初めての王都はワクワクがいっぱい?
いつも見てくださってありがとうございます(*・ω・)*_ _))ペコリン
ブクマや評価もとっても励みになっております(о´∀`о)
今回からフローレンの本格的なお出掛けが始まります( *´艸`)
~初めての王都はワクワクがいっぱい?~
馬車にゆらり揺られて10分も経たないうちに王都の中心部に到着した。
そうだよね。
うん、そうだよね!?
だってオンディールのお邸、ほぼほぼ王都の中心部に近いところにあるんだもん。
馬車でちょこ~っと行けばそりゃあっという間に街のド真ん中に到着もするわ!
ちなみに王都のお邸は別邸のほうです。
本邸があるのは東の領地であるオンディール領で、これまたドデカイ『お城かよ!?』ってくらいのそれはそれはご立派すぎるお邸がドドンと構えております。
お父さまと兄さまがお仕事のために向かって滞在することになったのが本邸のほうね。
っていうか、そっちのが本当のお家です。
広大な海に面した最高のロケーションの本邸はとっても景色がよくて、見ているだけで心が洗われるくらいに落ち着ける場所なのです。
────私、領地、大好き♪
……という気持ちは、記憶が戻る前のフローレンが持っていたもの。
今の私が見た記憶ではないけれど、でもちゃんと心の中には同じ気持ちを抱えているよ。
本邸にはとっても優しいお祖父さまとお祖母さまがいて、特にお祖父さまはお父さまに対しての気遣いがものすごい。
そしてそんなお父さまは、お祖父さまに気遣われすぎて戸惑っているという、ね……
まぁ仕方がない話ではあるんだよ。
本来だったらお父さまは、オンディール公爵になるべき立場にはいなかったのだから。
継ぐべき家───イングリッド侯爵家───があったにもかかわらず、ある日突然オンディール公爵家当主にならざるを得なくなってしまったのだ。
……とまぁ、その辺りのことは家庭の事情ってことで割愛。
私も詳しくは知らないけれど、とにかく重苦しく、泣きたくなるような悲しい話であることは間違いないから。
たぶんだけど、兄さまは詳しい事情はちゃんと説明されているとは思う。
次期オンディール公爵家当主であるし、心構えや何やらを説かれながら何度も何度も繰り返し聞かされているんだろうな……というのは単なる私の想像ではあるけれど。
とりあえず、今は王都の街に初めて繰り出しているんだから領地のことは置いておく。
比べてもしょうがないしね。
「さあ。まずはどこを見て回りましょうか、レーン?」
私の手を引きながら優雅にゆったりと歩くお母さまにそう問われるも、どこにどんなお店があるのかさっぱりだ。
『これが見たい』と言えばいいのだろうか。
思わずぎゅっと眉を寄せる私を見てお母さまはくすくす笑う。
「言いかたが悪かったかしら? それじゃ言葉を変えてもう一度訊くわね? 何か欲しいものはあるかしら、レーン?」
「………………」
────言いかたどころか、意味までもが全然違くない!?
