23 男子更衣室のない世界で
「変な部活……?」
ヒロシはROTTKに示されている文字を訝しながら読み上げた。
「ついにやるんですね、変な部活っ!!」
「ああ、テンプレ騎士といえば変な部活よねぇ」
「変な部活といえばテンプレ騎士の代名詞やからなぁ」
ロートとマリーとミームは揃って腕組みしながら頷いている。
その場にいる女性陣は皆『変な部活』に対して理解があるようだったがヒロシは何がなんだかさっぱりだった。
「あらあら、みんなあつまって、賑やかねぇ」
ほんわかした雰囲気を振りまきながらツキカが寝室に入ってきた。
赤ちゃんの様子を見にきたママのような佇まい。後ろから小さな人影がひょっこりと顔を出す。
その姿を認めたヒロシは「あっ」と声をあげた。
忘れもしない赤いずきんの少女……『血煙の獣騎士』……!!
少年は思わず身構えるが、妖精は気楽に笑った。
「はは、もう心配せんでもええで、闇の力で凶暴化しとったけどディスアームで浄化されたから元に戻ったんや」
「さぁさ、ベルちゃん、ヒロシちゃんにお礼を言いたかったんでしょ?」
レッドライディングはあくまで二つ名。ベルというのが本名のようだ。
ツキカに促されたがベルは引きこもるように赤ずきんを深く被ってしまった。
「……って、あらあら、恥ずかしいのかな? じゃあみんなで朝ごはんにしましょうか、一緒にごはんを食べたら仲良しさんだもんね」
ツキカは胸のあたりで指をゆるく絡めて言う。
一緒に食事をとればみんな仲間、温厚柔和な彼女らしい提案だった。
ヒロシはパジャマだったし水着の女の子もいたので朝食前に着替えようということになった。
ロートはすでに我が家にいるような慣れた感じでブラウとグリューを引き連れて寝室から出ていった。
ベットから起き上がったヒロシは室内にあるクローゼットを開けてみた。
この世界に来たときに来ていた白いワイシャツと学生ズボンに似た服がいくつも掛けられている。
「ヒロシの着てたもんを縫製軍団で再現して、量産して届けてもらったんやで」
背後からミームの声がする。
ヒロシにとっては学生服でなくても良かったし、裁縫軍団というのは何なんだろうという疑問も残ったが、着慣れたものをという配慮を感じてありがたく着ることにした。
「じゃあぬぎぬぎしましょうね~。はい、ばんざーい」
ヒロシの前に回り込んでパジャマのボタンに手をかけるツキカ。
まるでずっとそうしてきたかのような自然な感じだったので言われるがままに両手を上げるヒロシ。
「着替えくらい自分でさせなさい」
マリーはきびしい口調でツキカの襟首を掴むと出口に向かって引きずっていった。
「ええっ、そんなぁ~」
ツキカは名残惜しそうに両手をパタパタさせながら妖精と共に部屋の外へと消えていく。
出て行った女性陣を見送ったあとひとり着替えをするヒロシ。ワイシャツに袖を通すといつも着ているものよりだいぶ着心地がよく、人生経験の少ない少年でもこれが高品質なものであることがわかった。
学生ズボンを履こうとパジャマのズボンを脱ぐと、穿いているパンツが新しくなっていることに気づいた。
ということは……意識を失っているうちに誰かが着替えさせてくれたということだ。
誰だろう……ツキカさんかな……と想像してヒロシはドキドキする。
ライトブラウンのごつい革ベルトをズボンの上から腰に締める。
魔剣ディスアームと従者カードが入ったケースがついたものだ。
着替えを終えクローゼットを閉めようとすると、ふと隅にあるリュックが目についた。ヒロシが前世で愛用していたものと同じノーツフェイスのランニングバッグ……というか、ソックリに作られたもののようだ。
なんとなくそれも背負ってから部屋を出て、食堂へと向かう。
場所がよくわからなかったのでそれらしき場所のドアを開けてみると……。
「じっとしてて、塗ってあげる……あれ? グリューってばまたおっきくなったんじゃない? えーいっ」
「きゃ、ロートちゃん、くすぐったいよ。ああっ、ブラウちゃん、そんなっ」
「おっ、ブラウ、ナイスっ!」
「あんっ、ふたりとも、だめぇ」
そこは食堂ではなく更衣室で、着替え途中の目隠れ三人娘がはしゃぎあっていた。
グリューのブラにロートとブラウが前から後ろから手を突っ込み揉みしだいているところだった。
立ち尽くすヒロシの足元に、中身の出た口紅がコロコロと転がってきて靴に当たった。
更衣室で見つけたマリーの口紅を興味本位で塗りあっているうちにふざけて揉みあいに移行したようだ。
「「「あっ」」」
扉の前にいるヒロシに気づいて、三人娘は唖然とした。
「ごっ、ごごごごごゴメンっ!!」
慌てて部屋から出ようとしたが、足元の口紅を踏んでしまい滑ってしまう。
「わあっ!?」
ヒロシは転ぶまいと空をひっかく。その拍子に爪先が少女たちのブラにかかり、次々と剥ぎとってしまった。
ヒロシはとうとう前のめりに倒れ、三人娘めがけてダイブしてしまった。
「「「キャーッ!?」」」
両腕を広げたヒロシにがばっと抱き集められ、そのまま押し倒されてしまう。
倒れた勢いでヒロシの顔と少女たちの顔がぶつかった。
ロートとは唇どおしがくっつき、ブラウとグリューは両の頬に唇を寄せていた。
偶然にも三人から同時にキスされてしまったヒロシ。
小柄な少女たちを抱きしめ、肉布団の再来のような感触を味わっていた。
慌てて離れようとしたが、もがけばもがくほど顔がぶつかり合ってキスの雨が降るという悪循環だか好循環だかわからない状況に陥っていた。
ヒロシの顔の隅々まで少女たちの唇が触れる。口紅を塗りたてだったので少年の顔はキスマークまみれになった。
「ハァ……ほんっとにちょっとのスキでも油断ならないわねぇ」
悲鳴を聞いて駆けつけたマリーはくんずほぐれつするヒロシと三人娘を発見し、心底呆れたような溜息をついた。




