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13 憧れの美人姉妹どーん

「……異世界から来た白馬の王子さまだよ」


 ヒロシ様は穏やかな笑顔を浮かべていました。


「白馬は途中で馬刺しにして食べちゃったから今はいないけどね」


 手をさしのべてくださいましたので、わたくしはその手に手を重ねます。


「だから……」


 ヒロシ様はわたくしの手を握りしめると、腕に力を込めて引っ張りました。

 わたくしは抱き寄せられ、ヒロシ様の胸に飛び込んでしまいます。


 顔をあげたわたくしの前には、嗜虐の笑顔を浮かべたヒロシ様が。

 警察署の屋上でわたくしに剣を振りかざしたときと同じ、草食動物を狙うギラギラした獣の瞳でした。


 次の瞬間、わたくしのドレスはヒロシ様によって引き裂かれていました。


「お前がウマになるんだよ!」


 手で身体を隠そうとするわたくしに、馬具であるクツワを口に押し込んできました。


「さあ牝馬よ! 這いつくばれ!」


 突き飛ばされて床に倒れ伏したわたくしは、命令どおりに四つん這いになりました。

 飼い主であるヒロシ様が乗りやすいように、背中を平らにします。


 どっかりとわたくしの背中に乗ったヒロシ様は、まさに馬を操るように手綱を引きました。


「んふぅ!?」


 のけぞったわたくしに対してヒロシ様は、


「牝馬よ! お前の言語は『ヒヒーン!』のみだ!」


「ひっ……ひ、ひひーんっ!」


 わたくしは言われるがままにいななきました。


「ハハッ、その情けない顔を客席にもよく見せてやれ!」


 手綱を引かれてわたくしの顔は客席のほうを向きました。


 まわりの客席には1万人もの女生徒たちがいてわたくしの痴態を余すところなく見つめていたのです。


「さあ、ショータイムだ!」


 乗馬用のムチでお尻を叩かれ、ヒロシ様を乗せたままステージ上を何周もさせられました。


「ひっ、ひぃん! ひぃぃーんっ!!」


 クツワをしているせいで口を閉じることができず、ヨダレがだらだらとこぼれて床を濡らしました。

 恥ずかしくなって顔を伏せようとしても手綱によって強制的に上を向かされました。


 全裸にさせられ牝馬になった姿をライト・ノーヴルじゅうの人たちに見られ、憐憫や嘲笑を一身に浴びせかけられました。

 皆の目にわたくしはライト・ノーヴル学園の校長ではなく、ただの牝馬として映っていたことでしょう。もはやわたくしに対する敬意は微塵も感じられませんでした。


 そしてわたくしは全てを失いました。

 残っていたのは……死にたくなるほどの恥辱でした。


 ですが、わたくしには抗う術も、その意思もありませんでした。

 むしろ……心の中でこうなることを密かに望んでいたのかもしれません。


 だって……わたくしは……ヒロシ様の従者(スレイブ)なのですから……。


「ひひーん! ひひひひーんっ!!」


 やがてわたくしは身も心も家畜となり、ヒロシ様の愛馬として末永く寵愛を受けることになったのです…………。




「おい、スジリエ! スジリエったら!」


 ポリティからヒジで突かれてスジリエの妄想は中断させられた。

 いまふたりは握手会の行列に並んでいる最中だった。彼女らの前にはまだ何十人かの行列待ちがいる。


「なにヨダレたらしてボーッとしてんだよ」


「よ、ヨダレなんてたらして……」


 両手をつかった上品なしぐさで自らのアゴに触れたスジリエはハッとなった。

 口から唾液が垂れていて、クツワをされているみたいにずっと口を開けていたことに気づく。レースのハンカチでそそくさと拭った。


「なんかステージにでっかい本が現れたんだぞ、アレ見てみろよ」


「あれは……!? もしかして……ROTTK(ロック)……!?」


 テンプレ騎士(ナイト)の道標となる伝説の本。スジリエ自身、伝え聞いてはいたが実物を見るのは初めてだった。

 中に書いてあることはテンプレ騎士(ナイト)とパートナーの妖精しか読むことができないらしい。


 ミームがいつになく激しく飛び回っているのを見て、ただならぬ事態だと判断したスジリエは行列を抜け出し、早足にヒロシたちの元へと向かった。


「これは……クエスト発生や!!」


 ステージ上では妖精のみが大騒ぎしていた。


 他の者は本に書いてあることが読めない。解読できないわけではなく文字そのものが見えないのだ。なので開いたページもただの白紙でしかない。

 ヒロシには文字が見え、読めるのだが……書いてあることの意味がわからなかった。


 見開きページに踊る『クエスト発生!』の文字。

 その下には『レッドライディングを倒せ!』とある。


「みなさんっ、握手会は中止といたしますっ!!」


 登壇したスジリエはマイクを使って講堂じゅうに響く声で宣言した。

 「ええーっ!?!?」という抗議の声が行列からあがる。


「お静かに!! 後日あらためて日を設けますので、今日のところは解散してくださいっ!!」


 校長からぴしゃりと言われて、生徒たちは渋々従う他なかった。


 マイクから離れたスジリエはさっきまで淫らな妄想にふけっていたとは思えないほど真剣な顔で、


「さぁ、ヒロシ様、ミームさん、急いでくださいっ!」


 テンプレ騎士(ナイト)とパートナーの妖精に任務の遂行を促した。


「よっしゃ! いくでぇヒロシ、ついてこいやぁ~!」


 颯爽と飛び出していくミーム。


「う……うんっ!」


 なにをするのか全然わかっていないが、その後を追うヒロシ。彼は流されやすい性格だった。




 講堂を出た妖精は廊下を辿って正面玄関から校舎から出た。校門には向かわずキャンパスを曲がり、ヒロシがマリーと戦った校庭を横断、その先にある森林公園のような場所に入っていった。


