言ってくれました。


「可視化してみようか?」

「できるんですか?」

「うん、できるよ」


封印魔術はかけた本人には効果がないので、可視化することも本人以外じゃないとダメだと思っていましたがどうやらそうではないようです。

対象にかけた封印魔術に阻まれる、確認のために可視化……という流れを兄さまが取っていたので、あくまでも本人以外ができることなのだと思っていました。


「結構簡単。単純にこんな感じかな?」


そう言って兄さまが封印を可視化して見せてくれた仕掛けは『引き出しの両端部分を木の板で打ち付けた状態にしてあった』というものでした。

前世でも時々目にした、台風の時に強風の影響で窓が割れたりしないための対策として木の板を打ち付けるあれと似たような感じです。

だから取手を引いた時にガタガタと音がしたんですね、納得です。

でも……



────これ、力がある人なら物理攻撃で壊せそう……



そんな疑問が浮かんだ瞬間、私はそれを口に出していました。


「にいさま、これちからまかせにこわせるひといそうです」


私がやったあのぶっとい南京錠レベルのものはさすがにディスクグラインダーがないと無理だから、むしろこの世界ではあれを物理攻撃で壊すのは不可能だと思ってる。

でも兄さまが『簡単に』と言って作ったそれは、力のある人であれば素手でも破壊できそうな木の板で押さえ付けただけのものだ。


「確かに力任せに壊せそうに見えるけれどね。どんなに物理的に壊そうと思ってもできないんだよ」

「でもこれ、さわれますよ?」


引き出しを塞いでいる木の板はしっかりと触れるし、ちゃんとリアルな木の感触だってある。

無理やり引っ張ったら外れそうにも見えるのに、兄さまはできないと言う。


「説明するよりも実際に見た方が早いかな」


そう言って兄さまは、護身用に持っていたナイフを引き出しを押さえ付けている木の板目掛けて思い切り振り下ろしました。

あまりに突然だったため、ガキッと鈍い音がすると同時に驚きのあまり咄嗟に目をつぶって顔を背けてしまいました。



────うぅ……兄さま、怖い……



いきなりナイフはやめようよ。

そんなことを思いながら恐る恐る目を開くと、ナイフによって傷つけられてボロボロになった木の板が床へと落ちていくのが見えました。

けれど、床に落ちたその瞬間、ボロボロの木屑と化したそれがすうっと消えていったのです。


「え……?」



────……消えた?



そう思ったのはほんの一瞬の間でした。


「レーン」

「!」


兄さまに呼ばれ、ハッと顔を上げると同時に引き出しを指差されました。

反射的に引き出しを見ると、そこには最初に見た時と同じで、しっかりと木の板で押さえ付けられた状態を保っていました。


「……なんで? たしかににいさまがこわしたのに」


一番最初に見せてもらった水の封印と同じだ。

消えて、戻って行ったんだ。


「これは魔法で作り上げたものだから、元々は存在しないものと同じなんだよ。ないものを壊すことなんてまずできないことだからね」


言われてみれば確かにそうかも。

こんな風にリアルに見えていてもこれは魔法。

何もない空間に魔法で生み出したものだ。


「実際にこうやって触ることができるのは、これが実体のある幻術のようなものだから、かな。そのあたりはあまり深くは考えてないんだ」

「イメージだから?」

「そうだね」


イメージが魔力と融合したものがどんな風になっているかなんて、殆どが謎だらけで分からないのが現状だと兄さまは言う。

このあたりの研究が、王宮の魔術師団の間で今一番熱心に行われている最中らしい。

イメージとセンスの関係で使い手が限られていることもそうだけど、実際にそのイメージを可視化して封印の術式を一つ一つ解いていきながらその性質を見極めるのは相当に困難なことなんだって。

まるで化学の実験みたいだと思ったのはここだけの話。

魔法の一つ一つを原子分子レベルで解いていくって、想像以上にすごい話だ。

いや~魔法ってすごい、奥が深いよ。


「結局のところ、魔法という時点で物理攻撃は通用しないんだよ。それと、誰もが封印魔術を可視化できるわけではないしね」

「あ……そっか」


そもそも封印魔術の可視化とか考えつく人がどれだけいるのかって話。

私だってロイアス兄さまに教えてもらって、封印魔術を可視化できることを知ったのだし。

……って、魔法自体教わったのが今日初なんですけどね。


「それじゃ、本や手紙以外にも封印魔術が使えると分かったことだし、この引き出しの封印魔術は解除してしまうよ?」

「はい! ずっとこのままだとこまりますし」

「水彩画が描けなくなるからね?」

「それはいやなのです!」

「あははっ、分かってるって。ほら、解除できたよ」

「もうですか?」

「うん」


くっそ、またも解除の瞬間を見損ねた。

どうも私、昔から一つのことに夢中になりすぎると他が疎かになる傾向にあるわ。

イノシシかっての!


