少女はデレるが裏がある
登場人物
蟋蟀 裕也
鮎川 凛
キュリアス・K・マルチネス伯爵夫人
*少し4話と5話を修正しました。
道路の真ん中で2人は睨み合い、ピクリとも動かなかった。周りには壊れた車や乾いた血の跡が残っており、ここにくるまでに、想像もつかぬような惨事があったことを十分に物語っていた。
「あの小僧は逃したのかい。どこにやった?」
「その質問に答える気は無いわ。ところで、あなたは何者かしら?どこからきたか分からないけど…。種族ぐらいは教えてくれないかしら。」
「私の名はキャリアス・K・マルチネス伯爵夫人よお〜。わざわざお城から出て来てあなたたちを皆殺しに来たの。それ以上に語ることなんてないわぁ〜。」
「いちいちムカつく喋り方ね。あと、私はあんたの種族を聞いたんですけど。要らない情報だけ語って結局重要な部分を答えられてないなんて、相当頭が弱いらしい。」
「(何言ってんだあいつは⁉︎相手を怒らしてどーすんだよ。)」
案の定、いや、当然とでも言うべきか。キュリアスはその歪んだ口を引きつらせ、笑顔ではあったが、その目は笑ってはいなかった。精神攻撃は成功していたようだ。
確かに、この喋り方はちょっとアホっぽいかもね。この世界にに来た時に最初に殺した子が確かこんなの喋り方してたから移っちゃったのかもしれないわ。でもねって、私は断じて馬鹿とかなんじゃないわ。」
「別にそんなヘッタクソな嘘つかなくても最初から馬鹿だって分かってるからどーでもいいわ。」
「いいわ、楽には死なせない。たっぷりと痛めけて、この私を怒らせたことを後悔しながら殺してあげる。」
その刹那、先に仕掛けたのは鮎川だった。彼女は両方の太ももに付けていたホルスターから勢いよく銃を抜き取った。
ダン。ダン。ダン。
3発続けてて連射した。
「甘いわ。」
キュリアスはすでに鮎川の懐まで近づき、
「全身変幻。『クイーンウルフ』‼︎」
夫人は狼へと変身した。
「やっぱり、あなた、ヴァンパイアね。」
「ご名答。」とキュリアス夫人。
狼となった夫人の顎をヒラリとかわし、頭めがけて今度は両方の銃から1発ずつ、弾を発射させた。
キーーーン。夫人はその強靭な歯で弾を受け止めた。弾は無残にも、彼女の歯でかみくだかれてしまった。
「そんななまっちゃろい弾じゃ倒せるもんも倒せないわよ。お嬢ちゃん。」
間髪入れずに襲いかかる顎は次第にスピードを早めていき、鮎川の回避速度に、急速に追いついて来ているように見えた。まだダメージを受けてはいなかったが、どこに弾を撃っても傷を付けることのできない鮎川にとって、キュリアスを倒す手段は無いに等しいはずだ。だが、彼女は不思議と焦ってはいなかった。
その時、ついに夫人が動きを見せた。
「部分変幻。『サーペントタン』‼︎」
夫人の舌が口から勢いよく吐き出され、それは鮎川の方へと飛んで行った。彼女が避けようとした瞬間、その舌は蛇となって方向を変え、彼女の体に巻き付いた。
「………。」
蛇へと姿を変えた夫人の舌は鮎川の体をきつく巻きつけて行った。
「あらあら、あっさり捕まっちゃったけど、どうしたのかしら?もう体力切れ?なんにしても、あんたが口だけのクソガキってことだけはちゃんと証明されたようね!」
夫人は狼の姿だけを解除して、鮎川の方へ近づいた。
「………。」
「なんか言いなさいよ。助けを求めてみたらどうかしら。『助けて〜。自分がちょーしに乗ったせいで死にそうなんですぅ〜。』って。情けなさそうに、それでもって惨めにね。アッーハッハッハーーー。何か死ぬ前に一言無いの?」
「そうね、はっきり言ってあなたのネーミングセンスは皆無ね。ダサすぎてとても聞いていられなかったわ。」
「遺言はそれだけね。」
夫人は縛られて動けなくなっている鮎川の心臓めがけ、長い爪を振りかざした。
ザシュッ‼︎
「くっ…。」
手から大量の血が流れて来ているのが分かった。
