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素敵(?)な日の曜日の朝が来ました!

いつも見てくださってありがとうございま~す(*・ω・)*_ _))ペコリン

ブクマ&評価もいただけてとっても励みになっております♪


今回から再びフローレン視点に戻りましたが、お忍びの町娘……ということで「エマちゃんモード」でお送りいたします(なんちゃって(^^ゞ









目覚めてからの第一声は、情けない大絶叫でした……─────







~素敵(?)な日の曜日の朝が来ました!~




「はにゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」



それは目が覚めてすぐのこと。


特殊回復魔法のおかげもあって絶好調なコンディションで迎えた朝。

そんな清々しい朝にも関わらず、それに相応しくない大絶叫を上げる羽目になった原因は、無残な姿と化した目の前のパンジーの鉢植えだ。

昨日の夜、寝る前までは確かに存在していたパンジーの花が全てなくなっていたのだ。

それも、()()()が。

ぷっつりと切られた状態の茎が数本寂しく鉢に植わっているそれを見て、叫ばないほうがおかしいだろう。


どう見てもむしり取ったあとだ。

まさかとは思うけど……


「……サッシー、おいで」

《ピッキュ?》

「うん。おいで」


呼んでも不思議そうにするだけで動かなかったため、もう一度呼んで手招きをする。

ピコピコと跳ねながらやってきたサッシーが私の肩に乗ったところでパンジーの鉢植えを指差した。


「お花だけが見事にないんだよねぇ?」

《!? ピ……!》


見るからに『ギクッ!』と身体を強ばらせたサッシーを見て『やっぱ犯人はコイツか』と確信する。


「食べた?」

《ピキュ……》

「怒らないよ。言ってごらん。お花、食べたの?」

《ピキュゥ……》

「う~ん……プチクレフのジャムだけじゃ足りなかったかぁ~……」


まぁパンジーの鉢植えがこうなったのは私の落ち度でもあるしな。

夜にサッシーの目の前で鉢植えの水やりをしたし、寝る時もプレイルームに戻さなかったこともそうだ。

まさか食べちゃうとは思わなかったけど、その可能性がゼロじゃなかったことを考えなかった私もうっかりしていたんだ。


しかし……


「レオくんと一緒に買ったお花がたったの一夜にして台無しになるとは……はぁ……」

《ピキュ……》

「いいんだよ、サッシー。お花大好きなんだもんね?」


愛でるのではなく食すほうで、だけど。


「しょーがない。またお姉さんのお店で買うか」


連日で同じものを買うことに対して不審に思われるかもしれないけどその時はその時だ。

正直にお花がダメになったと言おう。


……うん。


「でも今度からお部屋に飾ってるお花は食べちゃダメ。『いいよ』って言われるまでは絶対に食べないで? 約束できる、サッシー?」

《ピッキュ!》

「……ん。いいこ」


ちゃんと分かって返事してくれたので、優しく撫でてお小言タイムは終了だ。

今回みたいなことが起こらないように、今日もリーフお兄さんのお店でプチジャムクレフを大量にお土産として買ってくるとするか。

花のジャムを中心としたヤツをたんまりとな。

あ~、それかジャムだけ買うことってできるのかな?

これはお店で直接訊いてみよう。

もし王都のお店じゃないとダメなのであれば、そっちのほうに連れていってもらうなり、エルナかメリダにお願いして買ってきてもらうという手もある。

どっちにせよ、サッシーのためにお花のジャムを手に入れることは重要だな。

それも可及的速やかにってやつだ。


……と、ここまで考えたところで慌ただしくドアが開かれた。


誰だよ。

ノックくらいしろよ。


なんて思いながら、半分げんなりしつつ振り返ると同時に『ぎゅむっ!』と絞められるかの如くキツくキツく抱き締められた。

『ぐえっ!?』と潰れたカエルのような声が出そうになったのをギリギリで堪えた私を誰か褒めてくれ。


「大丈夫、レーン!? さっきものすごい声で叫んでいたでしょう? レーンに何かあったのかと慌ててきたのよ?」


……お母さまでした。

許す。

娘が突然大絶叫したんだもんね。

そりゃノックして返答待つ余裕なんてないわ。


「え~っと……ゴメンなさい?」

「謝らなくたっていいのよぅ! 一体何があってあんな風に叫んだの?」

「それが、ですね……」


ちょいちょいと指差した先には花だけがキレイさっぱりなくなったパンジーの鉢植え。

いや、もうこれはパンジーだったものの鉢植えと言うべき?

