【それでも私は】ばけもの、のけもの④【愛を謳いたい】
「それでも私は愛を謳いたい」は、「39スレ目 安価で大学決めたら異世界の魔法学校に行くことになった。続30」までのネタバレを含みます。
39スレ目を読んでから、読むことをお勧めします。
以下、緩衝材代わりに短編を挟んでおります。
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まぁ、本当の貴族じゃないわたしだから、そんなものなのかな? でも、ゲラシウスも何か知ってる様子じゃないし。結局、アベルもわたしの知らないところで呼び出されたみたい。それとなく彼に確認したところ、「先日の空間転移と比べて、違う魔法だった」と言う点を確認されただけで、そもそも、それが分かったから防御宰領生であるわたしが動いたんだけどな……。
本当に、なんの情報も来ないし、アベルの呼び出し以外に動きもない。ちょっと暴走しちゃったリアにも処分はないみたいでそれは安心したけど、なんだかな。レイ・クック殿を関わらせようとしたのがダメだったとか? 勇者パーティの候補者だから……でも、クレアさんと彼となると、ベントリーが仲良いのは彼女みたいだけど、ああいう場合だと彼の方が留守のベントリーにも配慮して動いてくれそうだったし……。
どのみち、ベントリーの代理になれるのは、あの二人だから、どちらかが呼び出されるか、それともベントリーが帰投するのが妥当なんだけど……。なんで呼び出す方向に行かないのか。特殊貴族組への忖度とか?
うーん。
どれも違う気がする。
特殊貴族組への忖度って、入学から卒業のレールを引いた時点で完了してて、なんというか「禁術の使用」とかそういう大きな事態においては、校長はドライに彼らを無視するはずだしね。
どちらかというと、いろんなところに話を回さなくちゃいけなくて、それでも話が大きすぎて、誰もベストどころかベターな解決策を出せずに、どこかに責任を押し付けるのにも情報が少なすぎて……そして、状況が停滞している。なんか、そんな感じがする。
彼女が消えたのは魔法学校で、それもオーティス校長が第一に場を預かったんだから、魔法同盟や魔法学校が責任を負いそうなものだけど……。わたしたちに見えてない情報があって、それがとても大きいんだろうな。想像もつかないけど、なんだろう? 彼女に魔王の称号があったとか? 流石に馬鹿馬鹿しい空想だよね。そんなの、さっさと捕まえられて処刑されてるはず。もっと複合的で複雑な問題なんだろうな。
うーん、でも、個人的な勘では称号な気がするけど……。入学のあれってステータスだけだもんね。ジョシュアとか特異体質もちは王国からの貸出で確認がされるけど、まだその時期ではないし、彼女の称号は誰も知らないはず。
それに、リアが変なのは気になるし、ユージニアもなんかイライラしてる。それが、気に掛かっている。リアは聖女様と何かあったのかな? でも、彼女の入学前に関わりもなさそうだし、入学してからといってもそんな時間なかったしなぁ。でも、あれだよね。入学セレモニーの後の会議。リア、聖女様のこと、気にしてたけど……。
ユージニアはどうしたんだろう。わたしが悪いのかな? 禁術の調査って結構、経歴になるから、防御の学生でもわたしに反感持った人いるし。難しい調査だったら、魔法具も関係してくるし、みんなのチャンスを一つ潰したのは事実なんだよね。でも、オーティス校長が、魔法同盟で紆余曲折を経て魔法学校を統べる立場になった人が、「危険」って言葉を使うのよっぽどだよ。ただの勘だけど、調査自体とかそれに伴う危険とか、そういう危ないじゃない気がする。
何も情報が降りてこないこの沈黙もそういうことだろう。「危険な秘密」があるんだ。もちろん生き死に関わるような危険があってもわたしは退く判断をしたけど、その秘密を知ってしまうとそれこそ進退窮まるのっぴきにならない状況に陥っちゃうんじゃないかな。それこそ、みんなの将来が変わってしまうような。
うん。そうだよね。
非難は甘んじて受けよう。これから一年、他にチャンスだってごまんとあるはず。悲観しても仕方ないから。わたしだって結局、帝国貴族に復活できるような切り札は何も手に入れられてないけど、それでも防御の宰領生に選んでもらったんだから。
この決断は皆の未来を守ったと信じよう。
問題その一。エロイーズが消えた。
なんで?
