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レオくんとエマ 6(日の曜日)

いつも見てくださってありがとうございます!

ブクマも評価もいただけまして、とっても励みになっております(*・ω・)*_ _))ペコリン


前回に引き続き、今回もまたガラスの制作過程についての突っ込みは総スルーでお願いしまぁ~すm(。_。;))m ペコペコ…





~レオくんとエマ 6(日の曜日)~




整えた形でガラスの素が定着するまでの冷却時間はおおよそ1時間なんだって。

結構な時間がかかるんだなぁ……なんて思ったけれど、実はそれ、とってもすごいことなんだよね。

だって、前世のガラス製品って冷却するまでの時間ってかなりのものだったはずだもの。

それがほんの1時間で済むんだからとんでもないことだよね。


ちなみにガラスを冷却するのは、魔導鉱石を埋め込んだ特殊な冷却用の『炉』。

その中でじっくりゆっくり周りから冷やしてキュッと型を定着させるんだそうな。

しかし……『炉』とは、本来は火を使って熱を伴うような設備なのに、ここでは冷却するためのものでも『炉』扱いなのか。

不思議だな。

ここがそういう不思議異世界だから、矛盾しているようでいてきちんと成り立っているのか。

もう何度目になるか分からないけど、これは考えるだけ無駄ってやつだわ、きっと。


……というわけで。

またも考えることを放棄した私だよ、うふっ♪


とりあえずこの待ち時間をどうしてくれよう。

レオくんはまだ作業中だから私一人がヒマヒマ状態なんだよね。

椅子に座って足ぷらぷらさせていてもただただ退屈なだけだ。


……いや、そうでもないかな。

隣の女性の作業をじっくり観察できるからヒマは潰れるかも。


よし、決めた。

『技術は見て盗め!』だ。


じっと女性の手元を見つめていると、その視線に気づいた女性がくすくす笑いながら私にこう言ってきた。


「お嬢ちゃんもやってみたい?」

「ふぇっ?」


いきなりだったので驚いて変な声を上げてしまった。


「枠ごとに色を乗せていくだけだから簡単よ? お絵描きの色塗りだと思ってくれていいわ」


そう言いながら1本の筆を手渡された。

思わず受け取ってしまったと同時に、手のひらにじわりと伝わる慣れた感覚にハッとなる。



────触れた瞬間に魔力を感じた……

────この筆、もしかして魔道具なんじゃ……?



疑問を隠しもせずに女性を見上げると笑って頷かれた。


「ガラスに着色するための魔道具だそうよ」

「!」


やっぱりか!


「不思議なのよね、この筆。こうやって色を乗せて、枠の中を塗っていくと……」

「うぇっ!? 何コレ!? 色が吸い込まれていっちゃった!!」

「ね? びっくりしたでしょう? 一体どういう仕組みなのかしらね、これ?」


驚いたのは女性が言った言葉の通りだ。

色を乗せた筆でガラスに触れた瞬間、するんと中に染料が吸い込まれていったのだ。

それも筆に一滴も染料を残さず、だ。

そして更に驚いたのは、染料がガラスの内側にしっかりと閉じ込められた状態になり、色を塗った直後だというのにガラスの表面に触れても手に色がくっついてこなかったことだ。


「すごーーーーい!!」


感動して大声を上げたら周りの皆から笑われてしまった。

でもしょうがないじゃん。

ホントに驚いたんだもん。


「簡単でしょう? お嬢ちゃん、よかったら一緒にガラスに色を付けてくれないかしら?」

「え、っと……いいんですか?」

「もちろんよ。寧ろやってもらえたほうが嬉しいわ。だってスケッチブックに描かれたお嬢ちゃんの絵、どれもこれも色の塗りかたが素敵なんですもの」

「確かにすごく上手だよね。センスもあるし。将来は画家でも目指しているのかな?」

「画家さんは目指してないです」

「そうなの?」

「こんなに上手だからてっきり画家になりたいんだと思ってたよ」


ノンノン。

お絵描きはあくまでも趣味であって、私が将来なりたいのは学芸員なのだ。


……とは言っても、それは前世の頃の将来の夢であって、現世である今の将来の夢になるかは分からない。

だって、美術館はあっても、そこに勤める学芸員という職業が存在するかどうか分からないんだもの。


「絵を描くのが好きなだけですよ?」


前世の頃からずっとな!


