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08 幼女校長vs幼女署長

 警察署はライト・ノーヴル学園のちょうど真北の学園街に位置していた。


 ヒロシはその一室、なにもない部屋に連れ込まれて木椅子に座らせられた。

 室内には扉と机と椅子の他には鉄格子がはめられた窓がひとつのみ。


 テレビの刑事ドラマとかでよく見る風景……これは取調室だ! とヒロシは直感した。


 連行した婦警は10人ほどだったのだが、署内に運ばれるとテンプレ騎士(ナイト)逮捕の噂を聞きつけどんどん増えていった。

 狭い取調室内には大勢の女子警官たちでひしめきあっている。


 ヒロシの手錠は外されていたが、働く大人の女性に囲まれて縛られたように身を固くしていた。


 街でヒロシの逮捕を命じたお姉さんが前に出て、机に腰掛けた。

 両足でヒロシの椅子を挟み込むように座りなおす。


 ミニスカートなのでちょっと視線をずらせばパンツが見えそうなくらいの大胆アングル。

 それだけでは飽き足らず、婦警はお尻をよじらせてヒロシに迫ってきた。


 ヒロシは椅子の背もたれにピッタリ背中をつけて逃れようとしたが、パンストごしの太ももでガッと顔を挟まれてしまった。


「さぁ、私たちを今すぐあなたの従者(スレイブ)にしなさい」


「ええっ!?」


 ボブカットの婦警さんは厳しい顔から一転、色っぽい流し目で股の間のヒロシを見下ろし、赤い唇を妖艶に舐め上げた。


「私たちが一生あなたの側にいて、なんでも言うこと聞いてあげる。警察権力も使い放題……どんなにイケナイことをしても、全部握りつぶしてあげるわ」


 いきなりの凄い誘惑。警察権力があるということは、本当にどんなにイケナイことも可能になる。そのうえ美人揃いの婦警さんがなんでも言うことを聞いてくれる……!?

 権威と色仕掛けが合わさった、男なら誰しもが憧れるセットメニューが食べ放題。


「信じられない? フフフ……なら少しだけ前払いしてあげる」


「ま、前払いって……うぷっ!?」


 ヒロシの言葉を遮るように、婦警はカニばさみにしたまま足を曲げて頭をグイと引き寄せる。

 少年の頭部はスカートの中にすっぽりと吸い込まれてしまった。それどころかストッキングの股布のところに顔が密着してしまう。鼻先がデリケートゾーンのどこかをツンと小突くと、女の身体は電流が走ったみたいにビクンと痙攣した。


「むーっ!?」


 突然の幸せ固めにヒロシはくぐもった悲鳴をあげる。

 女子高生のマリーとキスをし、女子大生のツキカの胸に飛び込み、今度はミニスカポリスの股間……! まさに女体のフルコース……!!


 しかも今回は離れたくても離れられない。むせかえる女の香りは少年にとって、刺激が強すぎた……!


「エンッ!!」


 ヒロシが意識を失うその瞬間、部屋に唯一ある扉がバァンと勢いよく蹴破られた。

 開いた扉の向こうにはハイキックのポーズをとる小さな女の子が。


「こらぁーっ! なにをやってる! 離れんかぁーっ!!」


 蹴り足を大股の一歩に変えてズカズカと室内に踏み込んくる女の子。

 黒いおかっぱ頭で小学生くらいの幼さではあるが、羽織った紺のジャケットにはたくさんの階級章がついている。


「あっ、署長!?」


 婦警たちはびっくりして道をあける。ヒロシに迫っていた婦警さんたちも机から降りて直立不動で敬礼した。


 あと少しで窒息するところだった……助かった、とヒロシが胸をなでおろしたのも束の間、今度はそのちびっこ総監が机に飛び乗り跨ってきた。


「最初はボクからだ! まずはボクを従者(スレイブ)にしろ! こうすればいいのか? えいっえいっ」


 リーダー格の婦警がしていたことを真似してるようだが、身体が小さいので肩車の逆バージョンみたいに顔にしがみつくような形になっている。


 平らな胸につけられた階級章がぐりぐりと押し当てられ、ヒロシの頬は星型だらけになった。


 やっと助かったかと思ったが、もっと偉い人が出てきた……!!

