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イマジン鬼ごっこ~最強で最弱の能力~  作者: 白井直生
第二章 犠牲と勝利
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第二章11 遠

 体育倉庫での戦いが終わり、最初に退場させた少年――タケオというらしい――とアオカの二人は、当初の計画通りここで待機することとなった。

 扉の開け閉めは彼らに任せ、中に入っていれば安全なようにという配慮だ。


 ――ちなみにタケオは本当に隅っこの方で頭を抱えてうずくまっていて、ここまでの戦いは一切見ていない。

 どうせ俺はモブなんだと凹んでいたのが主な理由だが、ミコトたちの言うことに素直に従ったということになっている。


 アオカは、元々この戦い自体には大した興味がないらしい。「アンタらがどっかで負けてくれればそれでいいや」と毒を吐きつつも、後は命が助かるのならと特に文句も無くミコトたちに従っていた。

 ツトムを消したことを、ミコトは許していないが。


 そうして、一通りの事後処理が終わった後。


「さて。――ユウ、リョウカ」


 名前を呼ばれやおら振り向く二人に、タイジュが静かに言った。


「理由、聞かせてもらうで?」


*************


 目まぐるしい戦いの中、半ば意図的に記憶の片隅に追いやっていた。

 だが、戦いが終わってしまえばすぐに誤魔化しは利かなくなる。沸々と、疑問と失望が湧き上がってくる。


 ツトムを消そうとした、ユウとリョウカ。


 あのときユウは、「言い訳は後でする」と確かに言った。

 彼なりに譲れない理由があってああしたのだと、ミコトは分かっている。意味も無く人の命を軽んじるような人物ではないと知っている。


 だが、それでも。


 ――ユウくんは、いつだって僕の憧れだった。


「――何を言っても、言い訳にしかならないけど」


 そんな思いを知ってか知らずか、ユウは静かに切り出した。


「このゲームのルールを聞いた時――俺は、無理だと思ったんだ」

「……無理?」


 静かにユウの言葉を繰り返すアカリに、彼はゆっくりと頷く。


「うん。このゲームを、誰も消さずに勝ち残ることが、さ」


 伏し目がちにそう語る姿は、ミコトの知っているユウの姿とはかけ離れていた。

 彼はいつだって正しく、賢く、静かだがブレることのない芯を持って、ミコトの前を歩いていた。


「そんな、そんなこと……ユウくんが居れば。それに、ハナちゃんも、タイジュくんもハヤミさんも。みんなが居れば、そんなこと――」

「ないって、本気でそう思ってる?」


 そんな彼の姿を信じたくなくて、縋るように言葉を紡ぐミコトを。

 ユウの乾いた言葉が、容赦なく遮った。


「このゲームのルールは分かってるだろ。チームを組んでいて、一人でも消されればその段階で敵の半分の大きさで戦うことになる。いや、実際は向こうがそれでデカくなるから四分の一だ。自分の四倍デカい敵に、どうやって鬼ごっこで勝つんだよ」


 論理的に、理知的に、彼はこの戦いの勝ち目のなさを語る。

 ミコトには、反論など思い付かない。


「それだけじゃない。最後まで勝ち残るには時間が掛かる。俺たちが戦ってる間に、他の場所でも戦いが起こる。二人組のチームが消されたら、その時点で勝ったチームは八十センチだ。四倍、八倍、十六倍……俺たちが誰も消さないとすれば、一度付いたその差が取り戻されることは無い」