「単に好きだというわりには、ものすごい才能だと思うよ?」

「本当にそう。色の塗りかたもだけど、やっぱり目を惹くのはこの文鎮のデザインよね? 触れたらこうなる……といった説明書きがあって、実際にそれが想像できるからなお分かりやすいというか」

「文鎮でありながら立派な一つの飾りにもなり得ると思うよ」

「でしょう? あなたもそう思う?」

「それはもちろん。お嬢ちゃんさえよければ、このデザインの使用許可をもらいたいほどだ。もっと大きなものを作れば、エントランスを飾るのにふさわしいオブジェにもなるだろうね」


んな大袈裟な。

子どもの思いつきですよ?

もっと言うなら、前世でのスノードームを参考にしただけのものですよ?


「ね、お嬢ちゃん。他にもない? お嬢ちゃんのセンスには光るものがあるから、素晴らしいデザインが次から次へと泉のように湧いてきそうな気がするのよね」

「手始めに、君だったらこのランプシェードにどう手を加える?」


……と、作成途中のランプシェードを示される。



────えぇ~……



人様の作品に他人が手を加えるってどうなんだろう?

百歩譲って手伝うっていうのならまだ納得できるけど、デザインに手を加えるってある意味その人の考えたものにイチャモンつけるようで嫌なんだけど。


「ね? どう?」

「何か浮かんだ?」


だというのに、この若夫婦ときたら期待を込めた目でこっちを見るもんだから困ったもんだ。

ワクワクした表情とキラキラ輝く目で見つめられたら『嫌だ』なんて突っ撥ねられるわけないでしょ。


しょうがない。

ホントは人様の作品に手を加えるなんて以ての外だけど、当の本人たちから望まれてるんじゃ無碍にはできないや。


とりあえず。

今パッと浮かんだことを言ってみるか。


……っと、その前に確認したいことが一つある。


「え~っと……ちなみにお二人は、このランプシェードをどこで使うかとか考えてます?」

「えっ?」

「これを使う場所?」


私の質問が想定外だったのか、二人顔を見合わせている。


「まだ決めたわけじゃないけど、そうだなぁ……」

「強いて言うなら寝室かしら? 仄明るい感じでステンドグラス風の灯りを見て楽しみたいっていう意味では」


うん、オッケーだ。

これがリビングだ、とかエントランスだ、とかだったら私が考えたことはあんまり意味がないものになるから。


「だったらですね、ここからこう……斜め方向に緩~く波打つように……」


そう言いながら、私は手のひらでランプシェードに触れ、ゆら~っと川の流れを表すように触れた箇所から手を滑らせていく。


「キラキラした光が見えたり隠れたりするような仕掛けを埋めたいです」


気分はまるで天の川だ。

空を見上げたと同時に視界いっぱいに広がるミルキーウェイは感動モノだよね。

……ま、知識として頭の中にあったとしても実物とはお目にかかれなかったわけだけど。

せめて気分だけでも味わえればと、蛍光塗料で天井いっぱいに星空を描いたっけ。

部屋を暗くしたら浮かび上がる擬似的な天の川に一人感動していたあの頃が懐かしい。


うん。

ランプシェードの模様だけと言わず、いっそのこと部屋の天井も壁も星空を描けばいいんじゃないかな?

私だったら断然そっちのほうが好きだ。


代わりにランプシェードはシンプルに動物のシルエットが浮かび上がるとかの作りのほうがいいかも。

静かに佇む様子でもいいし、うさぎみたいな小動物ならぴょんぴょん跳ねてる姿を描いてもかわいいんじゃない?

傘の下のほうにくるりと一周するような感じで跳ね回ってるうさぎとか超カワイイじゃん?


そうなったら今度は月も欲しくなるよね!

うさぎと月、この組み合わせは外せない。



────ヤバ~~~~い!!

────楽しくなってきたーーーー!!



妄想が滾る。

一つ浮かんだら次から次に新しいものが浮かんでくるよ。

これは……スケッチブックの出番か!?


よし、描き留めよう。

スケッチブックはどこだっけ?


