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中華飯店の日常。  作者: ゆずごはん
4/19

中華飯店は忙しい。

続いて投稿ドーーーン!!!!

改ページはあきらめましたスマホのみなさまごめんなさい!!!!\(^o^)/

「ようこそ、中華飯店へ」

 出勤して、一番始めに言われた言葉がこれだった。

 特に深い意味もない歓迎の言葉だろうが、桂にとっては、とても嬉しいものだった。ようやく、受け入れてもらえたという自覚が芽生え、頑張ろうと思えた。

 そう思っていたのに――。

 

――こんなに暇で、良いのだろうか。

 

 アルバイト初日、しかも開始から30分と経たぬうちに、桂はそう思った。

 手持ち無沙汰に、店から制服として支給された緑のチャイナドレスの着崩れをチェックしてみるが、特に気になるところはない。

 さらに、髪型を気にしてみるが、学校の校則のせいで短すぎるくらいに切り揃えた前髪に、ギリギリまとめることのできない長さのおかっぱという髪型では特に整えるところはないのだ。

 

 桂は、何かすることはないだろうかと仕事を探してみるが、右も左もわからない上、黄橙からは「客が来たらお茶とおしぼり出すのをお願い」としか指示を受けていないため、勝手に動いて良いものかと迷う。

 しばらくホールで客は来ないかと待ってみるが、時刻は午前11時。

 未だに客の気配はない。

 

 ――こんなに暇で、良いのだろうか。

 

 桂はもう一度、そう思った。

 そこでふと、黄橙や店長は何をしているのかと気になり、デシャップを覗く。


 『わっしょい‼わっしょい‼』

 仕込みをしているのか、何かが大量に入っている袋の上で跳び跳ねる店長の姿が目に入った。

 そこに、たくさんの小皿を持った黄橙が近づく。

 「店長、何してるんですか?」

 『餃子用のにんにくとネギと生姜を砕いてるよ‼』

 店長の答えに、黄橙が眉をひそめる。

 「それ、本店の工場の仕事じゃありませんでした?」

 『おっさんがー、「工場の砕き方は荒いからアカン‼」って工場の子に文句言ったからー、じゃあ店でやるかーってなって、今僕がやってる。』

 「……おっさんは?」

 『米が炊けるのを炊飯器の前でかれこれ25分待機してるよ』

 「じゃあおっさんがやれよ‼店長にさせてないでよぉ‼ってか米炊けるまで他のことやれよ!?」

 黄橙が店長の言葉を聞き、普段よりかなりトーンの低い声で悪態をつく。

 桂は見てはいけないものを見たような気分になり、慌ててホールへ視線を戻した。

 

 「い、いらっしゃいませ‼」

 時刻は午後12時頃、やっと1組目の客が来店した。

 暇な時間が長すぎて、完璧に油断していた桂は慌てて出迎える。

 「3名様でしょうか?」

 「……え、2名です」

 ――なぜ数え間違えたんだ私。

 桂はあ、と思わず口にし、慌てて取り繕う。

 「す、すみませんっ、空いてるお席にどうぞ‼」

 

 幸いにも、入ってきたのは一組だけで、お茶とおしぼりを出し、注文を聞くまでは問題なくこなすことができた。

 桂は一息ついて、ハンディターミナルを閉じ、レジカウンターへと置く。

 「すみませーん」

 「えっ、あ、はい‼」

 すると、先程注文を取った客から再び呼び出しがあり、桂は慌てて客席へと向かった。

 「半ラーセット頼んだんだけど、これ、チャーハンを天津飯にってできる?」 

 「え……すみません、確認してきます‼」

 

