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36 ゴールデンドロップ

 何度呼びかけても少年は放心したままだったので、ミームは叩きつけられた怒りを上乗せした気付けを施した。


 我に返ったヒロシは気まずさのあまり少女たちの目をまともに見れないところだったが、幸いにも三人とも長い前髪で瞳が隠れていたので目を合わせずにすんだ。

 おかげで挙動不審になることなくコミュニケーションをとることができた。


「えーっと、たしかロートさんは剣士で、マリーみたいに剣が使えるんだよね。グリューさんは地術士、ブラウさんは水術士でふたりとも魔法が使えるんだったよね」


 今日の午後の授業で見かけて覚えていたことをヒロシが話すと、三人は憧れのテンプレ騎士(ナイト)に気にかけてもらえたのが嬉しかったのか、たいそう喜んだ。


「みんなの力を僕に貸してほしい。一緒にこの地下室の探索をしてほしいんだ」


 ヒロシの頼みを聞いた三人の口元がポカンとなった。

 しかしすぐに「「「はいっ!」」」と元気に返事をする。


「すごいすごいすごい! テンプレ騎士(ナイト)と探索だって! キャーッ! 漫画みたい! 演劇みたいっ!!」


「うふふ、そうだね! ロートちゃんの大好きな漫画『やるっきゃテンプレ騎士(ナイト)』みたいだね!」


 三人は手をとりあって飛び跳ねていたが、ブラウがボソリと「でも装備がない」とつぶやいてハッとなった。


「そっか……装備の入ったカバン、図書館のロッカーに置きっぱなしだった……」


 しまったと唇を噛むロート。マリーなどは愛刀を肌身離さず持っていたが、それは従者(スレイブ)として召喚されること意識してのものだった。

 召喚されるとは思いもしてなかった三人はナイフ一本携帯していない。


「なんやなんや、それじゃ従者(スレイブ)やなくてただのJCやないか! イメージビデオに出さすくらいしか使い道ないで!」


 ズケズケと言うミーム。丸腰と聞いてヒロシも肩を落としてしまう。

 三人が来てくれたおかげでこんな場所でも賑やかになり、一緒に楽しい気持ちになれたが……探索をする仲間としては心許ないかもしれない。


「そうだ、もう一回カードを引いて、追加で誰かを呼べば……」


 ヒロシは言いながら腰のカードケースに指を突っ込んでみた。しかしいくらまさぐってもみてもカードは引けなかった。


「これ以上は無理やね。ヒロシの今のレベルやと本来は二人までしか呼べへんのやけど、コイツらは召喚コストが低いから三人呼べたんや」


「弱いからってこと?」


 ミームの説明に、ロートは不服そうに口を尖らせる。


「まあそういうこっちゃな」


「う~っ、悔しい! 見ててねヒロシくん! あたしたちだって役に立ってみせるから! ……ね、みんな!」


 ロートの意図を汲み取ったのかのように、グリューとブラウが身体を寄せてくる。

 三人娘は頷きあうと、額をくっつけあわせて円陣を組みはじめた。


 なにやらモショモショと囁きあったあと、突き合わせた拳を掲げ、


「トリコロール、オー!!!」


 と地下室じゅうに鬨の声を響かせた。


「なに、それ……」


 ヒロシの問いかけに赤髪のロート、緑髪のグリュー、青髪のブラウが一斉にヒロシのほうを向く。


「「「虹色三重奏プリスマティック・トリコローラーのフォーメーションA!!」」」


 同時に二つ名を口にし、揃って胸を張る『虹色三重奏プリスマティック・トリコローラー』。

 おそらく何度も練習したのだろう。立ち位置も動きも息が合っている。


「よっしゃ、ええ感じでオチもついたし、そろそろ行こか」


 ミームは決めポーズをあっさり流すと、適当な方向を示して促す。

 しかしブラウは決めポーズのまま、「こっち」と妖精とは逆の方向を指さしている。


「微風を感じる。行くならこっちのほうがいい」


「おおっ、さすがブラウ! ヒロシくん、ブラウは冒険科も選択してるから地下迷宮(ダンジョン)の探索についても詳しいよ! ホラ、早速役に立ったでしょ!?」


 自分の手柄のように言って手招きするロート、自然と三対一の状況になったので、ヒロシは三のほうを選んだ。

