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レオくんとエマ 5(日の曜日)

いつも見てくださってありがとうございます(*・ω・)*_ _))ペコリン


※注意!!※

今回のお話に出てくるガラス製品の作り方に関してですが、全くのテキトーでございます!!

フローレン曰く「不思議異世界だから~」ということで、完全なるご都合主義にて突っ走っております(^^ゞ

あくまでもこのお話の中でのやり方なので、現実のものと違う~……といった突っ込みは無用でお願いいたします。

突っ込みたくても総スルーです! いいですか? 総スルーですよ、皆さーん!!





~レオくんとエマ 5(日の曜日)~





ガラス工房にやってきました!

時間は13時をちょっとだけ過ぎたところです。

先にお花屋さんに寄ったことで、ちょうどいいタイミングで工房に着いたって感じかな。


昨日の職人さんが笑顔で出迎えてくれましたよ。

渋くて素敵なあのおじさまです。


「いらっしゃい。坊やにお嬢ちゃん」

「こんにちは! 制作体験にきました! ご指導よろしくお願いします」


出迎えてくれた職人さんにペコリとお辞儀をすると、レオくんも少し遅れる形で私に倣った。


「こんにちは。今日はよろしくお願いします。一生懸命がんばります!」


ちょっとぎこちないけどしょうがないよね。

レオくんは普段人に頭を下げるような立場じゃないんだもん。

それは私も同じなんだけれど、そこはアレだ。

ほら、前世『元庶民』ですからね。

礼儀正しく頭を下げることなんて朝飯前なのだ。


「坊やはあの見本のようなデザインの花瓶を作りたいんだったね」

「はい!」

「そしてお嬢ちゃんはペーパーウエイトということだったけど、具体的にどういった形のものにしたいか考えてきたかな?」

「はい。スケッチブックに描いてきました」

「……ほう。なかなかに準備がいいね。見せてもらってもいいかい?」

「どうぞ」


職人さんにスケッチブックを手渡すと、真剣な表情でそれを見始めた。

私が考えたペーパーウエイト、このデザインで作ることは可能だろうか。

そんなことを考えながら内心ドキドキで職人さんの顔を見上げていると、レオくんから疑問の声が上がった。


「昨日も思ったんだけど、ペーパーウエイト? って何?」



────あれ?

────レオくんにも通じてない?

────でも職人さんにはちゃんと通じてるよね?



私は私で別方向の疑問が出てきたんだけど。

エルナたち、お邸の使用人ズの皆さんには通じず、レオくんもまた通じず、けれど職人さんは普通に分かってる。



────なんでだ……?



軽く首を傾げたと同時に、職人さんがレオくんの疑問に答えてくれた。


「ペーパーウエイトというのは文鎮のことだよ、坊や」

「文鎮?」

「そうだよ。私の出身である北のほうでは一般的にペーパーウエイトと呼ばれているが、ここ王都に近い地域では文鎮と呼ぶのが主流のようだね」

「へぇ……地域によって呼びかたが違うなんて初めて知ったかも」


そう納得するレオくんの隣で私も大いに納得していた。

昨日エルナたちに通じなかったのはそのためか、と。


「……しかし、金属製が主流のペーパーウエイトをガラスで作ろうというのは面白いね。お嬢ちゃんが作りたいと言った時は単なる置物の感覚でいるのだろうと思っていたのだが。なかなかどうして素晴らしいじゃないか。デザイン性のあるガラスのペーパーウエイトなんて今まで見たことはないが、このデザインはとにかく素晴らしい。見目もよく実用的なものは商品としてとても人気があるからね」


その道の専門家に絶賛されてしまったぜ。

これはいける?


「こういうの、作れますか?」

「もちろん。少し手間がかかるが、丁寧に作業をすることで作り上げることは可能だよ」

「じゃあこのデザインで作ります!」


グッと拳を握り締めながら力強く宣言したらにこやかに笑われた。


「それじゃ奥へどうぞ、小さな一日生徒さんたち」


そう言われて思わずレオくんと顔を見合わせた。

でも次の瞬間には、全く同じタイミングで同じことを口にしていた。


「「よろしくお願いします、先生!」」


あまりにもぴったりだったそれに、再び顔を見合わせて笑ったのは言うまでもない。





……さて。

『いざ体験!』となったものの、私はのっけからその製造工程に度肝を抜かれた。

まず、ガラス工房のはずなのに全然暑くない。

あって当たり前のはずの熱気が感じられないのだ。

それと前世からのイメージで、ガラス工房の体験といえば吹きガラスと定着していたそれが見事に打ち砕かれた。

どうやってるかは分からないけど、まるで粘土細工をこねこねこねこねしてるみたいに手で形を作っている。

さすがに素手じゃなく手袋みたいなものをしているけど、それもすっっごく薄いヤツだ。


「あ……」



────熱くないの……?



