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どうやら私の魔力は異質らしい、……ですってよ? 3




~どうやら私の魔力は異質らしい、……ですってよ? 3~




その後、ロイアス兄さまの説明を聞きながら、私は三つ目の女の子の人型を赤い色で塗り潰していた。

二つ目の人型が示す20%の状態から、一気に100%の状態へと。

兄さまを示す人型とは違い、僅か三つで終わってしまった私の魔力の回復の流れ。

どんなに魔法を使って消費しても、すぐに100%になるらしい私の特殊な魔力。

使っては全快、使っては全快……という流れが、二つ目と三つ目の人型を繋いだ矢印によって証明されている。

まるで無限ループのようだと思った。


「使ったすぐ傍から全回復してしまうなら、かけた魔法を解除して魔力を身体に戻せないのは当たり前だよね」


苦笑しながら、兄さまはぶすくれた表情の私を宥めてくれます。


理屈は分かった。

仕組みも分かった。


でもやっぱり納得できない。

私だけが他の人とは違うというその事実が。


「いっぽうつうこうとかなんですかそれ」


尚もぶっすりとした表情で、私は兄さまから言われた言葉を吐き捨てます。

使う魔法の全てが一方通行だなんて、独りよがりで自分勝手であまりいい気持ちにはならない。

まるでゲームの悪役令嬢フローレンの性格をそのまま魔法に反映したみたいで微妙な気分になる。

使う魔法まで自己中心的とか笑えないんですけど。


「絶対に、というわけじゃないんだよ、レーン? さっき僕がやったように、レーンから余分な魔力を奪ったり、意図的に消費させたりすることができれば自分でかけた魔法を解除することは可能だからね」

「……でもわたしひとりじゃむりです」

「そうだね。レーンが自分の魔力の性質をきちんと理解して、然るべき対処ができるようになるまでは誰かに付いてもらわないとダメだろうね」

「ほらやっぱりダメじゃないですか」


異質で特殊で一方通行。

つくづく私の魔力はヘンテコだ。

ぶすくれたってしかたないじゃないか。


「そんなことはないよ。魔力の性質は使っていくうちに段々と分かっていくものだから。自分の魔力を一番よく知ることができるのは自分だけ。魔力にも個性があるって言っただろう?」



────……確かに



最初に受けた説明で、兄さまがそう言っていたことを思い出してコクリと頷きます。


「焦らなくても大丈夫。レーンはこれからどんどん魔法を使って、自分の魔力の性質を知っていけばいいんだ。使えば使うほどに自分の魔力の性質がどのようなものか分かるようになるから。そうやって使い続けていくことで自分の魔力の性質に慣れて、それをうまく制御できるようになれば、他人とは質の異なる自分の魔力も気になることはなくなると思うよ」

「にいさま……」

「レーンが魔法を使う時は僕が必ず一緒に付くから、何も心配せずにどんどん使うといいよ」


ぽんぽんと優しく頭を撫でられてそう提案されます。

それは自分にとってはプラスになる魅力的な提案です。

ですが、同時にそれは、兄さまにとってはマイナスになるかもしれない提案でもあったのです。

いつもなら喜んで即答していたでしょうが、さすがにこれは簡単に飛びついていいものではありません。


「……でも」

「ん?」

「わたし、まほうのおべんきょうまだですし……」


そうなのだ。

私は魔法はおろか、国の歴史や地理、その他の貴族家系に関する専門的な勉強は一切開始していないのだ。

今の年で始めている勉強といえば、貴族令嬢には必須の礼儀作法とテーブルマナー、それから一般的な読み書きと簡単な算術、あとはプラスアルファとして、嗜みとなる芸術……つまりは絵くらいだ。


「ならってもいないのに、まほうをつかったとしられたらおこられます」


私もだけど、私にそうさせた兄さまも同じように怒られることになるのは必至でしょう。

ただえさえ迷惑をかけ通しでいるのに、更に迷惑になるようなことはしたくありません。

何よりも、私のせいで兄さまが怒られてしまうのが嫌なのです。

兄さまは何も悪くないのに、私の事情で巻き込むのはどうか……と思ってしまうわけです。


「確かにレーンはまだ魔法を一とした専門的な勉強は始めていないね。年齢的にも早すぎるというのがその理由だけれど、僕は魔法に関してだけは早急に始めてもいいと思ったよ」

