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中華飯店の日常。  作者: ゆずごはん
3/19

開店した中華飯店。

前からめっちゃ間が空きましたね。

安心してください、ストックはあるんです。ただスマホからの投稿つらたん(パソコンほしい)

 『問題です。アルバイトと学生の違いってなーんだ?』

 「はい?」

 時刻は午前10時。

 開店準備のためのホール掃除、メニューと箸の補充、そしてとても重要なトイレ点検など仕事を一通り終えた黄橙がデシャップに戻るなり、お馴染みのはにわ店長は唐突にこう尋ねてきた。

 黄橙は思わずきょとんとしてしまう。

 「アルバイトと学生、ですか?」

 『そうそう』

 「稼いでるか稼いでないかじゃないんですか?」

 ほぼ当てずっぽうな黄橙の答えに、店長は土器の体全身を使い、ゴトンと頷いた。

 『うんそうだね!』

 「あ、そうなんだ……なんでこんなこと聞くんです?」

 黄橙の問いかけに、店長は元気よく答える。

 『就職面接とかでよく聞かれるワードなんだよこれ!』

 「はぁ」

 『ボクね、思うんだ。』

 「なんですか急に」

 唐突に話が変わったが、いつものことなので黄橙は慣れた様子で言葉を返す。

 『企業面接はともかくさ、アルバイト面接で、「どうしてこの企業を選んだんですか」って質問どう思う?』

 「はぁ……別にどうも思いませんが」

 『思うんだよボクは‼』

 「床が傷つくので暴れないで下さい。」

 ゴンゴンと跳び跳ねる店長へ、黄橙は冷静に突っ込む。

 『企業ならわかるよ‼なんでこの会社入りたいのか、って質問‼でもね、アルバイトで聞くっておかしくない‼そんなもん「遊ぶ金ほしさ」に決まってるでしょ‼‼なぜ‼わざわざ‼聞くの‼』

 「店長アルバイト面接になんかトラウマでもあるんですか?」

  

 ――閑話休題――

 

 『そういえば黄橙ちゃん。高校って、基本校則でアルバイト禁止されてるけど、アルバイトはしといた方が良い、とか言う矛盾した言葉聞いたことない?』

 「え?……あ!あります。」

 『あれなんでだと思う?』

 「え?」

 黄橙は、今度は少し考え、自信なさげに答える。

 「社会勉強のため、とかですか?」

 『そう!じゃあその社会勉強とは?』

 「えー……」

 店長の質問に黄橙は少し詰まる。

 

 ――ぶっちゃけ、そこまで考えてアルバイトをしていなかったのだ。

 

 「コミュニケーション力が上がる……とかですか?」

 『少し正解!』

 店長はうむうむ、と満足げに言った。

 「……じゃあ、完璧な答えはなんなんですか?」

 考えることに疲れた黄橙は、素直に答えを求める。

 店長はアルバイト面接用に用意した、白紙の履歴書を広げた。

 『アルバイトってさ、給料が発生するでしょ?』

 珍しく真面目な店長の声に、黄橙は思わず背筋を伸ばした。

 「……そうですね。うちの店は確か、時給が900円からでしたね。」

 黄橙の言葉に店長はゴトン、と頷く。

 『つまり僕ら企業は、君たちの提供してくれる時間を買わせてもらってることになる。そして提供してる君たちには、その報酬に見合った働きをする義務がある。そこで、〈責任〉ってものが生まれる。』

 「そうですね。それが雇われる、ってことですね。……それが社会勉強?」

 店長はまたも頷く。

 『つまり、責任が発生するってことは、君たちはただの学生じゃなくて、その店の従業員ってことになる。』

 話が見えなくなってきた黄橙を差し置いて、店長は真面目なトーンで話を続ける。

 『従業員ってことは、最低限のルールを守らないといけない。シフト通り出てこられるか、遅刻の場合きちんと連絡できるか、ミスをきちんと報告できるかが重要なんだ』

 「ごく普通の簡単なことじゃないですか」

 黄橙が何を当たり前のことを、と胡乱げな視線を向けると、店長はいつものトーンでゴトゴトと横に揺れた。

 『簡単なことが一番難しいんだよ!かの千●休もそう言ってるし‼』

 「知りませんよそんな逸話。」

 店長はピタリと動きを止めて咳払いを1つし、再び真面目なトーンで話を続ける。

 『そのごく当たり前のことが、社会人ですらできていないこともある。それを、学生のうちに練習するんだ。それがアルバイトの意味。幸い、アルバイトなら責任と言ってもそこまで重くはない。……いい練習場でしょ?』

