15 女の子、召喚(時と場所を選ばず)
目の前に突如現れたふたりの全裸少女。
正確には少年呼び出したのだが、少年にとってはあまりにも唐突な出来事だった。
マリーはご機嫌な様子でヒロシのほうに向けた生尻を鼻歌混じりにフリフリ振っている。臀部の少し上には犬の尻尾みたいなのがくっついていて、マリーの機嫌を反映するかのようにパタパタ動いていた。
ツキカのほうは「はぁい、キレイキレイになりまちたね~」とニコニコ笑顔でなにかを拭くパントマイムをしていた。
眼前で、求愛するかのように煽情的に揺れる安産型の大きなお尻と、母のような笑顔の女性が授乳を待つかのようにたっぷりんと揺らす豊乳。
緑の景色に映える肌色。その中でワンポイントとしてあるピンク色。
うら若き女性たちの先端やら蕾やら窄まりやらを目の当たりにした瞬間、ヒロシの鼓動は早鐘を打ち血液は奔流のようになり、視界は赤く染まった。
……少年は警察署の屋上で窮地に追い詰められたときも血流が増したが、頭研ぎ澄まされ身体鋭くなり全身が刃物と化したようなあの時の感覚とは明らかに違っていた。
女体を見たときは血の流れが逆になるというか、頭がポーッとなって身体がナマクラになり全身が錆びた刀のように動かなくなってしまうのだ。
「……ん?」
夢中で腰ふりダンスをしていたマリーだったが、周囲の違和感に気づきふと顔をあげた。鼻溝から赤いものを垂らすヒロシと目が合う。
一瞬の沈黙のあと、ウギャーという木々を揺らす悲鳴とともにマリーは側の茂みに飛び込んだ。
「なっ、ななななななんなのよ一体っ!?」
藪から出した顔が茹で上がったように赤く染まっている。
ようやくツキカも自分が置かれた状況に気づいた。
「あらあら、まあまあ……泥んこ遊びをした子たちとお風呂に入っていたはずなのに……ここはどこなの?」
照れながら両手で身体を隠しているが、腕で押された胸がむにゅっとはみ出して余計いやらしい見た目になっている。
「なにジロジロ見てんのよ!? あっち向いてなさい、バカッ!」
マリーから怒鳴りつけられて「ご、ゴメン!」と今更ながらに背中を向けるヒロシ。
「ミーム! いったいこれはどういうことなの!?」
「マリー、そう興奮せんと……『従者カード』で呼び出させてもらっただけやで」
『従者カード』……? とオウム返しに尋ねるヒロシ。
「テンプレ騎士の装備のひとつや。カードに描かれた従者を召喚することができるんやで」
茂みの間から出ているマリーの顔がぱっと明るくなった。
「知ってる! 授業でも習ったし、演劇とか本とかで見たことあるわ! バッチリ装備でキメた従者たちが召喚されて、勇ましくポーズを決めるの! それでテンプレ騎士と共にカッコ良く戦うのよ! でもイザとなったら我が身を犠牲にして……それがまたグッとくるの!! ……でも……まさかこんな時を選ばず呼び出されるものだとは思わなかったわ……」
マリーは目を輝かせて憧れを語っていたが、現実を知って消沈する。
ファアリーランドにはテンプレ騎士の素晴らしさを伝えるメディアが多く存在する。
絵本、歴史書、小説、演劇、音楽、美術品……娯楽、教育、芸術とジャンルも多岐にわたり、枚挙に暇がない。
この世界の人間は子供のころからそれらに触れ、テンプレ騎士の偉大さを刷り込まれる。
マリーとて例外ではなく、幼い頃に瞳をキラキラさせながら「てんぷれないとさまのすれいぶになる~!」と夢を語っていた。
その夢は今まさに叶っているのだが、想像してたのとだいぶ違っていたので彼女の心境は複雑だった。
「あれ? でもツキカさんがいるってことは……」
ヒロシの一言に、マリーとミームの視線がツキカの腕に寄せられる。
柔らかそうな二の腕には『ヒロシ命』のアザがあった。
「このアザ? 昨日テンプレ騎士様とお別れしたあとに出てきたの」
まるでニキビでもできたかのように事も無げに言うツキカ。
ミームからアザの説明を受けて、
「あらあら、まあまあ……私は従者になれたのね」
頬に手を当てて照れ笑いのような表情を浮かべた。
「こんな文字が身体に浮かび上がったらおかしいって気付くやろ! なんで言われるまで放っとくねん!?」
「うふふ、自分の気持ちが出ちゃったのかと思っちゃって……」
背中ごしにそのやりとりを聞いていたヒロシの心臓は裸を見た以上に高鳴っていた。
つ……ツキカさんが……僕の従者に!? 自分の気持ちが出ちゃったって……何!?
