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09 おしおき幼女

 相対するちびっこ校長とちびっこ署長。その真ん中に立たされてしまうヒロシ。


 スジリエ校長はうつむいたまま青い稲妻のドレスをまとっている。

 降り注ぐに雨に打たれると、バチバチと火花を散らした。


 ポリティ署長はプレゼントを前にした子供のような無邪気さで足を投げ出して座ると、重機関銃のハンドルを握った。

 躊躇なく引き絞るトリガー、少女の眼が異常の色を帯びる。


「キャハハハハハハハ! いっけーっ!!」


 狂った高笑いとともに響く地鳴りのような轟音。龍のように火を噴く銃口からバラ撒かれるおびただしい数の徹甲弾。

 マリーの太刀とは比較にならぬ、音を打ち破る速度で襲い来る金属の(つぶて)


 普通の人間ならそのままミンチに、元いた世界のヒロシであっても何かが飛んできている認識ができる程度で、指先ひとつ動かせぬまま撃ち抜かれていたであろう。


 しかし……テンプレ騎士(ナイト)になったヒロシは違っていた。

 窮地に追い詰められたことにより身体中の血液が放たれた弾と同じ速度で体内を駆け巡りはじめる。

 動体視力は極限にまで研ぎ澄まされ、弾丸の胴体に刻まれた刻印まで読み取れた。


 黄銅色の徹甲弾は、ミツバチの群れのように少年の目に映る。

 命を削る弾丸は刺されると痛い蜂へと姿を変え、そして小さなドッヂボールへと変貌した。


 ヒロシはほとんど反射的にポリティに向かって地を蹴っていた。


 恐怖心は消えていた。なぜならば飛んできているのは彼の大好きなドッヂボールで、さあよけてみろといわんばかりに向かってきているのだ。

 何百というボールに狙われているが、このくらいならすり抜けられる……と思っていたが、ヒロシははたと気づく。


 よけちゃダメだ……!


 腰の剣に手をかけ、素早く抜刀。一閃すると先駆けの弾が爆散した。

 華麗なる剣さばきとは程遠いへっぴり剣法であったが、その太刀筋は誰も捉えることはできなかった。

 かえす刀で第二陣も粉々にする。


 落とし漏らすとただではすまない。一発でも腕や足に当たればちぎれ飛び、胴体なら大穴が空く。頭なら首から上がなくなる。

 しかも弾は貫通し、背後のスジリエにまで被害が及んでしまう。


 必死になって振った剣ではあるが、放たれた弾をただの一発も逃すことなく粉微塵にした。


 魔剣『ディスアーム』は武器相手には滅法強い。それは高速で飛ぶ弾丸でも例外ではない。

 振るだけで軌跡上には剣圧が発生し、それは衝撃波となって広がりあらゆる武装を破壊する。


 信じられない様子で目を見開くポリティ。機関銃の弾丸をまさか剣で切り払える者がいるとは。

 トリガーハッピーに酔いしれていた少女を襲う神変。寝耳に熱湯を注がれたような、冷蔵庫の麦茶を飲んだら麺つゆだったときのような、強い衝撃が全身を支配する。


 トリガーはいまだ引き絞られており、激しいマズルフラッシュとともに咆哮を続けている。

 大上段に構えるヒロシ。


 ディスアームは不殺の魔剣……斬りつけても、この少女の肌にはキズひとつつかない……!!