 デシャップへ行くと、黄橙が盆組をしていた。

 「桂ちゃん、注文ちゃんと取れたね‼」

 こちらを見てニコリと笑う黄橙に、桂は慌てて尋ねる。

 「あの、半ラーセットのチャーハンを、天津飯に変更って、できませんか?」

 「無理じゃな」

 その問いに、調理場のおっさんが速答する。

 「え、なんでですか?メニューにも天津飯あるじゃないですか。作れないんですか……?」

 お客の希望を叶えたい桂は、思わず食い下がるが、おっさんはひと言、こう言った。

 「めんどい」

 「え、そんな「オイコラおっさん」

 抗議しようとした桂の言葉を遮り、先程のような低いトーンで黄橙が言う。彼女の片手には、ホールに置いてある、定食に付ける用のスープ鍋に入っていたお玉があった。

 それをおっさんへ向けて、黄橙はひと言区切る度に一振りする。

 「めんどい?てめえはここのお客か?子供か?今暇なんだろ?うん??」

 「熱い!?待て、熱い‼あっちぃ‼」

 お玉についたスープが、黄橙が振る度におっさんへと跳び、彼は悲鳴を上げる。

 ――地味に嫌な嫌がらせだなぁ……。

 桂はそう思いつつ、ポカン、と二人のやり取りを見ているしかない。

 「わーったわーった‼やる‼やったる」

 「させていただきます。だろうが‼早くしろ‼」

 おっさんへ盤若のような形相をし、黄橙は凄む。

 おっさんが慌てて調理へ戻ったところで、黄橙は桂へ笑顔を向けた。

 「大丈夫、できるよ。すぐお出しします、ってお客さんへ伝えといて。」 

 「は、はい」

 声のトーンの違いにびびりつつ、桂はお客の待つ席へと行くため、デシャップを出た。

 

 客の元へ行くと、とても驚いたような顔で見られた。

 桂はそれに内心首を傾げつつも、先程の黄橙の言葉を伝える。

 「お待たせしました、すみません、できるそうなので、すぐお出ししますね」

 「あ、えーと、すみません。……大丈夫ですか?」

 「?」

 すごく申し訳なさそうな客の態度に、桂は今度こそ首を傾げた。

 その様子に、客の男性はおずおずと答える。

 「えっと、怒鳴り声がしたので……」

 

 「ああ……えーとあれはそのー……」

 

 ――どう言い訳しよう。まさか、先輩がおっさんへキレました、とは言えない。考えろ私‼唯一の取り柄だ頑張れ頭‼


 「朝礼です‼」

 「「朝礼なの!?」」

 ――もっとまともな答えなかったのか私の頭。

 口をあんぐりと開けた客に対し、桂は頭を抱えたくなった。

 「へ、へぇ、変わった朝礼なんだなー……」

 「そだねー……」

 「し、失礼します‼ごゆっくりどうぞ‼」

 

 ――こうなったら最終手段。逃げよう。

 桂はそう考え、レジカウンターへと避難した。

 



 「ふぅー……」

 時刻は午後3時、桂がボロボロの様子で、レジカウンターでため息をついた。

 

 あの後、客が一気に入ってきたため、20近くある客席はすぐに埋まってしまったのだ。

 お茶出しとオーダーをこなしていくうちにテーブル番号も覚え、店長の指示のもと出てきた料理を運ぶことも手伝い、なんとか店内の客は0になった。

  

 「今日は売上高そこそこかな……?」

 黄橙は調理場の手伝いや洗い場、デシャップを行き来して、一番動き回っていたにも関わらず、平気そうな様子でレジの機械をいじり始めた。

 「先輩これ、毎週やってるんですか……?すごい……」

 げっそりした様子の桂に、黄橙は笑う。

 「長期休暇中は毎日……普段は毎週かな。はじめてで疲れたでしょー?」

 「毎日って、お休みは……?」

 「月1かな?」

 「すごい……」

 ――とんだブラック企業だ。

 桂は内心、悲鳴を上げた。

 

 「えっ」

 「どうしました?」

 すると、黄橙が突然レジのモニターを見て声を上げたため、桂もモニターを覗き見る。

 どうやら、売上表示の画面らしい。

 桂は画面の上へ視線を滑らせる。

 (売上レポート……?客単価平均……内税……総売上……)