それに……カードを使えばいつでもどこでも……たとえお風呂に入っていようとも呼び出せるの!?
って、ことは……。
「こんな夜中に呼び出して……どうちたの? 眠れないの……? しょうがない子でちゅね~。さ、いらっしゃい」
招かれて吸い込まれるように豊かな胸に顔をうずめるヒロシ。その後頭部をよしよしと撫でるツキカ。
「えっ? 服が邪魔? ……ふふっ、本当にヒロシちゃんは甘えん坊さんでちゅね~」
困り眉をしながらも、着ているパジャマのボタンを外すツキカ。せがまれるままにブラもはずし、柔肌に少年を迎え入れる。
「気持ちいいでちゅか? よかったでちゅね~。さ、おねんねしま……んっ」
不意に先端を口に含まれて、色っぽい吐息を漏らしてしまう。
そんなオイタすらも愛おしい。たちのぼるチュウチュウという音を聞きながら、彼女は菩薩のような笑みを浮かべて少年の頭を撫で続けていた。
添い寝の妄想に浸っていた少年に天誅を加えるかのように、頭に大きな麻袋がふたつ、ドサドサと降ってきた。
「わあっ!?」
現実に引き戻されながら押しつぶされるヒロシ。
「なぁにやってんの……あっ、ソレ、アタシの太刀! ヒロシ、その袋を持ってきて! こっち見ないようにね!」
「いててて……」と起き上がったヒロシはマリー愛用の剣、チョコ・エッグの柄が飛び出した麻袋を運んでやった。
手だけだして袋を引きずり込んだマリーは、
「やっぱり! アタシの服とか入ってる!!」
と茂みの向こうで嬉々とした声をあげた。
「グレイプたちが上から見てて投げてくれたんやろ、ってことはもう片方の袋はツキカのもんやろうな」
ミームに言われてヒロシはもうひとつの麻袋を開けてみた。
いつもツキカが着ているニットワンピースとエプロンがきちんとたたまれて入っていた。下着もチラリと見えてあわてて袋を閉じる。
ヒロシから袋を受け取ったツキカは「ありがとう」とお礼を言ってからマリーのいる茂みに入っていった。
しばらくしていつもの服を身につけたマリーとツキカが出てきた。
もうドギマギすることもなくなり、ホゥ、とひと安心するヒロシ。
ただ唯一違っていたのはマリーの尻に犬の尻尾のようなものがついていたことだ。全裸のときもついていたものだが取らずに着替えたらしい。
「さっきから気になっとんやけど、なんやコレ?」
尻尾の側まで飛んでいって観察するミーム。
「通販で買ったマジックアクセサリー『ドッグテイル』よ。さっき届いたばかりなの。つけてる人の感情にあわせて動くのよ」
自慢気なマリーの言葉にヒロシはハッとなる。彼女の行動の突飛さを理解できずにいたのだが、その一言で全てが繋がった気がした。
カードに描かれていたマリーはこの『ドッグテイル』の包装紙を開けているところだったのか……欲しかったアクセサリーを初めて身につけて、おそらく鏡の前かなにかでゴキゲンで踊っていたのだろう。その真っ最中に僕が召喚しちゃったんだ……。
「へへん、かわいいでしょー?」
マリーは見せびらかすようにお尻をこちらに向けると、柴犬のようにくるんとカールした尻尾をぴこぴこと動かしてみせた。
ミニスカートをローライズに履いているのでお尻の割れ目がチラ見えしている。その上に犬の尻尾がついているのでかなり刺激の強いビジュアルになってしまっている。
不意にその尻尾がぶわっと逆立った。
「ジロジロ見んな! バカっ!」
すっかり目を奪われていたヒロシは一喝されて「ご、ゴメン」と目をそらした。




