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【それでも私は】泡沫の甘夢【愛を謳いたい】

 「それでも私は愛を謳いたい」は、「39スレ目 安価で大学決めたら異世界の魔法学校に行くことになった。続30」までのネタバレを含みます。


 39スレ目を読んでから、読むことをお勧めします。


 以下、緩衝材代わりに短編を挟んでおります。


―――――――――――――――――


 ただすれ違っただけのはずのシュリが、意味ありげな視線を送ってきた。

 違うって。

 イライラしているのは、競技会用の魔法具製作の進行が悪いからだって。

 それから、リアが宰領生の重圧に飲まれて挙動不審で、ついでにバートがおかしくなってるのがウザいから。

 で、カルロスがいないのに、特1の大波乱がまた何か問題を起こしたらしいから。それに、宰領生の私にも何も情報が降りてこないから。

 アベルが呼び出されてくらいで、他に本当に動きがない。この静けさは、私が想像できないくらいの上が動いてる……というか上の上の上の上の上……って話が上っていってる途中だよきっと。で、同じくらいの時間がかかって命令が降りてくるから、しばらくは音沙汰ないだろうね。

 宰領生って、一応、魔法学校の顔役なんだけどなぁ。何も知らされないって、私たちも下に示しがつかないんだけどなぁ?

 ほら、理由はたくさんあるでしょ?

 でも、さ。

 でも、シュリのその目で気づいてしまったの。

 なんでかなぁ。

 でもさ、だって、実際、処遇を決める権限は特殊宰領生のカルロスにあるはずでしょ? それを、不在をいいことにその権限を無視してるわけ。確かにあの演習は基本音信不通になるらしいけど、呼び戻そうとすれば呼び戻せるでしょ。宰領生が不在になるタイミングをバラすために、わざわざ彼には短期夜営演習に出てもらった。魔法具の私はいいけど、攻撃のゲラシウス、防御のフラン、身体強化だけど里長候補のリアは、長期外出を伴う演習が必須で、同じ時期に全員出払うのはまずいから予定を調整したのね。その結果、カルロスの野営演習を短期にしてもらうしか無かったわけ。この時期の短期演習は前年度わずかに成績が足りなかったか、既に経験があって演習を受ける必要がないと承認された学生用で、カルロスは条件に当てはまらないんだけど……。休み期間に事前講習と訓練を受けることで、なんとか申請を通してもらったの。だから、緊急で帰ってきたりしたら野営演習が取れなかったカルロスの、卒業とか成績とかに確かに響くことにはなるんだけど……。宰領生の権限を蔑ろにされたっていう外聞とどちらが重いかってなると、どうしてもとにかく戻ってきた方がいいはず。でも、私たちにはもう帰還させる正当性がなくなってしまったし、校長がそう判断しない以上はヤキモキしている以外ない。まだ5年で来年があるんだから、今回の調整みたいにまたどこかにねじ込めばいいんだし、カルロスを宰領生にしたのって誰、って話。校長、あなたが動いてそうなったんでしょ? カルロス、自分の特殊魔法の安定化もできてないし、大型攻撃魔法の習得とか諸々苦戦してる。成績もお世辞にも良くない。それを無理に宰領生にした。それなのに、今年始まって早々これ? そんなに上の顔色見るのが大事?

 ま、そういうわけ。

 私がイライラしたってしょうがないんだけどさー。そもそも、今の事態、禁術の調査となると、防御クラスの手に負えなくなってから、彼らが魔法具に調査機具の調整とかで応援要請してくれないと動けないし。でもなー……だからって渦中の問題になってる生徒が特殊なら、その宰領生が噛まないと話にならないでしょ。帰ってくる前に解決したいなら、その日のうちか翌日くらいに結論だして処分を宣言してくれないとさ。そうじゃん?

 ……だから、私が気に病んでも仕方ないんだけど。

 でもさ。

 だけどさ? 

 ぐるぐると回る思考は、シュリが視界から消えて何回目か。

 気分転換をしようと食事を早めにして、宰領生の仕事に没頭して、自室に戻ってからも魔法具製作に没頭して、消灯後も灯りをつけて習得中の結界図案と睨めっこして。

 明日に堪えるからってようやくベッドに倒れ込んでも。

 それでも。

 なんでかな。なんでだろう。わかってるけど。

 私が、一方的にカルロスが、好きだから。

 でも、そうじゃなくて。

 なんで、彼が蔑ろにされなきゃいけないわけ?