「にいさま……」

「レーンの魔力が人とは違う性質だと分かったからには尚更にね」


少しだけ難しい顔をしたロイアス兄さまを見て、なんとなく兄さまの言いたいことが分かった気がした。

たぶん私は……非常に扱いにくいんだろう。

魔法を教えてくれる先生の目にはきっと、魔力を持つ同じ年頃の子どもたちの中で、私が一番扱いに困る問題児な生徒に見えるのかもしれない。

私だけが人と違うのだから、教えられたことを皆と同じようにできるとは限らない。

それとは逆に、他の人ができないことを私ができるという事例だって発生するかもしれない。


「……わたしって、めんどくさい」

「レーン?」

「まわりとちがうってことは、まわりとおなじじゃダメかもしれなくて……」

「……うん」

「みんなができることを、わたしはできないかもしれなくて」

「うん」

「でも、みんなができないことを、わたしはできるかもしれなくて」

「うん」

「まほうをならうようになったら、そんなふうにおもわれるかもしれないって……」

「そうだね。人とは違うという理由で、そういうこともあるかもしれないし、そういう風に思われることもあるかもしれない。けどね、レーン。人とは違うからこそ、人に認めさせることは可能だよ?」

「ひとに、みとめさせる……?」

「そう。他の誰にもできないことを、レーンが一生懸命努力して上手く使いこなせるようになったらすごいことだと思わない?」


そう言ってロイアス兄さまは、私の目をじっと見つめながら尚もこう続けました。


「他の誰にもできない努力をレーンはできる。それはレーンだからできる、レーンだけの特別なんだよ?」

「にいさま」

「もちろん、それをやるレーン自身は、他の誰よりも辛いと思うことがあるかもしれない。けれど、それを乗り越えて、自分の特別な力を自分の支配下に置けるようになったら、誰もレーンを悪く言えなくなると思うんだけどな」

「……にいさまは?」

「ん?」

「にいさまも、そうおもってくれますか? わたしが、わたしのまりょくをちゃんとつかえるようになったら、すごいって、おもってくれますか……?」

「もちろん。今はまだ推測の段階だけれど、短時間で100%の状態にまで自然回復できる魔力なんて羨ましい限りだよ。時間制限を設けずにいつまでも魔法訓練を続けられるんだからね」

「にいさま……」


最初こそ異質と言われたけれど。

それは決して悪い意味じゃないということを、今漸く理解できた気がした。

それこそ『羨ましい』なんて言葉を言われるとは思ってなかった。


「レーンの頑張り次第でいくらでも変わってくるよ。自分がどんな風に感じるのか。周りがどんな風に思うのかもね」


そう言われて頭を優しく撫でられて。

まるで『一緒に頑張ろう』と言われたみたいで、気付けばまた泣けてきた。

じわっと目の奥が熱くなって、みるみるうちに視界が歪んでいく。

今日何度目になるか分からない涙に自分でも呆れた。


「……なんだか意地っ張りだったレーンが急に泣き虫になったみたいだ」

「うぅ~……ごめんなさい」


溜息混じりでそう言われたけれど、そこには呆れなんて少しもなくて。

『しょうがないなぁ』と笑いながら優しく頭を撫でて宥めてくれる兄さまに無意識のうちにギュッとしがみついていた。


「泣いてもいいよ。言いたいことを溜め込んで、突然癇癪を起こされるよりはその方がずっといい」

「……ごめんなさい」


ホントどれだけ酷い癇癪持ちだったんだ、私の記憶が戻る前のフローレンは。

言いたいことは言わないとちゃんと伝わらないよ?

