07 はじめての逆痴漢
『ライト・ノーヴル学園街』は学園をぐるりと囲む形で存在している。なので学園から離れさえすればおのずと街へとたどり着く。
歩いて数分ほどの街は中世ファンタジーと現代社会が混在していた。
大昔のヨーロッパの街に日本の最新文化を足したような妙な街並み。
薬草などを並べ売る魔女の家みたいなのに「マシモトキヨツ」と書かれた看板がかかっていたり、赤レンガの牛丼屋らしきものがあったりする。カフェ「スターパックス」なんかは逆にマッチしていて日本にあるのよりオシャレな感じになっている。
「ええやろ? ライト・ノーヴルはヒロシの元いた世界の文化を積極的に取り入れてるんやで」
「ふうん……でもなんで?」
「そりゃみんなの憧れやからな」
「そうなんだ……」
ファアリーランドの人たちが現代日本に憧れてるなんて知らなかった。
店のロゴマークなどの再現度はそれなりに高いが、材質がプラスチックなどではなく木や石や金属なので妙な風格が出ている。
歴史ある街並みにところどころ見慣れたマークなどがあり、ヒロシは新しいんだか古いんだかわかない不思議な感覚にとらわれていた。
「ウチら妖精はファアリーランドとヒロシの世界を行き来できるんやけど、ヒロシの世界の情報を持って帰る専門の妖精部隊がおるんや。『戦闘妖精』いうんやけどな」
「ふうん……それよりも……なんかみんなこっち見てる気がするんだけど」
ヒロシの興味は街行く人々に移っていた。
通りすがる女の子たちはヒロシの存在に気づいて一様に驚いた様子で立ち止まり、金になる幻の珍獣でも見るかのように熱い視線を送ってきた。
「そりゃみんなの憧れやからな」
「そうなんだ……」
生返事はしてみたが、一体何が憧れなのかわからなかった。
周囲からひたすら注目されてなんだか居心地が悪くなり、足早に歩くが女の子たちは後からついてくる。
「さぁさぁ、速報、速報っ!!」
少年と妖精の行く手には人だかりができていた。
「ついにこのライト・ノーブルにあのテンプレ騎士様がやってきた! しかも到着3分で最初の従者をゲットだ! お相手はなんと無双の牝犬姫ことマリーブラッド・ハーレークイーン!!」
群衆の真ん中にいる三つ編み瓶底メガネの女の子は踏み台の上に立ち、叫びながら号外新聞をバラ撒いている。
我先にとそれを奪い合う女の子たち。
そのうちの一枚が風で舞い、ヒロシの手元に飛んできた。
デカデカした『テンプレ騎士田中ヒロシ様召喚!』の見出しと、頬を赤らめた全裸のマリーブラッドがヒロシに抱き寄せられているイラストが目に入る。
「えっ」と思わず目を見開く少年、妖精は肩の上から覗き込んでキャプションを読み上げた。
「なになに……ヒロシ様はマリーの突然の攻撃にも顔色ひとつ変えず余裕でかわし、闘牛をあしらうマタドールのような華麗なる剣さばきでマリーの服を切り裂いた。一糸まとわぬ姿になったマリーに対してヒロシ様は『牝犬よ、今日からそれがお前のユニフォームだ』と言い放った。マリーは『素敵、抱いて!』とヒロシ様にすがりついた……。大体あっとるやん」
「いや、ぜんぜん違……」
「ああーっ!! ヒロシ様!! 生ヒロシ様だっ!!」
突然、瓶底メガネが吠えた。
当のヒロシが新聞から顔をあげると、人だかりが全員こちらを見ていた。
「こりゃまたとないスクープチャンス!! 突撃~っ!!」
かけ声とともに突進してくるメガネっ子。つられて群衆もヒロシめがけて一斉に押し寄せてきた。
「わあっ!? に、逃げ……!」
ヒロシはこの場を離れようと踵を返すが、後からついてきていた女の子たちも触発されたのか群れとなり迫ってきていた。
挟み撃ちされる形となり、メガネっ子もろとも女の子の波に飲み込まれてしまった。
「ヒロシ様! 独占インタビューを……うわぁ!?」
「キャー! テンプレ騎士さまーっ!」
「私を従者にしてーっ!」
もみもみくちゃくちゃ、身体のあらゆる箇所をまさぐられてヒロシの顔色は赤くなったり青くなったりした。
「た、助けてミームっ!」
妖精はすでに空に避難していた。ヒロシは手を伸ばして助けを求める。
「別にええやん殺されるわけやなし、揉み返しておやり」
ミームは地上のラッシュを見下ろしながら適当なことをのたまった。
揉み返しているつもりはないのだが、ヒロシの掌にはさっきからムニュムニュと柔らかい感触が代わる代わる押し当てられている。
どこの部位かはわからないが、女の子ってこんなに柔らかいんだ……とこんな状況であるにも密かに感激していた。
「そやそや、みんな! ヒロシの下腹部触ってみそ! 焼きたてのパンみたいにふっくらするやで!」
妖精は無責任なアドバイスに飽き足らず女の子たちを扇動しはじめた。
一斉にヒロシの股間に無數の手が伸びてくる。
「えっ!? ちょ!? ハウッ!?」
わし掴みにされた瞬間、しゃっくりのような悲声をあげる。
「やっ、やめっ! ヒッ!? アッーー!!」
ズボッと嵌まり込んだ瞬間、ヒロシの身体は撃ち放たれた弦のようにピーンと伸びた。
少女たちの手によって否応なく刺激を送り込まれる少年の身体は、今だかつて体験したのことのない感覚を味わっていた。
熱い吐息が絞り出され、嫌な汗と嫌じゃない汗が混ざり合って吹き出す。
インターネットで初めてエッチな画像を検索したときみたいに心臓が暴れだし、熱にうなされたように視界が霞んでいく。
身体の内から未知の感覚がこみあげてくる。それはどんどん膨らんでいき、ついには爆発寸前となった。
ついに臨界を迎えようとしたその時、
「ピピーーーーーーーーッ!!!」
女だらけの押しくらまんじゅうは警笛とともに突如中断させられた。
「こらっ、やめなさいっ! みんな離れて! テンプレ騎士から離れなさいっ!!」
揃いの制服の女性たちが、乱暴に押しのけ怒鳴り込んでくる。
丸い制帽、水色のブラウスに紺のネクタイ、紺色のタイトなミニスカートに黒いストッキング。
……婦警さんだ。ちょっとコスプレっぽいけど間違いない……とヒロシは思った。
婦警たちはヒロシのまわりにいる女の子たちを引き剥がす。
ようやく解放された少年は股間を押さえたまま内股でビクビク震えていた。
助かった……とホッとひと息つく間もなく、
「……田中ヒロシ! こんな騒ぎを起こして! あなたを本事件の首謀者として逮捕します!」
リーダーっぽい黒髪ボブの婦警はヒロシをビシっと指さし宣告した。
「ええっ!?」
部下らしきふたりの婦警があたふたするヒロシを両脇から押さえ込み、抗弁する間も与えず手錠をかける。
「さぁ、連行しなさいっ!」
号令一下、取り巻きの婦警たちは胴上げするみたいにヒロシを抱えあげた。
「ちょ、待ってください! 僕はなんにも……!!」
必死の叫びも虚しくそのまま白黒のツートンカラーの馬車へと詰
め込まれ、少年は警察署へと運ばれていった。




