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イマジン鬼ごっこ~最強で最弱の能力~  作者: 白井直生
第一章 被害者と加害者
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第一章16 次の舞台へ

 一定間隔で四回、最後に素早く二回。扉をノックする音が響くと、中から鍵を開ける音が聞こえすぐに扉が開いた。


「おかえり。遅かったから心配し――なんか人数増えてない?」


 中から出迎えてくれた少女が、ノックの主とその周囲を見て目をぱちくりさせる。


「いやあ、ちょっといろいろありまして」


 答えたのはじゃんけんの末ノックの権利を勝ち取ったミコトである。

 いっしょに教室を出たユウとアカリがそこに並び、その少し後ろに『増えた』二人――キタネが居心地悪そうに身を小さくし、タイジュは中を覗き込もうと身を揺らしていた。


「そんなことよりほら、水と食料」

「おおー、ありがとう!」


 言いつつ両手を上げて手にした袋を見せるユウに、少女は感謝を告げると道を開けた。

 中に入ったユウに続いて、残りの四人も教室へと入る。


 タイジュを仲間として迎え入れた後、ミコトたちは当初の目的を果たすべく購買へと向かった。

 そこで食料を洗いざらい掻っ攫うと、地道な作業で大量に水分を購入し、これまた購買から拝借した袋に入れてそれらを持ってきたのだった。


 かなり時間がかかった上、重量も相当なものになったことを考えると、人手が増えていたのは正直渡りに船だった。


「キタネもタイジュもありがとな。じゃあ、キタネはここでA組の皆と一緒に待機。俺たちは、ここでまたちょっと話し合ってから体育館に向かおう」


 ユウは荷物を手近な机の上に置き、扉の鍵を閉めながら今後の動きを説明する。

 ミコトたちもそれに倣い荷物を置き、キタネを除いた4人で固まると、ユウの進行で話し合いを始めるのだった。


***************


「そう言えばさ、みんなはどうやって能力を決めたの?」


 一通りの確認が終わり、教室を出発した四人。

 その道中、警戒はしているものの誰かに出くわすこともなく、不意に質問を発したのはアカリだった。


「あ、確かにそれは気になるよね。そういうハナちゃんは、どうしてその能力に?」


 同意を示しつつ、そのまま質問を打ち返したのはミコトだ。


「あー……まあ、私はほら、もう……誰かと、いっしょに居ることしか考えてなかったからさ」


 捻り出した『誰か』という部分に、最初からミコトしか頭に無かったのはアカリだけの秘密である。


「こう、その誰かが頑張るのを応援したいっていうか、辛いことがあったら慰めてあげたいとか……そんな感じだよ。タイジュくん! タイジュくんは?」


 若干歯切れの悪い返答に、ユウがミコトから見えない位置で堪えきれずにニヤニヤするのが見えて、意識を逸らそうとアカリは唐突にタイジュに話題を振る。


「お? おお、俺か。まあ普通に、この鬼ごっこの負けパターンって、不意打ちで消されるか、捕まえられてから消されるか、ダメージ受けて動けんところを消されるかの三択やん。不意打ちは警戒するしかないから置いといて、手っ取り早いのはダメージ与える方やろ。だからそれを防ぐ能力にしたんよ」


 予想外に理知的な説明をするタイジュに、訊いたアカリも聞いていたミコトも驚きを見せる。


「え、頭いい。いやあ、すごい考えて決めてるんだなあ」

「だね、びっくり。意外だねー」

「おう失礼なやっちゃな。まあ見た目脳筋っぽいのは認めるけども!」


 二人の率直過ぎる感想に、タイジュは不満を言いつつも笑いを浮かべる。

 つられて他の三人も笑い、緊張感のない空間が出来上がる。


「いや、油断大敵。笑ってる場合じゃない」


 すぐに笑いを収め警戒を促すのは、安定のユウだ。だが、一度切れた緊張の糸はそう簡単に戻るものではない。


「で、ユウはなんでその能力にしたん? ミコトはまあなんとなく分かるからええけど」


 まだ話していないのはミコトとユウの二人である。そのうちのミコトの方を適当に片付けて、ユウに質問をタイジュが投げた。


「んー……俺はまあ、一言で言えばミコトの補助をするためだな。なんとなく能力も目的も予想してたし、拘束ができる能力がいいかなって。で、できるだけ汎用性を高くしようって考えていったらこうなった」