我慢して、我慢して、我慢し続けて。

それでいっぱいいっぱいになってある日突然爆発して、癇癪起こして泣き喚いたって、そりゃ伝わらないわ。

今までそれを見てきた人はどれだけ苦労したことだろうか。

私の意識範囲外のこととはいえ非常に申し訳ない気持ちになる。

これからは決してそんなことはないから皆安心してね?


「……にいさま」

「ん?」

「まほう、れんしゅうしたいです」

「もちろんいいよ。さっきの続き、色々なパターンで封印魔術を試すと言った分をこれからやろうか?」

「やりたいです! ふういんまじゅつも、いっぱいつかったらわたしのまりょくのことわかるようになりますか?」

「なるよ。使うことで自分の魔力がどのように巡るかが細かく感じられるようになるからね」


そう言って兄さまは立ち上がると、先ほど私が勢いで放り出したままの絵本の所へと歩いていき、絵本を拾い上げました。


「おいで、レーン」

「はい!」


そのまま手招きされて、ロイアス兄さまのところへと駆けていきます。


「一度成功させているから、封印を施す際の感覚はもう分かるよね?」

「はい」

「それじゃさっきの要領でもう一度試してもらうけど、その前に……ああ、あった」

「?」


軽く視線を巡らせた先にあった置き時計を手に取った兄さまはそれを見やすい位置へと置き直しました。


「とけいなんてなににつかうんですか?」

「レーンの魔力がどのくらいの時間で全快するのか計ろうと思って」

「!」

「正確に知るのは難しいと思うけど、目安としてどのくらいなのか知っておきたくてね」

「だいたいしかわからないんですか?」

「魔力測定をする道具がないからね」


兄さまが言うには、きちんとした魔力測定を行うための道具は一般的にはどこの家でも持たないのが普通らしい。

そういった専門的な道具は王宮の抱える魔術師団でのみ管理しているらしく、それを使用する際は必ず王宮魔術師団に所属している魔道師が立ち合うのが規則なのだとか。

何よりも、魔力を持つ子どもたちが魔法を習う教師となるのは全て王宮魔術師団所属の魔道師に限られるという。

そんなわけで、兄さまが今現在指導を受けている魔法の先生も王宮魔術師団の魔道師、というわけだ。

ちなみに兄さまは同じ年代の子どもたちの中ではかなり魔力量が多く、おまけに魔力そのものの力も強いため、付いている先生は魔術師団の中でも上級クラスに位置する魔道師なのだという。



────どれだけ優秀なんだ、兄さま

────あなたはバケモノですか



封印魔術の可視化といい、私の魔力暴走を防いでみせたり、魔力を奪い取ったり……といった、今まで見てきた諸々を元に私が抱いた感想はそれだ。


「聞いた話によると、今のところノーヴァ公爵家だけが魔力測定の道具を持っているらしいよ」

「ノーヴァ……?」


ノーヴァ家といえば、私たちオンディール家と同じ家格である四大公爵家の一つだ。

そして……忘れてはいけない大事なことがある。

ゲームの主要キャラクターである人物が二人いるのだ。

一人は、相手が第一王子───王太子セドリックのルートの場合にヒロインのライバルの立場として登場する令嬢リリーメイ。

そしてもう一人は攻略対象で更には隠しキャラでもある超級エリート、リリーメイの兄のルーファスだ。

いや、彼を超級エリートと言うのは表現が控えめか。

彼のことに関しては、エリートと評するにはあまりにも温すぎる。

超級のエリートどころか超級のチートなのだ、隠しキャラのルーファスという人物は。


「ノーヴァ公爵は魔術師団の団長を努めているから、家に持っていてもおかしくはないと思うよ。それと……」

「それと?」

「まだ会ったことはないけど、ノーヴァ公爵のご子息がかなりの量の魔力を持って生まれたらしいよ。既に多くの属性の魔法を使いこなしているほど魔法の才能に長けているとも聞くし」


