エピローグ1 命、結
「ミコトくん!」
「ユウ!」
戻ってきた二人を出迎えたのは、自分の名前を叫ぶ声と、何かがぶつかってきた軽い衝撃だった。
次いで、柔らかい感触と、優しい温もりを感じ取る。
「ハナちゃん!」
「リョウカ!」
見れば、ミコトにアカリが、ユウにリョウカが、それぞれひしと抱きついていた。
「よかった……二人とも、ちゃんと帰ってきてくれた……!」
アカリは泣きじゃくりながらミコトにかじり付いており、ミコトは宥めるように彼女の頭を撫でる。
そして、リョウカは。
「……馬鹿」
ユウの耳元で、そう呟いた。
「……うん」
ユウが静かに答えると、彼女はぎゅうっと、きつく腕に力を込める。
「どれだけ心配したと思ってるの?」
――そうか。心配、してくれたのか。
「……ごめん」
もしかしたら、ありがとうと言った方が良かったかもしれない。
でも、これは全部ユウのせいだったから、やっぱりごめんとしか言えなかった。
代わりにその気持ちを込めて、彼女の頭をゆっくりと、不器用に撫でる。
「大体、分かってるよ。ユウが何を考えてたか」
そしてリョウカはそう言いながら、自分の頭を撫でるユウの手を取って。
「……うん」
少し離れ、ユウと目を合わせた。
ユウの温もりを確かめるように、その手を頬に当てながら。
「もう、大丈夫……?」
訊ねるリョウカの目から、ぽろりと涙がこぼれた。
――ああ。俺が、リョウカを大切に思えたように。
彼女も、俺を大切に思ってくれてるんだ。
そう自覚した途端、目の前の少女が、たまらなく愛おしく思えた。
だから、ユウは手を伸ばし、彼女の涙を拭って。
「……うん。リョウカが居るから」
心から、そう言った。
「……ばか」
その言葉を聞いた途端、彼女の目からはどんどんと涙が溢れ出す。
そして、涙に濡れ、赤く上気した顔で、幸せそうにはにかんだ。
二人はもう一度、きつく抱きしめ合った。
お互いの存在を、しっかり確かめ合うように。
――そんなユウたちを。
「おい、君たち! こんなところで何してるんだ! まだ営業時間前だよ?」
突然響いた大きな声が、びくりと飛び上がらせた。
「え……!?」
驚きの余り声を漏らし、ユウは目を瞠る。
それもそのはずだ。何故なら、その声の主が――
「一体どこから入ったんだか……ほら、早く出て行きなさい。警察呼ぶよ?」
堂々とそう指図する、警備員だったのだ。
警備員。つまり、大人だ。
そして、彼だけではない。気が付けば、辺りにはざわざわと音が溢れ、従業員らしき人々が忙しなく動き回っていた。
――どういうことだ。この世界に大人は、参加者以外の人間は居ないはずだ。
ユウがそう混乱していると、
「あ……」
と、ミコトが不意に声を上げた。
「何か知ってるのか?」
ユウが声に反応して振り向くと、ミコトは大口開けた間抜けな顔で叫んだ。
「女神様のサービスって、これかあ!」
「はあ!?」
「君たち、いい加減にしなさい!」
「「「「はい、すいません!!」」」」
しっちゃかめっちゃかなやり取りをして、四人は転がるように走り出す。
かくしてミコトたちは、最後の戦いの舞台を追い出されるのだった。
*************
レオンの敷地から出て落ち着いたところで、ミコトは事の経緯を語った。
「なるほど……そういうことか。うん、ミコトの考えで合ってると思う」
話を聞いたユウにそう太鼓判を押され、ミコトも確信する。
つまり、女神の言うサービスとは。
この世界に、参加者以外の人たちもコピーしてきた、ということなのだろう。
「うん。あ、ごめんねユウくん。全部見てしまったけども」
「いや、まあ……それは別にいいよ」
よくはなさそうなユウだが、見てしまったものは仕方がない。
ミコトとしても謝るくらいしかできないので、もう一度だけ「ごめんね」と言っておく。
「ミコトさん、ユウさん!」