 答えは、出ないけど。

 それでも。

 どうして。

 そう問いかけても何も答えが出ないとわかっているのに。

 はずなのに、思ってしまいます。

 どうして、彼女はいなくなってしまったのでしょうか。

 どうして、私は彼女に秘めた恋心を打ち明けたのでしょうか。

 どうして、少しでも明るい気分になんてなっていたのでしょうか。

 そして、とっくの昔に答えが出ていることも無意にしかならないとわかっていながら思ってしまいます。

 どうして、あのお方はあの悪魔を憎んで仕方ないのでしょうか。

 どうして、そのために世界を壊そうなんてするのでしょうか。

 どうして、その無茶を止める人も方法もないのでしょうか。

 どうして、私はあのお方の下僕でしかないのでしょうか。

 どうして、私が恋なんてできると思ったのでしょうか。

 どうして、助けたい人も助けられないのでしょうか。

 どうして、私は世界に仇なす存在なのでしょうか。

 そう、それでも、私はあのお方の手足として踊らなければなりません。

 例の悪魔が姿を消してからすぐ、あのお方は私にコンタクトをとってきました。あのお方曰く、召喚者に手を出したことが功を奏して彼は逃げてしまったのだと言います。私は否定を心に浮かべながら、説得する術がないので黙っていました。あのお方の中では、もうこの世界を制したのも同然で、あとは好きに料理するだけだとでも言いたげ……いえ、実際にそういう態度をとっていました。

 私は、彼女と交流を結ぼうとしたことも黙っていることにしました。あのお方のいうように、あの悪魔が彼女ごとこの世界ではないどこかへ逃げてしまったというのなら、ともかく一時友誼を結ぼうとした彼女だけは、私から導かれる破滅からは逃れられるわけですから。私の知らないどこかで彼女が幸せに生きていてほしいとひっそり願える幸せだけを噛み締めているべきなのでしょう。

 私も報告すべきは報告したはずです。リア様に敵視されていること、魔法学校で渦巻く噂のうち特にクラウディウス様に関すること、そして学生の中で後々あのお方の計画の障害になりそうな人のリスト……。

 それにおいても、私は一つの問題を抱えていました。

 アルフレード様との緊張です。

 アルフレード様と私の間にある微妙な警戒は、クラウディウス様を含む周りの学生が疑問を抱くには十分なものでした。たまたま異性同士で同室になり、そして特殊宰領生の不在だからこそ続いている、それゆえの気まずさは理解されています。けれど、寝に戻る以外部屋を避けているなんて確かに不自然すぎますよね。クラウディウス様以外にはまだ小さな疑問かもしれません。でも、いずれその疑問が大きくなっていくことには間違いないのです。実際に、私たちの間は不自然に張り詰めているのですから。

 とはいえ、私はあのお方との交信もあるので夕食をいただいたたら部屋に戻ってきているのですけれどね。アルフレード様は私が早くに床に着くと思っているらしく、最近は部屋で勉強されることもありますけれど、それでも私が身じろぎしただけで少し怯えられるので、私も居た堪れません。

 でも、だからって、言えるわけがないですから。

 私は人間ではないのです。聖女どころかこの世界を壊すあのお方に加担して、勇者を殺す使命のためだけに生かされている化け物なのです。

 なんてことは。

 そして。

 そんな化け物は、一人で生きるあなたがとても凛々しくて、眩しくて、だからお慕いしております、なんて。

 どうして、彼女に秘めた恋心を明かしてしまったのか、今では全くわかりません。ほんの数えられるほど前の日に起きたことなのにも関わらず、もうどうやって彼女と話していたのか思い出せなくなっていました。確かに彼女はいたはずなのに、その時の雰囲気も、私の気分も、そして彼女の笑顔も、露となって消えてしまったのかのようでした。それほど、彼女は何の残り香も残さずに消えてしまったのです。もし、彼女に今のこの悩みを打ち明けたらなんと言ってくれるのか、そんな想像の言葉も思いつかないほど彼女とは短い付き合いになってしまいました。

 それでも、もし彼女がいてくれたら、もしかしたら私にだってもう少し明るい未来があったかもしれないなんて、思ってしまいます。

 もう、それは儚い夢でしかありません。

 きっと、期待してはいけないって、知っているのに、それでもなんて思ってしまった私に罰が当たり続けているのですね。

 それでも。

 それでも、このままでいるわけにもいけません。

 だって、このままでは本当は優しいアルフレード様のことを皆様、変に誤解してしまいそうですもの。私の未来は決まっていますけど、私を避けるせいで後々彼の経歴に傷がつくなんてことがあれば、既に罪深い私はもう一つ償いきれない業火を背負うことになってしまいます。

 早急に何か手を打たなければなりません。

 あぁ、せめて、こういうこともあのお方に相談できればいいのですけれど。


 あのお方にアルフレード様が気になるなんて口走ってみたところで一笑に付されるだけですから。

 すぐに思い浮かんだのはマディナ様の顔ですが、聖教会でも彼女の姿を目にすることもなく、どうやら彼女への相談は断念するしかなさそうでした。組織の異端をわざわざ私が探し回っている、なんて噂が立ったら双方ともに立場が危うくなりかねませんから……。

