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レオくんとエマ 4(日の曜日)

いつも見てくださってありがとうございます(*・ω・)*_ _))ペコリン


ルビ振りが少ないってラクでいいですねぇ、シアワセ(´∀`*)ウフフ

再びレオくん登場してます!

サブタイでバレバレですが(;´∀`)







ニコニコ笑顔を振り撒いてお店のお手伝いをしていたらあっという間にお昼になった。

今日も昨日と同じで、午前中いっぱいがお店のお手伝いの時間で、その後の時間は全て自由だ。


そして、レオくんとの約束の時間は12時半。

中央の噴水広場の噴水前。



『期待なんてしてない』



……なんて言ったら嘘になる。



でも。

レオくんの立場的に、昨日の今日でお邸を出てくるなんてことは果たして可能なんだろうか…………?






~レオくんとエマ 4(日の曜日)~




お店のお手伝いが終わり、昨日と同じようにお駄賃をもらった私。

ちなみに今日もおこづかいをもらっていたため、それに上乗せする形となり、私の今の所持金はおおよそ2倍になった。

青銅貨、黄銅貨、銅貨……と、大小合わせて硬貨の種類が分けられているとはいえ、手持ちのお金が10フォル(日本円にして1万円相当)以上とか普通に有り得ない。

『こんなの幼女が持つ額じゃねーわ……』なんていう突っ込みを誰に言うでもなく己の脳内だけで垂れ流しながら、私は今噴水広場へと向かっている。


レオくんとの約束の時間は12時半。

ちょっと早いかな、とは思いつつも時間前に着けるようマイヤちゃんのお家から出てきた。

前世では5分前行動とかよく言ってたけど、10分前行動でも全然いいと思うんだよね。


別に早く着きすぎたっていいんだ。

相手を待たせてしまうより、待つほうがずっといいしね。

それに待つ楽しみっていうのもあるんだから、私は待つことは嫌いじゃなかったりする。


まぁ……万が一レオくんが来れなかったとしてもちゃんと納得できるから大丈夫だ。

気軽に出歩ける立場じゃないってことは、昨日これでもかってくらいに知れたしね。

レオくんが来れなかった時は、残念だけど諦めるしかない。


もし1時間待ってレオくんが噴水広場に姿を見せなかったら、その時はダメだったってことでマイヤちゃんたちと合流することになっている。

正確には、約束の時間の1時間後くらいに様子を見にきてくれる、とのこと。


その時に私の姿がなかったら、約束通りレオくんと出掛けていることになるし、未だ待ち続けている状態であれば約束はなかったものとしてマイヤちゃんたちと一緒にガラス工房の体験を含めた町巡りをしようと誘われているのだ。