と、不意に呼び声がかかり、四人で声がした方を振り返る。
その声には聞き覚えがあった。少し遠くから走ってきた、その声の主は。
「ああ、やっぱり。終わったんですね」
はあはあと息を切らす、ツカサだった。彼が疲れている様子を初めて見て、ああやっぱり彼もただの高校生なんだな、と今更ながら実感する。
「はい。全部、終わりました」
ミコトがにこやかにそう答えると、ツカサもにこりと笑顔を返す。
「もう少し、ここから離れた方がいいですね。すごい騒ぎですよ。何しろ高校生が六十四人も開店前の施設に入り込んでたんですから。それにほら、連絡通路も」
「あー……」
そう言えば連絡通路は、破壊されて瓦礫の山になっていた。それをやったのが自分とユウだと思い出し、ミコトは若干青ざめた。
「でも、見てください」
言いつつ、彼は自分の後ろを手で指し示す。
そちらに視線を向ければ――
「ちゃんと全員、揃ってますよ」
ツカサの後ろに付いてきていたのは、どうやら第五ゲームの参加者たちだった。
ミコトたちが知っているのは、ツカサを含めてそのうちの七人だけ。
しかし、ツカサがそう言うのなら間違いない。
「みんな、ちゃんと戻ってきました。――貴方たちのお陰で」
ユウが、女神に願ったこと。
それは間違いなく――
「あ……電話だ」
と、不意にミコトのケータイが鳴り出した。
取り出して画面を見れば、クラスメートの一人からだ。
ミコトはユウと、アカリと、リョウカと目を合わせると、頷いて通話ボタンを押す。
「……もしもし」
『ミコトーー!!』
「タ……」
すると、電話口から聞こえてきたのは。
とても大きな、そしてやはり聞き覚えのある声。
「タイジュくん!?」
『おう、バッチリ生き返ったで! やったんやな、ミコト!』
第二ゲームで消されてしまった、ミコトたちの大切な仲間。
ナカタタイジュその人が、元気一杯な大声で、電話越しに喋っていた。
「ああ、よかった、タイジュくん……!」
『そらこっちの台詞やて。ホンマようやってくれたわ、お前ら!』
タイジュと喜びを分かち合うミコトを、ユウたちも嬉しそうに見守っていた。
四人で笑顔を交換し、実感する。
――ああ、本当に。消えた人たちは、戻ってきたんだ。
『あ、あとな。アカリと変わってもらえる?』
「え、ハナちゃん? いいけど……」
唐突な名指しに、ミコトは戸惑いながらもアカリに電話を譲る。
アカリもまた不思議そうな顔をしながら電話を受け取ると、おそるおそる耳に当てた。
「もしもし……?」
『あ――ハナちゃん?』
すると聞こえてきたのは、タイジュの太い大きな声ではなく。
細くて小さな、高い女の子の声で――
「エリちゃん!?」
一度命を落としたはずの、アカリの友達の声だった。
『このゲームを通して、失われた命』。
ユウの掛けた願いはしっかりと、彼女を生き返らせることにも成功していたようだ。
全員が再び顔を見合わせ、その事実に喜びを分かち合う。
『うん。私もちゃんと、生き返れたよ。本当に、ありがとう』
「よかった……本当に、よかった……」
彼女の声を聞き、アカリの目には涙が滲んだ。
その肩を叩いて、ミコトは微笑む。するとアカリも、泣きながらニッコリと笑った。
『……すまない、積もる話もあるだろうけど。まず君たち、今どこに居る? 帰ってこれるのか?』
「あ……先生……」
再びミコトが電話を耳に当てたときに聞こえてきたのは、ミコトたちの担任、タナカの声だった。
そう言えば、彼もまた消された人間のうちの一人だ。しかも、現状では事情を知る数少ない大人。
「えっと……今、埼玉です……」
『はあ!?』
この後ミコトたちは、彼に迎えに来てもらって学校へと帰還を果たす。
やっぱりただの高校生のミコトたちは、大人の助けを借りてようやく、ハッピーエンドを迎えるのだった。
*************
「じゃあリョウカ。悪いけど、明日までよろしく頼むな」
