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06 姫は小学x年生

 レースのついた薄紅のブラジャー。見た目は可憐だが、カップの面積は中華街の巨大肉マンが入りそうなほどデカい。

 先ほどまで桃を包んでいたかのようにかすかに香り、まだほんのりと温かいソレは脱ぎたてホヤホヤであることを示していた。


「わあっ!?」


 生々しい存在感にドッキリして放り出してしまったが、投げてはならぬものだと途中で気づいて地面に落ちる前に捨て身のヘッドスライディングで受け止める。


「……さっきまでテーマパーク帰りのつけ耳みたいに着けとったのに急に捨ててまた取るなんて……わずかな間にどういう心境の変化があったんや? ソレ誰のなん?」


 ヒロシはマリーに投げ飛ばされたあとのことを話した。

 事故でお姉さんの服のなかに飛び込んで、その衝撃でブラが外れて頭の上に乗ってしまったことを。

 話していくうちに胸の感触が蘇ってきて、少年の頬が熱を帯びるのを感じた。

 妖精は少年の照れたような様子を見てそれが誰かすぐにわかったようだ。


「あ、わかった。ゼミママみたいな格好しとるヤツやろ? それならきっと大学部のツキカ・モモタンやな。……乳やろ? 乳を思い出しとったんやろ? アイツ、オトコの遊園地みたいなカラダしとるもんなぁ、ゲッヘッヘッヘッヘッ」


「ツキカさん、っていうんだ……」


 噛みしめるように想い人の名を呼ぶヒロシ。

 ゲスな笑い声をあげる妖精を無視して浸っている。


「治癒魔法ではこのライト・ノーヴルでもトップクラスの女や。そのあふれる慈愛とパイオツカイデーからついたまたの名を『永世幼稚園エターナル・フォース・キンダーガーデン』!」


「『永世幼稚園エターナル・フォース・キンダーガーデン』……」


 うわごとのようにつぶやくヒロシ。すっかりあのお姉さんに魅了されているようだった。包み込むような笑顔で頭ナデナデされた記憶が蘇り、赤子のような顔になっている。


 内外から母性をしとどに溢れさせる少女、ツキカ・モモタン。

 女の子とキスどころか手を繋いだこともない免疫ゼロのヒロシにとって、あんなに女性にやさしくされたのは初めてのことであった。 

 そんな純情な少年がすべてを受け入れてくれそうな女性に骨抜きになってしまうのは無理もないことだった。もしあの流れで絵画を売りつけられたとしても言われるがままに学生ローンを組んでいたであろう。


「ウラァ!!」


 妖精の飛び蹴りがヒロシの頬にめりこみ、妄想は強制中断させられる。


「あいたっ!? 何すんだよっ!?」


「いつまでやっとんじゃあ! 乳くれえで浮かれんてじゃねぇぞこのシャバ僧が!」


 急にガラが悪くなる妖精。ケンカを売るチンピラみたいに顔を上下させて睨みつけている。


「ど、どうしたの急に」


「明日から学校だってのに、そんなんじゃシャバ臭えことになっちまうってんだよ! どうせ場所も知らねぇんだろ? 今から学校に連れてってやんよ、夜露死苦!」


 昔のヤンキーみたいなしゃべり方はよくわからなかったが、要は今から学校に案内してくれるようだ。

 学校に行くことはどうやらテンプレ騎士(ナイト)の規定事項らしい。そういうことであればどんな学校なのかも気になるので、妖精に案内にしてもらうことにした。


 このライト・ノーヴルは学園都市と呼ばれるだけあって学生しか存在しない。

 住人はみんな島の中央にある学園に通い、授業のない日や放課後に社会活動をする……という決まりになっている。

 マリーブラッドに投げ飛ばされるまでヒロシが寝ていた部屋は学生寮の一室。島内には同じような施設がいくつかあり、島民はそこで集団生活を送っている。


「ホレ、あれが『ライト・ノーヴル学園』だぜぇ」


 寮を離れ、植物園みたいに花でいっぱいの庭園をしばらく歩いたあと、中世フヨーロッパにありそうな立派な石造りの建物が現れた。


 ヒロシがファアリーランドにやって来たとき校庭のような場所に放り出されたが、その時側に建っていたので側面は見たことがあった。しかし改めて正面から見てみると本当にお城みたいな形をしている。


 学校というにはあまりにも幻想的なたたずまい。ホウキに乗った魔女がいまにも飛び出してきそうだ……なんてヒロシが思っていたら、塔の窓からホウキに跨ったハロウィンの魔女みたいな格好した女の子が飛び出してきて、どこかに飛び去っていった。


