05 We will ROTTK you!
古びて色あせた羊皮紙には規則正しく並んだ文字でびっしりと埋め尽くされていた。
だがその内容はほとんど「???」となっていた。
「これ……何?」
ヒロシはいぶかしげな様子で尋ねる。
古文書のような外見からして相当難しいことが書いてあるんじゃないかと構えていたが、それ以前の問題だった。
「これは大賢者ニーニャ・アルテ・ロイテが記した魔法書物で、過去のテンプレ騎士たちの行動パターンを分析し、項目別としてまとめたものや」
「ほとんど内容が書いてないんだけど……」
おそるおそるページをめくってみるが、次のページもハテナマーク一色だった。
「うん、内容はヒロシの行動に応じて少しづつ判明するんや。一部見えてるのもあるけど、それはヒントみたいなもんやね」
確かにちらほらと項目が書かれているものがある『ゴブリンを初めて倒した』とか『宝箱を初めて開けた』とか、ロールプレイングゲームっぽい行動が書いてある。
判明している項目のなかで『従者を初めて従えた』というのがあり、その上には『Success story in your heart』という文字で赤い押印がされている。
「これは?」
「それは達成した項目やね。マリーが従者になったからハンコが押されたんや」
わかったようなわからないような……「ウーム」と複雑そうな表情で唸るヒロシ。
マリーブラッドさんが僕の従者になったってのは今朝のやりとりで何となくわかった。マリーブラッドさん自身は相当ショックを受けてたけど。
ってことは……僕の今までの行動にそのキッカケがあったということになる。
彼女に対して度重なる失礼はあったものの、明示的に何かをした覚えはない。……何がキッカケで彼女は僕の従者になったんだろうか?
そもそも従者というのは一体何なんだろうと気にかかったが、おそらく一緒に戦う仲間みたいなもんだろうと自分の中で勝手に納得する。
「もうわかったやろ? ここに書いてある項目を達成していけば、おのずと立派なテンプレ騎士になれるっちゅうことや!」
妖精の言葉に無言で頷きかえす少年はヒントを探してパラパラとページをめくっていた。
どのページもびっしりと項目が並んでいる。判明している項目についてはわかりやすいのもあるが、ほとんどは意味不明だ。
「1人の女性と初めてキスした」
「1人の女性の生乳を初めて見た」
「1人の女性の全裸を初めて見た」
「1人の女性の乳を服越しに初めて揉んだ」
「1人の女性の生乳を初めて揉んだ」
「1人の女性にラッキースケベを初めて決めた」
どれもひどい項目名だが、ぜんぶ達成の印がついていた。
おそらくマリーへの二度にわたるセクハラの賜物だろう。
「女子更衣室の覗きに成功した」
「女風呂の覗きに成功した」
「女子トイレの覗きに成功した」
もっとひどい項目があった。
完全に犯罪じゃないか。まさか本当にこれをやらなきゃダメなんだろうかとヒロシはぞっとした。
「妹ができた」
「妹にエロ本を見つかった」
「妹と同じベッドで一夜を過ごした」
ひどいを通り越してありえない項目を見つけた。
少年は元いた世界ではひとりっ子で、妹はもちろん、兄弟と呼べるものはいなかった。
「あの、どう考えても無理なのがあるんだけど……」
妹の文字を指差したが「なにが無理なんや? なに? 妹がおらん? アホぬかせ! よく探せばタンスの裏とかにおるわ!」と支離滅裂なお叱りを受けてしまった。
「ねぇ」
ざっと本の内容確認を終えたヒロシは顔をあげて妖精をじっと見つめた。いつになく真剣な……決然とした表情をしている。
「なんや?」
「もし僕がテンプレ騎士をやりたくないって言ったら……どうなるの?」
「……なっ、なんやてぇ!?」
少年の言葉を聞いた瞬間、妖精の顔はエビス顔のヤクザが借金を踏み倒された時のように恐ろしく豹変する。
肩をいからせつつヒロシの顔に突進し、フェイスハガーのようにベタッと貼り付いた。
「なぁに言うてけつかる!? やりたくないもシャシャリもあるかい! 世界の平和がかかっとるんやで!? 今度そんなこと言うてみいや、耳から手ェ突っ込んで脳いじって、妖精とお花畑しか見えんようにしたるでぇ!?」
「う、うわあああっ!?」
あまりの豹変ぶりに驚いたヒロシはパニック気味に妖精を掴んで引き剥がす。
妖精は本職ばりの迫力を見せていたが、ヒロシの手の中では大人しくなっていた。
「でも……どうしてもやりたない言うなら……逃げるしかないなぁ」
握りしめられたまま寂しそうにつぶやく妖精。
「ライト・ノーヴルではひとりのテンプレ騎士しか存在できひん……だから新しくテンプレ騎士を呼ぶためには前のをナイナイするしかないんや……」
「えっ……!?」
最後はぼかされてしまったが、ヒロシはその意味をすぐに理解した。
「うーん、そうなったらしゃあないなぁ、もしそんなコトになったらウチが一緒に逃げたるわ。あ、せやけど……それはそれでエエかもしれんなぁ、ファアリーランドじゅうのうまいもん食いながら追っ手から逃げ回ろか!」
ヒロシの手に包まれたまま、妖精はニカッと笑う。
「なんだよ、それ……」
寿命を半分失ってまで自分をテンプレ騎士に選んだ
ことといい、期待に添えなくても一緒に逃げてくれることといい……この妖精は買いかぶりすぎてるんじゃないかと少年は思った。
「で、どうするんや? 逃げるんか? ウチと一緒に食いだおれ旅行したいんか?」
掌中から飛び出した妖精は、いつものからかう調子でヒロシのまわりをクルクル回りだす。
弾むようなその声はなんだか乗り気のニュアンスを含んでいるように聞こえた。
意地悪な質問をしてしまったことをヒロシは少し反省した。
実を言うと質問の前から心は決まっていたのだが、妖精の答えを聞いてさらに決心が固まった。
「それもいいけど……ちょっとだけがんばってみるよ。うまくできるかわからないけど、やってみる。テンプレ騎士ってやつを……」
一度死んだ身だし、戻ることもできないのであれば第二の人生をここで歩んでやろう。
世界を救うなんて大それたことはできないかもしれないけど……少しだけ本気でがんばってみよう。
それが……自分を信じ、助けてくれた妖精へのせめてもの恩返しだ。
「そう言うと思ってたやで! さっすがヒロシのダンナ! ウチが見込んだだけのことはあるやん!」
ヒロシの顔の前で止まった妖精はパチンと指を鳴らした。
「でも慌てんと、まずはこのライト・ノーヴルに慣れることやな! 『Road Of The Template Knight』……ROTTKをぼちぼち埋めてったらええねん」
「わかった、そうするよ。……あ、そういえば……マリーブラッドさんは……?」
「ダンナを投げ飛ばしたあと、とっくに怒ってどっか行ったやで」
「そっか……」
後でちゃんと謝りにいかなきゃ、と少年は思った。
「それよりもダンナ、さっきからずっと気になっとったんやけど……」
妖精はヒロシの頭部を見つめながら、急に神妙な顔つきになった。
「なに?」
「自分、イカした被り物しとるね」
そう言われて「被り物?」と頭に手をやると、なにかが乗っていた。
外してみるとそれは、カップが異様に大きい桃色ブラであった。




