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封印魔術、再びです! 2




~封印魔術、再びです! 2~




私、ホント現金だなって思う。

あんなに自分の魔力のことで不安になっていたのに、今では兄さまの反応を期待してドキドキしたりワクワクしたりと頭の中が忙しない。

だって最初の時と違って、私がかけた封印魔術の答えの一部を兄さまが容易く導き出してしまったから。

だから早く全部を見てほしいと思ってしまって。

それから、見た感想を伝えてほしいとも思った。


驚いてくれるのか。

それとも最初の時と同じで呆れられてしまうのか。

どんな反応をしてくれるか分からないからドキドキするし、ワクワクする。


今度のは危なくないよ。

ただただ固くて頑丈なだけ。

だから早く全部を見てよ、兄さま。


そんな思いを込めて見上げれば、期待して見つめているというのはバレバレで、兄さまに苦笑されてしまった。


「分かりやすいね、レーンは。そんなに早く封印の術式を見てほしいの?」


苦笑混じりでそう問われて、コクコクと大きく頷きました。

何も言わなくても、私の顔には『早く早く』と書いてあったのでしょう、ますます兄さまの苦笑が濃くなりました。


「そうだね。僕もちょっと早く視てみたくなったよ。本当にレーンのイメージが忠実すぎるからね」

「……?」


まだ視てもいないのにイメージが忠実?

どうしてそんな風に思ったのか分からず首を傾げると、兄さまがそう思った答えを教えてくれました。


「金属が擦れるような音がしたのもそうだけど、封印が作動した時にリアルな重みが加わったんだよ」

「おもみ!」

「そう、重みがね。まるで絵本に重石を載せたようにズシリとね」



────そりゃ確かにリアルだわ……



音もそうだけど、重みのこととか全く考えてなかったんだけどな。

でも、イメージして作り上げたものが現実のものとなったらそんなものなのかな?

やっぱり細かいことはよく分からないや。


「じゃあ、封印を可視化するよ」

「はい!」


私も自分のイメージがどんな風に再現されたのか見てみたい。

ワクワクしながら膝立ちになる私を見て兄さまが小さく笑いました。

自分の封印魔術もそうだけど、私は兄さまの魔力の流れも見てみたいのです。

魔力を行使していない状態の目ではあまりよく見えないとは思いますが、それでも見える部分だけでも見ておきたいと思うのです。


「鈍色の魔力で構築された術式はどんな風になっているんだろうね」


そう言って、兄さまが絵本を開こうとしている左手に魔力を込めたのが分かりました。

けれどその魔力の色は、今まで見てきた淡い水色ではなく、限りなく透明に近い白色。

兄さまが『素の魔力』だと説明してくれた完全なる無属性の魔力だったのです。



────あれ……?

────なんで、だろう……?



疑問に思ったところで私には分かりません。

これに関してはあとでロイアス兄さまに教えてもらわなければ。

なんだかあれもこれもと疑問ばっかり生まれてきます。

こと魔法に関しては、魔法のない前世の世界で長く生きていた私には分からないことだらけなのです。

何もかもが不思議の塊なわけですよ。


頭の中にたくさんの疑問を浮かべつつ、じっと兄さまの手元を見ていると、最初の時と同じように封印の術式が可視化された状態になりました。

そしてそれは、私が描いたイメージ通りの頑丈な封印として完成していました。


「……これはまた」


可視化した封印の術式を見た瞬間、兄さまが苦笑しました。

たぶんだけど、呆れが入っていますね。


「単純でいいって言ってるのに、今回のものもまた複雑だね」

「だってめいっぱいまりょくをへらさないといけないとおもって」

「うん、まぁそうだね。でもこれは……」


『やりすぎかな』と苦笑混じりで言われてしまいました。

封印が可視化した状態となっている絵本を開こうとして、再びガシャッという金属音とともに封印の術式に阻まれます。

それを見て『我ながら完璧』だと思いました。


「網目状に編んだ鎖で覆う、か……さすがにこれは頑丈すぎるね。それとこれは……見たこともない形だけど錠、かな?」


苦笑しながら兄さまにそう言われて『えっへん』と胸を張りました。



────だって今回のは自信あったもんね!



