第二章7 平等ということ
生徒会長の平等院力、副会長の高風青加。
この二人のことを、ミコトは噂でしか知らない。逆に言えば、噂になるくらいの有名人ではある。
三年A組に所属し、四月に行われた生徒会の選挙でぶっちぎりの票数で当選したのがツトムだ。その彼が副会長に指名したのが、同じクラスのアオカである。
ツトムは成績優秀で品行方正、常に他者の模範となる優等生タイプだ。
いろいろなエピソードがまことしやかに囁かれているが、そのどれもが彼の絶対的な公平性を示すものだった。
そう、彼を一言で表すなら、それは『平等』だろう。
全ての人の意見や主張を余すことなく聞き届け、お互いの利益を考え私情を差し挟まず平等な結論へ導く。人の上に立つに相応しい人物だ。
対してアオカは、大人しいと言えば聞こえはいいが、ほとんど喋りもせずユウ以上のポーカーフェイス。私情以前に感情が無いのでは、なんて言われる有様である。
ただしツトムには絶対服従で、文句ひとつ言わずに何でも言うことを聞くらしい。
そんなアオカであるし、ツトムもわざわざ副会長に指名するくらいなのだから、二人の信頼関係は相当なものなのだろう。一部の女子勢から、当然の如くそういう噂も立つ程である。
その点は置くにしても、二人の関係性は自分とユウに通じるものがある、とミコトは思っていた。
優秀な頭脳を持つユウと、それに従うミコト。優れた判断を下すツトムと、彼を助けるアオカ。
勝手に親近感すら覚え、陰ながら応援していたくらいである。
ただ、それも今日という日を迎えるまでの話だった。
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左手を振り下ろす。
その動きに従って創り出した刃が弧を描き――狙いを外れ、空を切り裂く。
しかし、それで動きは終わらない。
刃が伸びて折れ曲がり、外した的を取り囲むようにぐるりと円を描く。そしてその円を一気に縮めれば、中にあった的はきれいに両断され――なかった。
「どうした、動きが鈍くなってきたぞ?」
重力を無視――否、ねじ伏せて宙に飛び上がり攻撃をかわしたツトムが声を発する。
「どうしたってそりゃアンタ、こんだけ血ぃ流したらそうなるだろ……くそっ、もうちょい戦えると思ってたんだけどな」
というか、まだ負けていないだけ頑張っている方だと思う。
勢い込んで戦い始めたユウだったが、既に体のあちこちに銃創――と言うのが正しいかわからないが――が出来ており、見るも無残な姿となっていた。
文字通りの満身創痍というやつである。
「ふむ、それもそうか。そう気を落とすな、それなりに強い方だと思うぞ。ちゃんと鍛えれば俺より強くなるだろう」
ユウの発言に納得を得たらしくフォローまで入れてくるツトムだが、その体には傷一つ付いていない。
「そりゃどうも……ていうかなんでそんな強いんだよ、アンタただの生徒会長だろ」
「そうだとも。生徒会長たるもの、己の身一つ守れなくてどうする。護身術くらい嗜むさ」
「あ、そ……」
喋っている間にも失血は続き、体力が奪われているのを感じる。
もちろん同時に治ってもいるのだが、傷の量と一部の深い傷のせいで失血のペースの方が速い。
「君の能力は、物体と自分の間に何かを創り出すとか、そんなものだろう。身体能力はそこそこだが、能力の使い方が良くない。予想の範囲を出ない動きしかしていないからだ。それでは自分より実力が上の相手には勝てんよ」
こちらの動きにアドバイスまでされては、ユウのメンツも丸潰れである。別に格闘家になりたいわけでもないし一向に構わないのだが、
「いいんすか? 喋ってばっかいると折角俺に付けた傷が全部塞がりますけど」
ユウは案外、負けず嫌いだった。
言わなくてもいい、というか自分の首を絞める発言をかまして身構える。
「いや、君は勝てない代わりに負けもしない。そういう戦い方だ。だから負かす方法を今考えているんだよ」
しかし、ツトムは乗ってこなかった。
その発言に、その挙動に、ユウは自分が動揺しているのを感じる。
そう、目的は時間稼ぎである。ここまで手傷を負う予定ではなかったので悔しいのは事実だが、今のままならそれなりに時間は稼げるつもりでいた。
「全部お見通しか、そりゃそうだよな……」
ユウは世界一頭が良い訳じゃない。当然思惑を見透かされることだってある訳で。
頭でも膂力でも勝てない相手に、どうやって勝てばいい。