 心のなかで反芻しながら、そのまま射手ごと斬りおろす。


 絹を裂く音とともに破裂する制服と飛び散る階級章。バラバラに分解される機関銃。

 布の切れ端と金属片が四散し、宙を舞った。


 その場に残されたのは、凹凸がなく首から下の毛が一切なさそうなつるんとした裸身。

 まだ自分の身になにが起こったのか理解していないポリティは座り込んだままキョトンとしている。


 ヒロシはすり抜けざまその細い腰を抱き、ひょいと小脇にかかえた。

 先ほどまでマシンガンをぶっ放していたとは思えないほど軽かった。


 そのままUターンし、少女を担いだまま今度はスジリエめがけて特攻する。


 置き去りにしなかったのは理由があった。

 これから放たれるであろうスジリエの雷撃魔法をさばききれなかった場合、ポリティがやられてしまうからだ。


 ポリティの装備は全部破壊してしまっているので彼女は全裸で攻撃を受けることになる。

 だが自分と一緒ならなんとかなる……とヒロシは不思議な自信を抱いていた。


 スジリエは目を閉じたままブツブツと呪文を唱えていた。

 マジックシールドを三重に張り無防備な姿をしっかりと守っている。


 さらにヒロシは加速し、乱心した姫に迫る。ちょうど半分の距離まで詰めたとき詠唱は終了した。

 スジリエは勇ましく手をかざし、


「……雷の龍よ、あの方を撃って!」


 最後の一言とともにカッと目を開く。

 が、こちらに向かってくるヒロシが目に入ってハッと息を呑んだ。


「ええっ!?」


 なぜヒロシ様が!? 止めなきゃ!! と思ったがもう遅い。

 腕から迸る幾重もの光の筋はすでに束とって撃ち放たれ少女の手を離れていた。蒼き龍と化したそれは少年をひと飲みにせんばかりに開口する。


 銃弾を上回る速度で向かってくる雷の化身。

 ディスアームで斬っているヒマはないとヒロシは瞬時に判断した。


 身体を斜めに傾けながら、大口をあけた雷龍をギリギリでかわす。

 床が濡れているせいでバランスを崩したが滑り込みながらスジリエめがけて剣を振るう。


 ディスアームの前には魔法防御も無力。まるで襖に指でも突き立てるかのようにあっさりとマジックシールドを破り、そのまま術者本人も袈裟斬りにした。


 落雷のような轟音を背後に聞きながら、スジリエのドレスはビリビリに引き裂かれた。

 ひん剥かれて露わになる、つるんとした卵のような身体。勢いあまったヒロシはその裸身も小脇に抱えた。


 スライディングは止まらず屋上の端まで滑っていく。


 て、手すりは……ない! このままじゃ……落ちる!!


 ヒロシはスニーカーのソールを傾け、ブレーキをかける。

 しかし勢いは完全に殺せず、屋上から落ちそうになってしまう。


「うわあっ!? おっとっとっとっ!!」


 ヒロシはヘリのところで懸命に踏ん張った。

 勢いあまって脇のスジリエとポリティが滑り落ち、空中に投げ出される。


「あっ……あぶないっ!!」


 バンザイの状態で落下する少女たちに手を伸ばす。

 咄嗟に左手でスジリエの両手首を、右手でポリティの両手首を掴んだ。


 ふたり分の重さでガクンと前のめりになり膝をついてしまう。一緒に引きずり落とされそうなったがボブカット婦警が寸前でヒロシの腰にすがりついて助けてくれた。


 スジリエとポリティは屋上のヘリから宙ぶらりん状態になってしまったが、そこでなんとか勢いは止まった。


「よ……よかった……」


 安堵するヒロシ。しかしそれも束の間、眼下には騒ぎを聞きつけた大勢の人が集まってきていて屋上に注目していた。

 衆人は飛び出してきたヒロシたちを見て騒然となる。


「あれは……学園長と総監!?」

「しかもハダカよ!?」

「テンプレ騎士(ナイト)様にやられたんだ!」

「うわぁ! こりゃまたすっごいスクープ!!」


 それはどう見てもふたりの全裸幼女が少年に手首をつかまれ、見せしめとして宙吊りにされているようにしか見えなかった。


「キャーッ!!」

「イヤァーッ!!」


 吊り下げられたスジリエとポリティの悲鳴が街中に響きわたる。


 その日の夕方に発行された号外2号には『歯向かうやつはみんなこうなる! テンプレ騎士(ナイト)に処刑された学園長と総監! すべての女は我がもとにひれ伏せ!』という見出しが踊っていた。






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