 畳み掛けるようにユウは言葉を続ける。

 同じ大きさの敵と戦ってさえ、あれだけ苦戦したのだ。それがどれだけ絶望的な状況かなど、ミコトにだって容易に想像がつく。


「でも、みんなで考えて、工夫すれば……」

「それをひっくり返す作戦なんて、俺には立てられないよ。たぶん、誰にもな」


 それでも尚言い募るミコトに、ユウは目を逸らしながら吐き捨てるようにそう言った。

 そして目を逸らしたまま――


「ごめんな、ミコト。俺は……お前が思ってるような人間じゃないんだよ」


 はっきりと、ミコトの考えを否定した。

 俯く彼の姿は、ミコトの目に、ひどく小さく映った。


「そんな……違う、ユウくんは、いつだって……」

「ミコト、それ以上はアカンわ」


 埒も無いことを口ごもるミコトを、タイジュが遮った。

 その目に宿る怒りの圧力に、ミコトの言葉は押し殺される。


「ミコト、お前ちょっとユウの隣並べ」

「え、いや……」

「ええから並べ!」

「は、はい!」


 有無を言わさぬタイジュに気圧され、言う通りユウの隣に立った。

 すると、タイジュは左の肩をぐるぐると回し始める。


「歯、食いしばれや」


 静かにそう言った次の瞬間。

 立て続けに二発、ミコトを、そしてユウを殴りつけた。

 左手ではあるが全力のそれに、二人とも勢いよく倒れ込む。


「ちょ、タイジュくん! 何してるの!?」


 慌てて声を上げるアカリを他所に、タイジュは大きく息を吸い込む。そして――


「グダグダグダグダじゃかあしんじゃボケぇ!! お前ら二人とも覚悟と根性が足らんのやて! あんまガッカリさすなや、ホンマ」


 倒れたままの二人を、まとめて叱りつけた。

 あまりの声量に、横で聞いていたアカリが思わず耳を塞ぐ。


「まずユウ! お前はミコトと一緒に戦うって決めたんやろ? ほんなら最後まで同じところ目指して頑張れや!」


 指を差してがなるタイジュに、ユウは上体を起こしながら視線を向ける。

 殴られた時に唇を切ったのか、口元を手で拭いながら。


「……目指してるところは一緒だよ。優勝して、全員助ける。ただ、そのためには――」

「多少の犠牲も止むを得んってか? じゃあミコトの能力に頼らずにお前だけで目指せや」


 反論を口にしたユウの言葉を、タイジュは引き取ってぶん投げた。

 だが、その乱雑な言葉はユウに刺さったようだ。ぐっと口を噤む彼に、タイジュは更に追い打ちを掛ける。


「そうじゃないやろ。ミコトは誰も消さんって決めたんやで。どんだけキツかろうと、その覚悟を、他の誰でもないお前だけは、踏みにじったらアカンて」


 彼の言う通り、ミコトは誰も消さずに勝ち進むと、そう決めたのだ。

 結果だけを考えるのなら、ユウの考えでもいいのだろう。だがその道を進んだとき、きっとミコトたちは今のままではいられない。

 

