46 発券! TKB券!
「じょ……女子会部!?」
戸惑うヒロシの肩ごしにROTTKを覗き込んでいたミームは「おお、決まったか!」と声を弾ませた。
「じょ……女子会部って、なに?」
「知らんがな! お前が言うたんやないか!」
「いや、僕はこの手紙に書いてあったことを読んだだけで……ううっ」
少年の言葉を遮るように、突如ROTTKが強い光を放射しはじめる。
強力なフラッシュライトを向けられているような、目の眩むまぶしさに顔をしかめる。何事かと薄目で見てみると……まばゆい光を放つ紙面には『レベルアップ!』の文字が燦然と浮かび上がっていた。
学園のある方角からゴォーン! と重厚な鐘の音が響きわたる。そのあとに屋根を揺らすような爆発音が空を駆け抜けていった。
窓に目をやると、朝だというのに花火が打ち上がっていた。
「おおっ、クエストクリアでついにレベルアップしたんやな! テンプレ騎士がレベルアップするとあんな風に花火が打ち上がってみんなでお祝いするんやで!」
クエスト達成とレベルアップが余程嬉しいのか、ミームはヒロシの肩で上機嫌にしていた。
しかし当のヒロシはいまいち実感がわいてこない。
「……レベルアップって?」
「ROTTKの項目を埋めたり、従者を増やしたり、クエストをクリアしたりするとテンプレ騎士としての経験が積まれたとみなされてレベルアップするんや!」
「レベルアップすると何かいいことがあるの?」
「当たり前や、ええことだらけやで! まずレベルアップしたら体力が全快するやで! ……どや? ビンビンやろ?」
ミームは風俗の客引きのような嫌らしい声色でヒロシの頬を肘でプニプニと突いた。
ビンビンかどうかはわからないが、ヒロシはたしかに実感していた。
今朝目覚めたときより気持ちがスッキリしていて、やる気と力がみなぎってきてくるような気がする。力の種のような衝動的なものではなくて、こんこんと湧き出る泉ような自然なエネルギーを感じる。
ずっとあったふくらはぎの痛みもすっかり消え去っていた。
「他には身体能力があがんねんけど……まあレベルがひとつあがったくらいやと実感ないかもしれんね。新しい能力が身につくこともあるんやけど……それは今回はないようやな。あ、あと召喚できる従者の数も増えるんやけど、これも実感できるのはもう少し先かもしれんなぁ」
ミームの説明が終わるのを待っていたかのように、再び旋風が起こる。
ROTTKは激しく回転しながら天井付近まで舞い上がると、ゆっくりとその姿を消した。
部屋に静寂が戻ると同時に、天井から一枚の紙片がキラリとこぼれ落ち、少年の足元に落ちた。
拾いあげるとそれは、長方形のチケットだった。
金色に輝く券面には『TKB券』とだけ書かれている。
「おお、これはTKB券やな! レベルアップのご褒美や! いやあ、こうたて続けにええことがあるとお祝いせなアカンな! 今夜は赤飯やで! あ、男の子の場合はトロロご飯やったかな?」
クエストクリアとレベルアップにさらにアイテムゲットが加わりミームは今にも踊りだしそうにウキウキしていた。金色の券はどうやらかなりいいアイテムらしい。
「……TKB券って?」
「あー……説明するのもアレやから、実際に使うてみよか、そのほうが早いやろ。誰でもええから一人、女のことを思い浮かべながらその券を放ってみ? その時に『チクタクビーム、チクチクビーム、お山の上からこんにちわ』って言うんやで」
説明を聞いていたヒロシの顔が、奥歯で苦い虫を噛み潰してしまったようなしかめっ面になる。
「……ねえ、僕の唱えるその……呪文みたいなやつって、従者召喚の時といい、そんな妙なのばっかりなの?」
噛んだ苦虫を吐き出すように言う。
「なんや妙って、どっちもれっきとした言霊やないかい!」
「グリューさんとかブラウさんの呪文みたいにカッコイイのはないの?」