まぁ、あいつのすることなんて考えても仕方ない。だろ?
問題その二。
彼女に心話が通じない。
無視とかじゃない。言葉を心話で投げかけても、心話をつなげてない人にそうするみたいに、それは心での独り言にしかなんない。相手に通じてる感覚が全然ない。
問題その三。
ねぇ、あいつがいなくなったら、パーティどうなんの?
解散?
俺のぬか喜び返してよ。俺だって強い冒険者になれるかもしれないって夢は、そう、ただの夢だったってわけだよ。
だって、授業も全くわかんないもん。いや、ていうか、課題がヤバい。武術の課題「なんでもいいから一つ流派を選んで三百語以上論述せよ」? 基礎闇魔法「闇属性の危険性について、具体的事例をひいて二百五十語程度で説明せよ」? 何いってんの? それ知るために授業受けてるんですけど? いや、違うってことだよな、これ。みんなそれくらい知ってて、俺だけスタート地点が遥か後方ってこと。
身体強化でさえ、「五大大家についてそれぞれ百語以内で説明せよ」だよ? 三人しか名前言えないのに。言えないし、ていうかぶっちゃけそれもうろ覚えだし、考えてもわかるわけ無いし、どうしたらいいのかわからなくて泣きたい。
部屋に帰ったら聖女がいるし、考えてもわからない課題は多分、調べればいいんだってことで図書館をうろうろしてるんだけど、そしたら帝国貴族っぽいのが近づいてくるから、どうしたらいいかわからなくて全力で逃げてる。で、そしたら、逃げた先に別の帝国貴族っぽいのがいて、最終的に姿隠してる以外に安全だと思える状態がなくて、そんな状態で図書館の中彷徨ってたらすごく疲れる。木偶の棒みたいなのが徘徊して本の整理をしてるんだけど、これに欲しい本がどこにあるか聞いてる上級生を見かけて、俺も真似した結果、試行錯誤して「できるだけ簡単な」をつけることで俺でも分かる本にたどり着けることが判明した。上級生、なんか、すごい難しそうな本をたくさん持っていくの見るんだけど、魔法学生ってあれくらい本読めなきゃ務まんないの? 俺、「簡単な」本一冊だけでもう無理なんだけど?
ほんと、泣きそう。
で、パーティは今のところ、解散はしてない。
そう、今のところ。
ユーリさんがすごく忙しいらしくて、今週来週はクエストに行けなさそうってテオさんから連絡は入った。俺は恐る恐るどうなるのかって聞いたんだけど、答えははぐらかされてしまった。とにかく、ユーリさんが忙しいのが終わるまでは、なんとも言えない、あやふやな答えしかできないって感じらしい。
あいつが消えて数日悶々としていた俺は、結局、本格的に授業が始まる前に、心話でテオさんに「彼女がいなくても俺だけでもパーティを組んでくれたら嬉しい」とは伝えた。伝えたけど、あいつがいなくなったことで何かのバランスが壊れたみたい。俺の皇族としての立場があるとかなんとか言われた。エロイーズがいたらよくて、エロイーズがいなくなったらダメってどう言うこと?
なんなの?
あいつは意味わかんないけど、意味わかんないパワーで希望の火をつけといて、それでさ、それで意味わかんない理由で消えたってわけ?
なんなの?
そんなの、許されなくない?