万が一のことを考えて私が一人にならないよう配慮してくれたみたい。

ありがたやー。


……さて。

色々と考えながら歩いていたらいつの間にか噴水広場に着いたみたいだ。


「え~と、レオくんは……っと。うん、まだいないみたい」


ま、これは想定内だ。

キョロキョロと辺りを見渡し、どこにもレオくんの姿が見えないことを確認してから噴水前へと移動する。

昨日も休憩と称して結構な時間居座った花壇の側だ。

ここに座って待ってようっと。


「んしょ、っと」


噴水の縁に腰掛けて足をぷらぷら動かしていると、背後から噴水の音とは違う小さな水音が聴こえた。

『パシャン』と跳ねるような音が立て続けに複数ほど聴こえて反射的に後ろを見遣ると、昨日の“水の”妖精()たちが近くに寄ってきていたことに気がついた。


「あっ、こんにちは~!」


パッと笑って挨拶をすると、それぞれが持つ立派な尾びれでパチャパチャ水面を叩きながら反応を返してくれた。



────う~ん、相変わらずかわいいなぁ~



喋れないからか、一つ一つの動きが余計にかわいく見えるんだよね。


「え~っと、“風の”妖精()は……」


キョロキョロと視線を巡らせるもその姿は見当たらない。


「……いないみたいだね」


そう言って“水の”妖精()たちを見遣ると一斉にふるふると首を振られた。

みんな見ていないらしい。

同じ妖精とはいえ、いつも一緒にいるとは限らないってことか。


……ま、アレだ。

『水』と『風』とじゃ属性が違うもんね。


おまけに“風の”妖精は特に気紛れだというし。

来るのも来ないのもその時の気分でというやつなんだろな。

別にいいけどね。

気が向いたらそのうちふらっと現れるでしょ。

そのくらいの感覚でいるのが一番だ。


……さて。

私がこの噴水前で腰を落ち着けてから5分ほどが経過した。

約束の時間まではもうすぐだ。


レオくんは来れるだろうか。

昨日のあの後どうなったかも気になるし。


「う~ん……」


もし会えたとして、最初の一言はどうしようか。

さすがに『叱られた?』なんて、いきなりストレートに訊くわけにもいくまいよ。

気を遣う際の第一声ってホント言葉選びが難しいよね……なんて思っていたら。


「エマちゃーーーん!!」

「へっ? レオくん!?」


少し離れた場所から大きな声で私を呼ぶレオくんの姿が見えた。



────約束、ちゃんと守ってくれたんだ……



『この場にレオくんが来てくれた』


その事実だけで涙が出そうになるほど嬉しいと感じるなんて、よほど私はレオくんとの約束を『大事なもの』だと強く強く感じていたらしい。

それも無意識のうちに、だ。


……でも。

だからこそ、かもしれない。


私がレオくんとの約束を期待していたことに酷く納得したのは。

頭の片隅では『ダメかもしれないなぁ……』なんて考えていても、本当は『来てほしい』と強く願っていたってことなんだもん。


だから。


レオくんの声を聞いて、その姿を見た瞬間にはもう考えていたマイナス面は全部吹っ飛んでいった。

もっと言うなら反射的に立ち上がってレオくんの元へと駆け出していたのだ。


「レオくんっ!!」


更には勢い余って抱きついちゃいました。

これ、お邸の誰かに見られていたらカンペキなお説教案件です。

でも誰も見てないからセーフです。

アウトだけどセーフなのです!


「わゎっ! エマちゃん!?」

「来てくれてありがとう、レオくん! 嬉しい!!」

「ぼくも、今日来れてよかった。エマちゃん、待っていてくれてありがとう。約束を信じて待っていてくれたんだよね? それがすごく嬉しい」


ぎゅっと抱き締め返されて言われた言葉に感動してもっともっと抱きついてしまった。

そのままの状態で『会えて嬉しい』とお互いに伝え合っていたら、後ろから控えめなくすくす笑いが聞こえてきた。

突然のその笑い声にハッとなって後ろへと振り向くと、キレイな女の人が苦笑しながら私たちを見つめていた。

艶やかな黒髪と濃紫色の目の美人さんだ。


「こ~ら。いつまで淑女(レディ)を抱き締めたままでいるの? 『女の子には常に優しく』と教えているけれど、それとこれとは全く別よ?」

「!!」


そう言われた瞬間、『バッ!』と音が出そうな勢いでレオくんが私から離れた。

それも真っ赤な顔で。

そんなレオくんを見て美人さんがまたくすくすと笑った。


「あらあら、真っ赤になっちゃって。本当に可愛いわねぇ」

「~~~~~母さまッ!!」


……母さま、とな?


てことは何か?

