44 女体のサーフ&ボール
シェイクしまくったジンジャーエールを開栓したような勢いで、ほとばしる黄金の液体。
爆心地にいた少年の顔はあっというまにビショ濡れになる。
口を開けると溺れるほどに注ぎ込まれ、塩辛い味が口いっぱいに広がる。
勢いにまかせて飲み込むと、長いこと少年を苦しめていた喉のつっかえが取れ、胃の中にストンと落ちていくような感覚があった。
エネルギーが体内で爆ぜた瞬間……少年はすでに振り終えていた。
鞭がバラバラに切断され、ボンテージが千切れとび、痩せ気味の白い身体からタトゥーが消え去った。
背後にいたバンドメンバーの楽器と制服もついにでバラバラにする。
締めくくりに、NDDの真紅のアイマスクが外れ、はらはらと落ちた。
過激なパフォーマンスをしていたとは思えないほどの、怯える小動物のような瞳孔が……恐怖のあまり小刻みに揺れていた。
しかしそれよりも目をひいたのは、アイマスクのほうだった。
花びらのように回転しながら落ちる目隠しはリバーシブルのようで、赤い表面と、黒い裏面があった。
赤はNDDがつけていたときの面で、裏の黒い面のほうにも見覚えがあったヒロシは驚きのあまり目を見開いていた。
「ま……末蔵……さん?」
そのアイマスクの持ち主の名を呼ぶヒロシ。
教室で見た末蔵ヤミのしていたアイマスク。黒い布地に頭蓋骨と呪詛をあしらった刺繍。
それは間違えようのない、独特のデザインだった……!
アイデンティティである目隠しのみならず、全てを奪われてしまった少女はもはや見る影もない。弱々しい声とともにしゃがみこむことしかできなかった。
「い……いやあぁぁ……た、助けてえぇ……」
一糸まとわぬNDDの声に反応し、静観していた者たちが動き出す。
バンドメンバーと、毒の湖に浸かったまま待機していたスケルトンたちが一斉にヒロシたちに向かってくる。
しかしスケルトンたちはNDDにも襲いかかっていた。
「な、なぜ私までっ!? ああっ! じゅ、呪詛が消えたから……!? い、いやっ! やめてえっ!」
スケルトンたちに殴る蹴るされ、いじめられっ子のように身体を縮こませるNDD。
ディスアームによって身体のタトゥーを消されてしまったせいでスケルトンたちの制御が解け、暴走を始めたのだ。
ヒロシは残った力を振り絞るように、前のめりにダッシュする。
いじめっ子のような骸骨たちを蹴散らし、亀のように身体を丸めた少女……末蔵ヤミの腰をひったくり、小脇に抱えて走り出した。
突然かっさらわれたヤミはびっくりして、両手をばたつかせて暴れだす。が、ヒロシの勢いは止まらない。
少年は四人の少女と妖精を抱えたまま、噴出する湯柱めがけて特攻する。
洞窟の屋根がなくなり、差し込む夕暮れの光が少年の身体を包む。夕立ちのような温かい雨が降り注ぎ、身体を濡らした。
しかし少年は空を仰ぐことも、垂れてくる雨粒を拭いもせず、力の残滓を振り絞り、足を前に出すことだけに集中する。
もうじきオーバーヒートする、と全身が悲鳴をあげている。その時が来てしまったら、もはや指先ひとつ自らの意思で動かせなくなるだろう……と少年は予期していた。
だからこそ走ることのみに全神経を集中する。いまの彼にとっては瞬きすらエネルギーの浪費であり、眠気に抵抗するように双眸をカッと開いたままにしていた。
裂けた大地の間から噴出する泉に肉薄する。
そのまま速度を落とすことなく白い湯柱に全身を突っ込ませる。さながら、魔法学校へ繋がる駅の柱に飛び込むかのように……!