 頼みの綱のミームはいつのまにかいなくなってるし、まわりは婦警さんだらけだし、どうすればこの窮状を脱出できるのかヒロシは整理のつかない頭の中で必死に考えを巡らせる。


 ここにいる全員を従者(スレイブ)にすれば釈放してもらえそうだが、一体どうやれば彼女らを従者(スレイブ)にできるのか全然わからない。


 行動に移せないとなると、この場を収める言葉が必要だ。

 皆に納得してもらえるいい言い訳はないものか……!?


 しかし少年の頭には、その片鱗すら浮かんでこなかった。

 絵があんまり動かないからといって恋愛映画や恋愛ゲームに接することなく、仮想の恋愛経験値すら放棄してきた彼にとって、女の子の心を動かす言葉などひとつも持ち合わせてはいかった。


「うぅむ、ちっとも従者(スレイブ)の証が浮かんでこないな……やはり制服が邪魔なのか!? おいみんな、脱ぐぞ!」


 しびれをきらした署長は次なる命令を下す。とんでもない命令に度肝を抜かれるヒロシ。

 いくらなんでもそこまでは……と思ったが、婦警たちは「はっ!」と一斉に敬礼を返し、脱衣所でもないのに何のためらいもなく制服を脱ぎはじめた。


「お待ちなさい、ポリティさんっ!!」


 霹靂のような一喝が取調室じゅうに響きわたる。


 開け放たれた扉の向こうには……学園長のスジリエ・グラディアが立っていた。一連の騒ぎを聞きつけて駆けつけてきたのだ。

 初めて会ったときは柔和で落ち着いた感じの美少女であったが、今は恋人の浮気現場を押さえたような険しい顔で総監を睨みつけている。


「おっ、スジリエか……お前もどうだ? 一緒にやるか?」


 言いながらコアラのようにヒロシに抱きつくポリティ署長。


「そんなはしたないこと、いたしませんっ! 総監という立場を利用してヒロシ様に迫るなんていけないことですっ! 今すぐ釈放してください!」


 スジリエは感情を抑えるように胸に手を当て、同い年くらいの少女をたしなめた。

 しかしポリティはふてくされた様子になり、オモチャを独り占めする悪ガキのようにヒロシの顔にギュッとしがみついた。


「フン! お前はいつもそうだ。優等生ぶって建前をふりかざし、ボクの権力構想のジャマをする……どうせお前も飼われたいと思ってるんだろう? 素直になれよ!」


「えっ……そ、それは……わたくしだって……従者(スレイブ)になりたいですけど……なっ、何を言わせるんですかっ!?」


 いままで毅然とした態度で諌めていたスジリエの頬が、カッと紅潮する。


「フッ……お前はいつも取り繕っているがテンプレ騎士(ナイト)のことになるとボロが出るようだな……。それがお前の本音なら、キレイごと並べたててないで力ずくで奪い返してみろよ……この万年ツルペタ姫!」