この黒髪美人さんはレオくんのお母さんてことですか。


「あなたがエマちゃん?」

「は、はいっ!」


いきなり話しかけられてビックリしたのと同時に背筋がシャンと伸びた。

まるで授業中にぼ~っとしていて不意打ちのように先生に当てられた時の気分だ。

懐かしい感覚だな。


「話に聞いていた通り、とっても素敵なお嬢さんね。昨日はうちの子が色々とお世話になったみたいで。見ず知らずの相手だというのに親切にしてくれて本当にありがとう」


ニコニコの笑顔で手を取られてお礼を言われた。


「いえ……困っていたようだったので」

「それでも他人のために動こうとするなんて簡単にはできないわ。だからこそ、本当に感謝しているの」

「そんな……大したことはしていないですから」


うぅ……こんな美人さんに近い距離で見つめられると緊張する。

お母さまもかわいい系の美人さんだけど、実の親だけあって至近距離で接するのは慣れてるからな。

今朝なんてぎゅうぎゅうに抱き締められたばっかりだし。


……って。

よくよく見てみたらレオくんのお母さんてうちのお母さまと似た感じだ。

そりゃ貴族家の奥さまだし、纏う雰囲気が上品で高貴なものだというのは当然なんだけど……こう、なんて言えばいいのかな?

別格?

オンディール家(うち)とそう変わらない家柄のご当主の奥さま、って感じがする。



────どこのお家か分からないけど、レオくんってホント何者なんだ?



そんなことを考えている間にもご機嫌な様子でレオくんママはあれこれと私に話を振ってくる。


「それでね、エマちゃん? 昨日うちの子が色々としてもらったお礼に、今日の支払いは全部この子が持つように言い聞かせてあるから」

「えっ?」

「どんな無理難題でも遠慮なく言ってくれて構わないわ。存分に連れ回してあげてちょうだいな?」

「え、と……それは……その、なんと言いますか……」

「いいのよ、いいのよ。存分にやってくれて構わないの。この子も満更じゃないようだしね?」

「ちょ……母さまッ!!」

「あら。言い過ぎちゃった? でも強ち間違いでもないでしょ? だって昨日、嬉しそうな顔で色々話してくれたものね~」

「母さまッ!!!」


昨日のレオくんからは想像もつかないくらいの大声と表情に、思わずギョッとしてしまい、まじまじとレオくんを凝視してしまった。

赤くなって怒るレオくんなんて、すんごいレアなものを見た気分だ。

まぁレオくん的には見られたくなかっただろうね、こんなとこ。

それ以上に、レオくんママによるこの暴露話のほうがもっと嫌なのかもしれないな。

未だに赤い顔のまま『余計なことを言うな!』と言わんばかりにレオくんママを睨んでいるから。


「もういいでしょ、母さま! 町長に挨拶に行くって言ってたよね!? こっちのことはもういいから早く行って!!」

「あら、つまらない。もっとエマちゃんと話をしていたいのに」

「十分すぎるくらいに話したでしょ!! これから行くところがあるんだから邪魔しないで!!」

「はいはい、分かったわよ。全く照れ屋さんなんだから……」


心底つまらないといった体で溜息をついたレオくんママは、私の顔を見てにっこりと笑った。


「こんな調子で手がかかるかもしれないけれど、どうかうちの子をよろしくね、エマちゃん」

「え、っと……はい? ん? あれ? 『はい』って言っちゃっていいのかな、これ?」

「いいの、いいの。単に照れてるだけだから、この子」

「母さま!! これ以上エマちゃんに余計なこと言わないで!!」

「あ~怖い怖い……」


なんて言ってるけど、レオくんママ思いっきり顔が笑ってますよ?


「それじゃエマちゃん、うちの子をよろしくね? 夕方まで思いっきり楽しんできてね?」

「はい!」

「あなたもよ? しっかりと最後までエマちゃんをエスコートすること! いいわね?」

「……分かってます」

「ふふっ。分かっているならいいわ。それじゃまた夕方にね?」


そう言ってレオくんママはひらひら手を振ってから噴水広場を後にした。

町長さんに挨拶ってことはマイヤちゃんのお父さん───ラバッツ準男爵に会いに行くのだろう。

お昼時だし、今はお屋敷にいるのかな?