 生徒たちの憩いの場所である敷地内の公園。お昼時などは食事や散歩を楽しむ生徒たちで賑わうが、今は木々を揺らす風の音と、小鳥の囀りのみが響いていた。

 木漏れ日の下を進んだ先には西洋風のあずまやがあり、その床の中央にはマンホールのような大きな蓋があった。三人の女の子が椅子の足で蓋を押さえるようにして座っていた。


「グレイプ! パイン! チェイリー! 出番や、たのむで!」


 あずまやに飛び込むなりミームは威勢よく叫ぶ。

 続けて入ったヒロシはそこにいた女の子たちの容姿を見て、固まってしまった。


 高校生くらいの子と中学生くらいの子と小学生くらいの子、三姉妹のような彼女らは古代ギリシャのキトンのような衣服をまとい、背中からは白い翼が生えていたのだ。


 まるで古代ギリシャの神々のような姿に、夢ではないのかと目をこすってみる。


「わぁーっ! てんぷれないとさまだ!」


 さくらんぼのヘアゴムで短いツインテールにした小学生くらいの女の子はヒロシの姿を見て大喜び。無邪気に駆け寄ってきてヒロシの手をきゅっと両手で掴んだ。


「おおっ、やったあ! 握手会行きたかったんだけどこの当番でムリだったんだよな、ラッキー!」


 パイナップルのヘアゴムでアップにした髪型の中学生くらいの子もはしゃぎつつ近づいてきて、空いてるほうのヒロシの手を無遠慮に握る。


「ふたりとも迷惑でしょ。ごめんなさいね」


 ブドウのヘアゴムでポニーテールにした高校生くらいの子はヒロシを見ても騒いだりせず、落ち着いた様子で妹たちをたしなめた。


 近くで見ると翼は作り物ではなくて本物のようだった。ヒロシがまじまじと凝視しているとお姉さんがクスッと笑った。


「この翼が珍しいのですよね? 私たち三姉妹はノーブル・ウイングという種族で生まれながらにして翼を持っているんです」


 長女らしきお姉さんはジロジロ見られても嫌な顔ひとつせず、やさしい口調で教えてくれた。


「飛べるのは便利なんだけど洗うのがめんどくさいんだよなー」


 次女らしき女の子は握手会に参加できなかった鬱憤を晴らすかのようにヒロシの手をニギニギしながら言った。


「でもあったかいよぉ?」


 三女らしき女の子は握ったヒロシの手を促し、翼に触らせてくれた。


「……ほんとだ、あたたかい」


 鳥のような翼は上質の羽毛布団のような、ふわふわでさらさらの手触りだった。ほんわかとしたぬくもりがある。

 なんだかいつまでも触っていたいような心地よさ。


「いつまでやってんねん! ハネならあとでウチのを好きなだけ触らしたるさかい、はよせいや!」


 しびれを切らした妖精から耳元で怒鳴られ、我に返るヒロシ。


 そうだった、なんだかよくわからないけどしなきゃいけないことがあって急いでるんだった。


「わかったわ、じゃあパインちゃんはテンプレ騎士(ナイト)様の右について。チェイリーちゃんは左ね」


 長女グレイプに促された次女パインと三女チェイリーは「はーい」と素直に返事を返すと、ヒロシの両隣に立った。

 グレイプが正面に立ち、姉妹は手をつなぐ。ヒロシは三姉妹に囲まれる形になった。


「いったいなにを……」


「じっとしていてくださいね」


 真正面のグレイプからまっすぐな瞳で見据えられ、ヒロシは押し黙ってしまった。

 三姉妹はうつむくと、なにやらボソボソつぶやきはじめた。


 病院で注射を打たれる子供みたいに身体を強張らせるヒロシ。自分の身に一体なにが起こるのか不安でしょうがない。


 ふと足元から強い光がたちのぼり、そのまばゆさに顔をしかめる。すぐに光はおさまった。


 おもむろに顔をあげた三姉妹はヒロシの身体から離れ、自分たちが座っていた椅子をあずまやの隅に退かした。

 その後、三人で協力して重そうな床の蓋をよいしょと持ち上げて外す。

 蓋の下には床がなく、ぽっかりと丸が開いていた。ヒロシの立ち位置からでは穴の中身は全然見えない。


「はい、これで落下耐性(フォーリンレジスト)の魔法がかかりました。でも足だけですから……」


 穴を手で示しながら説明する長女。中に何かあるのかとヒロシはおそるおそる覗き込もうとする。

 穴は相当深いようで少々近づいただけでは底が見えない。穴を真上から見下ろせるくらいまで移動した直後、


「「どーんっ!!」」


 ヒロシの背後に回り込んだパインとチェイリーが体当たりしてきた。


「おわあっ!?」


 押されたヒロシは穴にスポンと落ちる。


「ああっ!? まだ説明してる途中なのにダメでしょ!?」


 少年は底なしの穴を落下しながら、遠ざかっていく長女の叱責を聞いていた。






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