兄さまの言った通り、網目状に編んだ鎖で絵本を包んで、更にそこに南京錠をかけてやったんだ。

しかもこの南京錠、ディスクグラインダーを持ってこなけりゃ切断できないだろうってくらいにぶっとくて大きなやつにしてみた。

それに、この世界には普通にディスクグラインダーとか存在していないだろうから、これを物理的に壊すのはまず不可能でしょ。


「くさりだけだとふあんだから、もっとじょうぶにしようとおもってなんきんじょうもつけたのですよ」


立ち上がり、胸を張って『ふふん』と不敵に笑う私は得意顔というよりもちょっと悪役っぽくなったかもしれません。


おっといけない!

『脱! 悪役!』をしようと思っているのに悪役っぽい言動はするべきじゃないね。


「……ナンキンジョウ? 聞いたことがないな」


ありゃ。

この世界には南京錠は存在していないのか。

でもさっき兄さまはパッと見で『錠』かな、とも言っていたし、もしかしたら似たような形のものがあって名称も違うのかも。

ある意味、驚かせるには至らなかったけど、意表を突くことはできたのかな。

それはそれでよしとして……仕返しもちゃんとするけどな!


「ところでレーン」

「はい?」

「もう立ち上がっても大丈夫なのかな?」

「はい! もう元気ですよ!」


もう座っていなくても大丈夫だし、怠さもすっかり消え失せた。

しっかり自分の足で立ててるしフラつくこともない。

大丈夫であることを伝えると、兄さまは少しの間思案してからこう提案してきました。


「……それじゃこの封印魔術を解除してみようか」

「!」



────解除、来た……!



一瞬身が竦んだけれど、解除するまでが一連の流れだ。

嫌だと拒否することはできる。

でもやらなければ何も分からないままだ。


「……はい」


施す方とは違って、解除するのはまだちょっとだけ怖い。

でもロイアス兄さまが付いてくれているから大丈夫。

そう自分に言い聞かせながら、私は兄さまから絵本を受け取ります。



────解除するには、絵本から魔力を引き戻す……



さっきはどんな風にしたんだっけ。

確か……絵本の魔力に対して『還ってきて』という感じで念じたんだったかな。

だけどその時にはもう、私の身体は魔力がいっぱいの状態で、外に出た魔力が入る隙間は全くなかった。

だから身体が入ってこようとする魔力を拒絶して熱を持って、一歩間違えば暴走、……という危険なところまできてた。

もしかしたら今回も魔力が入る隙間はないかもしれない。

その状態で『還ってこい』と念じても、さっきと同じできっと身体は魔力を拒絶する。



────じゃあ……



身体に()()()()()()()()『還ってこい』が正解、だよね?

絵本を持つ手に力を込めて魔力に『還ってきて』と念じる。

だけどそれは『身体に入る隙間があるのなら』というのが条件。



────もし……

────もし、少しだけでも魔力が入る隙間が身体にあるのなら

────その時は入る分だけ還ってきて

────入る隙間がないのなら、還ってこなくていいから



目の前にいる幼子に語りかけるような気持ちで、封印魔術の解除を念じた。

その瞬間、絵本を持つ手に仄かな温もりを感じ、銀色の粒子を纏った鈍色の光が絵本から溢れ出た。

……けれど、それだけ。

ほんの数秒ほどの間、光は迷うようにゆらゆらと揺らめき、やがて悟ったように絵本の中へと戻っていった。

私の身体のどこにも還る場所がないのだと魔力が判断したのだと分かった。


「……にいさま、ダメです」

「……みたいだね」


側でずっと見ていた兄さまにもその状況はしっかりと伝わっていて、苦笑混じりで頷かれました。

それから片手だけを私の絵本を持つ手に添えながら、もう一度時計をチラリと見ました。


「……2分57秒。約3分か」

「へっ?」

「レーンが魔力を大量消費してから、100%の状態に全回復するまでの時間だよ。大凡3分といったところだね」

「3ぷんって……」



────カップラーメンかよ!!



早すぎる。

魔力を空っぽにして、それが全回復するまでの時間が約3分とか早すぎる。

カップラーメンができあがるのを待つ間と変わらない時間で魔力全回復とか有り得ない。

一晩寝たら全回復というこの世界の一般常識を鼻で笑って全否定してるようなもんだよ!?


「ロイにいさまぁ……」


なんか、色んな意味で哀しくなった。

ホント私の魔力何なの?