 ――何よりも大事な言葉を、想いを。置き去りにしてしまうのだから。


「タイジュくん……」


 ――出会ったばかりなのに、何故彼はこんなにも僕たちのことを理解してくれているのだろう。

 そんな思いで、ミコトは思わず彼の名前を呟く。


「ほんでお前もお前やミコト!」

「はいぃ!」


 だがタイジュはそんなことは歯牙にもかけず、今度はミコトをビシリと指差した。

 呼ばれたミコトは思わず竦み上がり、居住まいを正すと引き攣った返事をする。


「お前はユウに甘え過ぎ。あんときの気合はどこ行ったんやて」


 タイジュが指しているのは、ミコトとタイジュの初対面の時のことだろう。

 確かにあの時、ミコトの意志と覚悟はタイジュに認められたのだ。


「自分の覚悟とか決意とか、そういう大事なもんが蔑ろにされたんやで? 怒れや! 一発ぶん殴るくらいのことしたらんかい!」


 怒れと怒るタイジュはきっと、ミコトが全力で怒ったよりも怒っている。


「いや、でも」

「でもちゃうわ! 親友が間違った道に行こうとしとるんやで? 殴ってでも止めるのが男ってもんやろ! せやろ!?」


 弱々しく言い訳しようとするミコトを、問答無用でタイジュが圧倒した。

 余りの勢いに、言葉も無くミコトはコクコクと頷く。


「――はあ。なっさけないわお前ら。お互いもっと言うこと言わんとアカンて。親友なんやろ? それをビクビク相手の顔色窺って、遠慮しまくって」


 終いには呆れたような声を上げるタイジュは、すっかり小さくなった二人にまとめて言い聞かせるように言葉を続けた。


「友達なんて、この世で一番遠慮せんでええ生きもんやろ。もっとぶつかったればええんやて」


 思えば、ミコトとユウは喧嘩らしい喧嘩をしたことがなかった。

 いくら気が合うとは言え、十年も一緒にいてこれは異常なのかもしれない。


「ほれ、いい機会やし言いたいこと全部言っとき? 特にミコト、ビシッと言ったれビシッと!」


 水を向けられたミコトはしばらく、「あー」だの「うー」だの言って口ごもった。

 ここまで来て尚煮え切らないミコトに、タイジュが苛立たしげに貧乏ゆすりを始める。


「ミコト」


 だが、タイジュが口を出す前にユウがその名を呼んだ。

 反射的に「はい」と答えるミコトをしばらく見つめ、やがて彼は訥々と語り出す。


「俺は、ずっとお前が羨ましかった。お前はいつも『ユウくんはすごい』とか言うけど、本当にすごいのはミコトの方なんだよ」


 静かに、罪を告白するような声だった。


「そんなこと……」

「あるんだよ。お前は、俺に無いものをいっぱい持ってる。そんなお前に見放されないように、見破られないように、俺はいつも必死だった」


 否定しようとするミコトの言葉を、ユウは静かに攫っていく。

 だがそんなことを言われても、ミコトには自分がユウより優れている点なんて思い付かなかった。


「誰にでも優しくて、芯は強く懐は深く、明るくてみんなの中心になるような人間。俺にとって、ミコトってそんなヤツだよ。……すごいだろ?」

「……すごいね」


 傍から聞けばどこのイケメンだというユウの中のミコトの人物像に、ミコトは『誰だそれは』とすら思いながらも、最後の言葉だけ同意した。


「だから俺は、お前の役に立とうと頑張った。――いや、これは酷い言い訳だな。結局、俺がツトムを消そうとしたのは、どこまで行っても自分のためだった」


 そこでユウは言葉を切り、おもむろに立ち上がると一歩下がる。

 そして、全員の中心に向けて深々と頭を下げた。


「悪かった。俺は俺の都合で、皆の想いを潰してしまうところだった」


 謝罪の言葉を口にした彼は、たっぷり五秒そのまま固まった。

 だがその後、「でも、」とガバリと起き上がると、


「今後もしミコトがやられそうで、俺が右手を使えば助けられるような状況になったら。俺は迷わず右手を使う」

「え……ちょ、ええ!?」


 今までの謝罪をぶち壊す発言で、ミコトを混乱の渦に叩き込んだ。


「だから――」


 無駄に混乱を示すアクションを取っているミコトに、ユウはビシリと指を差して言葉を発する。


「そうならないように、お前も頑張れ。別に急に強くなれとは言わない。ただ、俺が心配する必要がないくらい、堂々としてろ」


 ――俺が居なくても大丈夫なくらいに。

 そう締めたユウの言葉に、ミコトはしばらく声が出なかった。