そう思って想像の世界から戻ってきた私の視界に入ったのは、キラキラした目でこちらを見ている若夫婦だった。


「素晴らしいわ! 次から次へと色々なアイデアが浮かんでくるなんて」

「しかも部屋一面を星空にしてしまうなんてロマンティックだね」

「ランプシェードに動物のシルエットも可愛いわ」

「シンプルにすることで可愛いさが引き立つね」



────え……?



もしかして私、さっきの脳内妄想大爆発のやつ……


「声に、出してました……?」

「うっとりしながら夢見がちに語ってたよ?」


いつの間にやら作業を終えたらしいレオくんにそう言われて硬直した。



────マ ジ か ……!!



全部声に出して妄想ダダ漏れにしていたのか。

何たること……


「ねえ、よかったら言葉で語るのではなく絵に描いて見せてくれるかしら?」

「天井や壁紙はなんとなく想像つくから、さっきのシンプルなランプシェードのほうを頼めるかい?」


気づけば愛用のスケッチブックを差し出される始末。

これはもう描かなきゃダメな流れだ。

更には……


「ぼくも見たい!」


というレオくんの言葉にトドメを刺されてしまったよ。

レオくんにまで言われてしまったら嫌なんて言えないからね。

昨日からずっと私の絵を褒めてくれるんだもん。


「お嬢ちゃん、私たちにも描いて見せてくれないかい?」

「この夫婦の情熱的なまでの制作意欲を以てすれば、ガラス製品の需要が更に拡大することが見込めるからね」

「先生がたも分かってくれます?」

「お嬢ちゃんのこのアイデアを取り入れた製品は、きっと売れますよ」

「確かに。ペーパーウエイトのデザインを見た時点でそう感じたことは確かだ。目新しいものは人の目を惹く。実用性があり、目で見ても楽しめるとなると、珍しいものを好む層から相当数の需要が見込めるだろうね」

「あたしも欲しいと感じたくらいだからね。デザインの時点でそう思えたってことは、完成品を見たらその気持ちはもっと大きくなることだろうねぇ」

「大袈裟ですよ!?」


大人の皆さまがた褒めすぎではないでしょうか?

こんな幼女相手にヨイショしても何も出ませんよ?

いや、アイデアは出るか。

……うん。


「ちっとも大袈裟じゃないと思うよ? ぼくもこの文鎮欲しいと思ったし。ぼくと兄さまと姉さまとで色違いのものが」

「え……?」


思わぬレオくんの言葉に一瞬惚けてしまった。


「レオくん、今、なんて……?」

「ぼくも欲しいって言ったんだよ? 三人で色違いのものをね」


ニコニコ笑顔で『欲しい』と言われてしまった。


「いいわね! 色違いのガラス文鎮! 机の上のちょっとしたオシャレを演出できること請け合いよ! これは売れるわ! 特に手紙を書くことを愛する女性に人気が集中すると思われるわね!」

「いいね。シックな色合いだったり、落ち着いた感じのデザインなら男性でも好む人は出てくるはずだ」

「いけるわ、あなた!」

「ああ、確かに」


急にキリッとした仕事人の顔をした若夫婦は、互いの手を力強くガシッと握り合った。


「決めたわ、お嬢ちゃん」

「ふぇ?」

「君のデザインしたものの使用権を僕たちに売ってほしい」

「えぇっ!?」

「お嬢ちゃんのアイデアやデザインを元にした商品は確実に売れるわ。せっかくの素晴らしいものを眠らせておくなんてもったいないもの! もっと広く王国中に……いえ、王国外の周辺諸国にまで知らしめてもいいくらいだわ!」

「その役目は僕たちに任せてほしい。商売柄、他国とのパイプはしっかりと確保してあるからね」

「さし当たっては、ガラス製品に関するものは先生のこの工房と独占契約を結んで全面的に制作をお願いしたいと考えています」

「需要が増えれば作成に関わる人材が必要になりますし、雇用の拡大にも繋がります。更には工芸品、という括りで後継のお弟子さんたちを育成するには絶好の機会となるのではないでしょうか」