 「まぁええけど」と妖精もついてくる。


 さすがに丸腰の女の子を先頭に立たせるわけにはいかなかったので、ヒロシがすすんで前に出る。

 後ろに続く形でロート、グリュー、ブラウが並び、その近くをミームがフラフラと漂う。


 「床の罠に注意。剣で床を叩きながら進んで」とブラウのアドバイスに従い、ディスアームの先で床をコンコンと、石橋を叩くようにして進んでいく。


 それはかなりの牛歩であった。尿意という見えない敵とも戦っている三人娘にとって、ゆっくり進むのは余計な刺激がなくてありがたいことだったが……時間がかかる分だけ辛いところもあった。

 太ももをぴったりと閉じたままを、もじもじとじれったそうにこすり合わせ、よちよち歩きでヒロシの後をついていく。


「もうトイレじゃなくてもいい、物陰でもいいからどっかないかなぁ、せめて覆う布でも、いや、小さい穴のひとつもあれば……」


 とうわごとのようにつぶやくロート。

 だいぶハードルが下がってきているようだった。


 やがて、遠くに石の板が現れる。靴のカカトくらいのちょっとした高さの石の板が等間隔に敷き詰められている。


 「なんやアレ」と飛び出していくミーム。光源が移動したせいでヒロシたちのまわりが真っ暗になってしまった。


「おおーい、ホネホネロックがおるで」


 妖精が照らし出していたのは……石の王座に座る骸骨だった。

 居並ぶ石の板の中央にポツンとある腰掛石、そこには骨だけになった何者かが鎮座していたのだ。


「ひゃんっ」


 ヒロシの背後でしゃっくりのような悲鳴がした。

 振り向くと、ロートとブラウに庇われるグリューの姿が。

 緑髪の少女の脚はガクガク震えていた。スカートの中から垂れたひとすじの汗が、内腿を伝い落ちる。


「この子、怖いの苦手なんだ」


 ヒロシに言いながら、落ち着かせるように緑の髪を撫でつけるロート。


 ロートとブラウは骸骨を前にしても平気な様子だった。ブラウについては眉ひとつ動かしていないが、ロートに関しては気丈に振る舞っているようにも見える。

 リーダーはしっかりしなきゃと自分を鼓舞しているような力強い瞳で、目の前の状況を健気に受け止めている。


 実は骸骨を目にした瞬間、ヒロシは腰を抜かしてしまいそうになったが、彼女たちの反応を見て踏みとどまれた。


「よ……よしっ、僕が調べてくるから、ここで待ってて」


 ヒロシは三人を置いて骸骨のほうに向かおうとしたが、シャツの裾をつまんで止められる。見ると、ブラウが首を左右に振っていた。


「いま離れるべきではない」


 青い髪の少女はドライな様子で「来て」とグリューを抱き寄せる。

 どうやら揃って骸骨の元に向かうべきだと考えているようだ。


 グリューさんはこんなに怖がっているのに無理なんじゃ……とヒロシは思ったが、ブラウはグリューの頭を腕で包み込み、耳に胸を押し当てて心音を聴かせていた。


「……この音がしている限り、自分が側にいる。そして何があっても守る……だから安心して」


 やさしく囁きかけると、あれほど震えていたグリューの脚が落ち着きを取り戻したように止まった。

 「もう大丈夫」と緑髪の頭が首肯するようにゆっくりと動く。


「行こう」


 短い合図とともに、二人三脚のように歩きだす『虹色三重奏プリスマティック・トリコローラー』。

 ヒロシは先導船のように彼女たちを導き、灯台のように光を灯し続ける妖精に向かっていった。


 灯台の元は暗くなく、質素なつくりの玉座を明るく照らし出していた。

 石の背もたれに寄りかかって座る骸骨は一切の生気なくうなだれているが、風化した様子はなく骨格標本のように綺麗だった。


 骨盤に沿うように置かれた前腕。指どうしを絡み合わせ、一通の洋封筒を包み込んでいた。

 宛名のところには『変な部活』と書かれている……!


「あっ……!」


 ヒロシは骸骨を触るのに躊躇していたが、宛名に突き動かされた。

 封筒を取ろうと手を伸ばす。


 指先が触れようとしたその瞬間、骨ばった、いや、骨しかない指が少年の手首をスッと掴んだ。






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