 そんなの無理だとか、そんな怖い事言わないでとか、様々な思いがミコトの頭を駆け巡る。

 そしてそれらが落ち着いてようやく、ミコトは口を開いた。


「『命を大事に』、っていうのが僕たちの――三人の・・・、約束だったよね」

「……」


 ――あの日、確かに僕たちは約束したのだ。ミコトとユウ――そして、彼女は。


「この約束が、僕にとって一番大事なもの。それこそ命より大事な――って言うと、矛盾してるかな?」


 自分の言葉に疑問を浮かべるミコトに、ユウはゆるりとかぶりを振った。

 それを見てミコトは、安心して言葉を続ける。


「だから、ユウくんにも大事にしてほしいし――もし破るなら、『殴ってでも』、止めたい。いや……止めるよ」


 言葉を強調しながら引用元のタイジュをチラリと見れば、彼は満足げに頬を吊り上げる。

 それを確認してユウに向き直り、ミコトは静かに、ハッキリと言い切った。


「……さっきも言った通り、俺は全然すごくない。迷うことも、間違えることもある」


 ミコトの言葉に、ユウが口を開き言葉を返す。


「だからその時は、遠慮なくぶん殴ってくれ。俺も……お前が弱気になったり諦めたりしたら、ぶん殴ってやるから。」


 彼はそう言って、相変わらずの分かり辛い表情で笑ってみせた。


「うん。これもまた、約束だね」


 ミコトもまた微笑みを返し、右手を差し出した。

 そう、対等な二人の――ただの友達同士の約束だ。


「――これからは、ちゃんと一緒に進もう」


 ユウが前を進むのでも、ミコトが道を示すのでもない。二人で一緒に、肩なんか組んだりしながら。

 ただ一緒に、隣で歩いて進んでいくのだ。


「うん。――約束だ」


 ユウは頷いて言葉を返すと、ミコトの右手を取った。


 固く結ばれた右手は見えるが、約束は目には見えない。

 だが、確かにそこに、揺るぎなく存在していると、ミコトはそう思った。


**************


「さて、これでユウの方はカタが着いたな。にしても、もうちょいケンカになるかと思たんやけどなー」


 一件落着したミコトたちを見て、タイジュがぽんと手を叩きながらそう言った。


「って、ケンカしてほしかったの?」

「いや、その方がそれっぽいやん? でもま、これがコイツらなんやろな」


 アカリが首を傾げると、タイジュは笑いながらそう答えた。つられてアカリも笑い出す。


「っと。で、後はリョウカやな」


 が、タイジュは唐突に笑みを消すと、まだ言い訳の済んでいないもう一人――リョウカに向き直った。


「ええー……この空気でやります? なんかもう一件落着した感じじゃないですか」

「うるさい。喋れ。」


 心底居心地悪そうに顔をしかめて不満を言うリョウカは、初対面とはずいぶん印象が変わった。

 最初は人形のようだなんてミコトは思ったものだが。


「まあ……結局私もシンドウさんと一緒で、右手を使わないで勝つなんて無理だと思ってたってことです」


 タイジュの圧力に負けて喋り出したリョウカは、ユウの言葉を繰り返す。それは確かに、誰しも思うことなのだろう。


「それだけか?」


 だが、タイジュはその答に満足していないらしい。詰問する彼から目を逸らしながら、リョウカはしばし黙考する。


「それだけです。誰だって自分の命は惜しいですよね? 少しでも生き残る確率が上がるなら、他の人を犠牲にするのが普通ですよ」

「……」


 そしてその体勢のまま、彼女はそう答えた。

 タイジュがじっと睨むように見つめ続けるが、彼女は一向に目を合わせようとはしなかった。


「タイジュ。もともとハヤミさんは俺たちに協力してくれてるだけだ。その行動に文句は言えないし、信じられないならここで退場してもらうしかない。不安は残るけど、一応体育倉庫は確保できたわけだし」


 いつもの調子を取り戻したユウがタイジュを宥めるような発言をするが、彼の視線はリョウカに貼り付いたままだった。


「まあ、そうなんやけど。……もうちょいな気がするんよな」

「え、何?」


 ボソリと呟いた言葉は、誰にも届かなかった。聞き返すアカリに「何でもない」とタイジュは答える。


「だからハヤミさん、選んでくれ。このまま俺たちと一緒に戦うか、それともここで退場するか。戦うならもちろん、右手は使っちゃダメだ。……まあ、俺が言えた義理じゃないけど」