「ふむ……」

「後継を育てるという意味では非常に有り難い申し出ではあるねぇ。あんたはどうしたい? この工房はあんたのものだから、この話を受ける受けないはあんたに委ねるよ」



────わぁ~……とんでもない規模で話が進んでいくよ……



ビジネスだ、ビジネス。

場違いな幼女は退散したい。

でも当事者の一人でもあるから退散できない。

哀しみがすぎる。


「……しかし、この話を受けるには私だけの判断では無理があるな。製品制作、後継の育成、販路の確保ならびに拡大となると、商工業ギルドや領主との話し合いが必要になってくる。契約とはそういうものだからね」

「そうなるとお嬢ちゃんにはもっと難しい話になるんじゃないのかい? 今は勢いでお嬢ちゃんに話を持ちかけた形となっているけれど、本来は親御さんを通して話すべきことじゃないかと思うんだ」

「もちろんそのつもりです。その前にお嬢ちゃんの考えを聞いておきたくて」

「実際に親御さんと話をした上で契約を交わしたとしても、その後になってお嬢ちゃん本人が嫌だと言ったら元も子もないですからね。まずは本人の意思確認からと思ってのコレです!」


そうは言うけど、お二方、かなりギラギラした獲物を見つけたような目で『商談じゃあ~!!』って勢いだったよ?


『私じゃ無理~!!』


って反射的に思っちゃったもん。


「お嬢ちゃんっ!!」

「は、はい!」

「ぜひご両親とお話をさせてくれる?」

この町(クララット)の子だよね? すぐにでもお父さんとお母さんに会うことはできるかな?」

「えっと……」


まず最初に私はこの町(クララット)の子じゃありません! 

……でも言えない。

なぜならお忍びだから。


「パパは、お仕事で出張中……」

「えっ、そうなの?」


正確には領地に行っているわけだけども、お仕事で家を空けているのだから『出張中』と言っても強ち間違いじゃない。


「じゃあお母さんはどうかな?」

「ママは、お店……」


チャリティーのための一時的な出店だけど、これも立派なお店だ。

こうしている間も笑顔でお客さまの相手をしているのだろう。


「さすがに営業中には無理があるわね……。お嬢ちゃん、お店が終わるのは何時頃か分かるかしら?」

「たぶん、18時くらい……? あっ、でも今日は催しの最終日だからもっと遅くなるかも……」


売るべき商品が残ってたら、最後の一つが売れるまでお店を開けている可能性もある。

前二日間の売れ行きの良さもあってか、今日の分の商品はかなりの数を張り切って用意していたみたいだから。


「……そうか。ならお店が終わるか分からない時に話をする時間を取ってもらうわけにはいかないね」


顎に手を当てながら『う~ん……』と考えを巡らせる若旦那さんを見て『諦めてくれないかな~……』なんて無駄な希望を抱いてみるもやっぱり無駄だった。


「……それなら。お母さんにこれを渡してくれないかな、お嬢ちゃん?」

「ふぇ?」


渡されたのは名刺だった。


「内装デザイン、ベント企画……代表、兼、筆頭デザイナー……アズール・ベント……」


小さな四角の中に詰め込まれた情報を一つずつ読み上げる。

デザイナーを名乗るだけあって、名刺のデザインもシンプルながらオシャレだ。


「ベント……? 南方の経済と流通の中心となっているベント伯爵家が担っている商会の一事業だね。確かベント商会には工房(うち)の商品をいくつか扱ってもらったことがあったが……あれは」

「5年前ですね。下の兄が伝統工芸品の蒐集家を対象として、販売を兼ねた展示会を年に数度ほど開催していますので」


そこで話を聞いていた職人さんの奥さんが言った。


「あんた、あの時じゃないかい? 展示を見に来たお客さんに、製品を手懸けた作り手との話をする機会を設けているからと、商会から『ぜひ展示会にもお越しを』と声がかかった時があったじゃないか」

「うん?」

「ただあの時は、タイミング悪く弟子の一人が怪我を負ってさすがに離れるのは心配だと断っていただろう? 忙しい時期でもあったし、忘れてても無理はないと思うけどねぇ」

「……ああ、あの時か。あれからもう5年も経つのか。早いものだな」

「あの時のお断りの理由はそれだったんですね。腕のいいガラス職人の方に来ていただけないのが非常に残念だと兄が落ち込んでいましたから」

「それは悪いことをしてしまったね。身内のことだからと理由を伏せていたが、そのことでお兄さんを残念な気持ちにさせてしまったのは申し訳なかった。今更ではあるが、改めてお詫びの言葉を伝えてもらってもいいだろうか?」