その言葉にミームはカチンときたのか、ヒロシの眼前に飛んでいって鼻先をパチンとはたいた。
「効果が得られりゃなんでもええやろ! 何気にしてんねん!? 腹に入ればなんでも同じ、目えつぶったったらベッピンもブサイクもあらへん、ひとり殺すのもふたり殺すのも同じことや、違うんかい、オォーン!?」
チンピラみたいに顔を上下させてねめつけるミーム。
ヒロシは「全然違うよ……」と言いかけたが、ぐっと飲み込んで言われる通りにした。
少年は頭の中で思いを巡らせる。
女の子をひとり……誰でもいいならマリーかな。
彼女はいまどこで何をやってるんだろう……と思いながら、TKB券を撒く。
「ち……ちくたくびーむ、ちくちくびーむ、おやまのうえからこんにちわ!」
少年の声に反応し、カッ! と券面が輝く。エネルギーを集めるようにどこからともなく現れた光の粒子が集めたかと思うと、金色の光の筋が極太のレーザービームのように発射された。
「うわあっ!?」
突然の破壊光線に、のけぞるヒロシ。
レーザーは寝室の壁に大穴をあけ、隣室まで達する。さらにその隣りの壁まで届き、人ひとりが余裕で通れるくらいの大穴をふたつ開けた。
あたりには硝煙がたちこめ、焦げ臭い匂いが充満している。
ぽっかりと空いた風穴の向こうには……人影があった。
それは……着替える途中のポーズで固まったような、マリーの姿だった。
穴の方を向いたまま呆然としている。身体は煤けた全裸だった。
「……とまあ、こんな感じで対象の乳首を強制的にほり出させることができる券や! 一枚につき二乳首まで露出させられるんやで。見てのとおり、この券の強制力は絶対やから、間に何があってもぶっ飛ばして乳首が見れる優れモンのアイテムやで! ……使い切りやけどな!」
ミームはこの惨状を誇るように胸を張り、得意気に説明してくれた。
ヒロシはマリーのことを考えて券を使った。でもまさか乳首を見るための券だなんて思いもしなかった。
券の対象となったマリーは、ヒロシの寝室のふたつ隣りの部屋で着替えている最中だったんだろう。
そんな状態のマリーの乳首を見たいとTKB券に願う形となった。
券の強制力はかなりのもののようで、レーザーにより壁を破壊するだけでなく服まで焦がしたようだ。
さっきまで制服の形をしていたであろうボロ布は、消し炭のようなってマリーの手にわずかに残っている。
そして被害にあったのは衣服だけでなく、腹部の割引シールも燃え尽き、剥がれ落ちていた。
育ちすぎた果実のように垂れ下がるマリーの胸。先っちょにあるピンクの突起を、券の効果のとおり少年は確かに拝むことができた。
しかしそれ以上に少年の目を奪っていたのは、目的の突起よりさらに下にある、おしゃぶりのようにぷっくりと飛び出たおヘソ……いわゆる「デベソ」というやつだった。
マリーは視線を感じ、サッと片手で腹部を覆い隠す。一糸まとわぬ姿であるにもかかわらず壁の穴を乗り越えて無言でツカツカとヒロシの元に歩いてきた。
ノーブラなので胸はメトロノームのように激しく揺れている。しかし隠そうともしない。隠しているのはヘソだけだ。
……ヒロシにとってはいつものセクハラだった。もちろん故意でないのもいつも通りだ。
しかしマリーの反応はいつもと違っていた。大きな瞳にいっぱいの涙を浮かべていたのだ。
ただならぬ雰囲気に、ヒロシは必死に言い訳をしつつ頭を下げた。
「ごっ……ごめん! わ、わざとじゃないだ! け、券が……!」
その腹に豪拳がめり込む。
「ぐふっ!?」
背中から拳が貫通しそうなほどの強烈なボディーブローを受け、身体をくの字に曲げて跳ね上がるヒロシ。
肺の空気が強制的に吐き出され、息ができなくなり膝を折って苦しむ。
その後頭部に、天を突くような高さで振り上げられたカカト落としが、鉄槌のように容赦なく下された。
グシャッ、という音とともに、ヒロシの意識は強制シャットダウンさせられた。