「いや、ユウくん僕のこと把握しすぎじゃないかなあ」

「ホントそれな、ちょっと引くわー」


 答えるユウの説明にミコトへの理解の深さが表れている。

 思わず慄くミコトに、タイジュがわざとらしい引いた顔で同調する。ちなみにアカリは喋らなかったが、不満げなジト目でユウを睨んでいた。


「まあ十年もつるんでればね。あと理由があるとすれば、そうだな……崖から落ちそうな女の子とか、助けたいじゃん」


 ニヤリと笑うユウに、タイジュが遠慮なく吹き出す。


「お前も中々妄想力豊かやな! ええと思うで!」

「いやあ、ユウくんってたまに、子供みたいなこと言うときあるよね」

「うん、なんかこの短時間でユウくんのイメージがだいぶ変わったよ」


 笑いながら大声で面白がるタイジュに、ミコトとアカリの同意の言葉が続く。

 ユウも楽しそうに笑い声を上げているところを見ると、どうもツッコミ待ちだったようである。


「まあ、妄想激しいのも子供なのも自覚してるよ。――っていうか今ハナサキ、ユウくんって言った?」


 ミコトからすれば謙遜に過ぎるその言葉を、しかしユウは本気で言っているようだった。

 そしてユウが口にした疑問は、ミコトも思ったことだ。


「うん、言った。だって、二人を『ミコトくん』と『タイジュくん』って呼んでユウくんだけ『シンドウくん』だと、なんか距離感あるなーって……だめ?」


 小首を傾げて問いかけるアカリの姿は破壊力抜群で、そんな風に言われて断る男など居るはずもなかった。

 もちろんユウも例外ではなく、彼はちょっと困ったように目を逸らす。


「まあ、いいけど」

「よかったあ、ありがとう! あ、ユウくんも好きに呼んでくれていいよ? ハナちゃんでもアカリでも」


 なんとかそれだけ答えたユウに、アカリは嬉しそうな返事と更なる要求を突き付ける。本人としてはそんなつもりはないだろうが、ユウからすれば突き付けられたと感じた、という意味で。


「じゃあ、ハナちゃんで」

「あ、そっちで呼んでくれるんだ、またもや意外! じゃあ、改めてよろしくね、ユウくん」


 悩んだ末、公認のあだ名という言い訳の立つ方を選択。響きが可愛すぎてちょっと恥ずかしいが、それはすぐに慣れるだろうと信じる。


 それを受けたアカリは満足そうに笑顔で頷くと、不意にユウの前に立ち止まると右手を差し出す。


「ん、よろしく、ハナちゃん」


 どぎまぎする内心をひた隠してその手を取り、返事をするユウ。


 ――天然ゆるふわガールじゃない。天然小悪魔ガールだ。

 意中の人間が分かりきっていて、必然的に友人枠であるはずの自分に対してこの態度で接するアカリに、ユウは思わずそんな感想を抱いた。


「おうおうなんか青春しとんなー! ってかアカリ、俺は握手してもらってないんやけど!」


 やいやい言い出すタイジュは盛大なニヤニヤ顔、完全に面白がっているようだ。

 慌てて手を離すアカリとユウは、傍から見たらラブコメ一直線である。


「いや、青春とかそんなんじゃないよ! 全然違うよ! あ、握手、握手ね! ほらタイジュくん、よろしくねー」


 焦り全開で全力否定するのがそれに拍車をかけるが、ミコトに誤解されたくないが為だというのはユウだけが理解していた。

 誤魔化すために無理矢理に握手しぶんぶん振り回すアカリに、タイジュはこれ以上は無いくらいのにやけ面だ。


「冗談やって、そんな焦らんでも。っていうか高校生なんやし、好きに青春したらええやん」

「だから違うってばー!」

「はははは、はっはっはっはっはっはっはっはっは!」


 騒がしくなったやり取りを、突然響いた高笑いが遮った。

 何事かと声の方を見れば、ミコトが腹を抱えて笑っている。


「え、どうしたのミコトくん、何がそんなに可笑しかったの? っていうか大丈夫?」


 笑いすぎて息も絶え絶えな様子のミコトに、困惑を通り越して若干怖いものを見る目つきのアカリが問いかける。


「いや、ごめん、ごめんなさい。なんかこう、急に面白く、なっちゃって」


 笑いを必死で堪え途切れ途切れな言葉で、ミコトが答える。

 その返答は不十分で、見守る三人は疑問符を継続中だ。


「いやあ、なんていうか、平和だなあ、と思って。こんな状況なのに」


 すでに命懸けの戦いを一つ乗り越えた後で、この先にも過酷な出来事が待ち受けているに違いないというのに。


 今、この瞬間は、こんなにも平和なのだ。

 その事実が可笑しくて幸せで、でもそんなことばかり言っていられないわけで。感情のキャパシティが溢れたミコトから、笑いという形でそれが表に出たのだった。


「まあ、そうだな。平和ボケとかお人好しとか、言われても仕方ないな俺たち。何しろ4人も居て、誰も攻撃的な能力も持ってないし」


 息を吐き、困ったような笑みでユウが漏らす。実際すでにキタネから一度言われており、図らずもそれが補強された形だ。


「そうだね。やっぱりダメかな? このままじゃ」


 不安げな声を上げるアカリは、基本的に力になれないという自覚があってのものだろう。

 今回だって、彼女は何もできないぶん、人一倍不安で辛かったのだ。


「いや、ええんちゃう?」


 そんな三人に、新たな仲間となったタイジュが事も無げにそう言う。

 一斉に見つめられ、タイジュはニヤリと悪そうな笑みを浮かべて言葉を続けた。


「こういうメンツで勝ち上がるのって痛快やん? 勝ち上がって、女神に『ざまあ見さらせ!』って言ったったら最高やろ」


 力強いその言葉に、ミコトは不安が晴れていくのを感じた。彼の言葉には、微塵の疑いも不安も感じられなかったから。


 改めて、タイジュと出会えた幸運を噛み締める。

 彼が居なければミコトはあの時やられていたし、こんなにも心強い仲間は、他にはそう居なかっただろう。


 気付けば、四人はもう次の舞台――体育館の前まで辿り着いていた。

 無言のままに、視線で背を押されたミコトが一歩前に出る。


「じゃあ、行きましょう!」


 ドアを開き、中に向かって一歩を踏み出す。

 大丈夫だ。後ろには優しく、温かく、そして心強い仲間が居てくれるから。



 前へ、前へと、ミコトたちは進みだした。

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