[注意書]ただしイケメンに限る
いきなりだが、俺は世間一般ではイケメンと呼ばれる類いの人間であると自負している。十人いれば九人は振り向くレベルだろう。
そのおかげか、俺はいままで生きてきた十六年間、一度も気持ち悪がられたことがない。むしろチヤホヤされている。そして俺は、ある仮説をたてた。
それは……イケメンは基本何をしても許されてしまうのではないか、ということだ。
この仮説が正しければ、俺は人生の勝ち組街道を更に自信をもって歩めるだろう。では、世の中でよく『ただしイケメンに限る』と言われるようなことを実践し、検証をしよう。
第一の検証は『ラッキースケベ』だ。
『ラッキースケベ』とは、事故に見せかけ、女子の胸や股にさわる卑劣な行為のことだ。これは、イケメンでも中途イケメンだと、危険になってしまうと考えられる、俺でも多少のリスクを負う行為だ。
だが、俺のイケメンパワーがあれば、この程度、向こうを惚れさせて終わらせてやれる。
まずは、比較対象としてブサメンををけしかけてやろう。たしか、名前は滑松だったか。正体がばれないように、こっそりと話しかける。
「隣のクラスの亜子ちゃん、実はラッキースケベされるのが好きらしいぜ。滑松でも、喜ぶかもしれないよ」
さっそくやりに行ったようだ。俺のイケメンパワーにかかれば、この程度造作もない。顔など見られなくとも、俺はイケメンなのだ。
追い付いて、物陰からこっそりと見る。お、これはこれは……
滑松がものすごく罵倒されている。俺がけしかけたとはいえ、悲しいものよ。
「変態っ!気持ち悪いっ!くんな!くたばれ!」
「すっ……すみません!」
「あんた誰?学校に突き出すわよ!」
「あ、あああれは事故だったんです!だからどうかお許しください!」
こええ……っていうかあんな鼻息荒くしてりゃあそうなるわな。もっと華麗にやればよかったというものを……やれやれ。仕方がない、俺が手本というものを見せてやろう。
ちょうどいいところに同じクラスの愛子ちゃんが来た。まずは、自然体で近づいて……
「うわぁ!」
「きゃっ!」
とまあこんな風に倒れこんで胸をつかむ。なぜ胸をわざわざつかむのか。これは、ラッキースケベをする上で、もっとも自然にやれるのが胸をつかむという行為だからである。レベルが上がればべつだが、今の俺にはこれが一番よいのだ。
「ごめんよ、愛子ちゃん……大丈夫?怪我はない?」
「う、うん……大丈夫。ありがとう、流斗くん。でも、どうして私の名前を?」
「ああ、そのことかい?それはね……僕は校内のかわいい子んお名前は覚えるようにしてるからだよ」
「そ、そんなかわいいだなんて。私はそんな……」
「いや、君はかわいいよ」
「っ……」
愛子ちゃんが頬を赤くした。これは堕ちたな。ここに至るまで、なんと簡単なことか。即落ち二コマもびっくりのレベルだ。
「か、かっこいい……私も琉斗くんみたいな人にやられたかったなー」
「え、え、あのー……許していただけたのでしょうか」
「うるさいわね、許してないし許す気もないし、ってかこっちくんな!」
「は、はいいい」
ふっ、なんと顔による扱いの違いよ。亜子ちゃんまでもが俺の虜か……モテる男はつらいぜ。ああ、イケメンって素晴らしい!
第一の検証は、俺の完全勝利で終わった。これでイケメンが何をしても許されるという仮説が一歩確かなものへと動いた。しかし、まだ絶対ではない。
さて、第一の検証が終わったから、第二の検証に移るとしよう。
第二の検証は、『女子の胸に視線を集中する』でいこう。
女は大抵自身のウィークポイントを見られるのに敏感で、しつこく見られると嫌悪感を抱くと、聞いている。では、イケメンに見られるのとなると、どう変わるだろう。やってみようじゃあないか。
とりあえず確認として、ブサメンの視線への反応を見てみるとしよう。女子をじろじろと見ているやつなんて、そこらじゅうにいるから、すぐに見つかるだろう。
見つけた。今日も津路が女子を舐め回すように見るのに精を出している。入学してから毎日毎日、よく飽きないなあ。もう一年ちょっとだぞ?