葉っぱと茎しか残ってないんだもん。


それを見たお母さまはぱちくりと目を瞬かせた。

一瞬呆けた、といった感じかな。


「あら」

「朝起きたらこんなになってしまってて……サッシーが食べちゃったみたいなんです」

「まあ、サッシーが?」

「はい。でも飾ってるお花は食べちゃダメだってことはちゃんと分かってくれました。そうだよね、サッシー?」

《ピッキュ!》

「まぁ、うふふっ。いい子ね、サッシーは」


お母さまにも『イイコ、イイコ』されてサッシーは嬉しそうだ。

思ったより落ち込んでなくてホッとした。


「昨日のお土産、サッシーは中のジャムしか食べなかったから足りなかったのかなって……」

「それじゃ、今日はもう少し多めに買わないといけないわね?」

「ん~……できればジャムだけで買えないかなって思ったんですけど」

「まぁ。それはいいわねぇ。ただ出店という形での販売だから、ジャム単品で売ってくれるかどうかは行ってみなきゃ分からないわねぇ……」

「そうなんですよ」

「だったら今日は早めに邸を出て、開店前に店主に訊いてみましょうか」

「へっ?」

「そうと決まったら早速準備よ、レーン! 『善は急げ』と言うでしょう?」

「え~と……」



────それ、は……そう、だけども……



ちょっと、急ぎすぎじゃないですかね、お母さま……


「さあ、エルナ! レーンの支度をお願いするわ!」

「かしこまりました、奥様」



────エルナいたの!?



「わたくしもすぐさま支度にかかるわ。部屋に戻るわよ、ヴェーダ。支度を手伝ってちょうだい。大急ぎでね?」

「かしこまりました」



────ヴェーダもいたの!?



ノックなしで突入してきたお母さまに『ガバチョ!!』って抱き締められた衝撃のせいか、周りのことなんて全然見えてなかったわ。


そんなこんなで驚いている間に、私はエルナの手によって素早く身支度を整えられることになった。

言われるままに顔を洗ったり歯磨きをしたりしたのはもう惰性だよね。

エルナの勢いに流されつつもやるべきことはキチンとやったワタクシめ、エラい!

自分で自分を褒めて遣わす!


けど、な……


「エルナぁ……ピンク尽くしなんてやめようよ……殺されるよ……」

「可愛らしいではありませんか。とってもお似合いですよ、フローレンお嬢様? そんなお嬢様を一体どこの不届き者が殺すというのですか、物騒な」

「………………」



────殺されるでしょッ!?

────羞恥心っていう名のとんでもない刺客(ヤツ)にさ!!



