【それでも私は】徹する夜と【愛を謳いたい】
「それでも私は愛を謳いたい」は、「39スレ目 安価で大学決めたら異世界の魔法学校に行くことになった。続30」までのネタバレを含みます。
39スレ目を読んでから、読むことをお勧めします。
以下、緩衝材代わりに短編を挟んでおります。
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ちょ。
うるさ……。
えー……? なんなの?
俺、寝てるんだけど……。
うるさいなと思って起きたら、心話でエロイーズ……えっちゃんが絶叫してる。何? なんなの?
しかも、魔法語だから何を言ってるのかわからない。恐怖でしかないんだけど。
それを背景に、テオさんとユーリさんがのんびりと近況を話しているっていう、どう……どういうことなの?
『国境、本当にまずいらしいな』
『みたいだね。いつもの嫌厭だと思っていたけど』
『まぁ、それもあるわな。余計に人が寄り付かなくなる』
『言い訳があると、どうしてもねー。僕も行きたくないし』
『まー俺も好き好んで行かないがな』
えーと、国境は両国のトラブルに発展しがちだから、いつもより気を張り詰めながら依頼をこなさなきゃならない。だから、みんな避けてるんだよな。俺も、国境付近の町の出身ではあるけど、まだ未熟な冒険者だから、帝国内部に向かって旅をして冒険者してたし。
『磁場がおかしいとなると、王帝どちらの管轄?』
『うーん、どうだろうな? 帝国の国境沿いは向こうの貴族がアレだから……結局こっちがやらなきゃならなくなるんでないか』
『盾、今どこいるの?』
『誓いや碧旗と東の調査に行ってるだろ』
『えー……最悪、僕らか』
『そうだなぁ。碧旗の性格からすると調査の後に三ヶ月は暴れるだろうし』
『あの三人揃うと、盾も誓いもストッパーにならないんだから組み合わせるのやめればいいのに』
『盾が勝手についていったんだろ。知らんが』
うわぁ。他の王国の二つ名だ。なんか、自然と彼らの名前が出てくる会話を俺も聞いてることがなんか嬉しくて、体がモゾモゾしてきた。耐え切れなくなって寝返りをうつ。
え。
え?
聖女、何してんの?
俺が寝返りを打ったとき、パッと目に入ってきた。彼女は、壁にもたれてベッドに座って虚空を見つめてた。
こわ。
何? 今日も早々に寝たはずじゃん? え? マジで何してんの?
『僕ら国境に行ったら、王国中央から西南ガラ空きになるんだけど大丈夫?』
『結局、二つ名は冒険者集めるための御旗だからなぁ』
『そういう時はタダ働きだけど』
『半分冒険者ギルドと半分王国の人間だからな俺らは』
『半分冒険者ギルドと、半分王国だと個人がなくなるけど』
『まぁ、そういうものだろ』
『勝手に称号が発生して、選択の余地もないけどねぇ』
なんていう、二つ名だからこその苦労を聞きながら、俺は壁を睨んでいた。ただただうるさかったえっちゃんの奇声が、急に、怪奇的に聞こえてくるから不思議だ。聖女、何してんだろう。
これ、怖すぎて寝れないパターンなんだけど。
……あと、えっちゃん……とにかく、うるさい。
……寝不足です。
えーと……。
そう、ですね。
頭が働いていません。
彼女が戻ってくるなんて思っていませんでしたから……。
あちらは無言を貫き通していましたけれど。
でも、例の悪魔の姿が見えないままでしたけど、それでも、それでも、ですよ?
それでも、報告しないと後から大変なのが目に見えていますので。
ただ、報告すると一夜寝られないのも分かっていましたが。
分かっていましたが、何も考えずにとった行動がまた最悪の結果を引き起こしてしまったかもしれないのです。
彼女のおかげで、いなかった時はバラバラだった私たちは、四人で楽しく過ごしました。それとは対照的に、あのお方との会話は刺々しいものでした。
比較対象がなければ、いくらでも耐えられるのに。
なんて、そんな当てつけじみた自分の心根を嫌悪しながら、ひたすらあのお方を宥めます。
だって、私だけじゃないんですもの。
私だけなら、私だけ保身に走るなんてそんな無意味なことはしません。あのお方が怒りで我を忘れて、人々に災厄をもたらす私を殺してくれたら、そちらの方が上等な死ではないでしょうか。幾分、喜劇的でも、それでも、そうなった方が多くの人の命と幸せを救えるなら、それでいいと思うのです。
でも、エロイーズさんを殺すとか、彼女を巻き込むのだけは嫌でした。彼女の味方になると、友達になると決めてしまったのですから。
またあのお方には言えない秘密を一つ増やしてしまった私はできる限りを尽くすだけです。ソリティオ閣下やアナベラ様の幸せをひっそりと祈るように。
でも、例の悪魔に業をにやして、何がなんでも排除したいと望むあのお方には何を言っても通じません。
冷静に客観的になんて言葉はもちろんのこと、本来の計画だってそっちのけで、ともかく目の前に現れた彼に一矢報いたい、それしかないのです。
聖獣や悪魔の居場所は、私たちが生きているここから、はるか上にあるのだと言います。文字通り、ずーっといった上に彼らは自由気ままに生きているのだと言います。ある地点から魔物の壁に阻まれて広がることのできない人々とは違って、その空間はとても広く、王国も帝国も獣国を包む海も、二つどころかいくつ入っても狭くならないくらいの広さだと言います。そこに、彼らは各々地面を作って建物を建ててみたりだとか、そうして暮らしているのだそうです。
聖獣や悪魔たちがずーっと下に降りていけば、私たちの生きているこの場所にたどり着けるかといえば、そうではありません。どんな剛腕な悪魔が破壊しようとしても、どんな聖獣の烈火で焼いても、何をしても壊れない目に見えない不思議な壁があって、そこを越えるには、こちら側にいる誰かに召喚されるほかないのです。力自慢や、絶対的な攻撃魔法の完成を目指す聖獣や悪魔たちは、その壁に今でも挑んでいますが、その存在が揺れることすらないのだそうです。まるで、限られた土地にすむ人々を何がなんでも守るとでもいうように。