――こうやって勝てばいい。
「今だ、ミコト!」
「――っ!」
突然叫びだしたユウの視線を追い、ツトムは振り返る。
――だが、そこには誰も居ない。
その瞬間を見逃さず、刃を振りかざす。
狙いは首、宣言通り容赦ゼロだ。ついでに自分が撃たれた場所でもある。
「――ふ」
声が、漏れた。
「それも想定内だ。――そして、仕掛ければ隙が生まれる」
ツトムの声を聞きながら、ユウは膝から崩れ落ちた。
自分の体のど真ん中、そこに風穴が開いている。
不意打ちを狙った嘘の叫びはあっさりと看破され、彼のノールックの狙撃が見事に的中したのだ。
「残念だな、最後の一手がそれとは――何か言い残すことは?」
倒れ伏すユウに、ツトムが歩み寄ると終わりを宣告する。
「――そう、だな。俺は、負け、だけど。あんたの相棒は、どうだ?」
開いた穴からは止めどなく血が流れ、身体はほとんど動かせそうにない。
だが生き足掻くことは止めず、身体を少しずつ動かしながら頭だけは猛烈に回転させて、少しでも時間を稼ぐ。
「ふん、最後まで下らんな。もう少しマシな奴かと思っていたが……それしかないなら、もう消えるがいい」
ツトムはユウの目の前で立ち止まると、そう言い捨てた。
そして、動けないユウに向かって右手を伸ばし――
「さ・せ・る・かあー!」
一音につき一歩で駆け抜け、跳び箱の淵から飛び出したアカリの飛び蹴りが命中した。
完全な不意打ちに、さしものツトムもモロに食らったようだ。大きくよろめき、二、三歩位置を動かされる。
「ユウくん、大丈夫!? じゃ、なさそうだね……」
ユウの方を振り返ると、アカリは焦った顔で無事を確かめる。だが彼の状態を見て、すぐに重症だと分かった。
「白……いや、おかげさまで、とりあえず、生きてるよ」
「生きてるって……ん、白?」
弱弱しい声で発されたユウの言葉は、命以外は全然無事ではないと言っているようなものだった。
血まみれの彼がどんな過酷な戦いをしてきたのかが容易に知れて、アカリは泣き出したい気持ちに駆られた。
ただし、ユウの最初の一言の意味を理解するまでである。
「……見た?」
「スカートで飛び蹴り、したら、そりゃ見えるよ……ミコトは、どうした?」
いまさらスカートを手で押さえながら、ユウをジト目で睨むアカリ。若干赤面しているのがとても良い。
そんな感想をおくびにも出さず――出す力がないだけだが――、ユウは話題を変えた。
そも、飛び出してきたのがアカリでなくミコトなら既に勝負はついていたはずだ。
「ハナちゃん、待って……ってユウくん、大丈夫!?」
今さら登ってきたミコトが、ユウを見て目を剥く。
「また遅刻かミコト……」
「いや、ハナちゃんが速いんですよ。ひょいひょい先登ってちゃうんだもんなあ」
ユウの低い声での文句に、ミコトが言い訳した。だが、二人の身体能力を考えれば当然の結果なのかもしれない。
「そろそろ、話は済んだか?」
と、ツトムの声が三人の間を割った。
「人数配分が間違っているな。アオカならともかく、俺を二人で倒せるとは思わないことだ――右手を使わないなら尚更な」
自信に満ち溢れたその声は、虚勢やこけおどしではなく実力に裏打ちされたものだ。
ユウの傷が治るまで二人が持ちこたえてくれれば勝機もあるだろうが、実際こちらの勝算はかなり低い。
更に言えば彼の発言の通り、右手を使わないということも既にバレている。
「ユウーー!!」
そう、こちらの勝算は。
戦いが進んでいるのはここだけではないのだ。
体育倉庫内いっぱいに広がるタイジュの声に、ユウはニヤリと笑う。
「こっちは終わったで!」
「――!」
続くその言葉に、ツトムが眉に皺を寄せて視線を向ける。
その隙を見逃さず、ユウは左手を地面に着くと棒を伸ばしてミコトたちに呼びかけた。
「ミコト、ハナサキ! 掴まれ!」
身体に力が入らなくとも、意識さえあれば能力は使える。血をぼたぼたと垂らしながら叫ぶユウに、二人は言葉も無くすぐに従った。
「ちっ――」
舌打ちをするツトムが小銭を取り出すより速く、三人は伸びる棒に運ばれる。
ぐったりとしたユウからは血がこぼれ続けるが、かろうじて意識を保ちながら突き進む。
跳び箱から用具棚まではかなり距離があるが、間に障害物は無い。
三人はツトムから離れ、用具棚――味方が待つ場所まで、逃走するのだった。
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「――どうですか?」