 「……そうですね。」

 なにを難しいことを言い出すのだろうこのはにわは、と黄橙は思った。

 そこで店長は空洞の目を天井へ向け、言った。

 

 『僕はね、この店をアルバイトを通して、学生達が社会へ出ても恥ずかしくないように、最低限のことを学ぶことに利用してほしいんだ』

 「……店長……アルバイトを雇うのに、そこまで考えてたんですか……?」

 

 その言葉に黄橙が感動していると、店長が唐突に声のトーンを上げた。

 

 『だからみんなバイトしようよ‼」

 「あ、結局そこなんですね。」

 ――そうだった、このはにわがそんな人のためとか考えるわけがなかった。

 

 ――閑話休題その2――

 

 デシャップの掃除をしながら、今日の予約や注文をを確認していると、2時半からの面接が目についた。

「そう言えば今日、アルバイトの面接来ますよ」

 『あ、昨日言ってたやつだね。2時半からだよね!女の子だっけ。しかもテスト期間ってことは、高校生かな、はにわ店長すごく楽しみ』

 「店長が面接なんかしたら高校生腰抜かしますよ。」

 黄橙はそう言いつつ、アルコールで台を吹く。

 店長はブー!と声を上げ、ゴトゴトと横に揺れた。

 『どっちにしろボクと仕事するんだから面接しなきゃダメなの!ボクは店長だぞ!』

 「はいはい、ポルターガイストごっこは止めて、こっちに退いてくださいねー?」

 店長はひょい、と黄橙に持ち上げられ、すでに拭き終わった台に移動させられる。

 その後しばらくブーイングの真似事をしていたが、黄橙が相手にしないことがわかったのか、突然ピタリと動きを止めた。

 『ところでさっきの話の続きなんだけどさ』

 ――まだその話続くのか。閑話休題しただろうが。

 黄橙はそう思いつつも店長の方は見ず、拭き掃除を続けながら相槌を打つ。

 こびりついた米粒が中々とれないのだ。

 「またアルバイトの募集についてですか?さっきの考え方はすばらしいですけど、バイ●ルの求人じゃ狭すぎて入りませんよ、あの説明。」

 ゴシゴシゴシとスポンジで擦るが、中々しぶとい米粒に黄橙は舌打ちをしたくなる。

 『違う違う。採用について』

 「え?」

 黄橙は店長の予想外の言葉に、思わずふり返る。

 その勢いで、彼女のお団子ヘアを飾る青いリボンが、ひらりと翻った。

 ……ついでに、全力で擦っていた米粒も綺麗に剥がれたのだが、黄橙の関心はもう米粒から離れていた。

 「採用って、面接で落とすかどうかですよね」

 『そう。面接の代理を頼んどいて申し訳ないけど、面接では基本的に学生を落とさないでほしいんだ。』

 店長の申し出に黄橙は眉をひそめた。

 「確かに、うちは人を選んでいられるほど余裕はないですけど、さすがにあんまりアレだと落とした方が良いと思いますよ、私」

 『なら、試用期間を設ける』

 黄橙の言葉に、店長はまたも珍しい、真剣な声で言い放つ。

 「……研修、ってことですか」

 黄橙はさらに眉間に皺を寄せた。

 店長は頷くと、さらに真剣な声で話を続けた。

 『さっきボクが言ったでしょ?この店を学生の練習場にしたいって』

 「本気だったんですか」

 ――さっきの流れからして、正直冗談だと思っていた。

 黄橙は掃除をしていた布巾とスポンジを置き、店長へ体を向ける。

 「どういう風の吹きまわしですか?練習場、なんて」

 黄橙の問いに、店長は声のトーンを戻さずに答える。

 『ふと、学生の成長力に興味が出たんだ。黄橙ちゃんだって、今の実力になるまで2年はかかったでしょ?』 

 そう言われ黄橙は、うっ、と詰まった。

 ――その通りだ。はじめから仕事ができる人間なんていない。むしろ、プロならともかく、面接官としては素人以下の自分では第一印象でその成長力が測れるわけがないのだ。

 黄橙は深くため息を吐いた。

 