身支度を整えながら、ユウはそう言った。場所は玄関先、正に今から家を出ようというところだ。
「はいはい。不自由な妻を差し置いて、良いご身分ですこと」
それを手伝いながら、リョウカが不満げな声でそう答える。
「そう言うなよ。年に一回のことなんだからさ」
「冗談だよ、分かってる」
ユウが困った顔で言い訳すると、リョウカはそう言ってクスリと笑った。
「今日だけは、浮気以外の全部許してあげる」
「はは、そりゃどうも」
「でも、できるだけ早く帰ってきてね」
「うん、分かってる」
そんな他愛もない、微笑ましいやり取りをしている間に、ユウの準備が完了する。
「じゃあ、行ってきます」
「行ってらっしゃい、気を付けてね。ミコトによろしく」
最後にそう言葉を交わして、ユウは家を出た。
「あれから、十年か――」
季節は秋。色付いた木々を横目に見ながら、ユウはせかせかと歩き出した。ゆっくり景色を見ながら歩きたいところだが、生憎と電車は待ってくれない。
あれからおよそ十年。そして今日は、あの日から丁度十五年目。
「ミコト、元気にしてるかな――いや、アイツはどうせ元気か」
そんなことを一人呟きながら、ユウは駅へと急いだ。
*************
新幹線でおよそ二時間。そこから電車で三十分くらい。
辿り着いた駅から出ると、そこには見覚えのある車が既に停まっていた。
「ユウくん! 久しぶり!」
「おう、ミコト。出迎えありがとな」
車の窓を開けて呼びかけてくるミコトに、ユウは答えながら歩み寄る。
慣れた様子で後部座席にスーツケースを押し込むと、助手席に座って一息。
「じゃ、行こうか。よろしく」
「はーい。じゃ、行きますよ」
短いやり取りの後、ミコトは車を発進させた。
「いやあ、どうですか、最近は」
「どうですかって、曖昧だな。例えば?」
「うーん、お仕事とか?」
「仕事か。うん、忙しいけど、頑張ってるよ」
「お医者さんかあ、すごいなあ。ユウくん、頭良かったもんね」
「ミコト、それ毎年言ってるな。まあ、まだまだ見習いだけど」
ユウは大学の医学部に進学した後、晴れて医者になった。
医者を目指した理由は単純で、瑞生のような子供たちを助けたかったから。心臓外科医を目指して、目下修行中の身である。
「目指せブラックジャック、だね」
「はは、そうだな。で、そっちこそ仕事はどうなんだよ、社長サマ」
「いやあ、はは。皆さんのお蔭で、なんとかやってますよ」
「そう言えばこの前、ビジネス雑誌に載ってたよな。『今一番勢いのあるベンチャー企業』って」
ミコトはなんと、ベンチャー企業の社長になっていた。
「とにかく誰かの役に立ちたい」という意思から、業種に囚われず、日用品の販売から娯楽の提供まで手広くやっていて、顧客のニーズにフィットする提案を次から次へと出し、大躍進を遂げている。
ミコトに「人を惹きつける才能がある」というのは何となく分かっていたことだったが、大人になってもそれは変わらず、むしろどんどんと仲間を増やしていた。
それが高じて、いつの間にやらこんな事態になっていた訳だ。
「いやはや、お恥ずかしい。そんな大層なものじゃないんですけどねぇ」
「中々カッコよく写ってたよ。タイジュの方が目立ってたけどな」
「あはは、確かに」
「あ、でもツカサは写ってなかったのな。実質ナンバーツーだろ?」
「ああ、ツカサくんはねぇ。『僕はそういうのは結構です。タイジュさん辺りに任せておけばいいでしょう』って」
「はは、言いそう。まあ、適材適所か」
「そうだねぇ」
タイジュもツカサも、なんとミコトの下で働いている。
サダユキやヨリミチなんかも仕事上付き合いがあるらしいが、あの時の出会いを無駄にしないのは、なんとも強かなことだな、なんてユウは思う。
そんな風に近況報告をしている内に、車は目的地へと辿り着いていた。
「……よし、行くか」