 最後の挑発の一言が効いたのか、スジリエの髪の毛が静電気を受けたように逆立った。

 手には青い電流のようなものが走り、パチパチと音を立てている。


「……屋上へまいりましょう……久しぶりに……おかんむりになってしまいました」


 うつむいたまま、静かに姫は言った。

 その口調は丁寧だったが……嵐の前の静けさのような独特の凄味を帯びていた。

 静電気のように肌がピリピリと痺れる空気が迫ってきて、婦警たちは圧倒されてしまう。しかしポリティはただ一人、不敵に笑っていた。


「ハハッ、そうこなくっちゃな!」


 ヒロシから飛び降りたポリティはスジリエに挑みかかっていく。

 スジリエは受け立つように屋上の階段めがけて駈け出した。ちゃんとスカートの裾をつまみあげたまま上品に駆け上がっている。


 ヒロシや婦警たちも後を追う。

 ふたりからやや遅れて階段を登りきると、屋上の広いスペースではポリティとスジリエが距離をとって対峙していた。

 見た目だけだと子供どうしのケンカが今まさに始まるのかという雰囲気だが、武器(エモノ)はかなり物騒だ。


 ハンドガンにバリスティックシールドを構えるポリティ。

 かたや腕に電流をまとわせ青白いマジックシールドで身を守るスジリエ。


 ヒロシと大勢の婦警が見守るなか、ふたりの少女の戦いの幕は切って落とされた。


 ポリティの銃が火を噴く。子供だが扱いなれてるようで標的を正確に捉えていた。

 まっすぐに飛んできた弾丸をマジックシールドで受け止めたスジリエ。

 かけ声とともに手をかざし青い電流を放つ。ジグザグに襲い来るそれを盾で受け止めるポリティ。


「やっぱりこの程度じゃ無理か」


 ハンドガンを投げ捨てた署長はスカートの中から大口径リボルバーを取り出す。


「手加減は不要のようですね」


 目の前で握り拳をかため、なにやら念じる校長。

 電撃をチャージしているのか、発電中の電球のように拳が明滅を繰り返している。


 ふたりは同時に動いた。

 爆音のマグナム弾と、落雷のような太い電撃が同時に放たれる。


 さすがにマグナム弾を防ぐのは厳しかったのか、マジックシールドがガラスのように割れ散った。

 「きゃっ!?」と吹っ飛ばされるスジリエ。


 威力の増した電撃はバリスティックシールドを四散させ、ポリティを吹き飛ばしていた。


 ふたりは倒れ伏したが、ほぼ同時に起き上がった。


「コイツで一気に決めてやる!」


 ポリティがスカートの中に両手を突っ込んで引きずり出すような仕草をすると、台座のついた重機関銃が飛び出してきた。


「わたくしも本気でまいります!」


 スジリエを中心に突風が巻き起こる。髪とスカートが激しくなびき、無數の蛇のような電撃が全身を這い回る。

 警察署の上空にあった白い雲が変色し、灰色の雨雲に変わった。ぽつ、ぽつ、と雨の雫が屋上に落ちる。


 戦車の上についているようなごつい機関銃は射手より大きい。それをスカートから取り出すとは……四次元ポケット!?

 それだけでもビックリなのに、天候まで操ることができるなんて……!?


 どんどん過激になっていく子供たちの戦い。キャットファイトならヒロシでも仲裁できるが、そんな可愛いもんじゃない。龍と虎が戦っているような手に負えないスケールだ……!


 どうしようかとオロオロしているヒロシの肩に妖精が着地した。 


「あっ、ミーム! 今までどこ行ってたの!?」


「みかじめ料をもらいに行っとった。ああ、ハラ減った」


 妖精は果物屋から上納されたであろうチェリーを両手で抱えていて、早速頬張りはじめる。


「どうしよう、スジリエさんとポリティさんがケンカしちゃってるんだ!」


 「なぬっ!?」と食べかけを吐き出すミーム。


「あのふたりが争ったらタダじゃすまん! 警察署ごと吹っ飛ぶかもしれんで!? いますぐ止めるんやヒロシ!」


「ええっ!? で、でも……どうやって!?」


「ぶら下げとる立派なモンがあるやろ! それでブスッといったれ!!」


 ミームはヒロシの背後に回り込み、首筋をぐいぐい押した。


「わあっ!? む、無理だよ、無理だよそんなのっ!?」


 ヒロシは実弾と雷撃魔法が飛び交う戦場を見てすっかりビビってしまっていた。

 熱湯風呂に押し込まれる芸人のように喚いて抵抗する。


「ごちゃごちゃ言っとらんとさっさと行けや!」


 とうとう戦いのど真ん中に押し出されてしまうヒロシ。

 両脇にいるふたりの少女は今まさに最大級の攻撃を放とうとしていた。






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