レオくんママの後ろ姿が見えなくなるまで見送っていると、横から盛大な溜息が聞こえた。

言わずもがなレオくんだ。


「レオくん?」

「なんか……母さまが色々とゴメンね?」

「?? どうしてレオくんが謝るの? 別に謝ることなんて何もないよね?」

「……そうかもしれないけど。なんとなく、悪いことした気分になっちゃって。ぼくの親だし」


バツの悪そうな顔で謝られてしまったけど、私は何にも気にしてない。

正直ビックリはした。

でもそれだけだ。


「……まさかあんな風にエマちゃんにぐいぐい近づいていくなんて思いもしなくて。昨日ぼくが話したことでエマちゃんにすごく興味を持ったみたいなんだ」

「へぇ……」


レオくんのその言葉を聞いて思わずニコニコと笑ってしまった。

そんな私を見たレオくんが怪訝そうな顔をした。


「エマちゃん?」

「ううん、何でもないよ。ただ、今のレオくんとさっきのお母さんの様子からなんとなく分かっちゃった。昨日、帰ってからそんなに叱られることがなかったんじゃないかな、って」

「!」


そう言ったらものすごく驚かれた。


「どうして分かったの?」

「だってさっきのレオくんのお母さん、積極的に催しを回れって言ってたようなものでしょ?」

「まぁ……うん。昨日してもらったことのお礼に、ぼくにしてあげられることは何でもやりなさいって何度も何度も言い含められてきたから。ぼくよりも母さまや姉さまのほうが乗り気になっちゃったくらい」

「そうだったんだ」

「うん。今日着ていく服にだって細かく注文つけられたんだよ? あれはダメ、これもダメ、って……」


溜息混じりのレオくんの言葉を聞いて、改めて今日のレオくんの服装を見てみると、昨日の目立つ服装とは全く違う、上質ながらもシンプルなデザインのシャツとベスト、それからハーフ丈のズボンに、足元はショート丈のブーツという恰好だった。


「姉さまが言うには『貴族って分かるような恰好は絶対にダメ!』ってことだったんだけど、昨日の時点で普通に貴族だって分かる恰好してたんだから今更なんじゃないかな……って」

「そうかもしれないけど、目立つ恰好で注目されたら思いっきり楽しめないと思うよ?」

「……姉さまにもそう言われた。でもぼく、お忍びの恰好ってよく分からなくて。『あれもダメ、コレもダメ』ってされてるうちにそれだけで疲れちゃって……」

「あははっ! 着せ替え人形にされちゃったんだ? 確かにされるほうは疲れちゃうよね~?」

「……分かってくれる?」


分かりますとも。

ワタクシめも同じこと頻繁にされてますからね。

あれ長時間に渡るとホントにキツいんですよねぇ。

やってるほうはそりゃ楽しいでしょうけど、やられるほうの疲労は半端ないんですわ。


「周りが盛り上がってあれもこれも……ってなるから長いんだよねぇ」

「エマちゃんも?」

「ヒマさえあれば常にされてるから。慣れたくはないのに、段々と慣れていく自分に今軽くショック受けてる……」

「そ、そうなんだ……」

「たぶんレオくんが想像しているよりもずっと大変だと思うよ? 娘をかわいく着飾りたいお母さんからしたら、着せ替え人形にされるのはもう当たり前だよね、っていう感じ?」

「その母さまと姉さまに朝早くから散々にやられたぼくって一体……」

「あははっ。早朝からだなんてそれは災難だったね。お疲れさま、レオくん」

「本当に行く前から疲れちゃったよ……。挙句の果てに、姉さまが『レオがへばってるなら私が男装してレオになりきって代わりに行く!』なんて言い出しちゃって……。周りから全力で止められてたけど」