思わずそう突っ込みたくなったけれどぐっと我慢。
ここは王都のド真ん中だ。
誰がどこで見ているか分からない。
貴族の子女たるもの、人の目がある場ではしたない姿を見せるわけにはいかんのです。
なので引っ掛かるものがあってもそれを顔に出すことなく、なんでもないことのように振る舞わねば。
「えぇと……今一番欲しいと思うものはあります」
「何かしら? 遠慮せずに言ってごらんなさいな?」
「……プレゼントを包むキレイな模様の紙と、リボンが欲しいです」
「! ロイアスのためのものね?」
弾むような声と微笑ましいと言わんばかりの表情で問われ、照れながら頷く。
「それじゃ、贈答品を取り扱うお店を見に行きましょうか」
そう言うと同時にお母さまが素早く後方へと視線を向けた。
ほんの一瞬のことだったけど、タイミングがよかったのか私にはバッチリと見えていた。
お母さま専属の護衛がしっかりと頷いたその瞬間が。
あ~……やっぱついてくるのか、護衛のお兄さんたち。
クララットじゃ護衛なんてない状態でのほほんと町中を廻っていたからなぁ。
催しとあって警備面もしっかりとしていたようだし、王都と比べるとず~っと安全だったのかもしれない。
でなきゃ幼女一人で歩かせたりなんて絶対にさせなかったはずだ、お母さまが。
「わたくしも好きなお店なのよ。こっちよ、レーン」
「はい」
お母さまに促され、似た顔立ちと背格好の護衛のお兄さんたちから視線を外す。
手を引かれるままにゆったりとした歩調で石畳の敷かれた道を歩いていると、すれ違う人たちのうちの何人かが会釈をしていたのが目に入った。
もちろんその会釈は私に対してではなくお母さまに対してのもの。
今日はお忍びではないから、街歩きに相応しい貴族らしい装いで出掛けている。
そのため、誰の目から見ても今日のお母さまはオンディール公爵夫人の『フレイヤ様』であるわけだ。
つまり、お母さまに会釈をしている人はみぃ~んな貴族。
どこのお家のどの人かは分かりません!
だって私、一度も会ったことないもん。
それは向こうも同じ。
会ったことない私のことを知っている人はいない。
『いや、今会ってるじゃん?』っていうツッコミはナシだよ?
だってこれ、会ったことにはならないから。
紹介されて互いに名乗りあげて挨拶を交わさないことには知り合ったことにはならんのです。
そして、こんな街のド真ん中で世間話よろしく立ち止まって自己紹介をし合うわけもない。
なのでお母さまに会釈をした相手にとっては、私が『オンディール家の娘』であるということが知られちゃったことになるわけだけど、敢えてお相手の方は知らぬふりをしてくれているのです。
正式な場での挨拶を交わすまでは、どんなに顔や名を見知っていても表向きには知らない人、というわけ。
ややこしいけどこれが貴族の社会では当たり前のことなんだよ。
それを考えると、レオくんに会ったことや、更にはレオくんのお母さんとも会えてお話できたことはかなり特殊なレアケースだと言える。
……さて。
そんなことをつらつらと考えながら歩くこと数分。
お母さまのオススメだという贈答品のお店へと到着した。
別世界に来たかと思った。
────き……キラキラしい……ッ!!
思わず手を翳して目をガードしたくなるくらいに煌びやかなお店だった。
「こっ……これは……!」
「うふふっ。選びがいがあるでしょう?」
ニッコニコのお母さまにそう言われて言葉なくコクコクと何度も頷く。
「存分に迷いながら探してみるのも一興よ?」
なんて言いながら、お母さまがすぐ側に陳列されたリボンを手に取りながらうっとりと微笑んでいる。
「選ぶのが楽しいのよね、このお店に来ると。時間を忘れて没頭してしまうのよね」
その気持ち、分かる気がする。
リボンだけでとんでもない種類が並んでる。
奥の包装紙もまた然り。
メッセージ用のカードやレターセットなどもまた同じ。
色一つとっても、グラデーションを描くように微妙に濃淡の違うものがこれまたズラリと勢揃いなのだ。
────これは……色味に並々ならぬこだわりを持ってる人には天国なのでは……?
ちなみに私もその部類だ。
だからこのお店は私にとっては天国だ。
やっふい!!
────さぁ~……選ぶぞ~……!
────私による、兄さまのための、兄さまだけの最高のものを探すのじゃ!!
……というわけで、まずは包装紙から。
気合いを入れてズンズンと奥の包装紙コーナーへと向かっていると、少し後ろから護衛のお兄さんが一人ついてくるのが見えた。
さっきの街中よりもずっとずっと距離が近い。
「?」
思わず顔を見上げ首を傾げる。
苦笑されてしまった。
「不思議そうな顔をされますね、フローレンお嬢様」
え~?
そりゃするよ。
だってこのお兄さんはお母さま専属の護衛騎士なんだよ?