 呆気にとられるヒロシ。妖精は校門近くに小さな人影を認め、大声で呼びかけた。


「あっ、おーい! スジリエ!」


 声の先には小学生くらいの女の子がいて、ブリキのじょうろを重そうに持ち上げて花壇に水やりをしていた。


「こんにちはミームさん。いいお天気ですね」


 振り向いた少女は花のような笑顔を浮かべる。見た目の幼さに反比例した落ち着いた口調で会釈してきた。

 少女が妖精を見てミームと呼んだので、ここで初めて少年は妖精の名を知った。


「あっ、テンプレ騎士(ナイト)様もご一緒で」


 スジリエと呼ばれた少女はヒロシに気づくとじょうろを足元に置き、緊張した様子で居住まいを正した。


「おうおうヒロシ、こっちのホワイトロリータはスジリエ。校長だぜ。夜露死苦!」


 ビシッと紹介を決めるミーム。

 突然のヤンキー口調にもスジリエは慣れているのか、動じる様子もなかった。


「初めましてヒロシ様。スジリエ・グラディアと申します。今朝の見事な戦い、拝見させていただきました」


 スジリエはブロンドのおかっぱ頭にティアラを載せ、フリフリの白いワンピースのようなドレスに身を包んでいた。

 優雅な仕草でスカートの裾をつまみ、持ち上げてぺこりと一礼する。


 校長というよりはお姫様みたいだ……とヒロシは思った。しかし校舎がお城っぽいのでむしろ合っているとも思った。


 ビスクドールのようなスッキリ整った顔立ちの美少女。まだまだあどけない感じだが、王族の威厳のような高い身分の者だけが持つオーラのようなものを放っていた。


「あっ、よ、よろしく……」


 気品あふれる上流階級の挨拶を受け、少年は気後れする。

 気の利いた社交辞令が言えればいいのだが、慣れてないので何も浮かんでこない。


 挙動不審に視線を泳がせていると、ふと足元のじょうろに気づいた。


「あっ、水やり、手伝うよ」


 小さな子にこんな重そうな道具での水やりは大変だろうと、地面に置かれたじょうろを取る。

 目の前の花はヒマワリで、けっこう背が高かったのでヒロシはじょうろを高く持ち上げようとした。


「あっ、テンプレ騎士(ナイト)様にそんな……きゃっ」


 ヒロシを止めようとしたスジリエから小さな悲鳴があがる。

 見ると、じょうろにスカートが引っかかっており、持ち上げた拍子に大きくめくれあがってしまっていた。

 ドロワーズのようなかわいらしい女児ショーツ丸見え。慌てて裾を戻そうとするが手が届かず、スジリエは恥ずかしそうにもじもじと太ももをこすりあわせていた。


「ごっ、ごめんっ!!」


 ヒロシがじょうろから引っかかっていた裾を外すと、赤面する少女ぱっと両手でスカートを押さえた。


「い、いいえ。わたくしこそすみません。お見苦しいものを……」


 うつむいたまま、耳まで真っ赤にしている。


「ひ、ヒロシ様、ミームさん、きゅ、急な用事を思い出しましたので失礼いたしますっ」


 恥ずかしさのあまりいたたまれなくなったのか、スジリエは顔を両手で覆って走り去ってしまった。


「あぁ、またやっちゃった……」


 いたいけな後ろ姿を見送りながら、ヒロシはうなだれた。

 この世界に来てからなにか調子がおかしい。接する女の子すべてに何らかのセクハラをやらかしてる。


 落ち込む少年とは対照的に、妖精は満足そうに腕組みをしていた。


「ラッキースケベはテンプレ騎士(ナイト)の必須スキルだからな。どんどんやらかして男を見せてやれや!」


「……ラッキースケベって、なに?」


「なに!? お前ラッキースケベも知らねぇの!? マブかよ!? 『虎ぶる』とかのマンガ読んだんだことねーの!? それでもオタクかよ!? っていうかそれでも染色体XYかよ!?」


「いや、アニメとかゲームとか、絵が動くやつは好きなんだけど……マンガとか小説とか動かないのは苦手で……ほとんど読んだことないんだ」


 少年の人並み外れた動体視力については幼少の頃から鍛えられたものだったが、それが災いして、動かない字や絵を見るのが苦痛な体質になっていた。なので学校の授業は体育を除いて全般的に苦手だったりする。


「猫みたいなやっちゃな」


「ラッキースケベって、要はわざとじゃないセクハラみたいなものでしょ? そんなことばっかりしてたら捕まっちゃうよ!?」


「大丈夫、ラッキースケベはテンプレ騎士(ナイト)の能力のひとつやから、普通なら殺されたり法で裁かれたりするようなことをやっても殴られるくらいで済むやで」


「マリーブラッドさんに締め殺されそうになったんだけど」


「アイツは本気じゃなかったやで。……多分」


「本当かなぁ……それにスジリエさんにも嫌われちゃったんじゃ……」


「大丈夫やって、やられた瞬間は怒ったり逃げられたりするけど後には引きずらん……それがラッキースケベちゅうもんや! 多分やけどな!」


「う~ん……」


 少年は信じがたい様子で唸った。

 妖精は少年の肩に飛び移ると、慰めるように頬をポンポンと叩いた。


「『Road Of The Template Knight』……ROTTK(ロック)をクリアしていくとラッキースケベの能力もあがっていくから頑張ってな!」


「あんまり頑張りたくないなぁ……」


「そう言わんと、新たなラッキースケベを求めて街へ出発や!」


 ヒロシとミームは誰もいなくなった校門を離れ、街へと向かった。






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