確かガラスってかなりの高温で真っ赤になるまで熱された材料を()()()()()()使()()()一つ一つの工程を経て作ってくものだよね?



────ヤバい!!

────この国のガラス事情、全く予想がつかないよ!!



ああいう作り方なら絶対に夢中になれる自信がある。

早くやりたい!


そんなことを考えてそわそわしていたからか、無意識のうちに両手がわきわきと妙な動きをしていた。

もちろん自分では気づいてなくて、レオくんから指摘されてハッと我に返った。

『そんなに楽しみにしてたんだね……』と、苦笑されてしまったよ。

職人さんも微笑ましいと言わんばかりに優しい目をして私を見てた。

赤面した。



────うぁあぁぁぁぁ~~~……!!



無意識とはいえ。

いくら無意識だったとはいえ!



────めっちゃ恥ずかしいことしてたぁ~~~!!



……とりあえず。

幼女なので許してほしい。

中身は大人の記憶があるけどもそれはそれで置いといて!


「えへへ~……」


とりあえず笑って誤魔化しとこ。

そして忘れてくれ。


「ふふっ。小さな生徒さんだね、あんた。こんなに小さなうちから体験したいというのは工房を始めてから初のことじゃないかい?」

「ああ、そうだな。工房初の小さな生徒のお迎えだな」


この女性は職人さんの奥さんだろうか。

先に入っていたお客さんの相手をしながらこちらの様子もしっかりと伺っていたみたいだ。


「まあ。本当に小さな生徒さん!」

「ガラスの持つ魅力に魅せられるのに年齢は関係ないということじゃないのかい?」

「そうね。確かにあなたの言う通りかも」


二人の会話を聞いて、先客である若い男女───夫婦か恋人かは分からないけど───もこちらへと振り向いた。

女性にはビックリされたけど、男性からの言葉に納得したのかすぐさまにっこりとした笑顔で手招きされた。


「?」

「……?」


レオくんと同時に首を傾げつつ『自分たちのことを呼んでいるのか』と訊ねる意味で自分を指差してみた。

すると『そうだ』と肯定するように頷かれ『せっかくだから一緒に作業をしましょう?』と誘われた。


「え、っと……邪魔じゃないですか?」

「そんなことないわ。こういった作業はみんなでワイワイやるから楽しいのよ?」

「そうそう。人の作業を見ながら自分のものを作っているとね? 思いがけない発見があったりして、当初予定していたもの以上のいい出来の作品になったりするんだよ」

「へぇ~……」


どうやらこの若いお二人はこういった工芸品の制作体験がとても好きらしく、今まで様々なものを作ってきたらしい。


「これは……ランプシェードですか?」

「ステンドグラス風だよね?」

「うふふっ。分かっちゃう? 分かっちゃった?」


二人が作っているものは、傘を開いたような形をした半球型のかわいらしいランプシェード。

女性が本体である傘の部分を、男性が傘の先につける飾りをそれぞれ担当しているらしい。

私が最初に見て度肝を抜かれた、こねこねこねこね……の作業をしていたのは男性のほうだ。


「ね、お嬢ちゃんたち? よかったら私たちと一緒に作業をしない?」


再びのお誘いにレオくんと顔を見合わせた。


「どうする、レオくん?」

「う~ん……ぼくたち初めてだから、慣れてる人が側にいてくれるのは心強いかも?」

「じゃあ、一緒にしてもらうことにする?」

「そうしようか」


ということで。

お二人と一緒に作業させてもらうことになった。

体験の間は職人さんがついてくれているとはいえ、お客さまが来たら離れざるを得なくなるからね。

そういった可能性があるから、完全なる初心者同士の私とレオくんとでは心許なかったのだ。


「ふふっ、決まりだね」

「それじゃ、お嬢ちゃんはこちらにいらっしゃい」

「坊やはこっちにおいで」

「「はい!」」


呼ばれてそれぞれ男性と女性の間に入るように座る。

そんな私とレオくんを、職人さんと奥さんが微笑ましい顔で見ていた。


「それじゃ、人数が増えて賑やかになったところで作業の再開といこうかね!」


パンパンと軽く手を叩きながら奥さんが言うのと同時に職人さんから薄手の手袋を渡された。


