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49 女子会部、始動!

 ライト・ノーヴル学園校長、スジリエ・グラディアの表情はさざ波のように穏やかだった。

 審判の際であっても終始落ち着き払い、それは時に冷徹ではあったが公平を期し、罪状を報告した。

 考えた処分がヒロシによって否決され、ほぼ無罪の判決が下されても……決して取り乱すことはなかった。


 しかし……彼女の内なる心は太陽のコロナのように、触れる者全てを消し炭に変えるような紅蓮の炎を宿していた。


 今朝方、ロート、グリュー、ブラウを校長室に招き、事件の顛末を聞き出した瞬間から、それは起こっていた。


 ……ヒロシ様から排泄を制限させられ、しかも、馬になるように命令され……最後には大勢の前で失禁させられた……!?

 わたくし自身が毎夜、いや、十五分おきくらいにしていた妄想が、すでに現実のもとなっていただなんて……!?


 しかもその対象はわたくしではなく、他の方……!?


 ああ……っ、なんということでしょう……!? ヒロシ様の従者(スレイブ)になっていれば……わたくしがその寵愛を受けられたかもしれないというのに……!?


 ううっ……わかっています。わかっております……でも、つらいです……ヒロシ様……。

 ヒロシ様にとってあの程度の責苦は前菜でしかない。それをわたくしに見せつけて、焦らして、思いを募らせるわたくしを見て楽しんでいらっしゃるのでしょう……?


 お前への責めはこの程度ではすまない、と暗にわたくしにおっしゃっているのですよね……?


 ああっ……なんという残酷なことをなさるのでしょうか……!

 家畜は屠殺する前に、より恐怖を味あわせたほうが味の良い肉になるといわんばかりの行為……!


 そして、そのヒロシ様イズムは末蔵ヤミさんをも毒牙にかけようとしています。


 ヒロシ様が末蔵ヤミさんの永久追放を否認し、かわりに無罪放免を決定されたとき、ヒロシ様は草食動物のように無害な顔を作っておられました。

 しかし、わたくしは知っています……その裏にある本性を……。


 永久追放はいわば、生命を代償にしてヒロシ様の嗜虐の螺旋から逃れる行為……。

 そんなことは絶対に許さない……。手元に置いて、家畜に恐怖を与えるようにさらなる屈辱を、そして羞恥を味わわせてやろう、とお考えになっているに違いありません……!


 その証拠に、ヒロシ様はおっしゃいました。「彼女にはお咎めナシで、今までみたいに僕の前の席で一緒に授業を受けれるようにしてほしいんだ」……と!


 末蔵ヤミさんはこれから学園で授業を受けている最中ずっと、ヒロシ様に無防備な背中を晒すことになる……!

 女が後背をとられるということは、これはもはや、マウントポジションをとられたメス犬も同然……!!

 時を選ばない慰みを受けさせられるに違いありません……!

 神聖なる授業を冒涜するように、時にはただの退屈しのぎのためだけに……!


 末蔵さんはいつ背後から魔の手が忍び寄るかもわからず、怯えながら一日の大半を過ごさなくてはならなくないのです……!!


 なんという、めくるめく寵愛……!!

 ああっ……ヒロシ様……わたくしは……末蔵さんになりたい。心の底から彼女を羨望しています……!!


 は……はい……わかっております……いつかわたくしにもその番がやってくることを。

 でも、それまでは、こうして焦らして焦らして焦らしぬく……。一気に絶望に叩き落とすために、最高の瞬間を待っている……。

 ……そう、お考えなのですよね?


 でも、苦しいのです。辛いのです。

 他の方々に与えられている寵愛の十分の一……いや、百分の一でもお恵みいただけないのでしょうか……。

 それだけで、わたくしはガマンできます。いつまでも待つことができます。


 ヒロシ様……ああ……ヒロシ様……。




 ……静かな熱視線。しかしヒロシは気づかなかった。目の前にいる清らかさの象徴のようなお姫様が、今まさにそんなことを考えていようなどとは……。

 そしてそんなヒロシの無自覚さこそが、姫にとっては情念を滾らせるための燃料となっていた。心の内にこんこんと注がれ続ける油に、いまにも爆発しそうな幼い身体を密かにうち震わせていた。


 エレベーターを出て本校舎の廊下へと戻ったヒロシは、控えめに咲く花のような笑顔に見送られ、放課後の教室へと向かった。

 