ますます意味不明だよ。

泣き言を零すように兄さまを呼んだ私は今間違いなく涙目だ。

そんな私の言いたいことを察してくれたのか、苦笑しながら兄さまが頭を撫でてくれました。


「思った以上に早かったね」

「うぅ~……」

「僕の予想では10分弱くらいかな、というところだったんだけどね」

「やっぱりわたしのまりょくはへんですか?」

「そうだね……変だとは言えなくもないけれど、やっぱり『特殊』というのが正直なところかな。さすがにここまで回復が早いとは思わなかったし」


気を遣ってくれているのか、それとも本心からなのか。

兄さまの言葉に落ち込むことはなかったけれど、思うところがたくさんあるのは何となく分かった。

これ以上のことは専門の先生じゃないと分からない分野なのだと思う。


「とりあえず、大量消費してこの短時間で全回復なら、少し使った分に関してはものの数秒で回復してしまうと考えた方がよさそうだね」

「……はい」

「そんな顔しない。さっきのようにレーンからまた魔力を奪うから、絵本の封印魔術を解除しようか」


そんな顔、とは一体どんな顔か。

いじけ顔なのか、それともぶすくれ顔なのか。

どっちにしろ不満ありありの顔だったことに間違いはないと思う。


「さっきは封印魔術の解除と同時に魔力を奪う形だったけれど、あれはレーンに負担がかかるから、先に魔力を奪う方からやるよ」



────負担がかかるのは私だけじゃなくて兄さまもだよ



あの時のことを思い返してそう思ったけれど、きっと兄さまは笑って『大丈夫』と言って済ませてしまう。

それから『僕のことより自分の心配をしようか?』とも言うんだろうな。

無言でじっと見上げたけれど、きっと私が今思っていることに兄さまは気付いてる。

だからさっきからずっと兄さまの苦笑は崩れない。


「魔力のほぼ全部を奪うことになるから、また身体が怠くなるかもしれない」

「はい」

「できればレーンの負担を軽くしたいから、ある程度魔力が抜けたと分かった時点で封印魔術の解除に取り掛かって」


兄さまにそう言われて頷きます。


「さっきみたいに魔力の流れを見ていてもいいけれど、あれをやりながらだと神経をすり減らして余計に疲れてしまうからね」

「わかりました」


重ねて言われたことにも再度頷きます。

私の身体に負担がないようにと兄さまが色々と考えてくれているのが分かって嬉しいと思う反面、その分の負担が全部兄さまに行ってしまうのだと思うと心苦しいです。


「それじゃ……いくよ!」


そう言うと同時に兄さまの瞳が強く輝き、魔力を行使したのが分かりました。

この魔力を奪うという方法は、使う方も微量の魔力を放出し続けるらしいのです。

いくら兄さまが『大丈夫』だと言っても、魔力をずっと使い続けている限り、身体への負担はかかり続けます。

それが申し訳ないし、そうさせることが苦しいのです。

複雑な気持ちになりながら私の左手を包み込む兄さまの魔力をぼんやりと見つめていると、ふいに身体の奥からぐいっと引っ張られるような感覚がしました。


「!」


それに驚いたと同時に、兄さまの魔力に引っ張られた私の魔力が身体の中から溢れるように出て行き始めました。

まだ何にも染まっていない私の素の魔力が、兄さまの淡い水色の魔力に溶け込むように混じり合っていきます。

その様子をただただじっと見つめていました。



────キレイだな……

────私の魔力と兄さまの魔力が混じってキラキラしてる……



ん?

キラキラ?


「???」


見間違いかと思い、目を凝らしてもう一度よく魔力を見てみると、確かに混じり合う兄さまと私の魔力にはキラキラと輝く粒子が。



────あれ、封印魔術を使った時に魔力が纏ってたラメラメの銀色粒子だよね……?

────素の魔力の状態の時にもあのラメラメ出てたっけ……?



一度兄さまが私の魔力の状態を見るために引き出した、何にも染まっていない素の魔力のことを思い返す。

けれどどんなに思い返してみても、あの時の私の魔力には銀色の粒子は含まれてなかった。



────何なんだろう?