お母さまから離れて私のほうに付くとか思わないじゃん、普通に。
「お母さまから離れていいの?」
だから私からこんなセリフが飛び出してもおかしくはないというのに、護衛のお兄さんから困った顔をされてしまったよ。
なんで?
「奥様からフローレンお嬢様に付くよう仰せつかっておりますので」
「なんで? 別に一人でも平気だよ?」
お買いものだって立派にこなせますとも。
昨日、一昨日と、散々レオくんとお店を巡ったからね。
お店の人との遣り取りだってバッチリだ。
心配されるようなことはなぁ~んにもない。
そういう意味での『平気』という発言だったんだけれど。
どうやら私は大いに勘違いをしていたらしい。
「買い物のことを心配しているわけではありません。私がお嬢様に付くのは、お嬢様の身の安全を最優先で確保するためです」
「ふぇ?」
「難しく考える必要はありませんよ。私が付いている以上、決してお嬢様を危険な目になど遭わせませんから」
「危険……? …………! あ……っ!」
「ご理解いただけたようで何よりです」
そうだ。
なんで忘れてたんだ私。
私の立場じゃ、お外に出るのに護衛が付くのは当たり前なのに。
きっと昨日と一昨日が特殊すぎたんだ。
催しを開催するにあたり、クララットでは予め町全体で厳重な警備態勢を布いて安全確保をしていた。
だから個別に護衛に付いてもらう必要などなかったのだ。
それに、私には専属の護衛はいない。
今までずっとお邸から出ることがなかったから当然といえば当然かもしれない。
この先も付くかどうか不明だ。
私にはまだ早すぎる、というのが一番考えられる理由。
とりあえず、今の私には臨時でお母さまの護衛が付いてくれているみたいなもんだ。
ただ、ねぇ……?
一言『危険だ』とは言うけれども、こんな『お貴族さま御用達』のいかにも高級志向なお店でそうそう危ないことなんてあるのだろうか?
まず有り得なくない?
そんな考えが思いっきり顔に出ていたのだろう。
護衛のお兄さんに苦笑されてしまった。
「それが有り得るんですよ。お嬢様のように幼い子どもは『外』よりも『中』のほうが危険です」
「え……?」
どゆことだ……?
危ないのはお外じゃないの……?
「『外』とは違い『中』は格段に死角が増えます。そこを上手く利用して拐うのは常套手段ですからね」
「そうなの!?」
「はい。特に幼い子どもは身体が小さい分、ちょっとした物の陰に隠されやすい。ほんの一瞬、その姿を見失った隙を突いて犯行に及ばれてしまいます。『中』のほうがより危険だということはご理解いただけましたか?」
────こ……怖ぇ……!!
護衛のお兄さんの言葉に、思わず何度も大きく頷いた。
なんなら変な汗もかいた。
こんな話を聞いて『お母さまのトコにいなくていいの~?』なんて言えるわけがない。
己の身が危ないかもしれないのにそんなアホみたいなこと口にするとかどこの命知らずだよって話。
「じゃあ……ちゃんと近くで見ててくれる?」
「ええ。しっかりと側についておりますよ」
「見失ったりしないでね?」
「絶対に有り得ませんからご心配なく」
お兄さんのマントをギュッと掴み、せいいっぱい背伸びをして見上げたと同時に跪かれた。
「そのような泣きそうな顔をなさらずとも私は離れませんよ?」
「………………」
「ですから安心して、存分に店の商品を見て回ってください」
マントを掴んでいた手をそっと離され、優しく言われる。
「ホントに、ホントに離れないでね?」
「ええ」
「絶対だよ?」
「ええ。絶対に、です」
護衛のお兄さんの苦笑が優しい笑みに変わったことで、知らず知らずのうちに強ばっていた身体からストンと力が抜けた。
ようやっと安心できた、といった感じだ。
「……お兄さん」
「はい。何でしょう?」