わかってるけど。八つ当たりだって。
消えた奴に八つ当たりしたって虚しいわけで。
でも、怒りの持っていきようもない。
とにかく、授業の後図書館に直行。で、俺でも分かりそうな本を片っ端から持てるだけ持って部屋に退散。最初は自分で本を返さなきゃならないのかなって思ってたけど、それも図書館徘徊人形に渡すだけで済むってことがわかったから、遠慮なく本棚から引っこ抜くようにしてる。後からいらないと思ったら、それも渡せばいいし。
聖女? 聖女とか気にしてられないよ。あいつすぐ寝るし。それより、他の場所で帝国貴族に寄って来られるのがウザい。俺、お前ら相手にしてる時間ねーもんよ?
いや。
付き合い方というか、話し方もわかんない。下手に関わって、兄さま方の不利にでもなったどうしよう、っていうのが先立つ。
それに、なんというか年上が多い。俺に接触しようとするのがそうなのか、それとも、上限近い入学ばかりなのか分からないけど。同じ年くらいなら、話してたかも知れない。一年なら愚痴とか言い合って、先輩ならどうしたらいいか聞くとか、そういうこともできたかも知れないけど。
だって、俺と違って大人なんだもん。
冒険者でもリモンさん以外の、大人から遠巻きにされていた俺は、どう付き合えばいいか全く分からない。いや、同年代との付き合いもなかったんだけど。
だから、逃げる以外の方法も分からなくて。
ていうか、図書館に頼ってるのも、エロイーズのおかげなんだよな。ベントリー宰領生に案内してもらった時、一緒にいた彼女が図書館の大きさに驚いてたんだ。で、すごい興奮してるもんだから、「どうせ古い本ばっかだろ」みたいなことを俺が口走った。そしたら、あの例のごとく半分は伝わらない言葉で「いや、それは違うよ。古いって言うのは一種の価値だよ。本の数の分、昔からの知識が蓄積してるってこと。一人じゃ到達できないところに、過去の偉人の力を借りて到達できるわけ」って捲し立てた。一足指と中指をパタパタさせて人に模した彼女は、「一冊、二冊」とその人形をジャンプさせていった。そして、あの笑顔で「知識だけじゃないところでもね。わたしもめちゃくちゃ助けられたんだ」って。
で、まぁ、今でも彼女の言葉の意味はわからないけど、とにかく図書館に行けば知らないことが分かるらしいって俺でも分かったわけ。
恨んでる場合じゃないよな。いなくなった後も、めちゃくちゃ助けられてるじゃん、俺。
貴族とか、なんとかのいろんな関係があれば、上級生に知り合いがいて教えてもらったりもできるんだろうけど。俺に声かけてこようとしてる帝国貴族にも、すごい親切なやつとかいるかもだけど。それより、俺を利用、というか俺ごしに兄さまたちを利用してくるかもって思ったらすごく怖い。それに、まだ魔法学校の生活に慣れてないのに、エロイーズがいなくなった日を境に、学年関係なく帝国貴族が話しかけようとしてくるようになったんだよ? 怖くね?