「もちろんです。ついでに今回のこの話を受けていただき、正式にガラス製品の流通を確立させることができたら万々歳ですよ」

「……ふっ。気楽な三男坊と言いながら、その実強かでちゃっかりしているな。この件は我々工房を営む職人の間ではとても魅力的な誘いではある。前向きに検討したいと思う」

「ぜひに!」

北方(こちら)の商工業ギルドや領主に話をしてからになると思うが」

「もちろんですよ。こちらも商会本部や南方の商工業ギルドに報告という形で話を通しておきます。それと……できれば中央にも一枚噛んでもらいたいところですね。さすがに北と南では真反対で遠すぎますからね」

「……確かに。その辺りも踏まえて話を持っていくこととしよう」

「お願いします、先生。僕も上を納得させられるよう尽力します!」


……大人は仕事の話となると、ホントそれ一本に夢中になるよね。

幼女、ついていけてません……


……ていうか。

それ以上にものすごく気になるものがこの名刺に描かれてるんだけど。

気になるどころか見覚えがある。


……や、そんなレベルじゃないな。

正確には見慣れてる、だ。

それも毎日のように見てるやつ。

今朝もしっかりと目にしてきたじゃないか。


思いっきり馴染みのあるそれを凝視していると、横からレオくんがひょいっと覗き込んできた。


「そんなに睨むようにじっと見つめてどうしたの、エマちゃん? 何か気になることでも書かれてた?」

「あ~……うん、ちょっとね……」


不思議そうな顔で問われたけれど、初めて見たはずの名刺に『知っているものが載っている』なんて答えてもいいのだろうか。

逆にレオくんを混乱させてしまいそうだ。

ここは曖昧に答えて誤魔化すか……と思ったのと同時に、私とレオくんのやり取りに気付いた若旦那さんが『どうかした?』と、訊ねてきたものだから誤魔化すという手段が断たれてしまった。


しゃーない。

正直に言うか。


「え、っと……この模様? エンブレム? これにすごく見覚えがあるんですけど」


そう答えたら、笑顔だった若旦那さんの顔が更にパッと明るいものになった。


ベント企画(うち)が取り扱っている商品には全てこのマークを入れているんだよ。これに見覚えがあるということは、お嬢ちゃんの家にも僕たちが手懸けた商品があるということだね! ちなみに何でこのマークを見たのかな?」

「えっ、と……おもちゃ箱。宝箱みたいなデザインの……」

「ああ、アレか! 冒険心と遊び心満載で作った50個限定のおもちゃ箱」

「……懐かしいわね。ダンジョンに潜った時にこのくらいの大きさの宝箱を見つけたら思いっきり気分が上がる、とかいった理由であなたが夢中になって作ったやつね。あっという間に売れてしまって問い合わせが殺到したのよね、確か」

「うん、懐かしいなぁ。完全に僕の趣味で作ったアレがあんなに人気が出るなんて思わなかったよ。そんな愛着のある商品がお嬢ちゃんの家にあるなんて驚きだなぁ。もしかして、僕たちが今日出会えたのもあの宝箱風おもちゃ箱が縁を繋いでくれたからなのかな?」



────……いーえ、単なる偶然です



まさか宝箱(ミック)の蓋の部分にある鍵穴飾りにもなっているエンブレムがベント企画の商標(ブランド)マークだったとは。

どうりで見覚えがありすぎるはずだよ。

ほぼ毎日のように見てるもんな。


「ちなみにあのおもちゃ箱はどう? 今でもお嬢ちゃんの家で活躍してくれているかな?」

「はい。まぁ……それなりに?」


うわぁ~お!