では、女子がどんな反応をしているか、観察するとしよう。ふむふむなるほど、津路の今日の標的は、加那ちゃんと沙良ちゃんか。胸がでかいな。
「ちょっとなにアイツー。じろじろと気持ち悪いんだけど。うわっ!めっちゃ興奮してる」
「ああ、津路のこと?アイツ毎日誰かをじろじろ見てるらしいよ。しかも巨乳ばっかり!ほんっとキモイよね」
すごく蔑んだ目で津路が見られている。津路では参考にならないかもしれないが、ブサメンなんてこんなものだ。では、俺がいくとしよう。流石にさっきの二人組では、津路のせいで警戒されてしまいそうだから、ホワイトな状態の女子を狙うとしよう。
ちょうどいいところに人が来た。奈希ちゃんと麻衣ちゃんの巨乳貧乳コンビか、ちょうどいいな。まずは話しかけにいくとしよう。
「奈希ちゃん、麻衣ちゃん、久しぶり。この学年に入ってからは一度も会ってないから、半年ぶりくらいかな?」
まずは胸の小ぶりな奈希ちゃんの胸を凝視する。
「んっ……そうだねえ、久しぶりだねー。……」
「琉斗くんは最近どう?」
視線に違和感を感じたかな?だが俺は攻撃を緩めないぞ。むしろ勢いをつけていく。
「最近かあ。まあ、いいことがよくあるかな。今日だって、ほら、君たちと久しぶりに話せたし」
「そ……そう?そんな風に言ってくれると嬉しいね」
「そ、そうだね。……あの……ちょ……ちょっと視線が気になるんだけど、気のせい?」
「ああ……ごめんごめん。君が魅力的すぎて思わず見ちゃっていたのかも」
おっと……林檎のようになったな。恥ずかしがっているな。奈希ちゃんがかわいすぎて忘れるところだった。麻衣ちゃんの方も攻めていかないとな。視線を移す。
「もちろん麻衣ちゃんもかわいいよ。特に……」
「と、特に?」
ここで視線をさらに強める。彼女は恥ずかしそうに胸を手で覆い隠す。
「そういうところかな」
「も、もう……大きすぎるかなって気にしてるんだからね?ほんとにエッチなんだから」
そんなことを言っても嫌がっていないことが丸わかりだ。結局イケメンならばエロい目線を送っても許されるようだな。もう第二の検証は終わりでいいか。
第三の検証は、『いきなり馴れ馴れしく話しかける』だ。
これまで検証をする相手としてきたのは、多少は面識のある人間ばかりだった。だけど、そればかりでは正確な結果が出ないことはわかりきっている。そこで、ナンパのようなことをしてしまえば正確性も上がるのではないかと俺は考えた。
しかし校内の人間は大抵が顔見知り。
というわけで外にやってきた。おっと、ちょうどフツメンがナンパをしようとしているようだ。
なかなかベテランのナンパ師みたいだ。フツメンくんは巧みな話術で女の子を引き留めようとしているが、上手くいっていない。
どうやら俺の出番みたいだ。ターゲットは、さっきフツメンくんがフラれていた女の人。サクッと捕まえに行くか。
「元気だった?向こうで一緒にお茶でもどう?」
「あ、いえ……そういうのは結構です」
「ああ、そう言わずに、ほら」
少しガードの固い女みたいだ。だけど、俺がにこりと笑いかけるだけで、ほら、少し顔を赤くしている。
「で、では……少しだけ」
「やった!ありがとう、うれしいよ」
思いのほか簡単に落ちた。俺の拙いナンパテクニックでも上手くいくとは、やはりフツメンとイケメンの間には大きな隙間があるみたいだ。
検証の結果、第一から第三まで、すべてにおいてイケメンは許された。これはもはや第四、五と検証する必要もなくなった。
さて、結論を出そう。俺は何をやっても許される、最高の人生をこれから先も歩めそうだ。
え?俺もそんな人生の道を歩みたいって?無理無理、通ろうとする前に注意書きを見なかったのか?書いてあっただろう?……ただしイケメンに限るってね。
主人公がなるべくヤバいやつだなって感じを表したかったです。書いてて途中からなんだこいつクソ野郎だなと思ったりしました。
おかしな点があれば指摘してくださるととてもありがたいです。
[注意]イケメンだからといって何をしても許されるわけではありません。今回の場合、主人公が超絶イケメンだったからなんとでもなっただけでしょう。