「へっ? レオくんのお姉ちゃんが男装してレオくんになりきる? そんなことしたってすぐに別人だってバレちゃうよ? それはさすがに無理があるんじゃないかなぁ?」

「そうでもないよ? ぼくと姉さま、顔そっくりだから。よく知る人以外じゃほとんど見分けがつかないんじゃないかな」

「そんなことってあるの?」

「うん。だってぼくと姉さま、双子だし」

「そうなの?」

「うん。同じ服装で同じ髪型してたらどっちがどっちか分からないと思う」

「だからレオくんのお姉ちゃんは男装って言ってたんだ」

「僕のふりをするって言ってたからね」


そっかそっかぁ……レオくんとお姉ちゃんは双子の姉弟ってわけか。

同じ歳の姉弟ってなんだかいいな。

レオくんの言葉からしてすっごく仲良さそう。

男装してレオくんになりきってまで代わりに行くなんて言ったレオくんのお姉ちゃんに会ってみたくなったよ。


「ふふっ」

「エマちゃん?」

「レオくんのお姉ちゃんに会ってみたいなって思っただけ。同じ恰好して同じ髪型で並んでる二人を見てみたいなって」


……ま、難しい話ではあるけどね。

レオくんのお姉ちゃんは病弱だっていうし、何よりもレオくんがどこの家のご子息か分からない。

互いの家柄同士の関係によっては簡単に会えるとも限らないしね。


それ以前に、今の私は『オンディール公爵家の娘フローレン』ではなく、お忍びの『町娘エマ』なのだ。

ただの町娘である私が貴族のご子息であるレオくんや、レオくんのお姉ちゃんに会えるわけがないのだ。

会うとしたら私の正体を明かすしかないのだけど、それをやっちゃうと完全にアウトだからなぁ。

お母さまからは公爵家の娘であることを隠すことを条件に催しに連れてきてもらっているわけだからね。


……だというのに。


「うん! 姉さまもエマちゃんのことすごく気にしてたし、いつか会ってほしいな!」


なんて嬉しいことをレオくんは言う。

きっとレオくんだって分かっているはずなのにね、普通は無理なんだってこと。

それでもこう言ってくれるというのは、それだけ私との出会いを大切なものとして考えてくれているからだって思ってもいいのかな。


「同じ恰好のレオくんとお姉ちゃんか……」


もし会えたと仮定しての二人の姿を想像してみた。


「レオくん、ドレス似合いそう」

「やめてよ!」

「でも同じ恰好をするってそういうことになるんじゃない?」

「う……」

「レオくんのお姉ちゃんは『男装する』って言ってたけど、その逆になることもあるんじゃない?」


つまりはレオくんが女装してお姉ちゃんの横に並ぶのだ。

幼少期の今だからこそできることだよね?

さっきのレオくんママの様子から察するに、お姉ちゃんと一緒にノリノリでレオくんにドレスを着せてめいっぱい着飾りそうな気がする。

それもこれでもかってくらいに気合い入れてね。


「恐ろしいこと言わないで! なんだか本当にそんなことになりそうな気がしてきた……」


うん、フラグってやつですな。

来るな、来るな~……って思えば思うほど来るというお約束的なアレ。


「でもさっきのレオくんのお母さんの感じからして、ノリノリでレオくんにお姉ちゃんとお揃いのドレス着せそうじゃない?」

「ホントにやめてっ!!」

「あははっ! 冗談だってば」

「も~……」


レオくんに膨れっ面させてしまったよ。

昨日以上に表情豊かだな、レオくん。

自然体でいいけども。


「そのことはもういいから、行こ! ガラス工房で制作体験をするんでしょ?」


誤魔化すようにそう言ってレオくんは私の手を引いて歩き出した。

これ以上レオくんには着せ替え人形の話はするべきじゃないな。

今はまだ膨れっ面で済んでいるけど、不機嫌にしたり怒らせたりするのは私も本意じゃないからね。


「うん。確か13時くらいを目安に……って言ってたよね? 時間まではまだもう少しあるけどどうする? 早めに行く? それともちょっとだけおやつ食べてから行くことにしようか?」