『魔法でミミックにした!』


……なぁ~んて口が裂けても言えねぇわ。


「結構な大きさだから、かなりの量のおもちゃを収納できてると思うんだよね」


ええ、めっちゃくちゃ『モノ』が収まりますよ。

何せあのおもちゃ箱、ミミックになってからというもの、ミックが『イケる!』と判断しているうちはほぼほぼ無制限に何でも口から飲み込んでどっかに収めちゃってますからね。

まるでブラックホールですよ、ブラックホール。

買い出しのお供に連れ出したら非常に優秀な荷物持ちになってくれること請け合いですわ。


……ただ。


いくら魔法で生み出した()()()()()()()人工モンスターでも、見た目がモンスターだけに連れ出したら退治されちゃうんだろうなぁ。

そんなことは絶対にゴメンなので、ミックを荷物持ちに連れ出すなんてことは天に誓ってやらないけどね。


そんな感じで、思いがけない事実を知り、なんだかんだと雑談を繰り返しているうちに作りかけのガラス製品の冷却による定形が終了した。


その後は職人さんの奥さんに付きっきりになってもらい、二つのまんまるのガラス球の一部分を切り落として底を作った。

ガラスの切断は幼女には危険な作業だから職人さんがしてくれた。


それから、切った底の部分に丁寧にヤスリをかけて滑らかにした後、落とした余分なガラスを飾り用に粉々に砕くという作業が続いた。

砕く作業も職人さんがやってくれた。

これも幼女には危険な……以下略。


「ふゎゎ~……思ったよりもたくさんの粒になってる……」


砕いたガラスは、少し粗めで歪な欠片と化していた。

透明で目立たないガラスの欠片は、分かりやすいように黒い器に入れられているんだけど、結構な量になってこんもりと盛られているといった感じだ。


「さすがに全部はこのまんまるモドキには入らないですよね?」

「モドキ……ってお嬢ちゃん……」

「え? だって底を作っちゃって完全なまんまるじゃなくなっちゃったから、まんまるモドキですよね、これ?」

「まぁ、作成過程での呼びかたは好きにするといいさね。最終的には名称はペーパーウエイトになるんだから。……さぁ、これからが本番だからね」


職人さんの奥さんのその一言で、中断していた作業を再開する。


まずは色付け。

ベント夫妻の奥さんが先ほど使っていたものと同じ魔道具の筆を渡され、ベースとなる色をガラスに()()()()

最初に入れたのは淡い水色だ。


私のペーパーウエイト制作計画では、この淡い水色をベースとした色に濃さを変えた青色が波打つように揺れている様を表す。

更には、スノードームのようにキラキラとした細かい粒子が触れた時の魔力に反応して中をくるくると舞っているように見せる、というやつだ。


ベース色を吸わせた時点で一度中断し、中に小さな魔導鉱石を埋め込む。

これは色を固定させる紋言を刻んであるらしい。

波打つような模様もこれでいけるのだとか。

そういうわけで、濃さを変えた青を次から次へと中へ吸わせていく。

中で色がゆらゆら揺れているのは流す度に微弱な魔力に触れているからなんだって。

仕組みは分からないけど面白いなと思った。


そうして二つとも色付け作業が終了したところで、再びガラスを冷却用の特殊炉の中に入れ、今度は色の定着をさせるために30分ほど置くことになった。


「ふぃ~……」


緊張した。

思ったよりも簡単にできたとはいえ、色を付ける作業って集中する分それなりに神経使うんだよね。


レオくんはどうだろう?

うまくいってるかな?