「これはガラスの熱に直接触れないための冷却魔法を施した魔道具の手袋だ。作業中は決して外してはいけないよ?」

「はい!」

「分かりました!」


頷いてから手袋を装着する。

つけた瞬間、私の手のサイズに合わせるようにスルスルと縮んでいく。

最後にはぴったりと密着する形で落ち着いた。

まるで医療用のゴム手袋みたいな感じだ。

ただ触感はちっともゴム手袋らしくなく、ほぼ素手に近い状態だ。


「レオくん、レオくん。見て、ピッタリ!」

「ぼくも、ホラ?」


たったこれだけでテンションが上がり、手のひら同士を合わせるように、互いの両手を軽くパチンと叩くように触れ合わせていた。

まぁハイタッチみたいなものだね。

キャッキャとはしゃぐ私たちを大人は優しい目で見守ってくれている。


「……さて。それではまず基本となる『形』を作っていくことにしようか。手袋で熱は遮断できているとはいえ、熱いことに変わりはないから触る時は十分注意をするように。いいかな、二人とも?」

「「はいっ!」」


目の前のそれぞれの作業台に、ガラスの素となる材料を熱して溶かした塊が置かれた。

真っ赤になったそれは見るからに熱そうなのに、その熱気が直接肌に触れるようなことはない。

あまりにも不思議すぎて首を傾げると、隣の女性が『その手袋から出ている冷却魔法の効果が全身に渡って熱気を遮断してくれているのよ』と教えてくれた。


ふむふむ、なるほど。

手袋といいつつ全身保護をしてくれるなんてすごい魔道具だ。

透明な防護スーツを身に纏っているみたいなものを想像したらものすごく納得できた。


「でもあくまでも熱気から守ってくれているだけだから、顔や首といった肌が出ている部分にガラスの素を直接くっつけないようにしてね? 手袋をしていないところで触れると灼けるくらいの熱さと痛みを伴って火傷しちゃうから」

「ひぇぇ……」

「き、気をつけなきゃ……」


半眼になって表情をストンと落としながら言われた女性の言葉に私もレオくんも震え上がった。


「こら。小さい子を脅すんじゃないよ」

「脅すだなんて人聞きが悪いこと言わないでくれる? この子たちが怪我をしないように注意を促しただけじゃない」

「その表情で言われたら普通に脅しだって捉えられるから」

「まっ。失礼な」


膨れっ面をして唇を尖らせたと思いきや、次の瞬間にはくすくす笑い出す女性。

さっきの表情が嘘みたいな明るい笑顔だった。


「要するに。彼女が言いたいことは、怪我をしないように気をつけてってことだよ。あとは……よそ見をしないことも大事かな? そのあたりは専門家が側についてくれているから大丈夫だとは思うけれど……」


……と、ちらりと職人さんを見上げ、頷きが返ったことで『うん、大丈夫だね』と男性のほうも笑顔になった。


それからは言われた通りに怪我をしないよう気をつけながら、一つ一つ出される指示に従いガラスの素をこねこねこねこねして成形に励んだ。

私のは同じくらいの大きさの球体を二つ作る必要がある。

気分は前世での泥団子かな。

あれ、丁寧にコロコロコロコロすることですんごいキレイなまんまるになって表面がピカピカになるんだよね。

ま、さすがにガラスとは一緒にはできないけど。


「えへへ~、コロコロコロコロ~」

「あら。綺麗なまんまる。何を作るの、お嬢ちゃん?」

「あのね、ペーパーウエイト」

「ペーパー、ウエイト……?」

「あっ」


そうだ。

通じる人と通じない人がいるんだった。


「文鎮と言えば分かりますかな?」

「! ああ、文鎮!」

「北のほうでは文鎮のことをペーパーウエイトと呼ぶのですよ」

「ありますものね、地方それぞれの呼称や固有名詞が」


職人さんからの簡単な説明に女性は納得したと大きく数回頷いている。

そんな女性に男性が笑顔で語りかけた。


「同じものを指しているのに違う名称があるのは面白いね。今度はそういうものを探して回るのも楽しいかもしれないよ?」

「さっそく探求心をくすぐられているわね? いいわ。あなたと一緒になると決めた時からずっとついていくつもりでいたもの。それこそ世界中を巡っても構わないくらいにはね」