 「23万……?」

 普段の売り上げを知らないため、黄橙がこの数字の何に驚いているのか、桂にはわからなかった。 

 そこへ、店長がゴトゴトと近づいてくる。

 『え!?23万!?普段なら20超えただけでもすごいのに‼3万も‼久しぶりだなぁこの数字‼ボクが最盛期の時以来だなぁ‼』

 店長が声音だけでとても喜んでいるのがわかる。

 「人が一人いるだけでこんな変わるの!?ありがとう桂ちゃん‼」

 「!?」

 突然話をふられた桂は驚く。

 「いや、私は何も「いやー‼今日は忙しかったのー‼」

 桂の言葉を遮る音量の声を出しながら、調理場からおっさんが出てくる。

 「なにしに来やがったおっさん」

 黄橙は嫌そうな態度を隠しもせず、舌打ちをした。

 店長はその横で、いつもの調子でおっさんへ訊ねた。

 『中の掃除終わった?』

 「中より外を手伝おうと思ってな。その方が効率ええじゃろう‼」

 黄橙が心底嫌そうな顔をする。

 店長はそれを知ってか知らずか、おっさんへ指示を出す。

 『なら洗い場洗ってよ。そっちのが助かる。』

 「わかった‼しかたないのぉ‼」

 店長の言葉に、おっさんは洗い場へと向かった。

 ヒロインにあるまじき微妙な顔をしていた黄橙の顔に笑顔が戻る。

 ――うわぁ、めっちゃ嬉しそう……。

 あのおっさん、と呼ばれている社員さんがよほど嫌いなんだな、と桂は思った。

 「やった‼おっさんが洗い場やってる間に店の掃除終わる‼今日は洗い場やんなくていい‼」

 喜びで飛び上がる黄橙に、桂はふと湧いた疑問を口にする。

 「洗い場専用のスタッフっていないんですか?」

 『うちはいないよー。……あー、やっぱりいるよね?どうしよう。求人にはホールスタッフとしか書いてないんだよなー。まあ書いたところで来ないだろうけど……。』

 店長が桂の質問にうむむ、と唸る。

 「ですよねー。洗い場って基本汚れ仕事だし、早々やりたがる子いないんだよねー。しかもうち、油ものご飯ものばっかだし。」

 黄橙も、渋い顔をしながら店長の言葉に頷いた。

 

 「なんなら私が――」

 洗い場やりますよ、と桂が言いかけた時、店の来客を告げるメロディが鳴る。

 黄橙が慌ててレジカウンターから出て行き、入り口にいる客へと声をかけた。

 「いらっしゃいませ‼お一人様ですか?……あれ?あなた……。」

 黄橙が客を見て声をあげる。

 

 ――先輩の知り合いだろうか?

 

 桂が客へと視線を向けると、パーカー姿にマスクをした女の子が、書類の入ったクリアファイルを持って立っていた。 

 年頃は、桂と同じくらいだろうか。

 黄橙は彼女へ親しげに話しかけた。

 「あなた、この前店の前にいた子だよね?もしかして、アルバイトの募集に

来てくれたの!?」

 人の顔を覚えることが絶望的に苦手な黄橙でも覚えられるほど、彼女は特徴的だった。 

 肩に付くほどの癖っ毛に、長い下睫毛。忘れるはずがない。 

 彼女はマスクを外し、黄橙に履歴書を渡した。

 「ここでバイトしたいんだけど。希望は洗い場で。」

 黄橙は履歴書の名前を確認する。

 「えーと、名前はみかん、ちゃん?」

 彼女――篠原 みかん(しのはら みかん)は、表情を変えることなく、頷く。

 「花粉の婚活パーティーについて、話そうと思って」

 「え゛」

 あの時の醜態を思いだし、固まる黄橙をよそに、桂が拍手をする。

 「……すごく良いタイミングですね……‼」

 『やったぁ‼』

 その横で、店長はピョンと飛び上がり、ひと言、こう言った。

 

 『ようこそ、中華飯店へ‼』

読んでいただき、誠にありがとうございました!!!!またのご来店お待ちしております!!!!

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