ちらりとレオくんのほうを見ると、ちょうどレオくんも色を付け終わったみたいだった。

それも予想通りの紫と白。


「にししっ! やっぱりレオくん、紫を選んだね?」

「もちろん! だって紫は姉さまの好きな色だからね」

「アヤメの花も、でしょ?」


花びらを模した花瓶の口部分を指差すと、レオくんはちょっとだけ照れたように口を引き結んで目を逸らしてしまった。


「……ぼくはエマちゃんみたいに上手にできないから、ちゃんとアヤメに見えてるかは分からないけど」

「大丈夫。ちゃんとアヤメの花に見えてるよ?」

「本当?」

「うん! あとは茎とか葉っぱの部分を表したらもっとそれっぽく見えると思うよ?」

「あ……それじゃ、緑?」

「だね! ここの捻りを入れたところを葉っぱに見立ててもいいんじゃない?」

「えぇ……と、ここをこう……茎はこっちに別に入れたほうがいいかな?」

「そうそう! 更にそれっぽく見えてきた! レオくん上手!」

「本当? ありがとう、エマちゃん」


ホッとした顔でお礼を言われた後で、ようやくレオくんに笑顔が戻った。

どうやらレオくんもかなり緊張していたらしい。


二人して顔を見合わせて笑ったあと、再び待ちの時間ができたことでまた例のお仕事ちっくな話が戻ってきた。

けれど、さすがにこの場では頷けない案件なため、ベント夫妻の双方から『必ずお母さんに名刺を渡してね』と念押しされた。

そして『お母さんのお店が終わったらもう一度この工房で話そう』ということになった。

先ほどの件を、職人さん夫婦とベント夫妻、それから私withお母さまとで話し合うことになるようだ。



────う~ん……

────いきなりこんなことになっちゃって、お母さまに叱られるかなぁ……?



けど今回の件、さすがにお父さまに話すわけにはいかないし。

私がこの催しにお忍びで参加することはお父さまにも兄さまにも内緒にしているからね。

この際、お母さまから叱られるのはしょうがないと割り切って、お父さまと兄さまには最初から最後まで内緒を貫くことにしよう。

うん、そうしよう。


とりあえず、お母さまに名刺を渡してまたこの工房を訪ねることを職人さん夫婦とベント夫妻に約束して、一旦この話は終了ということになった。

その話をしている間にあっという間に待ち時間の30分が経過し、色の定着が完了。

最後の作業に入ることに。

それは砕いたガラスの欠片を中に埋め込む作業だ。


さっきと同じように、小さな魔導鉱石を埋め込み、今度は漏斗のような特殊な魔道具をぶすっと刺して中へと欠片を流し込む。

これもどういう仕組みになってるかさっぱり分からない。

固いはずのガラスなのに、感触はまるでお豆腐を刺してるみたいな感じだった。

あまりにすんなりと漏斗がガラスにぶっ刺さったため、些か拍子抜けしてしまったのも無理はない。


おまけに、中に入れた欠片もガラス本体の中をふよふよと自在に漂っている。

ガラスの中に空洞があるわけでもないのに、まるでそこが『欠片のための空間だよ』といわんばかりの自由具合。

不思議すぎて考えれば考えるほど分からなくなる。

魔法と魔力と魔道具、それらにかかれば何でもできちゃう気がしてくるからすごい。

『万能』の一言で片付けるにはあまりにも万能が過ぎると思うんだけど。


そうして二つともに同じ作業で飾りを施し、全行程は終了。

最後に飾りを定着させるために炉の中へと直行なのは今までと同じ。


それとかなり余ってしまったガラスの欠片だけど、それぞれレオくんの花瓶と、ベント夫妻のランプシェードの飾りに活用されました。

レオくんの花瓶は底の方に、水を入れた状態で反応して控えめにキラキラ輝く仕掛けを。

ベント夫妻のランプシェードは、最初に私が話していた案を採用して、傘の端から端を一定の時間をかけて流れていく星の河───天の川って言っても分からないと思うので───を描く形で欠片を流し込んだ。


私のペーパーウエイトもそうだけど、レオくんの花瓶やご夫妻のランプシェードも完成が楽しみだ。

一体できあがりはどんな風になるのだろう?

最後の飾りの定着も結構な時間がかかるそうなので、私とレオくんは当初の予定通り、リーフお兄さんのお店におやつを食べに行くことにした。


「17時過ぎを目処に取りにおいで?」

「「はーい!」」


ってことは、軽く1時間半はあるな。

いい具合にお腹も空いてきたし、思いっきり買い食いを楽しもうじゃないですか。


……というわけで。

昨日と同じく、私とレオくんは仲良く手を繋いで食べものロードへと一直線に向かったのだった……─────
















ガラス製品に埋め込んだ魔導鉱石の大きさは米粒以下です。

何をどうする……といった命令回路の紋言を刻むのは魔術師団の一部署に所属している魔道師たちのお仕事です♪

米粒以下の魔石にそんなものを刻むのはとっても大変です。

でもやりがいがある仕事でもあるので、実は人気職だったりします(´∀`*)ウフフ


前回から登場している若夫婦ですが、モブだけど名前付けました。

旦那さんはアズール。

奥さんのほうは作中には出してませんがマリアンヌといいます。


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