俺、エロイーズに守られたりしてたの? いや、聖女に驚かされた時はめちゃくちゃ世話になったけど。
今のところ、俺の安息の時間は身体づくりの時間だけなわけ。他は全力で課題しなきゃ退学とかになったらマジでいくとこないもん俺。だから、全力で身体動かすだけのあの時間は本当に楽でいい。
と言うわけで、週の中日。授業が始まって三日目。本来は冒険者業をする時間だったはずなんだけど、ユーリさんも俺もそれどころじゃないから、俺は自室にこもって課題しようと早々に昼食済まして図書館行って戻ってきたわけ。
で、しばらくしたら、なんか聖女が帰ってきた。
まぁ、それはいいんだけど、なんか自分のベッドに座って俺のこと、待ってる? 感じなわけ。基本的に、ドアの向かいに窓と机が二脚あって、両側にベッドがある部屋の作りになってる。だから、俺が机で必死になってる時は、何か気を遣って聖女は隣にやってこない。確かに、隣に来られたら課題どころじゃなくなるから、助かってはいるんだけど。聖女は課題とかどうしてんのかな。化け物じみた何かで解決してるとか? なにそれずるい。でもまぁ、俺みたいに科目多くなかったし、なんとかなるんだろう。それこそ、聖教会での奉仕の合間とかにしてるのかもしれないし……。それなら、少なからず教えてくれる人もいるだろうし。
やっぱり、教えてくれる人の存在って大きいよね。俺だって、リモンさんがいなかったらここにいなかっただろうし……。貴族の子弟に家庭教師ってなんでつくんだろうと思ってたけど、そう言うことだよ。なんで、俺の父親はタネだけで俺のこと放置なわけ? 意味わかんないんだけど。一人くらい家庭教師とか送り込んできてくれてもよかったじゃん。あんなど田舎で俺に何か教えるだけの存在って、結構虚しいけど、でもさ、兄さま曰くそれが許されるのが皇帝の血ってやつなんでしょ? なに、俺だけハブりなわけ? マジひどくない? で、その血のせいでほとんど話したこともない兄さま方の命が危ないわけで? 本当にマジで俺にいいことないんだけど、この血。
……。
で。
聖女は俺に何の用なわけ?
無視しようとして、でも聖女の存在を感じて、ただ諦めてくれることを祈ったけど、そういうわけにはいかないらしかった。多分、俺が手を止めるまでずっと待っていて、そうなるとただでさえ机に向かっているのが苦痛なのに集中なんてできない。
だから、仕方なく俺から声をかけることにした。
「……なに?」
できるだけ短くっていうか、なにを言うか考えるのが難しくて短くなる。
聖女は俺に微笑むと、手に持っていた紙袋から何か取り出そうとした。中から武器が出てくるはずがないのに、俺の身体は勝手に強張る。聖女が怖いし、その行動も怖かった。
聖女は俺の反応に少し悲しそうにしながら、赤い糸玉を取り出した。
ん?
なにそれ?
なにが出てくるなんて予想もできなかったけど、なにに使うのかもわからないものが出てきて戸惑う。
「ご提案があるのですが……」
改まっていう聖女に、俺は頷くだけで続きを促す。
「お互いに、部屋の真ん中から入らないようにしませんか?」
え、いいけど。
……。
で、その糸玉、なに?
「これを中央の印にしようと思って……」
糸を解き始めた聖女に、つい言ってしまった。
「え、やだ」
いや違うくて。
「えっと、入らないのはいいけど、それ目立つじゃん」
だから、その、つまり。
「ドア開けたら見えるじゃん。変に思われるいやだから。それはいらない。と思う。だいたいでいい」
言ってから、なし崩しに妥協というか、聖女を許しているというか、信じてる感じの発言になったことを悔いた。
ていうか、なんで赤なの? 踏んでようやく分かるくらいの白いのとか透明のとかなかったの?
……うっわぁ。赤か。血の色だ、怖い。なに、真ん中越えたら殺すとかそういうこと? まさか魔法学校で? こわ、聖女怖い。
流石に俺の考えすぎだろうけど。
自分の言いたいことだけ言った俺は、もうこれ以上話していたくなくてさっさと背を抜けて、課題に戻った。課題っていうか、これ次にやることとか前やったこととかも勉強しておかないと授業についていけないの目に見えてるし。辛い。どれだけ時間かければいいの?
これまで生きてきた十五年で得たよりも多くの情報を一日で詰め込んで重くなった頭に耐えかねて、消灯よりも一時間は早くベッドに潜り込もうとした時には、聖女はすでにいつものようにベッドに寝転がって目を閉じていた。実は寝ていないっていうのは薄々分かっていたけど、その理由を詮索する余裕はなくて、明日の剣術の授業で武術の時みたいな課題が出ないように、それから対魔物訓練が第二の安息の時間になるように祈りながら眠りに落ちた。