仲睦まじく話す二人を交互に見遣る。


「お二人は夫婦なんですか?」


『一緒になる』って言ってたしね。


「ええ、そうよ。結婚して二年目なの」

「新婚さんだぁ……」

「旅行ですか?」

「そうね……遅ればせながら新婚旅行を兼ねての工芸品巡りといったところかしら」

「結婚までもその後も色々とあってバタバタしていてね。家のことも含めてやっと落ち着けるってことで、今回クララット(ここ)の催しを見に行くことを皮切りにのんびり旅行でもしようかってなったんだよ」

「お家のことって、何か大変なことでもあったんですか?」

「いやいや、別に大したことじゃないんだ。こう見えて、一応地方貴族の出身なんだよね、僕。とはいっても継ぐものもない気楽な三男坊という立場でわりと自由にしててさ。実益と趣味を兼ねて、こうして国中を回ってはこういった工芸品に触れているんだよ。そのことを親が心配してて『結婚したんだから少しは落ち着け』だの『しっかり地に足をつけろ』だのあれこれ口出しをしてきて……」

「……あなた。それは小さな子に話すことじゃないでしょう?」

「そうだったね。ゴメンよ? 思っていたより色々と胸の奥に溜まっていたみたいだ」


一種のストレスというやつかな?

それはそれは実家で苦労をしたんだろうな、この旦那さん。


「話を戻すけど、各地を巡ってその地の工芸品に触れるのが今回の旅行の目的なんだよ」

「お二人は蒐集家なんですか?」

「いや。僕たちはね? 集めるのではなく作るほうなんだよ」

「ってことは芸術家?」

「でもないかな」

「私たちはね? 夫婦で部屋の内装をデザインする仕事をしているの。さっきこの人が言っていたでしょう? 実益と趣味を兼ねているって」


おぉ!

前世で言うインテリアコーディネーターというやつか!


「それじゃ、お二人は旅行しながらお仕事もしてるってこと?」

「そんな感じね。これがなかなか楽しいのよ! こうしてお嬢ちゃんや坊やとも会えたしね! 旅の醍醐味でもあるわ!」

「出会ったことで新たな発見もできたことだしね?」

「そうね!」

「?」

「新たな発見って?」


それらしいことなんてあっただろうか。

思わずレオくんと顔を見合わせた。


「文鎮よ!」

「ガラス製品で文鎮なんて考えもしなかったからなぁ……」

「そんなに珍しかったですか?」


そういやさっき職人さんも似たようなこと言ってたな。

私としては普通にパッと浮かんだだけなんだけど。


「もちろん! オリジナリティはとっても大事よ! 既存のものは既存のもので、それぞれのよさがあってそれぞれが魅力的だけれど。それらとはまた違った『コレ!』といった拘りのあるオリジナルな何かがあると毎日の生活に楽しみがグッと増えていくものなのよ。そんな拘りを追求するために、私とこの人は色々な伝統工芸品を見て回っては、自分たちで作ってみたりしているの」

「まぁ最近では作るほうに夢中になりすぎるあまりに仕事が後回しになってしまっているけどね」

「え……それ、大丈夫なんですか?」


いくら趣味と仕事が一緒になっているとはいえ、仕事が疎かになってるようじゃ生活に支障が出てくるでしょ。

そんな心配から『大丈夫なのか』と訊ねてみたら、若い夫婦のお二人は『なんの問題もない』と笑っていた。


「意外にも僕たちの考えに共感してくれるお客さんが多くてね? 長く住む家だから、いつまでも愛着を持って過ごしていけるように納得できるものを部屋に飾りたいと言ってくれて。時間がかかっても『コレ!』といった拘りのある逸品を僕たちから紹介されるのを待つとまで言ってくれてるんだよ」

「なかなかに好評なのよ?」

「へぇ~……」

「内装のデザイナーでもあり、制作者でもあるってことなんですね」

「カッコいい言いかただとそうなるけど、実際はとことんまで趣味を追求したいだけのただの道楽者だよ」

「ほんっとに、あなたって人は自分を下げるわね」

「しがない貴族の三男坊だとそういうものさ」

「ぼく、手に職があるってすごいと思うけど……」

「だよねぇ? 私もそう思う」


この若い旦那さんは自己評価が低すぎるのではなかろうか?


