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27 揉むや、揉まざるや!?

 校長室を離れたヒロシ一行は再びマリーに先導され、授業を受けるため教室へと向かった。

 道中マリーとすれ違う女生徒たちは誰もが気さくに挨拶してきた。そして例外なくマリーの背後にいるヒロシを見た瞬間飛び上がっていた。


 目的の教室は校長室とは反対側に位置する。大理石造りの廊下を引き返して正面玄関まで戻り、さらに歩いていくと教室のある回廊へとさしかかった。

 中庭をぐるりと囲む廊下、装飾された柱の向こうには見事な英国式庭園が広がっており、色とりどりのバラが咲き乱れていた。


「この学園はどこも花でいっぱいなんだね」


 そよ風に乗って漂ってくる上品な香り。ヒロシはもっと感じたくて大きく息を吸い込んだ。


「校長の趣味なのよ。いいわよねぇ」


 マリーはうっとりしていたが、肩の上に座るミームはうざったそうにしていた。


「ウチは嫌やわぁ、花とか意味わからんもん、虫とかようけおるし」


「花が嫌いなんて、アンタ本当に妖精?」


「どっからどう見ても可愛らしいティンカーベルやろ! なんで花が嫌いっちゅうだけでそんなこと言われなあかんねん!?」


 それだけじゃなくて、ガラの悪い言葉遣いをするところも妖精っぽくないよ……とヒロシは内心思ったが言わないでおいた。

 かわりになぜそんな言葉遣いなのかを尋ねてみる。


「ミームって、なんでいつも関西弁なの?」


「ああ、それな。ウチは戦闘妖精やった時期があってナニワ……大阪のほうに長いことおったんよ、そこで染み付いてもうたんや」


「……ボクのいた世界のことにやけに詳しいなぁと思ってたけど、そういうことだったのか」


「大阪のあらゆる所に鋭く切り込んでったさかい当時は『ミナミの帝王切開』言われとったんやでぇ、たこ焼きをコッチの世界に持って来たのもウチやし」


「へぇ、すごいじゃない。アタシたこ焼き好きなのよね。ああ、想像したらたまらなくなってきたわ。放課後みんなで行きましょうよ」


 マリーから心底楽しそうな笑顔を向けられてヒロシの胸はドキンと高鳴った。


 スクールカーストでも上位に立つ人種といわれる美少女ギャルと普通に話しをしている。しかも自分に笑いかけてくれるという衝撃の事実に改めて気づく。


「えっ? あ、う、うん」


 うわずった声になってしまった。


 マリーは容姿は抜群で、性格も悪くない。

 ちょっと短気で乱暴なところと、ファッションがかなり奇抜なところがあるがそれを補ってありあまる魅力にあふれている。

 かつてヒロシがいた世界にマリーがいたならスクールカーストの上位どころかクラスの中心人物になっていたのは間違いないだろう。


 そしてかつての世界にマリーがいたとしたら、きっとこんな風に笑いかけられることはなかったであろう。

 自分が『テンプレ騎士(ナイト)』だから彼女も相手をしてくれてるんだと思うと一抹の寂しさ感じる。


 けれども同時に、キョロ充であった自分を変えるチャンスだとも思っていた。

 この地位を利用して女の子たちと仲良くなって、リア充への足がかりとしてやるんだ……とほのかな野望も抱きつつあった。


 マリーはさらに歩みを進めていき、短いスカートを翻しつつ廊下を曲がった。先日の握手会のとき会場に向かう途中で通りすがった廊下にさしかかる。

 あのときには何もなかった壁の巨大な額縁に、今は絵が入っているようだった。


『テンプレ騎士 田中ヒロシ様』


 という金属のプレートでうやうやしく表題がつけられた油絵を見て、ヒロシは思わず鼻水を吹いてしまった。


「なに……コレ!?」


 壁一面を覆うほどの巨大なヒロシの肖像画だった。実物の何倍もの大きさがある。


「美術部が描いたんやろ……なんや『すべらない話』みたいやなぁ」


「だいぶ美化されてるわねぇ、ホンモノはこんなにキリッとしてないわよ」