 教室にはツキカと三人娘とベルが待っていた。マリーはいなかった。

 一日ぶりくらいに会った三人娘は変わりない様子だったが、なんだか少し気まずそうにしていた。


「あ、ヒロシくん、聞いたよ、マリーさんにこっぴどくやられたんだって? まったく……ヒロシくんってば見た目によらずエッチくんなんだね……」


 ロートはいつものように元気だったが、なにやらはにかみ気味にモジモジしていた。

 グリューはもう同じ空間にいるだけで顔を真っ赤っ赤にしているし、ブラウに至っては、


「ド変態」


 とだけ冷たく言い放たれてしまった。


「え? あ……う、うん……?」


 ヒロシはよくわからず曖昧に返事をしてしまう。


 彼女たちとの間に一体何があったのか、覚えてはいないが決して良いことではなさそうだった。それは三人のよそよそしい態度からも明らかだ。

 三人娘とのギクシャクした雰囲気と、マリーがいないことも手伝って教室内の空気は最悪だった。

 せっかく緊張から開放された直後だというのにヒロシは逃げ出したくなるような居心地の悪さを味わっていた。


 これからどうしようかとヒロシが迷っていると、胸ポケットの住人が飛び出して停滞する空気を一新した。


「さぁーて放課後といえば部活やろ! 新しい部活も決まったことやし、さっそく活動開始といくでぇ!」


 ミームはずっと寝ていたせいか元気いっぱいで、空中で力強く拳を突き上げて頭上のブロックを壊すようなポーズを決めていた。


「そ……そうだね、部活、やろうか」


 ヒロシはホッとした様子で賛同した。


 新しい部活について皆に説明するため、ヒロシたちはひとまず席をくっつけあわせて教室内に会議スペースを作った。

 ヒロシがひとまず議長席に座り、両隣には顧問のようにミームとROTTK(ロック)

 ヒロシはまず、決まった部活が『女子会部』であることを説明した。


 『変な部活』が『女子会部』であると聞き、部員である従者(スレイブ)たちは顔を見合わせた。


「女子会部って女の子だけで集まっていろんなことをやる部活ってことだよね?」


 真っ先に議論の口火を切ったのはロートだった。


「あらあら、それは楽しそうねぇ、集まってどんなことをするの?」


 頬に手を当てたツキカがのんびりと尋ねる。


「特に定義はない。お茶を飲む、食事をする、ゲームで遊ぶ、スポーツをする、カラオケをする、旅行をする、演劇鑑賞をする、読書をする、宴会をする、勉強会をする……複数の女性で集まって何かをすれば、それが女子会となる」


 淡々としたグリューの説明を聞いていたヒロシは『テンプレ騎士専用資料室』で見た絵画を思い出した。

 『変な部活』の表題が付けられた額の絵は女性たちが談笑している光景だった。

 もしかしたらあれは、女子会をしているところをスケッチしたものかもしれない……と今更ながらに勘付いていた。


 同じくグリューの説明を聞いていたツキカは「ふぅん」と納得したような声を漏らす。


「なんでもいいのね。じゃあこの前みんなでタコ焼きを食べたのも、女子会かしら?」


「行為についてはそう考えても問題ない。ただし形式については、ふたつほどそぐわない点がある」


 説明の立場から一転、ブラウは自分なりの考えを述べるつもりのようだった。

 すでに彼女のなかでは結論は出ているようで、それに向かってつき進もうとしているような強い意思を感じさせた。


 ヒロシは女子会というものをよく理解していなかったので、かわりに話を進めてくれて助かる、くらいの気持ちで聞いていた。

 ブラウの進行に乗っかるように「それはなに?」と尋ねる。


「まずひとつめ、この中に約一名、男性が存在している。これでは女子会にならないという点。次にふたつめ、これは形而上的な指摘ではあるが、女子会、というのが『変な部活』にあたるのか甚だ疑問である点」


 約一名というのはヒロシのことだろう。

 指摘を受けたヒロシは持って回った言い方がなんだか気になったが、解決方法についてはひとつしかないじゃないかと思っていた。戸惑いながらもその答えを口にする。


「約一名って僕のことだよね? それなら僕を抜きにしてやればいいんだけなんじゃ……?」


 一緒にタコ焼きを食べた時はとても楽しかったので、その輪から抜けてしまうのはちょっと残念だけど、仕方ないか……とヒロシは思っていた。

 しかしブラウは首をふるふると左右に振って否定する。


「おそらくそれはROTTK(ロック)が許可しない。『変な部活』というのはテンプレ騎士(ナイト)の象徴でもある。テンプレ騎士(ナイト)抜きで実行しても部活とは認められないはず」


 ブラウはヒロシの隣で浮いている本以上に無機質に言いながら、返答を求めるようにROTTK(ロック)のほうに視線をやった。

 ROTTK(ロック)は青髪の少女以上に人間的な仕草で、頷くように自身の身体を上下に振った。


「えっ、じゃあ、どうすれば……」


 ヒロシは面食らった。

 男であるヒロシがいては女子会とは認められない。でもヒロシが抜けるとテンプレ騎士(ナイト)の活動としては認められない……。

 ROTTK(ロック)は明らかに矛盾したことを要求してきていることになる。


「じゃあ、女子会部自体をやめて、他の部を考えなおすってのは?」


 ロートが口を挟んだが「変える必要はない」とブラウが即座に却下した。


「男性が存在しても女子会として認められ、かつ、変な部活としての要件も満たすことができる……そのふたつを同時に処理できる案がひとつだけある」


 ブラウはたどり着きたかった結論についに到達したようだった。

 その口元が三日月のように歪んでいたので、ヒロシはなんだか嫌な予感がした。 


「そ、それは……なに?」


「それは……ヒロシが男の娘になれば、すべてが解決する」


 青髪の少女はこのとき初めて、少年の名前を呼んだ。






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