 訊ねるユウの言葉に、リョウカは目を瞑って黙考した。

 だが、次に口を開いた彼女の言葉は、答ではなかった。


「……皆さんは、どうしてほしいですか?」


 そう質問を返すリョウカの表情は、なんだか泣きそうなようにも見えた。ミコトの気のせいかもしれないが。


「はい! 私は一緒に戦ってほしい!」


 唐突に、アカリが挙手をしながら沈黙を破る。ストレートな希望に、ユウとタイジュが首を捻って怪訝な顔をする。


「だって、ハヤミさん右手を使おうとしたのあの一回だけじゃない? たぶん、元々右手を使いたくないと思ってるんだよ」


 一回怒られたら直せばいいんだよ、というアカリの言葉はまあそれなりに正しいのかもしれない。


「まあ、一番右手を使うチャンスが多かったのは確かやし、ちゃんと毎回左手を使とったな」


 タイジュもそこを思い出し、アカリに同意とまでは行かずとも、否定はしなかった。


「でしょ?」


 満足そうな笑みを浮かべるアカリに、ユウはどうしたものかと考えているようだ。


「ミコトはどう思う?」


 それでミコトに水を向けたユウは、きっとずるい。


「え? いや、僕は最初から信じてますよ?」


 だが、当のミコトはきょとんとした顔であっさりとそう言った。余りにもな即答に、ユウは思わず沈痛な面持ちを浮かべる。


「いやお前……ハヤミさんだって、一回とは言え会長を消そうとしてたんだぞ? 根拠は?」


 前半の問をミコトに、後半の問を三人に投げるユウだが、


「勘」「雰囲気」「根拠?」


 タイジュ、アカリ、ミコトの順に返ってきた回答に完全に沈黙する。

 というか、ミコトに至っては回答ですらない。


「シンドウさんは、どうですか?」


 と、そんなユウに向けてリョウカは目を向けると、真剣な面持ちで訊ねた。

 彼女の眼差しにユウも気を取り直し、少し考えてから口を開いた。


「正直、ハヤミさんの能力は欲しい。確かに今回、ハヤミさんが居なかったら勝てなかったかもしれないし。ただ、そのためにこんなしんどい道に付き合ってくれなんて俺には言えない」


 真面目に答えたユウだったが、そんな彼に対し――


「理屈っぽーい」

「ちょっと冷たいなあ」

「ご指名なんやからもっと気の利いたこと言えや」


 横から三人の心無い非難が飛んできて、ユウはちょっと傾いた。


「お前ら好き放題だな!?」


 思わずの体で言い返すユウに対して、三人は素知らぬ顔で「ねー」とか言いあっている。なんなんだ。


「いえ、何か逆に安心しました。手放しで信じられるより、そっちの方が」


 だが、その答にリョウカは満足しているようだ。

 ユウが「ほら見ろ」と言いたげな目でミコトたちを見れば、彼らは目を泳がせて聞こえない素振りをしている。もうなんか、ため息が出る。


「わかりました。私も……」


 「私も」に続く言葉は、小さすぎて誰にも聞こえなかった。不思議そうな彼らに「何でもないです」と首を振ると、


「とりあえずは、第二ゲームが終わるまでは一緒に頑張ろうと思います。その後のことは、それから考えるっていうことで」


 リョウカがそう宣言し、ミコトたちは頷きを返した。


************


 ユウとリョウカの話が一段落した後、ミコトたちは改めてこれからどうするかの話し合いをしていた。

 と言っても、『出ていって出来る限り多くの参加者を退場させる』ということですぐに結論が出たが。


「ただし、無茶はしない。俺たちが負けるのが一番ダメだから、八十センチ級相手に真正面からぶつかるのは無しだ。できれば奇襲でさっさと退場させるのが理想だな」

「せやな。ミコトかリョウカが不意を衝ければ一発勝利やし」


 ユウの言葉に、タイジュが同意を示す。

 ちなみに、便宜的にミコトたちのサイズを二十センチ級、そこから四十センチ級、八十センチ級と呼んでいる。


「運動神経ワーストツーの二人なのが辛いとこですね……」

「あ、事実だけど人から言われると結構ショック!」


 五人の運動能力は、総合的に見れば一位がユウ、アカリとタイジュは得意なベクトルが違うので同率二位と言ったところか。

 たぶんミコトが最下位になる気がするが、リョウカがどちらを底辺に据えたのかは怖くて聞くのを止めた。


「まあ、なんとかするしかない。出来るだけ補助はする」


 ユウの言葉は、やはりミコトにとって頼もしいの一言だった。だが、彼に頼りきりではいけないと自分に気合を入れ直す。


「じゃあ、行きましょうか!」


 その気合のまま、体育倉庫の扉を見据え宣言する。


「あ、でも扉どうやって開けるの?」

「ああ。あの二人のどっちかに開けてもらわないと」


 アカリの当然の疑問に、ユウが答えてタケオとアオカを呼ぶ声を上げようとした瞬間。


 ガラガラと、扉が開かれた。


「え――」


 声を漏らすリョウカの目の前。

 全員の視線がそこに向き――



 ――八十センチ級の巨人が、扉の向こうからミコトたちを見下ろしていた。

 目指す勝利がまた遠ざかっていくのを、ミコトはありありと感じた。

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