 ヒロシの顔と肖像画を見比べながら好き勝手に品評するミームとマリー。ヒロシは恥ずかしくなって顔をそらすと、反対側の壁にある肖像画が目に入った。


『従者1号 無双の雌犬姫 マリーブラッド・ハーレークイーン 』


「あら、こっちはよく描けてるじゃない。カガミかと思ったわ」


 描かれた自らの全身像を頭のてんぺんから足のつま先までチェックして満足そうに頷くマリー。


 ヒロシの肖像画と比べると半分くらいのサイズではあるがじゅうぶん大きい。

 ラメがいっぱいちりばめられてキラキラしており、そこがまた当人の好みに合っているようだ。


「パンツ見えへんかな」


 絵なのでもちろん見えるはずもないのだが、ミームは股下の位置に飛んでいってスカートの中を覗きこむような仕草をする。


「……ねぇマリー、あのシールは何なの?」


 ヒロシは絵の中にいるマリーの腹部を指さし、例の割引シールを示す。

 ミームの関西弁が気になっていたように、初めて会ったときからずっと気になっていたのだ。


「パワーリミットシールよ」


 マリーの口から返ってきたのは雑誌の広告欄に載ってそうな名前だった。


「アタシは身体の限界を超えた力を発揮できる体質なの。だからこのシールでセーブしてるのよ」


 限界を超えた力を発揮できるというのは人間離れしているが、この世界の住人ならそんな能力があってもおかしくなさそうなのでヒロシは驚かなかった。シールでセーブできるというのもまあ納得できなくもない。

 しかし……いくら考えても理解できない点がある。


「そうなんだ……貼るのはあの場所じゃなきゃダメなの?」


「はあっ!? あそこに貼らなきゃ丸出しになっちゃうじゃない!? 急にナニ言い出すのよアンタ!?」


 マリーは信じられないといった様子で声を荒げた。

 何かを想像したのか顔を真っ赤にして腹を両手で覆い隠している。


「そ、そう……?」


 とんでもない下ネタを言ったみたいな軽蔑の目で見られて、ヒロシは首をかしげた。


 普通ギャルといえばヘソ出しくらい平気ですると思っていた。というかすでにマリーは半裸に近い格好だ。

 でもヘソだけは隠している……どうやら彼女にとってヘソというのは性器などと同じくらい秘匿すべき部位らしい。


 ヒロシはそう結論づけてみたものの、なんだか腑に落ちなかった。

 だがこの話題を追求すると鉄拳が飛んできそうな気がしたのでそれ以上は何も言わなかった。


 さらに廊下を進んでいくと、次はツキカの肖像画があった。


『従者2号 永世幼稚園 ツキカ・モモタン』


 マリーの肖像画がラメラメだったように、ツキカの肖像画にもひと工夫こらされていた。

 肖像画の胸部が立体的に盛り上がっている。


「なんや、おっぱいマウスパッドみたいやなぁ」


 ミームは盛り上がった部位に飛びつくと、無遠慮に揉みしだきはじめた。

 やわらかい素材でできているようで弾力に富み、本物の胸みたいにぷにぷにと揺れている。


「あら、触り心地いいわね」


 見ていて自分も触りたくなったのか、ちょっと高いところにある胸をピョンピョン垂直飛びしながら掴むマリー。


「ヒロシも触ってみ、気色ええで」


 ミームに手招きされてヒロシは生唾を飲み込む。

 二人がかりでさんざん弄ばれて形を変える出っ張りを見て、本物を思い出してしまった。


 いくら作り物とはいえ、女の人の胸を触るなんてちょっと恥ずかしい……でも、でも……すっごく触ってみたい……!!


 ニセモノだとわかってはいるが、おっぱいの魅力に抗うことなど思春期のヒロシ少年には到底無理なことだった。そそくさと肖像画に歩み寄る。


 限界までつま先立ちになって背伸びをし、意を決して手を伸ばす。

 今まさに触れようとした寸前、視線を感じた。


 廊下を並び歩いていた幼稚園児たちが立ち止まり、ヒロシをじーっと見つめていたのだ。

 その最後尾には、いま触れようとしていた肖像のモデルとなった人物が立っていた。






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