リョウカの尋ねる声に、タイジュは手で屋根を作り目を凝らす。
「んー……なんか向かってきてるっぽい?」
薄暗い体育倉庫の中で、もともとそんなに良くないタイジュの視力はかなり頼りない。
だが、おぼろげに何かが動きこちらに向かってきているのがかろうじて分かった。
「そうですか。……それにしても、本当に上手く行きましたね」
返事をしてから振り返り、リョウカが素直な感想を漏らす。
その視線の先には、微動だにしないアオカの姿があった。
「ほんまにな。もっと褒めてくれてもええんやで?」
リョウカの言葉に、タイジュはこれ以上ないドヤ顔をしてみせた。そんな彼に、思わず笑顔がこぼれる。
「はいはいすごいです流石です。……ところで、本当に見てないですよね?」
口では適当に褒めながら、内心では結構感心も感謝もしている。それは別に伝わらなくてもいいと思いつつ、最後の念押しで確認を取っておく。
「ああ見てへんよ。白やったとか全然知らんし!」
「やっぱり見てるんじゃないですか! ん、あれ? 今日は黒だった気が……」
「あ、そうなんや。おおきに」
「まさかの誘導尋問!?」
女心とデリカシーを弄ぶタイジュに、リョウカは完全に振り回されている。変態的知能犯だ。
そもそも、こんな事を気にしなくてはならなくなった――あるいは、気にしている余裕があるとも言う――原因は、タイジュの立てた作戦だ。
話は、数分前に遡る。
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タイジュの立てた作戦はシンプルだ。
「ズバリ、後ろから奇襲大作戦!」
「ネーミングセンスの欠片も無いですね」
耳をそばだてて最初に言われた一言を、リョウカはバッサリと斬り捨てた。
「辛辣! まあええわ、聞いてや」
タイジュが真面目なトーンの声を出したのに従い、リョウカも感想を引っ込め黙って続きを待つ。
「副会長は今こっちが見えてへんやろ? ただ、俺らが登って来とるのは気付いとるはず」
「まあ、そうでしょうね。向かってくる間は見えていたでしょうし想像つくと思います」
前提条件を確認するタイジュに、リョウカは肯定を返す。
「でもって、たぶん棚の柱をよじ登ってくるのも分かっとるやろ」
「というか、事実それしか方法はないですよね?」
当たり前のことを確認するタイジュに、リョウカは首を捻る。
「副会長も当然そう思っとるやろな。でも、二人の能力を上手く使えば一段くらいなら登れると思わん?」
「あ……でも……うーん、そうですか?」
タイジュの自信満々な言葉に思わず納得しかけるが、具体的な方法はまだ分からない。
尋ねるリョウカに、彼は棚の奥を指差した。
「あっちの壁際にも隙間あるやろ? 狭いけどアンタなら通れると思うんよ」
言われてそちらを見れば、確かに彼の言う通りではあるが。
「それはまあ、そうかもしれないですけど……結局どうやって登るんです?」
答になっていない答に、リョウカは更に質問を重ねる。
「そこでリョウカの能力を使うんよ。物を固定すれば足場になるやん」
事も無げに答えるタイジュに、リョウカはしばし黙考した。
ようやく具体的な方策が示されたが、それには些か問題がある。
「……確かにそうですけど、そこまで登るのが難しいです。かと言って足場が低すぎたら上に登れませんし」
『一度に能力を発動できるのは一つの物体のみ』という縛りがある以上、複数の物を固定して階段のように使うことも不可能だ。
それ以前に、この棚には都合悪く物が無かった。今固定できるものと言えばリョウカのマフラーくらいであり、高い位置に固定したそれによじ登るのはかなり難しい。
「せやな。理想で言えば、後は飛び出すだけって位置に足場作っときたいし」
それに対するタイジュの発言は、リョウカの疑念を肯定するものだった。
「じゃあ……」
どうやって、という問いを発する前に、タイジュが親指で自分を示した。
「俺の能力、『無敵』。踏まれようが蹴られようが痛くも痒くもないで?」
その発言で、ようやくリョウカにも分かった。
このタイミングでその能力を主張するということはつまり、
「タイジュさんを踏み台にして、上の足場に登れってことですね?」
「そーゆーこと! そんで足場で待機しといてもらえば、俺が柱の方から登れるやろ。副会長がこっちに気ぃ取られてるうちに後ろからドンや!」
――出来る?