「側にいるついでに、届かないところにあるものを取るの手伝ってくれる?」
「いくらでも」
『当然だ』と言わんばかりに笑いながら頷かれたことで、ようやく私も笑うことができた。
「それから。私のことはジェイムスとお呼びください」
「ジェイムス?」
「はい」
にこやかに笑って立ち上がったお兄さん───ジェイムスに促され、当初の目的である包装紙の売り場へと向かう。
先ほど本人も言っていたように、すぐ側に付いてくれているらしく、顔を動かさずとも少し視線を遣るだけでジェイムスの姿を確認することができる。
さっき言われた言葉のせいか、相手の姿が見える位置にあるということの安心感よ。
確かにお店の中は死角が多い。
商品棚と商品棚の間とかここからじゃ(ついでに私の身長からして)全く見えないもん。
ああいうところから狙われたりすることがあるんだな……と思うと、確かにお外よりも中のほうが危険がいっぱいだわ。
自分で考えたことにぶるりと身震いがし、再びジェイムスのマントをぎゅうっと掴んでしまった。
「どうしました、フローレンお嬢様?」
「……己の想像力に、ちょっとだけ嫌気がさしてしまっただけ……」
「何か怖いことでも考えてしまいましたか?」
「まさにその通りだよ……」
『うぅぅ……』と情けない声を上げて唸りながら、マントを掴む手に力を込める私を見てジェイムスが苦笑する。
「怖いのであれば手を繋いでいましょうか?」
「えっ? いいの?」
「ええ。外ではそういうわけにはいきませんが、中では手を繋いでいたほうが安全ですからね」
「じゃあ、お願いっ!」
パッとマントを離し『早く繋いで!』とばかりに手を伸ばした私を見て、またまたジェイムスが苦笑する。
けれどすぐに、大きく温かい手が私の小さな手を優しく包み込んでくれた。
「これでもう怖くはないですね?」
「うんっ!」
安心感が全然違うわ。
お母さまと手を繋いでいた時は、慈しまれているといった感じでほんわりとした温かい気持ちになったけど、ジェイムスと手を繋いでいる今は包み込むような強さで守られているといった感じがする。
それから。
私は存分にジェイムスを引っ張り回し、兄さまの誕生日プレゼントを包むために必要なものを片っ端から選びに回った。
やっぱりというか、当然というか。
選んだもののほとんどが青色ベースだ。
包装紙は濃淡のグラデーションがかかった水色。
リボンは金色で縁取りがされた紺色。
メッセージカードは海を思わせる青色。
どれもこれもが兄さまに合うものを……と思って選んだものだ。
納得いくものが見つかって大満足の私。
このお店は取り扱っている品数が豊富すぎて、選ぶまでにかなりの時間がかかってしまったけど、選ぶ時間も迷う時間もすごく楽しかった。
ジェイムスにもいっぱい手伝ってもらったしね!
最初のうちは届かないところにあるものを『あれ取って』『それ取って』と取ってもらっていたんだけど、繰り返すうちに段々とまどろっこしくなって、しまいには『抱っこして!』と抱えてもらった状態で隣り合う品をじっくり見比べる……なんてことに。
最後の最後まで根気よく付き合ってくれたジェイムスには感謝しかない。
支払いの時も、お母さまからそうするように言い付かっていたのかサッとスマートに支払ってくれた。
私、自分で出す気満々だったんだけど。
お買いもの楽しいし。
そう口にしたら、こういった外での買いものは従者が支払うものなのだと教えてくれた。
特に貴族御用達の高級品店ともなると、動くお金もそれなりに大きくなるため、仕える主が危険に晒されることにならないよう従者が金銭の類を預かっているのが当たり前なのだとか。
ただでさえ狙われやすい貴族が大金を持ち歩くのは、更に危険を呼び込むも同然の自殺行為にも匹敵するらしい。
────怖……っ!