封印魔術の解除が済んだと兄さまに言われて、もう一度引き出しを開けると、今度は何にも阻まれることなくスッとスムーズに引き出しを開けることができました。

中にはたくさんの水彩絵の具と大小様々な絵筆とパレットがきっちりとキレイに並べて整頓されています。

それらを見てニンマリと笑ってしまったのは条件反射です。

やっぱりお絵描き大好きっ子としては、画材を見ると気分が上がるんですよね。



────後で思う存分に描こう!



でもその前に……


「にいさま、わたしもやりたいです!」


こう、ですよね~。

新しいパターンは試したいじゃないですか。

封印魔術は『開ける』『閉める』という概念のものであれば全てに通用するとロイアス兄さまは言っていました。

さっき兄さまは引き出しで見本を見せてくれましたけど、ぶっちゃけこれ、ドアでも窓でもクローゼットでもオッケーってことなんじゃないです?

だってこれら全部『開ける』『閉める』という概念に当て嵌るわけですし?

引き出しに比べると大物クラスですが、できることが前提にあるならやってみたくなるのが性というものでしょう。

私のは単に好奇心です、はい。


「それじゃあ……時間も時間だし、一度だけ試してみようか」


時計を見ながらそう言った兄さまにつられて時計を見てみると、確かにいい時間になっているようでした。

時刻はもうすぐ18時になろうとしているところ。

あと30分ほどで晩餐の時間がやってくるのです。

そろそろお父さまも帰ってくる頃でもありますし、遅くなれば確実に誰かが部屋に呼びにやってきます。

さすがに魔法を使っている最中にドアガチャされたら堪りません。

ここは兄さまの言う通り、一度だけ、それも手早くするのが吉でしょう。


「じゃあさっそく……」


……と、クローゼットに手をかけたところで兄さまから『待った』がかかりました。


「ちょっと待って、レーン」

「はい?」

「まさかとは思うけど、クローゼットで試そうとしてる?」

「? そのつもりですよ?」


だってクローゼットだって『開ける』『閉める』の概念に当て嵌るから、せっかくなら大物で試してみたいですもん。

びっくりハウスよろしく、開けた瞬間にぬばぁ~っと脅かしてくれるような、そんな感じのことをやろうと思ってたんですけどね。

まさかの『待った』がかかるとは。


「クローゼットもそうだけど、ドアや窓のようなサイズのものはやめた方がいい。魔法が発動しないならいいけれど、仮に発動した場合レーンの身体が危険だ。魔力全部は当然なくなるとして、不足分を補う体力がどれだけ削られるか分からないから」

「! きけんですか?」

「さっきまでの絵本とはまるでレベルが違うからね。やるなら大きくないものを使うようにね?」

「わかりました」


身体に危険が及ぶレベルならやっちゃいけないな。

なんとなくガチャガチャとクローゼットを開け閉めしながら『何を使おうかなぁ』と考えていると、蓋付きのおもちゃ箱が目に入りました。

ちょっとオシャレなデザインの、パッと見た感じ宝箱風のおもちゃ箱です。



────これは……使える!



宝箱風のおもちゃ箱を目にした瞬間、ピンと閃くものがありました。

兄さまを驚かせるにはちょうどいいかもしれない。

そう思うと同時にニヤリと悪質な笑みが浮かびました。


「にいさま、おろしてください」

「ん?」

「ふういんまじゅつ、ためします」

「何を使うか決めたの?」

「はい!」


そう訊かれて、満面の笑みで返事をしました。

たぶん今まで以上にいい笑みだったかもしれません。

兄さまに『あれ……?』って思わせる程度には。


「また楽しそうだね」

「はい!」

「今度は何をやろうとしてるの?」

「ひみつです」


だってそれを言ったら兄さまを驚かせることができないじゃないか。

最後の最後のコレは、兄さまへのささやかな仕返しのつもりだからね。

ちょっとでもやろうとしてることを話したら確実に兄さまの驚きは半減してしまう。

先入観なしで思いっきり驚いてもらいたいから、何を仕掛けるかはまだ秘密。


期待してていいよ、兄さま。

きっと今まで兄さまが見たこともないようなものだから。


『うふふ~』と含み笑いを浮かべながら、私は宝箱風おもちゃ箱に手を伸ばしました。



────とびっきりのお化け、やっておいで!



頭で描いたイメージに魔力を融合させて、対象となるおもちゃ箱へと注いでいく。

ぶわっと溢れ出た魔力の色は、警告を示すように明滅する赤。

それから……キラキラ輝く銀色の粒子。


封印として仕掛けたのは、開けた瞬間に飛び出す()()()お化け。


さあ、兄さま。

仕掛けは完了したよ?

箱を開けて飛び出してきたお化けを見て、兄さまは一体どんな風に驚いてくれる……?







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