 迷いに迷った末、クラウディウス様に相談してみることにいたしました。

 彼女がいなくなって、時間割が承認されて、一週間が始まりました。

 二日目の講義を終えたところで、夕刻に食堂で書物と紙を広げていらっしゃるクラウディウス殿下を捕まえることができました。

 課題をされているのでしょうけれど、どうも乗り気ではないようで頬杖をついてあらぬ方向を見ていらっしゃったので私も気兼ねなく声をかけることができました。

「クラウディウス様」

「あぁ、聖女様。何か御用ですか?」

 彼は手早く数冊の本を閉じ、傍に積み上げて片付けてしまわれました。歓迎されていないわけではないことに安堵しつつ、彼の向かい側に腰を落ち着けました。

「少し、相談があるのですけれど……」

 そう切り出した私に、彼の顔は少し曇りました。何がそうさせたのか分からず、不安が膨らみ始めます。なんとかその不安を無視するために、私は言葉を続けました。

「あの、部屋割りのことなんです」

 彼にだけ届くようにできるだけ声をひそめて言いました。私の言葉にクラウディウス様の表情は納得したかのように明るくなりました。どうやら、全く違う話題を警戒されていたようです。

「まぁ、彼女が無茶を言いましたからね」

「そのことなんですけれど……私、アルフレード様とどう接していいか分からなくて。何かご助言をいただければと思いましたの」

 まさか異性同士で別れたなんてことは、衆目に晒すことはありません。お互いに言葉を選んで会話は進みます。

「……まぁ、その……」

 彼は言いにくそうに視線を逸らしてから、思い切ったように口にしました。

「僕とは随分、育ちが違うようですから……。参考になるかどうか」

「いえ……あの、それでも、同じ男性同士、何かわかることがあるかもと思いまして」

「ま、それでも気にかけられるべきは女性の方だと思いますがね。あの彼女はもちろん例外として」

「……お優しいんですね。それでも、私の方が年上でしょうし」

 生まれた時から少女の姿をしていた私ですけれど、 あのお方の元にいた時間も数えたら、幾許か私の方が年上のはずでした。

「貴女は、どうも人に気にかけすぎるところがあるように思いますが……」

「……そう、ですか?」

「えぇ」

 力強く頷いたクラウディウス様は、「それが聖女様のいいところなんでしょう」と付け加えました。なんと返していいか迷っていると、彼がそれとなく助け舟を出してくださいました。

「それで、具体的にどういったことにお悩みなんです?」

「いえ、その……なんといったらいいか……なかなかお互いに寛げませんの」

 「寛ぐ」とぼかした言葉に彼は苦笑いしました。私たちのぎこちなさからは、それ以上の何かが漏れてしまっているのでしょう。

「まぁ、僕は彼女とはルールを決めるつもりでいましたがね」

「ルール? ですか」

「えぇ、お互いのものには触らないとか、寝ているところには近づかないとか……それこそ」

 そこで彼は声をひそめました。

「それこそ、部屋を真ん中で割って、そこからは絶対に立ち入らない、とか」

「半分から入らない、ですか。それは……よさそうですね」

「でしょう? まぁ、彼女とはそんな約束を交わす間もありませんでしたがね」

 私は、それを使わせてほしいことと、そして礼をいいました。まだ、話をしたそうにクラウディウス様は私を引き止める言葉を探していました。私は微笑んで、「課題のお邪魔をしてはいけませんから」と立ち上がりました。

 部屋に戻りながら、短い先刻の会話で、急に失踪したあの彼女が帰ってくるかもなんてお互いに微塵も思っていないことを少し不思議に感じました。だって、姿を消しただけでまだ魔法学校から除籍になったわけではないんですもの。どのくらいで退学の判断が下されるのかわかりませんが、だいたい一ヶ月くらいで戻ってきたりして、その上やむを得ない事情があれば、きっとそのまま一年生としてやっていけそうなものですのに。

 清々しい彼女のことですから、魔法学校に学ぶところはないと切り捨ててしまったのでしょうか? それでも、姿を消す前にアルフレード様や私と話していたことから考えると、彼女も新生活に期待を持って楽しもうとしているようでした。それを思えば、彼女がどこか遠くへ行ってしまったと考えるのは馬鹿げている気さえしてきます。

 でも、あのお方の、あの悪魔が世界から消えてしまったという言は正しいでしょうから、やはり彼女もそれについていったと考える方がいいのでしょうね。

 彼女と一緒にすっかり消えてしまった前向きな気持ちを思いださまいとしました。

 そう。

 そうなんです。

 なぜか、彼女と話しているだけで、彼女の笑顔を見ているだけで、そして彼女がいるだけで、明日に期待をしてしまいました。

 もしかして、アルフレード様と、とまでは思わなくても、この気持ちを受け入れてもいいのかもしれないなんて。

 そのじつは、剥がれかけた化けの皮から覗いた正体に恐れられているざまだというのに。

 少しだけ抱いてしまった夢は、忘れてしまおうとするにはあまりにも甘すぎました。これも、一つの罰なのでしょう。

 忘れるほかにない、誰も知らないところへ封じているしかない、そんな夢なのでしょう。

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