「? ぼくはどっちでもいいけど。エマちゃんお腹空いてるの?」

「ん~……そうでもないかな? 軽めにお昼ごはん食べてきたし」

「そっか。ぼくもお昼は食べてきたからそんなにお腹は空いてないんだよね」

「それじゃおやつは後回しだね!」

「だね?」

「時間までどうしようか、レオくん?」

「昨日ゆっくり見て回れなかったから、工房の近くのお店を見てみるっていうのはどうかな?」

「あっ、それいい!」

「じゃあ、そうしよう? 工房の後はおやつを食べに行って、その後のことはまたその時に考えようか?」

「うん! おやつはリーフお兄さんのお店のプチジャムクレフにしようね?」

「もちろん。またお土産に買って帰りたいし」

「おいしいよね~?」

「うん! みんなすごく気に入ってたよ」

「うちもそうだよ! 今日もたくさん買って帰るつもり!」

「今から楽しみだね!」

「ね?」


そんな感じで仲良く手を繋いで歩きながら今日の予定を決めていく。


「……あ、そうだ」

「どうしたの、エマちゃん?」

「一番最後でいいから、昨日のお花屋さんにも行っていいかな?」

「? いいけど。またお花買うの?」

「うん。実は昨日買ったパンジー、ダメになっちゃって……」

「えっ? 落として鉢が割れちゃったとか?」

「ん~……まぁ、そんな感じ?」


ホントは全然違うけど。

さすがにサッシー(ミミック)が食べたなんて言えるはずないからね。


「だったらさ? 先にお花屋さんに行って買っておいたほうがいいんじゃない?」

「えっ? 一番最後でいいんだよ?」

「でもそれだと、買おうと思った時になくなってるかもしれないよ? ほら、昨日の夕方に預かってもらってたお花取りに行った時、ほとんどが売れてて鉢植えの花は一つも残ってなかったじゃない」

「……言われてみれば」

「だからお花屋さんには今から行こう?」


……ということで。

急遽、行き先がお花屋さんへと変わりました。


二日連続でお店にやって来たものだから、お花屋のお姉さんにはかなり驚かれてしまったけれど、快く出迎えてくれました。

お目当てのパンジーもしっかりゲットです!


ちなみにお花はレオくんが買ってくれました。

自分の不注意でダメにしたんだから自分で払うって言ったのに、ちっとも頷いてくれなかった。

それどころか、昨日たくさんしてもらったから今日は自分がそれをするのだと言われてしまったら引けなくなっちゃったんだよね。

そういうわけで、私のほうが折れる形になったのだ。

これ以上断り続けるのもレオくんに悪いことした気分になるからね。


……ただ、ガラス工房の代金だけは自分で払うと言って納得してもらった。

体験とはいえ、一つの作品を作るわけだし、それなりの費用がかかると思われるからね。

使う材料によって金額が上下する可能性もあるし、どれだけの出費になるか分からないものにお金を出してもらうわけにはいかないのだ。


そうして、お店の前でわちゃわちゃやり合ってお姉さんに苦笑されつつ、互いが互いの考えに納得できたところで話し合いという名の『譲れない合戦』は終了した。

今日もまた帰りまでお花を預かってくれるというお姉さんの厚意に甘えて、パンジーを託してからガラス工房へと向かうことに。


工芸品エリアへと続く道を手を繋いで歩いている最中、レオくんがふと思い出したといった体でこう言った。


「……実はね、エマちゃん。昨日ぼくが母さまから叱られなかったのには理由があるんだ」

「叱られなかった理由?」

「うん。ホントだったらぼくが叱られるのが当然なのに、なぜかその矛先が父さまに向いちゃったんだよね……」

「レオくんのお父さんに? どうしてまた……? 全然関係なさそうだけど?」


何故にレオくんパパにその矛先が向いたのか。


「ぼくもそう思ってたんだけど、母さまや兄さまには違ったみたい」

「?」


ますます意味不明だ。

何がどうなってそうなった?