と、以前の会話に戻る訳である。
そして、そこからの話は簡単だ。
タイジュの作戦通り、壁に手をついて踏ん張るタイジュをリョウカが駆け上がった。
跳び上がったところでマフラーを固定し、その上によじ登って待機する。
それを確認すると、タイジュは離れた位置の柱に移動し登り始める。
あと少しという位置まで登るとリョウカと目を合わせ一つ頷きを落とし――
「よいしょー!」
無駄な掛け声と共に一気に三段目――アオカの視界に入る。
アオカは目視と同時にピンポン玉に触れ、化け物と化したそれをけしかけてくる。
無視して駆け抜けるタイジュに、化け物が牙を突き立てる。
噛みつかれた腕ごと下にそれを叩きつければ、勢いにアオカが一歩引いたのを視界の端で捉え――
「今や!」
叫びにタイジュの視線を追おうとするアオカだが、彼の視線は彼女自身に注がれている。
戸惑う彼女の後ろからリョウカが不意に現れると――
彼女の左手がアオカの背中に触れ、その動きはピタリと止まった。
こうして、『当たればデカい作戦』は見事大当たりしたのであった。
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タイジュが成功を報せる声を発してから十秒も経たないうちに、ユウ率いる三人はそれと分かるくらいの距離まで来ていた。
「よし、これで五対一やし何とかなるやろ」
タイジュが自分の頬をペちぺちと叩きながら気合を入れなおす。
「現状だと私はあんまり戦力にならないですけど。彼女を止めてないといけないので」
「あー。まあなんとかなるやろ」
ミコトが来て彼女を退場させるまでは、アオカは能力が使えない。
ミコトたちがこちらに来ればツトムが追いかけてくるのは時間の問題で、退場させる暇があるかどうか。
そんな会話をしているうちに、何かが棚板を叩く音と微かな振動が伝わってきた。
「と、来たみたいやな――」
ミコトたちの到着を出迎えるつもりで振り返り――二人の動きと思考が、完全に停止した。
そこに居たのは、ツトムだった。
「ハッタリではなかったか。ちっ、使えない奴だ」
怒りを露わに睨み付けるその視線が向く先は、タイジュでもリョウカでもなかった。
その視線に危険なものを感じ、タイジュはリョウカとアオカの居るところまで駆け寄った。
「さて、そこでアオカが固まっているのはそこの――リョウカとか呼ばれていたか――君の能力だな」
口ではリョウカを槍玉に挙げながらも、その視線はずっと一点に注がれている。
「物体の固定――停止か? ともかく、そのまま放置していることを考えると……向こうの三人のうちの誰かか。たぶんあの背の高い男だろうな」
端的に呟く独り言は、おそらく全てを理解している言葉だ。
「なら、こうだな」
その言葉と同時に、ツトムが棚の柱に左手を着いた。
タイジュが次の行動を予測できたのは、おそらくツトムと同じ疑問を抱いていたから――そして、彼の視線の先がずっとそこから動かなかったからだろう。
次の瞬間、彼は視線の先へ――アオカの目の前へと高速移動した。
だが、同時に動いたタイジュが二人の間にかろうじて割り込んでいる。
数秒間、微かな動きで無言の攻防が行われた。ツトムが右手でタイジュに触れようとし、タイジュがそれを防ごうとする。
やがてその時間は、再び響いた棚板を叩く音によって終わりを迎えた。
ミコトたちが到着したのだ。それを合図に、ツトムが舌打ちして数歩後ろに飛び退いた。
「やはり貴様が一番厄介だな――そこを退く気はないか? 俺はソイツを消したいだけなんだが」
言いつつ顎で彼が示したのは、やはりアオカだった。
そう、彼は仲間で腹心の部下であるはずのアオカを消そうとしていたのである。
「これは一体、どういう状況……?」
睨み合うタイジュとツトムを見て、ミコトが問いを投げた。
「コイツ、副会長を消そうとしたんやて」