ですから、あのお方が人々の世界に降り立つには工夫が必要でした。未熟な召喚者の被召喚対象になりきり、召喚された後に召喚者を殺してしまうのです。そうなれば、被召喚側は元の世界に還るのが普通ですが、それは召喚の魔法の枠組みで強制されるものではないとあのお方は気づいてしまったのです。
それは、つまり、あのお方が壁を越えて、例の悪魔が壁を越えなければ、あのお方の邪魔をできないということでもありました。
その優位性を崩されたものですから、必死になっているのです。
お互いに不干渉と約束しあっても、あのお方は抜け駆けの策を考えます。だから、あの悪魔も同じだろうと安心することが到底できないというわけです。
またも突貫的にエロイーズさんの殺害を目論むあのお方に、理論的なことを言っても通じませんから、もっと確実な作戦を綿密に立てるべきですと宥めにかかっていました。いつも、身体を横たえてあのお方と通信を行なっていますが、こういう長時間に渡るときは眠気に負けないように身体を起こしておくのが通例になっていました。
エロイーズさんの身を案じるあまり、そしてあのお方が性急に破滅に向かうのを止めようとするがあまり、私は自分のいる場所を忘れていたのです。
眠気を堪えるために無理やり開けていた、焦点も合わなくなった目の端でアルフレード様が寝返りを打ちました。
視線を感じました。
その意味を理解するにつれ、身体が冷え切っていく気がしました。冷や水を浴びせかけられたような心地になりながら、それでもあのお方を諌めることが何よりも優先でしたから。私は確かにあのお方の駒として生まれて、生まれや育ちに憎しみや悲しみもありますけれど、でもだって、それでも、あのお方なりに不器用に魔法や歴史を教えてくださったことに何も感じないわけじゃありませんもの。こうして毎夜言葉を交わして、ひたすら冷酷に嫌うことなんて無理ですもの。あの悪魔への憎しみとその原動力になっている飢えに気づいてしまうくらいに、あのお方は賢く私を作ってしまったんですもの。そして、今、地底深くに潜って叛旗を狙っているあのお方の側には、曰く「操りやすい程度の知能」をもったものしかいないんですから。あのお方の話し相手は私だけで、そして本人はそのつもりなく心を許しているのも私だけなんですから。
何も感じないでいろなんて無理な話じゃありません?
でも、だからこそ、あのお方のしようとしていることは間違っていますし、誰かが止めるべきなんでしょう。ただ、でも、それだけは私にできないんですから、残酷です。あのお方の歪みも想いも全部知っていて、一番近い場所にいて、それでも自分の命のために止めないって言うんですもの、私も大概、あのお方譲りの冷酷さを持ち合わせているものではないでしょうか? 延命に縋りながら、誰それのためだからとそんな隠れ蓑に自分も騙しながら、あのお方の不利な種を蒔けないかと日々頭を悩ませているのですから。
私に背を向けたアルフレード様は、そんな私の本性を見透かされたような気がします。そして、それなのに、なぜか救われたような、身体の芯が熱くなるような不思議な高揚も隠しきれずにあるのです。私もあのお方同様、屈折しているのでしょう。
あの悪魔に立ち向かったって、逆鱗に触れたって、最悪あなたの存在を消されてしまうだけなのに。あのお方には何と言っても通じません。
もしかしたら、と思います。
もしかしたら、あのお方が望んでいるのは終わりなのかもしれません。あの悪魔に振り向いてもらいたい、構ってもらいたい、子どもじみた、だからこそ純真な飢えが満たされないならば、一思いにその手にかかって仕舞えば究極の形で終わりを迎えられると心のどこかでは望んでいるのかもしれません。
あのお方は、人間の「親子」の形にこだわります。貴族の子弟を誘拐するのだって、その親がいかに手を尽くすのかを面白がっている節がありましたから。いえ、面白がっているのは表面の話。あのお方はそれをあの悪魔に求めているのです。
本当に、かわいそうな人。
だって、いくら渇望していても。
何を望んでいるかさえ、彼本人は知らないんですから。
あの悪魔があのお方にとっての親なら、あのお方だって私の親じゃありませんか。
意識のある道具、自由に動く道具、それだけを作ればよかったのに。あのお方だって、どこかでわかっているんでしょう。求めているものを与えられないとわかって、だから、私で代用したいのでしょう。
私に言うことを聞かせたいのは、私に心を開いているのは、自分がそうされたいから。
でも、そこに優しさがないのは、自分に与えられないものは私に与えたくないから。
それなのに、私はあのお方に情愛を求めないから、それだけで気に食わない存在なんでしょう。でも自分より辛い人に辛いとは言えないし、そう、心のどこかで私は思ってるんでしょうね。私よりあのお方の方が可哀想だって。
それでいて、私も情は湧いてるのでしょう。それは、あのお方が求めているものとは違う質のものでいて、それでも、確かに存在しているんでしょう。だから、私はあのお方に道を改めてほしいと思いますし、この破滅的な計画を止めたいと思っているのですから。
だから、夜を徹して宥めるくらいは致します。
それが、あのお方を破滅を数日食い止めるだけの力しかなくとも、数日は保つはずなのですから。
また、その時になればその時に考えればいいはずですもの。
それが、逃げであっても。
私は、今、できる全力を尽くすだけです。