今度からお金持ち歩く時は気をつけよう。
……なんて思ったものの、普段大金を持ち歩くような機会なんてないも同然だからたぶん大丈夫だ。
ちなみに。
今回のプレゼント用の包装用品諸々の金額は金貨1枚分の100フォル(日本円にして10万円相当)だった。
ひえぇぇぇ!!
たぶん、貴族という身分からするとこのくらいは妥当どころか安すぎるのかもしれない。
ただ……前世日本人のド庶民であった私の感覚ではとんでもない高額商品だ。
────包装紙一つとっても万単位のお値段って何ごとよ~~~~!!
いい品だけどさ。
そりゃもんのすごくいい品だけどさ!?
こんなのにばっか囲まれてたら、そのうち私の中の金銭感覚が狂いに狂ってしまうよ。
贅沢は敵。
節約は美徳。
その感覚を当たり前のように抱いて生きてきた自分が崩れていきそうで怖いよ。
お金の威力って、恐ろしい、ね……
私には身の丈が合ってない、なんて言いたいところだけど、実際には公爵家の娘なわけだから当然のように身の丈に合っているわけで。
なんだか途轍もなく複雑な気持ちになった、お買いものの時間なのでした、まる。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
目的の買いものを終えてお母さまと合流した。
ジェイムスが持ってくれている紙袋を見て、私がきちんと目的のものを買えたのだと理解したお母さまが笑顔で頷く。
お母さまもまた、私と離れている間に目的のものをしっかりと購入したらしい。
これから先、例のお仕事のことで手紙の遣り取りをする機会が格段に増えるため、それ用の便箋や封筒をたくさん買ったのだという。
商談用として相応しく、且つ家族───ここではお父さまと兄さまだ───に仕事だと悟られないような、適度にオシャレで上品なものをじっくり吟味して選んだのだとお母さまが楽しそうに話してくれた。
その少し後ろで控えているもう一人の護衛のお兄さんがげんなりとした疲れた表情をしていることから、相当にお母さまから振り回されたのであろうことが伺える。
ジェイムスと顔立ちや背格好がよく似たこのお兄さんは、ジェイムスの一つ下の弟さんで名前はジェレミーだと紹介してもらった。
兄弟揃ってオンディール公爵家に仕えるようになってから今年で10年目になるらしい。
ちょうど兄さまが生まれるくらいの時期に、若く腕が立ち、尚且つ自由に動けるということで専属護衛の話を持ちかけられたのだという。
伯爵家の三男四男という立場で継ぐものもなく、騎士団に入って身を立てようかと入団試験を受けたところでオンディール公爵家から声がかかり今に至るのだとか。
ちなみにお兄さんであるジェイムスは23歲、弟さんのジェレミーは22歲なんだって。
若い!
しかも10年前なんてまだ10代前半じゃないか。
そんな時期からオンディール公爵家に仕えているなんて早すぎやしないか?
学園はどうしたの!?
貴族家の子息令嬢は学園に通うのは義務じゃなかったっけ?