「ぼく、昨日こっそり抜け出してきたって言ったでしょ?」

「うん、言ってたね」

「その方法がね? よく父さまがやってることの真似」

「お父さんの真似をしたの?」

「うん。ここだけの話なんだけど……自分の存在を誰にも気づかせないようにするっていう魔法なんだ」

「!!」



────魔法を使って抜け出しただと!?



「驚いた?」


苦笑顔でそう問われて、何度もコクコクと頷くことで返事をした。

驚かないわけがない。

っていうか、真似をしたとはいえ、自分の存在を他者に気づかせないようにするなんてかなり高度な魔法なんじゃないの?

それを使えるだなんてすごいな、レオくん。


「父さまってさ。夜によく出掛けるんだ、お酒の席に誘われることが多くて」

「うんうん」


まぁ大人のお付き合いというやつですな。

そりゃ必要とあらば出掛けていくでしょうよ。


「母さまが言うには『行き先も目的も理由もハッキリしているんだから堂々と出掛ければいいじゃない』ってことなんだけど……」

「うん」

「どうも父さまはお酒の席に出掛けることが後ろめたいみたいで。ぼくたち家族に気づかれないように、わざわざ魔法を使って家から出てるみたいなんだ」

「え~、なんで? レオくんのお母さんが理解示してるなら別に後ろめたいことなんてないはずだよね? それでも悪いな~って思うんだったら、ぶっちゃけお酒の席なんて誘われても行かなけりゃいいだけの話だと思うけど」


うちのお父さまは、よく『フレイヤさんに申し訳ないから~……』ってお母さまをダシにしてお酒の席へのお誘いをぶった斬ってるけどな。


あ、もちろん必要最低限のお付き合いはしてますよ?

全部が全部ぶった斬ってオコトワリ申し上げてるわけじゃござんせんよ??


「……そうなんだよね。後ろめたいことなんて何もないのに、こそこそ魔法使ってまで抜け出すんだから、逆にそっちのほうを後ろめたいって思ってほしいよ」

「あははっ! 確かに!」

「まあ、それは置いといて……その父さまの魔法をね、真似できるようになるくらいにぼくは見てきたわけ。それも、何度も何度もね」

「!?」

「そして、その魔法を真似することでぼくは昨日邸を抜け出した。教えてもらってもいないその魔法を、ぼくが覚えるくらいに見てきたってことはだよ? それだけ父さまが、ぼくが見ている範囲内でその魔法を何度も何度も使っていたということでもあるでしょ? 母さまが父さまへと矛先を向けたのはそのせい。ぼくが黙って邸を抜け出した原因は父さまにあるんだ、って」

「ちょ……直接ではなくても、その原因を作ったっていう意味でレオくんのお父さんに矛先が向いちゃったんだね……」

「……うん。『子どもの前で迂闊なことして~~~!!』って、母さまが珍しく笑顔で怒ってた」


……そりゃそーだわ。



────レオくんパパ、何やってんの……



お家の人からしてみたら大事なご子息が行方不明で、下手したら『まさか誘拐!?』なんて大騒ぎになってもおかしくはなかった事態だ。

あのニコニコでご機嫌だったレオくんママが怒るのもしょうがないわ。


「子どもってさ。大人が気づいていないだけで、わりと色々なものを見てるんだよね」

「……うん。ぼくもそう思った。今思えば、あれは見ちゃいけないものだったのかな……って」

「レオくんが見える範囲で使ってた魔法なら別に見てもいいものだったんじゃない? この場合は、レオくんの存在に気づかずに魔法を使っちゃったレオくんのお父さんがうっかりだっただけで」