「それにピンクと言ってもサーモンピンクですから、全体的に柔らかめの印象になりますし、落ち着いて見えますよ?」


そうなのだ。

ピンクはピンクでも落ち着いた色合いのサーモンピンクで、大柄の花模様を同色系の少し濃い色目の糸で刺繍したオシャレなワンピースを着せられている。

その上に、昨日も着けていた(のとよく似たデザインの)白いフリル付きのエプロンを合わせてエプロンドレス風な装いだ。


「お嬢様が嫌がられているピンクとは違いますでしょう?」

「うん……」

「心配なさらずとも、誰の目から見ても可愛らしい素敵な女の子にしか見えませんわ」

「……そう?」

「もちろんです! さ、今度は髪を整えましょうね」


……と、手早く髪を纏めていくエルナ。

昨日のように下ろした状態でカチューシャ風にリボンを結ぶのではなく、しっかりと上に纏めて結い上げたポニーテールだった。


「今日の目玉ですよ?」


なんて言葉とともに『ふふふ……』と意味深に笑ったエルナの手には、なんと私が欲しくて欲しくて『作って!』と懇願し続けたシュシュが。

ベースとなる布地は明るい若葉色で、縁取りにアクセントとして紅茶染めした淡い茶色のレースが取り付けてあり、かわいらしくもオシャレなデザインに仕上がっていた。

見た瞬間、一気にテンションが上がった。


「エルナ、それ!」

「ふふふっ。お嬢様が欲しい欲しいと言っていたヘアアクセサリーですわ。今日はこれを付けることにしましょう」

「うんっ! 付けて、付けて!」


鏡の前に座ってニッコニコの私。

そんな私を鏡越しに見ているエルナの顔も優しい笑顔だ。

ササッとシュシュを付けてくれて、それからよりキレイに見えるように形や位置を丁寧に整えてくれる。


「……こんな感じでしょうか。布地が広がっているほうが可愛らしく見えますから、もう少し広げてみてもいいんですけれど」

「ううん。十分だよ、エルナ。このシュシュすっごくかわいい!」

「気に入っていただけて何よりです」

「もしかしてエルナが作ってくれたの?」

「……僭越ながら。お嬢様のお好みを誰よりも把握しているのは私だと自負しておりますので」

「あははっ! それ、お母さま以上にエルナのほうが私の好みを知ってるって言ってるようなものだよ?」

「ええ。ですから、()()()()()と前置きさせていただきましたでしょう?」


そうだね。

確かに言ってたね、僭越ながらって。


「エルナが誰よりも知ってるのは、私の食べものの好みのほうだと思ってた」

「それに関しましては他の追随を許しませんからね。何と言っても私はお嬢様の食育を担当させていただいておりますので? 私以上にお嬢様の食の好みを把握している者はいないと断言できますわ」


……おぉう、すっごい自信だな。

でも自分で言ってるだけあって、確かにエルナは私の食の好みを細かく把握してくれていると思う。

嫌いなものでも食べられるように一生懸命考えて工夫を凝らして食べられるように導いてくれているからね。



────おかげで今じゃピーマンとはマブダチだぜ……



……まぁウソだけどな。

普通に食べれるようになったってだけの話。

食べ続けることでお子サマ舌がようやっと苦味に慣れた、とも言うかな。

あの苦味に悶絶した過去が今では遠い昔のように感じられるくらいには平気になったよ。


「まぁ、それはさて置きまして」

「?」

「実はこのシュシュ、同じものがもう一つあるのですが……こちらはお嬢様の左手に通しておきますね?」

「手に?」

「はい。このまま手の飾りとしてもいいですし、仲良くなられたという、クララットの町長さんのお嬢様に差し上げてもよろしいかと」

「マイヤちゃんにあげてもいいの?」

「もちろんですわ。仲良し同士、お揃いのものを身につける楽しみができますからね。実は色違いでもう一組あったりします」


……なんて言われて後出しされたほうは、同じデザインだけど、ベースが濃いブルーの布地で縁取りのレースが白というシックなものだった。


「あ……」

「どうされました、お嬢様?」

「マイヤちゃんにはこっちのブルーのほうが似合いそう」


茶色の髪には、ブルーと白がよく映えると思う。

私が付けているほうはレースが淡い茶色だから、マイヤちゃんの髪色で隠れちゃうかもしれないんだよね。

だったら最初からどちらも髪色に溶け込まないほうが絶対にいい。


「ねえ、エルナ! こっちのブルーのシュシュ、マイヤちゃんにあげてもいい?」

「もちろんです」

「それとね」

「はい」

「今度、私にも作りかた教えてくれる?」

「それは構いませんが……縫いものですよ? 大丈夫ですか?」

「平気! ついでに刺繍も教えて? シュクジョのタシナミとして大事でしょ?」

「確かに大事ですけれど……本当に大丈夫ですか? 若干カタコトになっていましたよ?」

「う゛……ちょっと自信ないだけ。でも頑張るから教えてほしい」

「お嬢様にやる気があるのでしたらいくらでもお教えいたしますのでご安心ください。とりあえず今日はクララットの催しですよ? 最終日ですから、思いっきり楽しんでくださいね」