色んな疑問がぐるぐると渦巻くも、過去は過去だと笑って流された。
例の如く思いっきり顔に出ていたらしい。
とりあえず、心配していた学園の件は『ちゃんと通って卒業した』と教えてくれた。
オンディール公爵家に仕えながら通ったらしい。
両立なんてすごいな。
器用で優秀だ。
だからこそ、オンディール公爵家から声がかかったのかもしれない。
ご実家の伯爵家も安心したことだろう。
同時にオンディール公爵家との繋がりができていい方向に向かったとも言えるのかも。
……などと、つらつら考えていたら不意に『きゅるるる~……』とお腹が鳴った。
「……あ」
「まぁ、うふふっ」
自分でも気づかないうちにかなりの空腹を覚えていたらしい。
先に身体が訴えてきてそれに気づくなんて相当だ。
食欲に関してかなり正直すぎやしないか、私の身体よ。
「ずいぶんと長い間お店を見て回っていたものね。お腹がすくのも無理はないわ」
くすくす笑いながらお母さまが私の頭を撫でる。
「いつの間にかお昼の時間も過ぎてしまっているし、少し遅くなってしまったけれどお食事にしましょうか?」
「うん!」
「話し合いのできそうな場を下見するという意味でも、個室が取れるようなお店を選びたいところね」
そう言ったお母さまの言葉に『それならば……』と提案の声を上げてくれたのはジェレミーだ。
学園に通っていた頃に同輩たちとの交流で様々なお店を利用していたらしく、お母さまの言う条件に合致するお店にいくつか心当たりがあるらしい。
「ではそこに案内してちょうだいな?」
「かしこまりました、奥様。こちらです」
ジェレミーが先導する形でお店へと向かうことになり、気づけば私はひょいっとジェイムスに抱っこされていた。
歩幅の問題もそうだけど、空腹の私をこれ以上歩かせるのは酷だと思ったらしい。
何よりも、護衛対象を自分の腕の中に抱え込むことで絶対的な安全を保証してくれている。
守るにはこれ以上最適な方法はないと言える。
正直なところ、お腹がすいて力が入らなかったので非常に助かった。
「ありがとぉ、ジェイムスぅ~……」
「いえいえ。お安い御用ですよ、フローレンお嬢様」
や~……頼んだわけじゃないのに自らやってくれるなんて、なんてできるオトコなんだジェイムスってば。
モテるでしょ!?
絶対にモテるでしょ、この人!?
オンディール公爵家の使用人ズの女性陣に超人気でしょ、絶対に!!
帰ったらさっそく探り入れてやんよ!
そのあたりの事情に超絶詳しそうなマリエラをとっ捕まえて、根掘り葉掘り一から十までこと細かくアレコレ聞いてやんよ!!
……なんてことを考えながらじ~っとジェイムスを見つめる。
正確には、甘く蕩けるようなチョコレート色をしたサラッサラの髪の毛を、だ。
「……おいしそうな色。チョコレートみたい」
「はい?」
髪色だけじゃなくて、顔もモテるオトコの代表格みたいな甘さを含んでるんだもんな。
────どーなってんの、この世界の美形率わ!?
たぶん、空腹で疲れた影響もあって思考回路がぶっ飛んでたんだと思う。
後から思えば、ホント意味不明なことをあれこれ口にしていたようだ。
この時の私は。
「まあぁ! そんなにお腹がすいていたのね、レーン!? チョコレートが食べたいの? ジェレミー、行き先を変えてちょうだいな! お食事もできて、デザートでおいしいチョコレートをいただけるお店はないかしら?」
「ございますよ。ではそちらに向かうことにしましょう」
気がつけばあれよあれよという間に、デザートでおいしいチョコレートを存分に味わえるというお店へと連れられていた。
それもしっかりとプライベート空間を確保できる、高級感溢れるラウンジ風の個室。
────あれ~……?
────私『チョコレート食べたい』なんて言ったっけ……?
よく分からないままお店へと連れられ。
食事はそこそこに、デザートのチョコレートばかりを満喫して空腹から見事復活した私が最初に思ったのはそんな疑問。
────……けど、まぁいっか!
おいしいものに罪はないのだから。
黙々とチョコレートを口に運び、その一つ一つをじっくりと堪能する。
おいしい♪
超シアワセ……♪
兄さまにお土産として買って帰りたいと思うくらいに美味すぎる。
けど、今日の外出のことも含めてお父さまと兄さまには秘密にしなければいけないから、お土産を買うことはきっと無理。
残念だけど諦めなきゃだ。
「ふぅ……」
「うふふっ。満足かしら、レーン?」
「はいっ! とっても!」
「よかったわ♪」
それでも、お母さまと一緒だから秘密を抱えることに対して後ろめたいと思うことはない。
今はまだ……ね?
そんなこんなでお昼までを過ごし、今日が終わるまで残り数時間となった。
私の初めての王都散策はこの後もまだまだ続くのです……─────
実はこの護衛のお兄さん二人
かなり前にちょっとだけ出てきたことがあります(*>∀<)