裕也はとっさに、彼女の前に飛び出し、爪を手で受け止めたのだ。
「なにしてんのよ‼︎馬鹿じゃ無いの⁉︎」
「悪いな、あいにく目の前で人が殺されるのを見ていられるほど強くないんでね。」
夫人は特に驚く様子もなく腕の力を強めた。
「いくらこようが雑魚は雑魚。群がろうがどうだろうが食われることに変わりはないんだよ。遅かれ早かれねぇぇえええ‼︎」
「あんた、まだ勘違いしてないか?俺がいつ無能力者だなんて言ったんだ?」
2人とも驚愕していた。鮎川の方は特に驚いたらしく自分がきつく縛られているのも忘れたかのようにこちらを見つめていた。
裕也は貫かれた左手でキュリアスの手を、右手はあっけにとられた夫人の首元をしっかりと掴み、放った。
「着火ァ‼︎」
その瞬間、両手からはみるみる炎が燃え盛り、夫人の体を焼いていった。
「アァァァァァァァァァ⁉︎」
夫人は素早く手を振りほどき、爪を俺の手から抜いた。手の方は大したことなかったが、首元は手形のあとがくっきりと付いているほどに焼けただれ、肉がえぐれていた、
鮎川についていた舌の蛇も夫人の元へ戻っていった。
彼女は背中に背負っていた、同じ背丈ほどもある長いスナイパーライフルのようなものをキュリアスに向けて構えた。
「それならあいつにも攻撃が通るのか?」
「ええ。」
夫人がコウモリへと変身し、空へと逃げていく。
「鮎川!狙えるか?」
「オーキードーキー、言われなくとも。」
鮎川の放った1発は見事に空を飛ぶコウモリへと当たり、夫人は跡形もなく消え去った。
「(やっと、終わったか。)」
裕也は腰を下ろすと自分の左手の痛みを再認識することになった。
「痛っててて。」
「なにしてんのよ。あんたは隠れてればいいのに。なんでそんな無茶すんの⁉︎」
「はぁ、やっと素に近い喋り方になって来たな。悪い。隠してた。」
「そんな事言ってんじゃないわよ…。ほら、手見せて。」
俺は渋々貫かれた左手を彼女に突き出した。
「よかった。毒や魔術の類はかけられていないようね。」鮎川はホッとしたように言った。
すると、腰のバックルから、注射器のようなものを取り出して、左手に打った。
裕也の左手にぽっかりと空いていた穴は、みるみる塞がっていき、ついには傷の跡さえ、無くなった。
「なんだこれ。今の医療技術じゃありえないぞ。どんな術を使ったんだ。」
「いいでしょそんなことは。それより、あんた、本当になんで飛び出して来たりなんかしたの?」
「だってお前、殺されそうになってたじゃねーかよ。」
「はぁ、あれは相手を油断させるためにわざとやられたフリをしたの。そもそも、魔力のある相手に普通の弾で傷を与えられないことぐらい想定内だったわ。なのにあなたと来たら。」
「ひどいなぁ、せっかくかっこよく助けたと思ったのに。礼の1つもなしかい。」
「………、ありがと。」
「!?」
こういうのは案外ツンデレというやつで、もっとデレるのに時間がかかると思っていたが、いや、お礼1つにデレるもクソもあるか。
裕也はそんな妄想を繰り返していた。
「私たち、余りお互いに情報共有してなかったみたいね。拠点に帰ったらあなたのことを少し聞かせてほしいわ。」鮎川は言った。
「まずはそのぎこちない喋り方を直してからだな。」
「馬鹿かよ。」
「そう、それだ。でもねぇ、女の子にいきなり馬鹿とか言われるとお兄さん凹むんだけど。」
鮎川はこちらに呆れたようにそそくさと歩き出した。これから知るであろう彼女のことを、俺は内心ワクワクしながら、後を追った。
蟋蟀の能力は次回説明します。
できるだけ皆さんに納得できるように話を進めているつもりですが、余りうまくいかないことが多いので、できるだけじっくり考えていくようにはしています。やりたいことは決まっていても、文章に起こすと詰まってしまい、投稿が遅れてしまいます。そこらへんは暖かい目で見てください。お願いします。