 「わかりました。ちなみに、使用期間で何を判断するんですか?」

 

 『それはね――』

 「……え……?」

 店長の言葉に、黄橙は目を見開いた。

 


 「……ったく、店長もなに考えてるんだか……」

 いつもよりは少し弱めのピークを終え、店の前の観葉植物の枯れ葉を掃除しながら悪態をつく。

 今日は日差しも良く、まだ夏が抜けきらないが秋らしさのある、過ごしやすい気候だった。しかし、黄橙はこの季節が苦手だった。

 

 「……ぅえっくしょい‼‼」

 

 何故なら彼女は、秋に花粉症を発症するからだ。

 黄橙は思わず駄々をこねる。

 「ぅー‼なんで花粉の婚活パーリィーに私ら人間様が巻き込まれるの!?植物までいちゃつきやがって‼ちくしょう‼バイトみんな来いよおおおおお‼花粉症についてこの黄橙と語ろうよおおお……あ。」

 この飲食店通りはピークを過ぎると、人通りがまったく無くなる。

 だから、誰もいないと思っての叫びだったのだ。

 「「…………」」

 しかし、その日は、いた。

 フード付きのパーカーにスエットというラフな格好をした女の子が、こちらをじっと見ていた。

 「……あ、えと、どーもー」

 黄橙は慌てて取り繕おうとしたが、スエット少女はこちらと目が合うと、吹き出した。

 「花粉の……婚活パーリィー……ふふっ……なにそれ……」

 (めっちゃ笑われてる。あー、これ全部聞かれてたわ。よし、死のう。)

 黄橙が死を決意していると、スエット少女は笑いが少し収まったのか、黄橙に尋ねてきた。

 「ここ、バイト募集してるの?」

 「ふぇ!?え、あ、うん。一応、して、ます、よ!」

 突然の質問に、先程のショックから抜け出せていない黄橙はどもりながら答える。

 「へー。」

 「あ、バイ●ルにも乗せてるんで詳しくはそっち見た方が早いかと。」

 「そっか。」

 黄橙はここで、はじめてまともにスエット少女の顔を見た。

 フードとマスクのせいで人相はかなりわかりにくいが俗に言う、くせっ毛とじと目が特徴的だった。

 そして、何よりの特徴があった。

 (うわあ、下まつ毛すごく長い。)

 黄橙の中で、スエット少女改め、下まつ毛という呼び名が付いた。

 「じゃあ、またね」

 下まつ毛がそう言い、立ち去った。

 黄橙はその後ろ姿が見えなくなった後もわけがわからず、ポカンと口を開けて佇んでいた。

 そしてたっぷり数十秒置いて、我に返る。

 「はっ‼………え、あの子、またねって言った!?……もしや……?バイトゲッチュ!?やったねハッハァ‼もう知らね掃除だ‼」

 もはや疲れてテンションがおかしくなってきた黄橙は、バイト面接の時間までハイテンションで店内の掃除をすることに決めた。

 

 

 

 黄橙のテンションが落ち着いてきた頃、店の来客を告げるお馴染みのメロディが鳴る。

 時計を見ると、時刻は2時25分だった。

 「いらっしゃいませ」

 出迎えると、近くのお嬢様学校として有名な高校の制服を着用した、眼鏡をかけたおかっぱの女の子が丁寧にお辞儀をしてきた。

 「あの、アルバイトで昨日連絡させていただいた者です。」

 黄橙は見覚えのある外見に首を傾げるが、いかんせん人の顔を覚えることが絶望的に苦手なため、気のせいかと打ち消して客席へと案内する。

 

