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花咲く季節  作者: らあん
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話は秋から

俺は花が好きだ。

花というのはひとの名前とかそんなことではなく植物の花。あの、草木にある重要な器官のことであり、一部だ。花はこの自然の中での役割は植物の繁栄に欠かせないものだけど、俺たち人間にとっては全く別の顔として役に立っている。それは和みであり、癒しってところだろう。俺は人間という美を感じる生き物であるが故に花に魅せられた。花はいい、とてもいい。匂いをとっても、見た目をとっても十人十色、千差万別で、カラフルで、色彩感覚が豊かなこの目に様々な刺激を与えてくれる。自然が勝手にこの美的感覚を刺激するような色を創り出すんだ。神様だってきっといるはずだなんて思えてくるほどに。別にロマンチストで花が好きなわけではないが、古来より花はその存在自体を慈しまれ、愛でられてくるだけでなく、人に何かを伝える方法として使われてきた。自然の中で花だけがここまでのメッセージ性を持ち、愛されてきた。これを美しいと言わずしてなんと言うのだろう。

俺が花を好きになったのはいつからだっただろうか、最初はもしかしたら両親を失った時かもしれない。両親が死んだってことを理解できず、死ぬということをちゃんと理解できずに、遠くに行ってしまった程度の考えだったあの頃に、都会暮らしだった俺は、皮肉にも両親の葬式でたくさんの花を目にし、魅了されたのかもしれない。そのときに初めて花を見たなんてことはさすがになかったが、あんなにもたくさんで、意味を感じられる並び、色で、美と儚げを感じられるようになっている花を見たのは初めてだった。葬式ではたくさんの人が黒色の装束を身にまとい、白色の壁に全体的に白く綺麗に儚く生けられた花。死を知らずに、美を、生を教えられ知っていたなら、色を、雰囲気を、人の涙を感じれば、俺と同じようになるんじゃないだろうか。


そんな女みたいな趣味趣向の俺だが今年からは国の奨学金を得て、ほぼ一人暮らしをしている。

季節は秋。高校一年生の俺はなかなかに珍しい、創作の中の人物かと思うような暮らしをしている。

「おーい、秋、朝だぞ、学校だぞ。」

自室の廊下に繋がっているほうの扉、廊下からドンドンと音をさせつつ、起こしに来た友人の声が聞こえる。

「あー今出ますよーだ。」俺は秋用の最近衣替えならぬ布団替えをした、布団を払いのけてベッドから降りた。まったくもって毎朝ちゃんと起こしてくれるやつがいるというのはありがたいことだ。幼馴染の女の子ならなおさらいいとしかいいようがないが、それは幻想、これは現実なわけでそんな気持ち悪いヲタクの妄想は起こり得ない。

寝間着を脱ぎつつ時計を見る。7時半か、まだ余裕だな。今日はゆっくり朝食ができそうだ。と考えながら制服を手に取りさっと着替えてダイニングに向かう。

「おう、おはよう秋。ちょうどパンが焼けたぜ。これジャムな。」と金髪のツンツン頭をした少年からジャムを手渡された。

「おはよう菊人、今日も今日とてご苦労。明日は俺がやるよ。」

あくびをしながらそのまま俺は席に着く。

「まぁな、ルームメイトの条約は守るぜ相棒。」と菊人はガッツポーズをしてこちらに向かって朝っぱらから渾身のどや顔を放っている。

「朝ごはんの担当ね、はいはい。」

俺はこいつ高都こうづ 菊人きくととルームシェアをして生活をしている。

俺は俺で頼りやすい親類がもうこの辺の地区にいないから一人なわけだが、こいつの場合はまた別に理由がある。家賃も半分にしてくれているし。アレルギーもないし、基本的に悪い奴だけどいいやつだから俺としては一向にかまわない。一人だとめんどくさいことも多いしな。

「それはそうと秋、あそこの花しぼんでるぞ、時期じゃねぇか?」といいながら菊人は部屋の隅においてある花瓶の花を指さす。

「あー、そうだな、まだ時間もあるし処分しとくかな。食べ終わったらな。」

俺は焼けたパンにジャムを塗りながら言った。

「じゃー、放課後また成菜のところにいくのか?」

にやにやしながら菊人はこっちにいやーな視線を飛ばす。

「そうなるけど、やめろよその目、俺は成菜に会いに行くわけじゃねぇ。店に行くんだ。そもそも成菜とは学校でも会うだろ。」といいつつ俺は視線を菊人から逸らしてしまっていた。