魔力とは別に銀色の粒子に大きな疑問を抱き、それについて深く考え込もうとしたその時、ふ……と力が抜けるような感じがして身体がふらつき、思わずたたらを踏んだ。



────あ……ヤバ……



「レーン」


ヤバいと思うと同時にロイアス兄さまから名前を呼ばれたことで我に返った。

今こうしている間も、私の魔力は兄さまの手によって奪われ続けている。

考えごとをして封印魔術の解除を忘れていたら、私の魔力はすぐに空っぽになる。

先に兄さまは魔力を全部奪うと言っていたから、また身体があの状態になることは簡単に予想できる。

今優先させなきゃいけないことは封印魔術の解除であって、それ以外のことを考えている暇はない。

銀色の粒子のことはひとまず後回しだ。


「…………」


一度固く目を閉じて、それからゆっくりと開く。

深呼吸をしながら数度瞬きをした後、私は絵本を持つ右手にしっかりと力を込めて、絵本の中の魔力に語りかけるように念じた。

『今度こそ還っておいで』と。

念じたその直後、絵本から溢れ出た鈍色の光はやっぱり銀色の粒子を纏ったまま、私の右手を介して身体の中へと還っていく。

いつの間にか兄さまの手に包まれていた左手は離されていて、自由になった左手にも鈍色の光が伸びていく。



────温かい……



さっきはあんなにも熱くて苦しかったのに。

今はとても温かくてやわらかい。

こんなにも違って感じるなんて、何だか不思議だ。



────これが、私の魔力……



ヘンテコだけど。

兄さまとは違うけど。

普通じゃないとも言われたけど。

あんなにも不安で怖かったけど。


……でも。

嫌いじゃない。

転生者の私が普通じゃないのと同じで、私の持つ魔力もまた、普通じゃない()()があるのかもしれないと思うと、不思議と仲間意識みたいなものが芽生えてきた。

普通じゃない同士、一緒に頑張らなきゃねっていう気持ちが湧き上がってくる。


「……がんばらなきゃ」


そうぽつりと呟いたのと同時に涙が零れた。

異質でヘンテコな魔力は、異質で普通じゃない私自身を映す鏡のようなもの。

だから、このヘンテコな魔力は私。

転生者であることも、異質であることも、それからこのヘンテコな魔力も含めて私なんだと改めて思う。



────向き合おう、私自身と同じ魔力と

────私なら、きっとできると信じて……



「にいさま。ちゃんとせいこうしましたか?」

「うん、大丈夫だよ。特に問題はないようだね」


確かめるように顔を覗き込んできた兄さまと目を合わせて、それから一度だけ頷きました。


「……わたし、すこしわかりました」

「ん?」

「ひととはちがうわたしのこのまりょくは、わたしです」

「レーン」

「だから。わたしのことをわからないままっていうのは、ヘンですよね、にいさま?」


ついさっき零れたばかりの涙をぐいっと拳で拭いながらそう問いかけると、兄さまがそっと頭を撫でてくれました。

もう既にお決まりのパターンとなった、苦笑と一緒に。


「参ったね、レーンには」

「えっ?」

「まだ何も教わっていないというのに、自分で答えを見つけてしまうなんてね」

「こたえ……?」

「自分の魔力と向き合うこと。魔法を使うに当たって一番大事なことがこれだよ。誰にも教えられずにレーンはそのことに自分で気付いた」

「にいさま」

「やっぱりレーンには魔法の才能があるね。今はまだ感覚的な部分に頼るところが大きいけれど、でも確実に自分の魔力が何たるかを感じつつあるのがその証拠だよ」

「それって……」


主旨とか理論とかは全く分かってないのに、感覚で何でもできちゃうような所謂『天才だけどおバカ』って言われてるのと同じじゃないの?

だって今の私、正しくそうだもん。

魔法のこと基礎からしてさっぱりだし、兄さまから聞いたことを感覚に任せてやって成功させてのこの状態だし。



────何だろう、この微妙な感じ……

────たぶん褒められてるんだろうけど、全ッ然嬉しくない……



「レーン?」

「……なんでもないです。がんばります」

「? うん、頑張れ?」


早く魔法の先生を付けてもらって基礎的なところからちゃんと勉強したい。

じゃないといつまで経っても感覚だけに頼りきりの『天才的おバカ』のままだ。

ロイアス兄さまは優秀なのに、妹の私はおバカだなんて嫌すぎる。

たぶん、ゲームでのロイアスとフローレンはそんな感じだったのかもしれない。

今から頑張っていけば、不出来な妹じゃなくなるかな?

少なくとも魔法のことはクリアできそうな気がする。

ゲームでは生活魔法くらいしか使えないフローレンだったけど、今の私は封印魔術を使えたからね。

きっと私の頑張り次第でフローレンのダメダメな所を変えていけるはず。



────頑張れ、私

────そして目指せ、脱! 悪役令嬢だ!



心の中でそう決意して、私は再び封印魔術を試すべく絵本と向き合うことにした。








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