少しだけ黙り込んだ後、ユウの言葉を合図に二人は車を降りる。
その後も言葉少なに、目的地に向けて歩みを進めた。
「……来たよ、瑞生ちゃん」
やがて辿り着いたのは、お墓だった。
眠っているのは、瑞生。
今日は、瑞生の命日だった。
と言っても、正式な命日ではない。二人にとっての、彼女の命日――ミコトとユウが、最後に彼女と言葉を交わした日だ。
「早いもんだよな。十五年だってさ。ミコトなんか二十七歳だよ、アラサーだアラサー」
「ユウくんだって二十六でしょ」
「その一歳の差は大きい」
「うーん、その感覚、残念ながらちょっと分かるなあ……」
いつもの調子で会話をしながら、二人はテキパキと体を動かす。
墓石に水をかけ、花には水を遣り、線香を準備する。
「ま、俺たちは相変わらずこんな感じだよ」
「うんうん。ちゃんと日々、楽しく生きてます」
そう言って線香を上げると、目を瞑ってしばらく黙り込む。
――瑞生が居たから。
俺たちは今、こうしてこの世界で生きてるよ。
ユウは心の中で、彼女にそう話しかけた。
瑞生の願いがあったから、ミコトは戦って。
ユウが願いを叶え、コピーに過ぎなかったこの世界は、元の世界と違う道を歩んでいるのだ。
――世界を一つ救ったなんて、すごいな。
この世界が、彼女の生きた証。
そう思えば、この世界の命全てが、愛しく思える。
――そうそう、それから……
「よし!」
「……ミコト。お参りが終わった瞬間に気合の声出す癖、直す気はない?」
最後の報告にミコトの声が重なり、ユウは苦笑いしながら苦情を申し立てた。
「いやあ、ごめんなさい」
「ま、いいけどさ」
それも、彼らしくて微笑ましい限りだ。
――また来年な。
最後に心の中でそう挨拶をして。
「……よし! じゃ、飲みに行きますか!」
「そうですね!」
曇りない笑顔を浮かべて、二人は歩き出した。
*************
場所は変わり、地元の小さな居酒屋。
毎年この日、墓参りをした後二人で飲むのが、二十歳を過ぎてからの定番となっていた。
「え、ユウキさんに会ったの?」
「うん。この前、試合でこっちに来てたんだよ。丁度非番だったから試合も観てきた」
「おおー。どうだった?」
ユウキは相変わらず剣道をやっている。
仕事も普通にバリバリこなしながら、各地の大会で勇名を馳せているらしい。
「どうもこうも、圧倒的過ぎてただ見惚れるしかなったな。手に汗握る、なんてことは皆無」
「あはは、やっぱり無敵だねぇ。当たり前のように日本一だもんね」
「本当に。今じゃ、エクスカリバーがあっても勝てる気がしないよ」
「だねぇ。いやあ、公私共に順調って感じですな。お子さん生まれたんでしょ?」
「ああ。写真もらったけど見る?」
「もちろん!」
「ほら。やっぱりって言うか、ですよねって言うか。めちゃくちゃ可愛いよな」
「うわあー! 理想的な赤ちゃん、って感じ!」
「なんだそれ、いや分からんでもないけども。まあ、あの二人から生まれた子供が可愛くない訳ないわな」
「美男美女だもんねぇ。マレイさんも元気かな?」
「育児は大変らしいけど、相変わらずみたいだよ」
「そっかそっか、よかった」
話しては飲み、飲んでは話し。二人ともそれぞれに忙しくしていて、会うのが一年に一回では話題はとても尽きない。
ユウはグラスを片手に、話を続ける。
「子供と言えば。カシワデ家もそろそろだよな」
「あ、はい、ありがたいことに。もう九ヶ月ですねぇ。流石にアカリちゃんも気軽に出かけられなくて、今日はお留守番してもらってます」
「本当にもうすぐじゃん。楽しみだな」
アカリが妊娠した、という報せはだいぶ前に受け取っていた。
離れていても気軽にメッセージがやり取りできるのだから、便利な世の中である。
「いやあ、本当に。でも――」
ミコトは照れくさそうに笑いながら、そこで言葉を切り――