「え……なんで? 私たちは副会長を消すつもりはないです!」
「だろうな」
タイジュの怒りが込められた説明に、アカリが疑問の声を上げた。
だが、それを受けたツトムは事も無げにそれを理解しているという。
じゃあなんで、と尋ねる前にツトムが言葉を続けた。
「さっき『退場』とか言っていたか。それが起こった時、俺の身体が小さくなるかもしれない。負けは負けに違いないからな」
その疑問は、やはりタイジュの想像通りのものだった。
確かにルールに関してはあやふやな部分が多く、やってみないと分からないことばかりだ。
退場させられた人間のチームメイトがどうなるかは分からない。しかし、自分のチームメイトを消した場合、十中八九大きさは変わらない。
『他の参加者を一人消すたび、身体のサイズが倍になる』のだから、味方を消しても倍になるはずで、同時に『味方が一人消えると、チームメイトの身体のサイズが半分になる』。
だから、結果として元のサイズのままになるはずだ。
「だからって仲間を消すとか、頭沸いとるやろ……ずっと一緒にやってきたんやろ?」
「仲間? 使える奴だからずっと使ってきたが……コイツを仲間だと思ったことは一度も無い」
余りにも冷酷なその発言に、五人全員が言葉を失った。
「そもそも、仲間とは対等な立場のはずだろう。俺とソイツが対等? 馬鹿も休み休み言ってくれ」
畳み掛けるように、ツトムの辛辣な発言が続く。その姿は、誰にでも平等に接する生徒会長の姿とは大きくかけ離れていた。
「ああ」
と、ユウがふと消え入るような声で呟いた。その声はまるで笑っているようだ。
「アンタが平等だって言われる理由がようやく分かったよ」
「……」
その発言に、ツトムは無言で視線を送った。そして、ユウは青白い顔をニヤリと笑みの形に歪めた。
「アンタは、自分以外全ての人間を見下してるんだ。だから、誰に対しても平等に見える。――お前の遥か下の方でな」
「……そうだな。俺は誰よりも上に立つ、そうなるべき人間だ。だからこの戦いも、絶対に負けない。当然途中で退場するなんてこともあり得ない」
ユウの出した結論を、彼は静かに肯定した。
そして、最初に言っていた『信念』とやらの正体も知れた。それはひどく歪んだものだが、打ち砕けない強固さが垣間見えた。
「ジャイアンもびっくりな俺様野郎やな」
タイジュが吐き捨てるようにそう言った。
「で? その会長様は一人で五人を相手に勝つつもりなんかな。状況分かってへんのとちゃうか」
続けて煽るように放たれた言葉に、しかしツトムは欠片も動揺していない。
「ほう、五人か。一人は満身創痍でとても戦えそうにないし、もう一人は能力を発動し続けているから戦力にならないようだが」
彼の言うことは事実で、実質ツトムと戦えるのは三人、そのうち止めを刺せるのはミコトだけである。
「それに――動けないソイツを守るんだろう、貴様らは。ご苦労なことだ」
まるで虫でも見るような目つきでアオカを見遣った彼は醜悪に顔を歪め、可笑しくて仕方がないという声音を出す。
「会長……」
「なんだ、何か言いたいことでも?」
表れたツトムの本性は、どこまでも手前勝手で醜く、今までミコトが抱いていた前向きな感情を全て吹き飛ばした。
ミコトは静かに――そして激しく、怒りを燃やす。
彼はこの先、自分が誰よりも上に立つという目的のためだけに、他の全員を倒して――消してしまうつもりなのだ。
生き残るためだとか、誰かを守るためだとか、そういった人間らしい感情は一切無い。
復讐だとか、女神に願いを叶えてもらうためだとか、あるいは納得できるかもしれない理由も皆無だ。
そのために他の人を――命を蔑ろにするということを。
ミコトは、絶対に許せなかった。
だからミコトはその決意を、揺らぐことのない強い声で宣言した。
「――あなたは、ここで倒します」