「……そっか」

「それにいずれ覚える魔法なんだから、早いうちに見ることができてよかったっていう方向で考えてみたら?」

「えっ?」

「一足先に魔法の勉強ができたって喜んでもいいんじゃないかってこと」

「!」

「私たちの歳だとまだまだ早いって言われちゃうもんね~」


まぁそんな私はフライングして教えてもらっておりますが、うふ。


「……そっか。そういう考えかたもあるんだ。別に見てしまったから『悪い』なんて思わなくてもいいんだね」

「悪いなんて思ってたの?」

「……うん、実は」

「あははっ。そりゃレオくんのお父さん、怒られるわぁ」

「えっ? どうして?」

「だって。自分のやったことで、子ども(レオくん)に『悪いことしちゃった』って思わせちゃったんだよ? 黙って抜け出したことはまた別だけど、魔法を使ったことに関してはレオくんは真似っこしただけで何も悪くないのに」

「!」

「レオくんのお父さんにとってはとばっちりで怒られたようなものだから、気の毒と言えば気の毒かもしれないけど。怒られる理由はちゃんとあったんだからレオくんが気にすることはないと思うな」

「エマちゃん……」

「それよりも!」

「!」

「約束してたガラス工房の体験に一緒に行けることをもっと喜んでくれたら嬉しいな!」

「それは……もちろんだよ!!」


繋いでいた手にぎゅっと力を込められて、引き寄せられるように少し強めに引っ張られた。


「ガラス工房だけじゃなくて、他にもめいっぱい楽しみたいな!」


そう言って満面の笑みを見せてくれたレオくんは、キラキラしててとても眩しかった。

間近な距離になり、軽く見上げた先にあった濃青の瞳も、陽の光に照らされてキラキラ光って見えてとてもキレイだった。


あまりにもキレイすぎて、ちょっとだけめまいがしちゃったことはレオくんにはナイショだ……─────













※出発前の午前中のレオくんのお家にて※



「もういいよ、これで……」

「ダメ! ここ……この飾りがイマイチ気に食わないわ!」

「誰もそこまでは見ないってば……」

「エマちゃんが見るでしょう! あぁもう、やっぱりダメ。それ脱いでこっちを着て!」

「また? 姉さま、いい加減にしてよ。ぼくもう疲れちゃったよ……出掛ける前に疲れるなんておかしいよ……」

「へばるにはまだ早いわよ、レオ! 納得のいく恰好ができ上がるまで許さないから! そのまま伸びてるなら私が男装してレオの代わりにエマちゃんと会うからね!?」

「は……? 冗談やめてよ、姉さま! いつ具合が悪くなるか分からないっていうのに……まさか本気で言ってるわけじゃないよね?」

「本気よ! レオがそんな調子なら私が男装してエマちゃんと会う! 私だってレオがすっっっっごく気にしてる女の子に興味津々なんですからね! ……あ。やっぱり私が行こうかしら? リィナ、手伝って? レオの服着て代わりに出掛けるから」

「ニコールお嬢様!?」

「ダメに決まってるでしょ、姉さま! 倒れたらどうするの!?」

「平気よ! 今日はとっても気分がいいもの。ウキウキして頭がぽ~っとなってきたもの……」

「それは熱が上がってきているのではないですか、お嬢様?」

「まさか。そんなはず、は…………きゅぅ………………」

「わあぁ~!! 姉さまッ!?」

「ニコールお嬢様ッ!」



  ↓

  ↓

  ↓

  ↓



そんでもって



「……何やってるのよ、ニコール」

「だって……私もレオのお気に入りのエマちゃんに会ってみたかったんだもの。ユニコだってエマちゃんのこと気にしてたみたいだし」

「だからってあんな風に騒ぎ立てていたら熱も上がるでしょ。興奮して高熱出して倒れるなんてどうかしてるわ」

「ユニコがエマちゃんのことで引っ掛かるようなこと言ったのがいけないのよぅ! あんな意味深なこと言われたら気になって気になってしょうがないじゃない!!」



……みたいな感じで由仁子に八つ当たりしてたりしてなかったり?

小話でいけそうなネタだな(笑)




最後まで見てくださってありがとうございました(*- -)(*_ _)ペコリ



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