「いいんだよ。所詮は自己満足でやってるだけなんだから」

「何言ってるの! あなたはもっと自分で自分の価値を知るべきなのよ!」

「えぇ~? そういうのはいいよ。今まで通りのんびりゆったりやっていくのが一番だって」

「ほんっとにあなたって人は……はぁ…………」

「あははははっ!」


若い夫婦の遣り取りに思わずみんなで笑ってしまった。

仲良しっていいなという思いと、夫婦で同じものを楽しんで、それに対する様々な思いを共有できるという関係を純粋に羨ましいと思ったのだ。


なんというか、こう……理想の夫婦だよね、って感じ?

私も将来旦那さまになる人は、同じ若しくは似たような趣味を持ってる人だったらいいな、なんて思ってしまった。


「……しかし。奥方の言うことにも一理あるのでは? あなたの作業を見ていると、とても繊細な美しい飾りを丁寧に一つずつ慎重に仕上げていっている」

「とんでもない! 専門家である先生にそこまで言っていただけるほどの腕は僕にはないですよ。……っと! あぁ、坊や。そこはもう少し縦に伸ばしたほうが見栄えがよくなるよ」

「えっ? こ、こう……ですか?」


若旦那さんからの突然のアドバイスに、レオくんが戸惑いながらもあせあせとガラスの素に手を加えていく。

作業台の高さの関係で上まで上手く手を伸ばせず立ち上がったのと同時に、職人さんがサッとレオくんの横について補助に入った。


「底は厚みを持たせるといい。中心から上に向けてゆっくりと伸ばしてごらん」

「はっ、はい!」



────ふむ……



なるほどなるほど?