自分でもわかっている。ああ、わかってるとも。

「いやいや、学校で会うのとは違うでしょー、家族ぐるみ、っていうの。そういう感じじゃん?夏にも進展はあったんだろ。」と目をそらした俺に追い打ちをかけるように顔をのぞき込んでくる。俺はうっとおしくてその覗き込んでくる顔を手で半ば強引に押しのけて

「うるせーな朝っぱらから、邪魔だよ。食べるのに邪魔だっつの」

「つれないなー」とぶつくさ言ったのち菊人は大人しくなった。

それから俺たちはさっさとパンを食べて、花を片付けて、学校へ行く支度を済まし。歯を磨いて、顔を洗ってすぐ家を出た。


学校に着いたのは8時20分でよくある平均的な高校生の登校時間だ。歩いていける距離にマンションを借りているからついついこの時間につくように家を出てしまう。所要時間十分っていうのは便利だが怠惰を生むに違いない。もちろん菊人だっていつも同じ時間に出るのだからこの時間につくし彼の登校に対する怠惰指数は俺と同じ値になっているに違いない。

「おはよう、朝からお熱く2人で登校ですか。あんたたちやっぱりそういう。」と後ろから途方もない疑いを朝の教室でかけられた。

「ちげーよ、お前も知ってんだろ成菜。ルームシェアしてんの。」とわりとうんざり気味に答える。

「おはよう、朝からお熱く2人で夫婦漫才ですか。あんたたちやっぱりそういう。」とクソくだらない問答を仕掛けてくるのは菊人だ。

「ちげーって。」

「違うわよ!」

ハモった。

「はっはっは、青春の匂いにおじさん倒れそうだよ。」と菊人が言うと。

バシッという鋭い音とともに成菜のローキックが炸裂する。

「思い知ったようね。」と成菜が倒れた菊人の蹴った部分の足に上履きをのせて言う。

「それにしても成菜さん、足癖の悪さが日に日に増してきちゃいませんかね。」

菊人はまだ懲りないのか。最近の足癖の悪さが増してるのは親愛だと思うぜ俺は。

というか慣れってやつだと思う。

「まぁね、むしろこっちが本来の私って気がするわ。むしろなんで今までお調子者を懲らしめてこなかったのか不思議でならないわ。」

見た感じ本気で怒っているわけでもない成菜は上機嫌である。踏んだままではあるんだけど。

「まぁまぁ、その辺にしときなよ、まだいまからHRだぜ。」と俺は言い。そうこうしているうちに、HRのチャイムが鳴った。始業の時間だ。

まだ席替えの時期じゃないからこの学期が終わるまで、俺は窓際後方一番後ろという、一番欲しい席を手に入れている。真ん前には成菜が座っていて、一つ挟んで右には菊人が座っている。なかなかの好ポジションだ。なんといっても前の席に好きになった女の子が座っているんだから。

変態チックかと思うかもしれないが、隣よりも後ろがいい。気づかれずに見ていられる。乙女みたいな理由だが、花が好きとかいう無類の乙女のような趣味の俺が今更こんな程度の感性を持っていたところで咎められるいわれも、理由もないと思う。

普段通りの退屈なホームルームを終え、無限のようにすら思えてくる授業が始まる。

授業中に俺たちがくっちゃべるようなことはなく、ただ真面目に普通に授業を受ける。右の方の視界には菊人が一時間目から伏せているが、授業で寝ることは俺はない。

同様に成菜が授業中に寝ているのだって見たことがない。成菜は最近足癖が悪かったり遠慮にかけたりするが、真面目で実はクラス委員をやっている。そのくせ、見た目は可愛いときた。

最近までメガネだったがコンタクトに変えたりしてからますますだ。綺麗な黒髪に、割と大きめな目、まつげも長くて、眉はしっかり整えられている。後ろの席情報だが、たまにいいにおいがする。花の匂いだ。実家は花屋で、可愛くて話しやすく馴染みやすい上に根は真面目で、成績はかなり優秀だったりする。俺は最近はずっと行動を共にしているので、周囲の男子の嫉妬も買っているに違いない。それに前までだっていい子だったのだが、最近になって徐々に話やすくなった。俺はあんまり清楚系の美人ってどっからとっついたらいいのかわからなくて、いい子なのはわかっていたが話しにくかったしこの変化はありがたかった。きっと彼女の中でなにか変化があったのだろう。なんて考え事をしているとすぐに授業が終わる。

休み時間はたいてい二人でしゃべっている。菊人は寝てるか本を読んでいたりする。

十分休みでわざわざ菊人がこっちにくることはあまりない。たかだか一つ席を挟んでいるだけなのだが、「めんどうくさい。」なのだそうだ


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