ノーヴァ公爵のご子息と言えばあの人しかいないじゃないか。

攻略対象で隠しキャラの超級チート、ルーファスしか。

っていうか、ルーファスは確か兄さまと同じ年なはず。

この年で既に多属性の魔法を使いこなすとか、どんだけチートなんだ。

兄さま以上のバケモノがいたよ。

いや、バケモノなのは最初から知ってたけど。


「あと、ご令嬢の方もご子息と同じで相当な魔力を持って生まれたという話だから、公爵としては自分の子のために家に魔力測定の道具を置くようにしたのかもしれないね。幼い頃から多くの魔力を抱えていると、それだけ身体への負担も大きいから。自分の子の魔力の状態を細かく把握して、身体への負担を和らげたいっていう親心かな、とも思うけど」

「にいさま……」

「ん?」

「からだにふたんって……?」

「抱えている魔力量にもよるけれど、多すぎる魔力の影響で熱を出しやすくなるんだ」

「ねつ……?」

「そう。さっきレーンも感じただろう? 自分の魔力を引き戻そうとした時に、身体中が魔力を拒絶して熱くなったあの状態だよ」

「!」

「多すぎる魔力を持って生まれたということは、常に身体があの状態になっている可能性も否定できないね」



────嘘……

────ほんの少しの時間でもあんなに苦しかったのに、あれが生まれた時からずっと続いてるっていうの?



ゲームでも、ノーヴァ公爵家の生まれの二人は優秀な魔法の使い手であることが明かされている。

その背景に今回聞いたこのことがあったとしたなら。

二人は常に身体に大きな負担を抱えたまま、ずっと魔法と付き合ってきたことになる。

人物紹介の簡単な説明じゃ何も思わなかった。

せいぜい『へぇ、すごいなぁ』くらいの感想を抱いた程度だ。


「……まほうって、かんたんなものじゃないんですね」

「そうだね。口で説明するほど簡単なものじゃないことは確かだね」

「だから、にいさまはむずかしいって……」


イメージとセンスとは別次元の、大元となる身体と魔力量の関係。

それこそ個人差に大きなバラつきがあって、その状態に合った適切な対処法が必要なのだと思う。

今分かっている時点の私の魔力の性質もそうだけど、ノーヴァ家の二人も相当なものを抱えているんだと思うと何だかやりきれない気持ちになる。

まるで身体の中に『魔力という名の大きな爆弾』を抱えているような、イメージとしてはそんな感じだ。


「そう。特に難しいのは魔力制御かな。自分の魔力の性質を理解してどう使いこなしていくか。それも自分の身体に負担にならないような使い方を知る必要があるからね」

「にいさまは?」

「ん?」

「にいさまは、まほうをつかうときからだにふたんはないですか?」

「ありがたいことに負担は全くないかな。僕の魔力と、オンディール家の特性でもある水属性は非常に相性がいいみたいだから」

「……それならよかったです」

「レーン?」

「にいさまが、まほうをつかうたびにくるしくなることがないってわかって、ホッとしました」

「もしかして心配させてしまっていたのかな? ゴメンね、レーン。それとありがとう、僕の身体のことを心配してくれて」


上体を屈めながら顔を覗き込まれ、視線が交わると同時に頭を撫でられました。


「でも。レーンは僕のことよりも自分の心配をした方がいいかな。何せレーンの魔力は僕とは全然違う特別なものだからね」

「……そこはがんばるしかないのです。がんばります」


グッと拳を握り締めて力説すると兄さまから苦笑されました。

まぁ……具体的に何をどうするかも決まっていないのに何を頑張るのか、という話ですが。


「それじゃ気合が入ったところで続きをやってみようか」

「はい! どんとこいなのです!」

「頼もしいね、レーンは」


苦笑混じりにそう言われたけれど気にしない。

自分の魔力を知るには、とにかく魔法を使って自分の魔力の性質に慣れるしかない。

だから今はただただ使うだけ。

こうして兄さまが付き添ってくれている今でないと思う存分にやれないから。

まずは自分のことに集中することが最優先。


それから……


いつかノーヴァ家の二人に会って、二人がそれぞれ抱えている魔力のことを訊いてみたいと思った。

二人は一体どれだけ多くの魔力を身体に抱えていて。

そして、その膨大な魔力とどんな風に付き合っているんだろう……って。





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