魅了のブローチを作ってみました!
短編「惚れ薬をつくってみたよ。」の後日談です。
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前作を読んだ方が分かりやすいですが、コレだけでも楽しめます。
私には憧れの人がいる。
麗しの美形アンドレ様だ。
アンドレ様とイチャイチャするため、惚れ薬を作った。
だが、その陰謀は主にクマによって阻止された。
クマとはもちろん本当の熊ではない。熊のような男だ。
アンドレ様に渡す予定の惚れ薬を入れた水筒も、差し入れの惚れ薬入りクッキーも食欲旺盛なクマに横から食われてしまったのだ。
しかも、何の因果がクマに交際を申し込まれた。
平凡な容姿の男爵家の三女に、引っかかるアホ、こほん、もとい、奇特な人物として学術的興味が湧いたので友人からお付き合いを始めた。
昨夜、今までの出来事をベッドでごろごろ寝転がって悶絶してるうちに、私はハッとひらめいた!
相手に飲ませようとするから失敗するのだ、自分がトリガーを持っていれば失敗することはないと!
ああ、私としたことが、目からうろこ、目が節穴、盲点であった。
私は持ちうる知識を総動員して、魅了の魔法具、魅了のブローチを作成した。
ダイヤルは3段階、
1 なんか気になるかも?
2 友達
3 恋人
だ。
ブローチにはスイッチが付いていて、ダイヤルを合わせスイッチを入れて相手の瞳を見ると魅了が発動する。
私は自分の才能がこわい。
人はやはり、欲望に駆られて進化するのだ。
最近、クマが研究室にやってくる。
私が研究してるアレコレをみせると、心底、感心している。
ついでなので、魅了のブローチも見せてやった。魔法具の仕組みも説明する。
「おお、お前すごいな」
たぶん、コレの仕組みは絶対理解してない目だったが、なんかすごい物だとは認識してるらしい。
野生の勘ってヤツだろうか?
ちょうど良いので人体実験に協力してもらうことにした。
決して自分が作った物に自信がないわけでは無い。身体が頑強なクマなら少々の事があっても大丈夫だろうと、悪いことを考えたのでは無い。たぶん違うと思う。違うんじゃないかと思う。
早速クマは演習場で魅了のブローチを使ってくれた。
しかも、いきなりダイヤルを最大だ。クマめ、思い切りの良いやつだ。男気というヤツだろうか?
私はクマの勇気ある行動に驚愕するとともに大いに感謝した。
クマの場合、馬が大勢で寄ってきた。
例の惚れ薬の後遺症か、馬を魅了したいと深層心理が働いているのかもしれない。
要研究である。
ちなみに、たくさんの馬に囲まれ、馬に髪をハムハムされクマはたいへん満足げであった。
馬のヨダレまみれの髪でやりきった男の顔をして帰ってきた。
さすが、クマやるときはやる男である。
褒め称えて感謝しておく。
**
1日目
クマの協力で無事、人体実験が成功したので、自分で使ってみることにする。
まずは、 『 ダイヤル1 なんか気になるかも? 』からだ。
なんか気になるかも?というのは、アレだ。
「あの人なんだか、気になるの。気がつくと、目で追っちゃってるの」という乙女のアレだ。
まずは、手近で学園で作動する。
研究室を抜けて薔薇園の脇を通って教室に向かっていたら、用務員のおじさんと目が合った。
「また、お前かー!」
以前、私は研究のため、心を鬼にして花壇の薔薇をむしった過去がアルのだ。
そのあとお詫びに私が作った栄養剤をまき、薔薇を怪植物化させたというちょっとした話があるが、
用務員さんに捕まり、反省文を書いたから、アレはチャラだろう。
「い、いや、今日はむしってません!」と潔白を主張したが、
「前はむしったのか!」と箒を振りかざして追いかけられた。
年齢の割に血の気の多いおじさんである。
過去にこだわる小さい男だ。
私は走って校舎に逃げ込んだ。
おじさんは年齢には勝てなかったらしく、みごとに巻いてやった。
息を切らしながら廊下を歩いていると、男子二人がいい年をして追いかけっこか、横を駆け抜けていった。
若いなあと思いつつ廊下を歩いていると、教師と目が合った。
教師はじっと私を見つめると、
「さっき廊下を走っていたのは、お前だろう!」と怒った。
「違います!」と言ったが、「じゃあ、その息が上がってるのはなんだ!」と怒られた。
その後もあっちこっちで注意をされた。
友人に服装の乱れを注意され、寮母さんに生活態度を注意された。
どうも、皆、私が気になるらしい。
平凡で目立たないということがいかに大事かということが分かった一日だった。