「ユウくんだって、ね?」
そう言って、ユウに水を向けた。
そうなのである。シンドウ家――ユウとリョウカの間にも、新しい命が生まれるのだ。
「うん。今日も、本当は一緒に来たかったんだけどな。流石にこっちも遠出はきつくて」
「そっちはどれくらいだったっけ?」
「七ヶ月くらいだな」
「おおー。お互いめでたいですなぁ」
「はは、そうだな。その分大変になるけど」
「今、リョウカちゃんは向こうで一人? それは大変かも……」
「いや……あの人が手伝ってくれてるよ」
と、ユウはグラスを持ったまま、点けっ放しになっている居酒屋のテレビを顎で示す。
見れば何とも丁度良く、話題にしたかった人物が映っていたのだ。
「おー、ウタネちゃん! 二人もすごいよねぇ。武道館単独ライブとか」
「そうだよなあ。そのうちの一人、俺の嫁なんだよなあ」
「お、惚気ますねぇ!」
「はは、自慢の嫁ですどうも」
ウタネはその後、本当に歌手になった。五年以上、ひたすらに努力を重ねた彼女は立派なものだった。
そして約束通り、リョウカはウタネの歌を聴きに行き、そこから共に歌手を目指すことにしたのだ。
そして、念願叶って二人組で活動を始めたのが二年前の春。
もともとのウタネの人気もあり瞬く間に脚光を浴びた二人は、丁度一年ほど前に、武道館での単独ライブまで漕ぎ着けたのだった。
「でも実際、申し訳ないんだけどな。人気絶頂のタイミングで活動休止だから」
今はリョウカが妊娠により活動休止中で、ウタネはソロで活動する傍ら、よくリョウカの面倒を見に来てくれる。
ユウとしては、二人の活動の足を引っ張っている感覚があって何とも居たたまれないのだ。
「いやあ、でも幸せなことだと思うよ。リョウカちゃんもウタネちゃんも、喜んでるでしょ?」
「それはまあ、もちろん。でも、もう少しタイミングとか考えても良かったかなって」
「いやあ、あの二人の人気が衰えるのを待ってたら、あっという間におじいちゃんになっちゃうと思いますよ。だからむしろ、今のうちでよかったんじゃないかなあ」
「はは、そうかもな」
ミコトのフォローをありがたく受け取って、ユウは微笑む。
彼がそう言うのなら、そういうことにしておこう。
「いやあ、父親かあ。実感湧かないなあ……」
「うん、そうだな……」
ミコトがしんみりと呟いた台詞に、ユウも激しく同意だ。
やっぱりこういうのは、実際に生まれてから実感するものなのだろう。
「でもね、子供が出来たって分かった時、一つ思ったんですよ」
「ん、何?」
と、ミコトがそう言を翻し。
ユウが訊き返すと、ミコトはゆっくりと微笑んで、こう言った。
「『命を大切にする』。それって、一番はさ。命を繋いでいく、ってことなんじゃないかなあ」
――命は大切だ。そしてそれは、限りがあるからだ。
それが、瑞生が教えてくれたこと。
でも、そうだ。
一つの命には、必ず終わりが来るけれど。
『命』は、『結』ばれ。そして繋がっていくのだ。
「……そうだな」
瑞生との約束、瑞生の願い。
彼女が救ったこの世界で、それはずっと続いていく。
「――そう言えばさ」
そして、ユウはふと思い出す。
願い、と言えば。
「お前が女神に叶えてもらった願いって、結局何だったんだよ」
イマジン鬼ごっこが終わる時。ミコトも一つ、女神に願いを叶えてもらったらしい。
しかしそれが何なのか、ミコトはずっと教えてくれなかったのだ。
「ああ、うん。それはね」
問われたミコトは、急に真面目な表情を作る。
ごくり、と唾を飲み込み、ユウが待ち構えていると――
「――内緒!」
破顔一笑。
散々勿体付けておいて、結局ミコトはそう言った。
「おま……なんでだよ!」
「なんでもだよー。ほらほら、飲みましょ」
「ったく……ここ、お前の奢りな。儲かってんだろ」
「いや、それとこれとは話が別でしょう!」
ミコトが願ったこと。
――それはね、ユウくん。