 はにわ店長を机へ置き、記入してもらうための選考調査書を高校生へ渡す。

 彼女は突然はにわを持ってきた黄橙を特に気にした風もなく、黙々と書類を記入していく。

 (見かけによらず変わった子だなー)

 黄橙は純粋にそう思った。

 「書けました」

 「あ、早いね。ありがとう」

 彼女から書類を受け取り、目を通す。

 ――もちろん、店長へと見えるようにさりげなく角度を調節している。

 「……野々(ののやま) (けい)……あれ?もしかして、最近うちに来てたよね?」

 黄橙は思わず、といった風に尋ねる。

 桂、という名前を聞いて、ようやく客で来ていた子だと思い出したのだ。

 ――トイレットペーパーの失態の子か!

 

 「あ、はい!それで、この店でアルバイトしたいな、って思って、それで求人を見つけて、電話させていただきました。」

 彼女――桂は、途切れ途切れに答える。少し声が震えているのは、緊張からだろう。

 (見たところ、接客業ははじめてそうだな。)

 黄橙は選考調査書のバイト履歴へ目を落とす。

 「アルバイトはここがはじめて?」

 「はい。」

 「高校2年……今まではバイトしようとか思わなかったの?」

 嫌みでもなんでもなく、純粋な疑問を口にすると桂は俯いた。

 「あの……学校が、校則厳しくて……それに、親が許可を出してくれなくて……」

 「ここのバイトのことは……」

 「……言ってません……」

 黄橙はそれを聞いて、少し迷う。

 

 ――アルバイトとして採用しても、親が許可していないならバレた時にもめる可能性があるし、なにより店側にとって使いにくい。どうしたものか。

 「あー……えーと『いつから来れるかな!』

 悩む黄橙の言葉を遮り、突然店長が発言した。

 「て、店長!?」

 「あ、はい。平日なら、学校終わり、土日なら朝から入れます。」

 慌てる黄橙を置いて、桂は特に気にした風もなく答える。

 「え、待って、驚かないの!?はにわだよ!?これ‼はにわがしゃべってるの‼」

 店長をぐわしと掴み、黄橙はヒロインあるまじき形相で桂へと詰め寄る。

 『これとは失礼な‼一応君の上司だぞ‼』

 「わかってますけどそれより納得いかないことがあるんですよ人生には‼」

 『急に人生語りだしたよこの子!?まだ20歳でしょ!?』

 二人の言い争いをポカン、と見ていた桂は、ぷっ、と小さく吹き出し、口元を抑えながら言った。

 「知ってますよ、店長がはにわなの。……前に一度お会いしましたよね。」

 え゛、と固まる黄橙に、店長は間延びした声で答えた。

 『あー、そういえばトイレで会ったねー‼あの後の杏仁豆腐どうだった?おいしかったでしょ』

 「はい、あの時はサービスしてもらっちゃって、すみませんでした。」

 『あれねー、仕込みしたのこの黄橙ちゃんなんだよ‼』

 「そうなんですか!?すごい‼」

 黄橙は固まったまま、ギギギ、と首を動かす。

 (そういえば、トイレで店長が動いてるのを見ていたな。なんで忘れてたんだ私馬鹿か。)

 そう考え、一言呟く。

 「よし、死のう。」

 「なんでそうなるんですか!?」

 慌てる桂と対照的に、店長はのほほんと黄橙に言う。

 『あー、店ではやめてよー。あと首吊りは後処理大変だからやめとこうよー?ってか人員足りなくなるからやめてぇ~??』

 「全部の希望叶えてやるうううう!!」

 「落ち着いて下さい先輩‼‼それ叶えてないです‼‼逆です!!」

 

 この日から店のホール担当、そしてツッコミ担当が一人増えたことで、仕事がかなり楽になるのだが――。

 店の梁にどこから持ってきたのか不明な牽引ロープを引っかけ、首をくくろうとしている黄橙は、まだそれを知らない。

読んでいただきありがとうございました!!!!

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