「うん!」

「今日は私も町までご一緒しますけれど、それ以降はお嬢様とは別行動になりますから」

「エルナは一日お母さまと一緒にお店のほうにいるんだよね?」

「はい」

「私も午前中はお店のお手伝いするんだよ?」

「ではお昼まではお嬢様と一緒ですね」

「うん! 頑張ってお手伝いするよ! お客さまにニコニコ笑顔でいっぱいお買い上げいただくんだ!」

「ふふふっ。楽しみでございますね。それではお嬢様の看板娘っぷりを存分に堪能させていただくことにしますね!」

「しっかり見てて! 張り切って笑顔の大盤振る舞いしちゃうから!」


スマイルゼロ円バンザイなのです、うふふふっ。

笑顔は万国共通の素敵コミュニケーションツールなのだ。



────よぉ~し、今日も張り切っていくぞ~!!



心の中で『エイエイオー!』と気合いを入れたのと同時だった。

またも勢いよく扉を開けられたのは。


だからノックしろよ!?


「レーン、用意はできていて?」

「あ。はい」


今度の犯人もお母さまでした。

ていうか、普段は人一倍マナーに関して厳しく言うのにテンション上がっている時はそれが吹っ飛ぶんですね。

後ろに括弧付きで『ただし家族間のみに限る』とかいう注釈が入りそうだけど。


……ま、いっか。

準備はもう終わってるしね。


「それじゃ出発するわよ!」

「え? 待ってください、お母さま。朝ごはんがまだ……」


起きて間もないのよ、ワタクシめ?

育ち盛りの幼女に朝ごはん抜きなんてとんでもない拷問じゃん!


泣くよ!

……泣くよ?


「問題ないわ。馬車の中で食べられるよう、サンドイッチを用意してもらっているから」


いつの間に!?


「ね? 何の心配もないでしょう? だから安心してついていらっしゃい」


『は~い!』と返事をする前に手を引かれ歩き出されてしまった。

これじゃついていくんじゃなくて連行だよね?


「フローレンお嬢様、ポシェットを忘れてます。あとスケッチブックと色鉛筆も持っていかれるのでしょう?」

「あ! 持っていく」


エルナから手渡されたそれらを慌てて受け取る。

私たちのその様子を見て、お母さまが手を離してくれたので急いでポシェットを肩にかけてスケッチブックと色鉛筆セットを小脇に抱えた。

今度こそ準備が完了したのを確認したことで再びお母さまから手を引かれる。


「それではわたくしたちは一足先にクララットへ向かうわ。ヴェーダとエルナは後から来てちょうだい」

「「かしこまりました、奥様」」


えぇぇ~……?

側についてもらわなくて大丈夫なのかなぁ?

出る時間が昨日よりも1時間以上早いから、護衛の人も間に合ってないんじゃない??


「大丈夫よ。万が一何かあってもわたくしが華麗に撃退してみせるわ!」


……うん。

何にも心配はいらないみたい。

この状態のお母さまは、止めてもきっと止まってなんてくれないからね。

特に何もないと思うけど、仮に何者かが馬車を襲ってきたところで簡単に返り討ちにしちゃいそうだ。

それ以上にやりすぎるくらいにやってしまいそうな気さえする。

ここはお母さまが満足するまで付き合うのが賢く正しいやりかたなのである……まる、っと。


……とまぁ、そんなこんなで。

昨日の行きよりもずっと早い時間帯からお母さまと二人きり馬車に揺られ、和やかな空気の中のんびりとサンドイッチを摘んで味わいつつクララットまでの道のりを楽しんだのでした。

あっという間の30分だったよ。


もちろん何者かに襲われることもありませんでした!