直後、少年の身体はワイヤーで釣り上げられたような勢いで上昇した。
……同じ頃、断崖の向こう側……温泉施設のほうではふたりの女の子が溫泉シャワーを浴びていた。
「はぁ、まったく……ヒロシのヤツ、いったいドコ行ったのかしら!? 図書館の立ち入り禁止区域まで行って探したのに! でも一番下があんな汚いところだとは思わなかったわ! おかげでホコリまみれよ!」
マリーは文句を垂れながら、空から降り注ぐお湯を浴びつつ手にしたスポンジで乱雑に身体を擦っていた。両腕に押されて行き場のないたわわな胸がぶるんぶるんとアバズレの如く暴れまくる。
ボンキュッボンを体現しているような見事なプロポーションは煤けきっ
ており、徹底的に家探ししたことを伺わせた。
その背中を擦っていたツキカも心配そうだった。
「ロートちゃん、グリューちゃん、ブラウちゃんも一緒にいなくなっちゃったから、心配ねぇ」
自らの身体も汚れているが、世話焼きの彼女は先にマリーの背中を流していた。
マリー以上の豊乳は大きすぎるあまり、時折マリーの背中にむにゅりと押し当てられていた。それは意識したものではなかったが、場所が場所ならサービス満点と称される行為だ。
押し当てられたものを撫でるようにマリーは振り返り、おかえしとばかりにツキカの身体にスポンジを当てる。
ふたりは洗いっこに移行し、みずみずしい肢体を交わらせた。
あわせて2メートル近いバストがお互いの身体にふれるたび、吸い付くように形を変える。
「ああ、もうっ! ヒロシのバカ、こんなに心配かけて! こうなったら絶対アタシたちの手で見つけ出して、頭蓋骨が砕けるくらいデコピンしてやるんだから! ツキカ! ココからあがったら街のほうを探すわよ!」
先っちょ合わせの状態で向かい合ったまま、マリーはツキカの首筋を擦る。
「はぁい。ついでにお夕飯のお買い物もさせてくださいね~」
刺々しいマリーの言葉にのんびりと応えながら、マリーの肩を擦るツキカ。
しっかり者の娘とおっとりした母、年の近い母娘が一緒にお風呂に入っているような光景であった。
男でなくても見とれてしまう、美しく微笑ましい姿に、温泉に来ていた女の子たちの視線を一身に集めている。
そんな平和な空間を打ち破るように……霹靂のような悲鳴が降ってくる。
顔を見合わせたふたりは、同時に顔をあげた。
「うわああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」
降り注ぐお湯とともに、ひとりの少年が落ちてくる。
「ひ、ヒロシ!?」「ヒロシちゃんっ!?」
ふたりはその名を叫ぶ。
ヒロシはそのまま、マリーとツキカの腕に飛び込んだ。
「……どすこいっ!!」
マリーは気を吐く。ふたりはヒロシをキャッチすることに成功したが、ほとんどはマリーの腕力によるものだった。
しかし……落下の衝撃まではいなすことができず、ふたりはナイスバディを揺らしつつはよろめき転倒してしまった。
「ああっ!?」「キャアッ!?」
斜面になっている大理石の坂を滑り落ちる。目を回すヒロシを背中に載せて。
坂の下では部活終わりの少女たちが、揃って温泉シャワーを浴びていた。
「ねえ、見てっ!?」
「えっ? ……あっ、あれは!?」
「マリーとツキカさんと……」
「て、テンプレ騎士様よっ!?」
「こ、こっちに来てるよ!」
「にっ、逃げ……キャアアアーーーッ!?」
……その日の夜、10番目となる号外が急遽発行された。
マリーとツキカの身体をサーフボードみたいにして立ち乗りするヒロシが、並んだ女の子たちを弾き飛ばしているイラスト。見出しは『テンプレ騎士、放課後の女体サーフィン&女体ボーリング……弄ばれたい奴は俺ん所へ来い……!』であった。