こういう形でプロが助けてくれるわけか。

基本は自分で。

だけど、手に余るような状態になりかけた時にスッと手を差し伸べる。

でも、必要以上に手を貸すことはせず、あくまでも主体は体験者というのがこの工房でのやりかたなんだな。


感心しながらレオくんの作業の様子を見つめていると、ガラスの素がキレイに縦長になって花瓶の形になりつつあった。


「わ! 真っ直ぐキレイになってる!」

「この状態を保ったまま、模様となる捻りを少しずつ加えていってごらん」

「はい!」

「そのあとに内側に流す色を加えていくから、焦らず丁寧に作業を続けていくといい」

「分かりました!」


生き生きしてるな、レオくん。

私はそんなレオくんを見ながら手の中でまんまるガラスの素をこねこねコロコロしております。

レオくんのやってる作業と比べたらすんごい地味です、あはははは。


「どれ。お嬢ちゃんのほうはどうかねぇ? 見せてごらん?」

「はい!」


職人さんの奥さんに声をかけられて、私はこねこねコロコロした二つのまんまるガラスの素を差し出した。

それをまじまじと見つめた奥さんは『うん』と一つ頷いた。


「どちらも綺麗な球体になっているね。それじゃこれは一度冷却して型を定着させることにしようか」

「このまま続けるのはダメなんですか?」

「ダメなことはないけどね? 型が定着していない状態で作業を進めるとせっかくの綺麗な球体が崩れてしまう可能性が高いんだよ」

「そうなんですか!?」

「熟練の職人でも失敗することがあるからね。面倒に思えても手順はきちんと踏んで進めていくことをお勧めするよ」

「分かりました!」

「うん。いい返事だね。型が定着したら、一部を切り落として底を平らにするよ。切り落とした部分は砕いて細かい粒状に変えてから中に埋め込む飾りにしようかね?」


いつの間にか私のスケッチブックが職人さんの手から奥さんの手に渡っていた。

その中のペーパーウエイトのデザインを見ながら、奥さんが次の工程を分かりやすく説明してくれる。


『できたらいいな』

『あったらいいな』


そんな気持ちから考えたものが、もうすぐカタチになろうとしている。

それが嬉しくてたまらない。

ワクワクする気持ちが強くなると、ほんの僅かな時間でも待つのがもどかしく感じられてしまう。


「何なに? お嬢ちゃんが考えたデザイン?」


ランプシェードに色ガラスを嵌める作業の手を止めた若夫婦の奥さんがひょいっとスケッチブックを覗き込んできた。


「素敵ね! こんなデザインを考えられるなんて、お嬢ちゃんはとっても想像力が豊かなのね?」

「どれどれ? 僕も見たいな?」

「エマちゃん、ぼくも見たい!」


気づけば私以外の全員がスケッチブックを覗き込むことに。


「特にこれ! ガラスの中で粒子の飾りがキラキラふわふわ揺れ動くって素敵じゃない?」

「しかも本体に触れた人の魔力に反応して、ってところが面白いね」

「これ、色が変わるの?」

「あ~……そこは変わったらおもしろいかなぁ……って思って描いただけ。できたらいいけど、難しいならしょうがないなって」

「魔力に反応して色を変えることは可能だよ、お嬢ちゃん」

「動きと連動させる形で、色が変化する回路を一緒に組み込めばできるからね。何、そこまで難しいことでもないよ」

「できるんですか!?」

「もちろん」

「その代わり、ちょいとばかり材料費に色がつくだけのことさね」


なるほど?

オプションてやつですな。

別料金あればできるよ~……って?


「全てのガラス製品には耐久用として小さな魔導鉱石を埋め込むのだが、それとは別に飾りや仕掛けといったものを作動させるための魔導鉱石をもう一つ埋め込むことになる。そのもう一つの魔導鉱石は、今回の体験の料金とは別扱いになってしまうが……」

「構いませんっ!」

「! そ、そうか……」


食い気味に即答したからか、職人さんを驚かせてしまったようだ。


「いいものが作れるのなら、できる限りのことはやりたいです!」

「そうかい、そうかい。お嬢ちゃんは熱心だねぇ。それじゃあ、最高にいいものを作り上げるためにおばさんが全力でお嬢ちゃんの手助けをしようじゃないか」

「わぁ! ありがとうございます!!」


やったぜ!

プロ監修の最高なペーパーウエイトを作って兄さまにプレゼントできる!



────あぁ~……完成が待ち遠しいよ!!



……なんて、まだ原型すらもできてないけどね。


型を定着させるための冷却時間ってどのくらい必要なんだろう?

その間、何をしたらいいのかな?


レオくんを手伝う?


……いやいや、ダメだ。

レオくんはレオくんで、お姉ちゃんに贈るために自分だけでやり遂げたいハズだし。


「………………」


ちらりとレオくんを見ると、再び真剣な表情で花瓶に近づいたガラスの素と向き合っていた。

全体的に捻りの模様が入って、口の部分は花びらのようなオシャレな形になりつつある。



────あれ……?

────あの形って、もしかして……



「アヤメの花びら……?」


ぽつりと零したその言葉に、レオくんがハッとなってこちらを見た。

ほんの少しだけバツが悪そうな表情を見せたレオくんの顔が若干赤く見えるのは気のせいだろうか。


「ゴメンね、エマちゃん」

「?」

「花瓶の口、アヤメの花みたいにしてみたくて。エマちゃんのスケッチブックに描かれてた絵を勝手に見て参考にしちゃった……」


……あ。

『ゴメンね』ってそういうこと。


「いいんだよ、レオくん。謝る必要なんてない。あんな絵でよかったらいくらでも見て参考にしてよ!」


私の描いたものがちょっとでもレオくんの役に立てるのなら嬉しい限りだ。

許可なんていらないし、じゃんじゃん見て参考にしてほしい。


「ありがとう、エマちゃん!」

「どういたしまして! お互いに素敵なものを作り上げようね!」

「うん!」


たぶんだけど。

ガラス工芸品の制作体験は、きっとここからが本番になる……────












ちょっとだけモブの若夫婦が登場していますが、意外な繋がりがあったりなかったり?

次回にそのあたり触れられたらいいなと思っております(о´∀`о)

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