……ま、とっても治安がいい地域(エリア)だからね。

もっと言うなら、催しがある関係で警備面が強化されていることも関係しているんだけれど。

まぁ『何ごともなく町に着けてよかった!』っていうのが全てだということです。







◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇







「おはよう、マイヤちゃん!」

「おはよう、エマちゃん! 今日はずいぶんと早いんだね?」

「うん。色々あって早く来ることになったんだ」

「そうなんだ? 何か用事でもあった?」

「実はね……」


……と、昨日お土産に買ったプチチジャムクレフについて思ったことをマイヤちゃんに話し、ジャム単品だけでも買えないか確認しようと思っていることを伝えた。

それと合わせて、お店の営業時間に話を聞くためだけにお邪魔するのはある種の営業妨害になりかねないから、開店よりも早い時間に訪ねて確かめるつもりだということも。


「なるほどねぇ~。中身のジャムだけを買うなんて考えたこともなかったわ」

「そうなの?」

「うん。あれはああいう商品だと思ってたからね。でも……考えてみたら、ジャムだけあればお家で色んなものにアレンジできそうだね。クッキーに載せて食べたりとか。ちょっと甘いものの気分な時はパンに塗ったりとかね」

「ジャムの種類によっては紅茶に入れてもおいしいんだよ?」

「へぇ~……オシャレな飲みかただね。それはちょっと試してみたいかも!」


話してみたらマイヤちゃんも興味津々になった。


「それじゃ、私も一緒に行く。プチジャムクレフのお店ならもう準備に入ってると思うし」

「こんなに早くから?」


ちなみに今の時間はまだ8時前だ。

それだけ私とお母さまが早く着きすぎたわけだけども。


「商品がとにかく売れるから、準備も早い段階から始めてるみたいよ? 取り扱いの種類も多いしね?」

「……確かに」

「そうと決まればさっそく行こう?」

「うん!」


……と、その前に。

マイヤちゃんに渡すものがあるのだ。


「行く前にちょっとだけ待ってくれる?」

「?」

「あのね。これ、マイヤちゃんに……」


差し出したのはエルナが作ってくれた、私と色違いのシュシュだ。


「え……?」


私が突然それを差し出したものだから、マイヤちゃんが驚きと物珍しさでシュシュをじっと見つめている。


「これ、私に……?」

「うん!」


戸惑いがちに訊ねられた言葉に元気よく返事を返す。


「あのね! 色は違うけどお揃いなんだよ?」


そう言って左手にはめたシュシュをマイヤちゃんへと見せる。

同時に距離を詰めて髪に付けたそれもよく見えるように軽く頭を下げた。


「かわいい!」

「えへへっ、ありがとう」


パッと顔を上げて笑顔でお礼を言う。

それから改めて二つ一組のシュシュをマイヤちゃんへと差し出した。


「マイヤちゃんにはブルーが似合うと思ったんだよね」


シュシュを受け取ってもらえたことでそう伝えると、マイヤちゃんの頬がほんのりと赤く染まった。