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2日目
今日は町で、『 ダイヤル2 友達 』を使ってみる。
この機能を使えば、町の商店でお友達価格で商品を手に入れられるのだ。
恐ろしい機能だ。
町を歩いていると酔っ払いのおじさんと目が合った。
「おう、ツレじゃねえか! 一緒に飲もう!」と酒場に連れ込まれそうになった。
酔っ払いのおじさんに腕を捕まれてもがいていると、今度は町のチンピラと目が合った。
「コラ! 酔っ払い。オレの親友に何するんだ!」とチンピラが酔っ払いから引き離してくれた。
お礼をいうと、「いいってコトよ。親友じゃねえか!」とニカッと笑った。
そのあとチンピラは真剣な目をすると「すまねえ、親友、ちょっと金貸してくれ」と金の無心をされた。
金が無いと断わると、「なにぃ、親友に金が貸せないのか」と怒られた。
なんとかやり過ごして這々(ほうほう)の体で寮に帰ると門限を過ぎていた。
寮の窓からこっそり忍び込むと、友人のメアリーが鬼の形相で立っている。
「寮母さんごまかすの大変だったからねっ! 友達だからいうけど、あんたの最近の生活態度はどうなのよっ?」と怒られた。
「いや~」とごまかし笑いすると、「そういうトコよっ!」と叱られた。
騒ぎを聞きつけてやってきたマリアに助けを求めたが、
彼女にまで、「友人だからよかれと思って言うけど」と私の性格までダメ出しされた。
メンタルがガリガリ削れた一日だった。
友達ってコワイと思った。
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3日目
今日はついに、『 ダイヤル3 恋人 』を使ってみる。
1日目と2日目の失敗を考慮して、スイッチは目標人物の前だけで入れることにした。
成功を祈る。
友人からお付き合い中のクマには悪いが、心を鬼にして魅惑のアンドレ様の前で起動する。
乙女の夢だ。生涯で一度くらいイケメンにチヤホヤされたいのだ。
私とクマの仲はまだ友人だ。浮気ではないはずだ。
一度だけだっ、クマよ、許せ。
騎士科の生徒は、放課後グランドで自主練習をする。
もちろん、アンドレ様もだ。
放課後のグランドに駆け寄る。
麗しのアンドレ様が、鍛錬で汗を流していた。
クマも見当たらない。チャンスだ。
今だ、スイッチを入れて、アンドレ様に向かって手を振って声をかけようと、
手をあげたとたん、グランドの向こうの黒い点がすごい勢いでこちらへ駆け寄ってくる。
しまった! クマだ! 目が合っちゃったよ。
慌ててスイッチを切る。
「練習を見に来てくれたのか?」クマが嬉しそうだ。
「ちがっ…」
クマが目ざとく魅了のブローチに見つけて、大きく目を見開いた。
「こんなことしなくても、俺の気持ちは全部お前のものだ」
クマの一言にドキドキする。
いや、でもクマに魅了のブローチ使ったんじゃないからねっ。
真っ赤な顔で、クマを見上げた。
「上目使いで見つめるなんて……、可愛すぎるだろう」
よくわからないことを言ってクマがにじり寄ってくる。
「すまん、我慢できない」
クマが獲物を狙う肉食獣のような目をして、私を押し倒そうとした。
――こわい。思わず、涙がぽろりとこぼれる。
クマがハッとした顔をして正気に戻った。
「すまん、俺はなんてことを! 殴ってくれ!」
せっかくなので言われるがままに、渾身の右ストレートを繰り出しておいた。
「可愛すぎるお前が悪いんだー!!!」と、頬を押さえ、よく分からない捨て台詞を残してクマは走り去っていった。
まさか、真っ昼間のたくさんの人が居るグランドで貞操の危機に陥るとは思わなかった。
恐るべし魅了のブローチ。
その日の夜、私は説明書と魅了のブローチを引き出しの奥にそっと仕舞った。
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その後、私の引き出しから魅了のブローチが盗まれ、
ヒロインという名の平民の少女が学園の上流貴族達を魅了して逆ハーレムを形成するという大事件を起こすのだが、それはまた別の話だ。
夜中に思いついて忘れないうちに書き上げたかったのですが、夜中に電気をつけると、猫とインコに怒られるので我慢しました。
飼い主なのに、ペットの猫とインコに気を遣って暮らしております...
(ちなみに、猫とインコの仲は良好です。もちろん、インコの安全に気をつけて暮らしておりますw)