「それで、私に……?」

「うん!」

「ありがとう、エマちゃん。大事にするね?」

「できればいっぱい使ってほしいな!」

「使う……」

「うん! こんな感じ!」


……と、再び頭を軽く下げて左手も差し出してみた。


「髪のアクセサリーだけど、こうやって手にはめても便利だよ。こう……袖を捲った時にズレ落ちてこないように、シュシュで留める感じかな」

「一つで二役買ってるのね! それは便利」

「でしょ?」

「そういうことならさっそく使わせてもらうね? ついでにエマちゃんと同じようにしてもらうわ!」

「へっ?」

「母さ~ん!」


そう言うなりマイヤちゃんは奥へと引っ込んでしまった。

止める間もなかった。





「えへへ~、お待たせ~」


数分もせずにニコニコ笑顔で戻ってきたマイヤちゃんは、ポニーテール姿で髪と左手とにシュシュを付けていた。

今日の私と全く同じスタイルだ。

『エマちゃんと同じようにしてもらう』っていうのはそういう意味だったのかと今更ながら納得した。

ついでに、服装も似ている気がする。

今日のマイヤちゃんは、淡いオレンジ色したエプロンドレス風のワンピースを着ているからだ。


「見て見て、母さん! 私とエマちゃん、上から下までぜ~んぶ似たような感じ!」

「ええ、そうね」


高揚して発せられたその言葉に、マイヤちゃんのお母さんは苦笑しながら頷いていた。

私と同じポニーテールにするために引っ張り出されたんだなと分かる。

もしかしたら忙しい中で呼ばれたのかも。


「フローレンお嬢様。娘にこんなに素敵な飾りをいただいてありがとうございます」

「ううん。私がマイヤちゃんとお揃いにしたかったから。それと……クララット(ここ)ではフローレンじゃなくて、エマでお願いします」

「ふふっ。そうでしたね、エマちゃん」

「はいっ! マイヤちゃんのお母さん!」


今日の私もお忍びの町娘っ子なのだ。

そんな意味を込めた言葉はしっかりと伝わっていて、マイヤちゃんのお母さんはすぐに切り替えてくれた。

なので私も元気な女の子の『エマちゃんモード』に入りますよ、っと。


「それじゃ、母さん。私これからエマちゃんとプチジャムクレフのお店に行ってくるね?」

「お店の人のご迷惑にならないようにね?」

「分かってる! エマちゃん、行こ?」

「うん!」


どうやらマイヤちゃんは、髪の毛を結び直してもらっている間に私の目的をお母さんに話してくれていたらしい。

すんなりと許可が下りたことで、私は昨日のようにマイヤちゃんに手を引かれながら食べもの通りのリーフお兄さんのお店を目指して走った。

できるだけ開店準備の邪魔にならないようにしたいから急ごうと思って。

でも……問題はなかったみたい。

催し開始前の町中はまだまだ静かで、人の姿もちらほらと見えるくらいしか出てきていないみたいだったから。



────8時を過ぎたくらいの時間だからかな?

────逆にリーフお兄さんがいるかどうかも怪しいぞ……?



なぁんて思っていたけどそれは要らぬ心配だった。

商魂逞しいリーフお兄さんがいないはずはないよね、ってことで。


「あれ? 昨日のお嬢ちゃんたちじゃん? どしたの? 随分とまぁ早いお越しだね~? お店は10時からだよ?」


……と、明るい調子で出迎えてくれたわけです。

しかもこの時間にして既に開店準備の大半を終えているという素晴らしい仕事っぷり。


「あのね! 後でおやつに買いに来る予定だけど、リーフお兄さんに聞きたいことがあってきたの」

「聞きたいこと? いいよ、何? ちなみにオススメは全部だよ~」

「参考にならない! っていうかそれ昨日聞いた!」

「あっはははっ! 確かに昨日そういうやり取りしたね~! ちゃんと覚えてるよ。それで今日の質問は何かな、お嬢ちゃん?」

「中身のジャムだけ買うことってできる?」

「ジャムだけ欲しいの?」

「うん!」

「ん~……できないこともないけど、この出店ではちょっと無理かなぁ」

「ってことは、王都のお店のほうでしか買えないんだね」

「そうだね。メインがジャム専門店であるそっちだからなぁ……」

「分かった! それじゃ今度王都のお店のほうにジャム買いに行く! ママに連れていってもらうね?」

「あははっ。ゴメンねぇ~、融通きかなくってさ」

「ううん。ダメで元々ってやつだから。先に訊いて確かめておきたかっただけ。ありがとね、リーフお兄さん!」

「いえいえ」

「それじゃあ、後からおやつ買いに来るね? たぶんお昼過ぎ!」

「オッケー。待ってるよ」

「うん、またね~!」


サクッと用事が終わったのでマイヤちゃんのお家に戻ることにした。


「残念だったね、エマちゃん」

「うん、ちょっとだけ。元々が王都のジャム専門のお店だって言ってたから、もしかしたら……って思ったんだけどね。やっぱりダメだったみたい」

「いつの間にそんな話を聞いたの?」

「昨日マイヤちゃんたちと別行動になった時にね。ほら、困ってる男の子の話したでしょ?」

「あ~……どこかの良家のご子息っぽいって言ってた子のことね」

「うん。その男の子と一緒にリーフお兄さんのお店に行って色々聞いたんだ。お兄さんの名前もその時に教えてもらったんだよ。お店の名前は『リーフ・ドゥ・エル』っていうんだって。それでね、プチジャムクレフとは違うサイズのクレフをメニューとして出してるカフェの経営もしてるんだって言ってた」

「へぇ~……なかなかにやり手のお兄さんなんだね。専門店のジャムも気になるけど、サイズ違いのクレフを出してるっていうカフェはもっと気になるかも」

「ね? 気になるよね?」

「私も王都に出る機会があったら行ってみようかなぁ。月に一度行けたらいいほうだけど」

「マイヤちゃんのお父さんが男爵に陞爵したら王都に行く機会はいっぱいできると思うよ?」

「……そっか。貴族になるっていうのはそういうことでもあるんだ」

「あと、オンディール家(うち)にも遊びにきて? そしたら一緒にお出掛けしてカフェに行けるよ、きっと」

「わ! それ、とっても楽しそう!」

「ママに『マイヤちゃんを招待したい』って言っておくね?」

「あはっ、ありがとう。でも無理しないでね? エマちゃんの()()()()()にお呼ばれするっていうのは、普通に考えたら有り得ないことだから」


……そうなんだよね。

悲しいことに、どんなに仲良くしてても互いの立場的に気軽に会うことが難しいことは多々ある。

だからこそ、お母さまに間に入ってもらうのだ。

お母さまが認めてくれることで、よからぬ目で見てくる人たちを牽制できるからね。

『公爵夫人自らが認めている娘の友人』ならば誰も文句なんてつけようがないでしょうよ。


……ま、年齢差的にマイヤちゃんはお友だちというよりお姉ちゃんって感じなんだけどね。


「普通はそうかもしれないけど、私は普通にはしたくないな。自分が仲良くしたいと思った相手と存分に仲良くしなさい、っていうのがママの考えかただから」

「……そうだったんだ」

「うん!」

「素敵な考えかただね」

「でしょ? そういう考えかたができるママは、もっともっと素敵なんだよ?」

「本当、そうだね! リマさんはとっても素敵な人だと思う!」

「うふふ~♪」


大好きなお母さまを『素敵だ』って褒めてもらったぜ。

嬉しいな。

同じく大好きなマイヤちゃんから言われたからこそ、余計に『嬉しい』って気持ちが増してくるように感じるよ。


「エマちゃん今すっごくいい笑顔してるよ?」

「マイヤちゃんだってそうだよ?」

「ふふっ。それじゃ今の笑顔のまま、午前中のお店の手伝い頑張っちゃおっか?」

「うん!」




そうして。

二人ご機嫌な笑顔のまま、マイヤちゃんのお家に帰り。

宣言した通り最高の笑顔でお店のお手伝いに出て。

あっという間に午後の時間を迎えたのだった……─────














マイヤちゃん再び、です!

実はフローレンと同じようにするために、お母さんにお願いしてツインテからポニテに髪型を変えてもらってました(´∀`*)ウフフ


葉っぱのジャム屋さん(笑)のリーフお兄さんにも再び登場してもらいました!

マイヤちゃんと同じくリーフお兄さんも書きやすいキャラです(о´∀`о)

王都のお店に行く話はこちらの本編よりも小話のほうになるかな~?


小話のネタだけがどんどん溜まっていってちっとも消化できません(;´∀`)


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