同級生が行方不明になったら⑤
いや、同室の女子が急に消えたら、まぁ、普通の人間なら心配しますよ。
僕も例外ではないわけで。
それも、上級悪魔とか禁術とか突然の失踪とか不穏なものが絡んでいるわけですからね。
幸か不幸かレイが特殊として関わっているので、しつこいくらい心話で情報を仕入れようとしたのですが、彼にも何の情報も入っていないようで「殿下は関わりにならない方がよろしいかと」という言葉しか返ってきませんでした。本当にそれしか言えることがないようで、ちょっと口が悪い可愛いレイの「じゃじゃ馬殿下」発言はいただきましたが、それ以降、レイの負担になるのもと僕も自重しました。
……で、結局、彼女は返ってこないらしいという空気が魔法学校を支配し始めた中、特殊一年である僕たちのバランスは崩れたままでした。
そもそも、一足飛びに親しくなるというのが人間関係では難しいのです。勝手に人の懐に飛び込んでくる彼女が特別に短い間で距離を詰めてくるだけなのです。彼女がいなくなってから、僕たちの間の時間は不思議なバフが剥がれて元に戻ってしまいました。これが、自然なんでしょう。聖女さんとの間にはどこか他人行儀の白々しい社交辞令が支配する関係になり、アルフレード君との間には国と貧富の差が立ちはだかり、一言一言が彼の気を害するのではないかと思えば会話すらままなりません。
そして、アルフレード君と聖女さんは、言わずもがな。喧嘩や殴り合いになるならばいいんですよ。その方が、何というか、人と人として関わっているじゃないですか。無視をしあうっていうのが一番、お互いに関心がないと思うんですよ。彼らは互いに無関心を装っています。なぜかアルフレード君が一方的に聖女さんを怖がっているみたいなんですよね。彼女のなにを怖がっているのかは全くわかりませんが……。治癒術だけが抜きん出た魔法構成にしろ、彼女の温和な性格にしろ、聖教会での“傭兵”的な立ち位置にしろ……。いや、僕を恐れる方がまだわかりますよ? まぁ、僕も弁えているので誰かさんみたく威張り散らしたりしませんが。ていうか、不意打ちで殴られたら多分アルフレード君にも負けると思うんですよねぇ僕。火力というほど火力がない遠距離系ですからね僕。ジジイどもがそういう魔法構成にしたとも言いますが。
カネさんは僕たちの本来あるべき距離と、そして気まずさとを良くも悪くも壊してくれていました。それを知らなければ、今ある関係は普通だったのでしょう。少し刺激が足りなくても、当たり前だったのでしょう。
ただ、知ってしまった。その場にいるだけでなんとなく爽快で、明日に何が待っているのか自ずと期待してしまう。そんな彼女の存在を知ってしまった。
彼女のいなくなった今、日常を安泰と受け入れきれない物足りなさと、ありきたりの日常から逃れきれない息苦しさがありました。
とはいえ、彼女の捜索が行われているかも不明です。あの場を預かったはずのオーティス校長の動きがないのです。防御クラスの有用な魔法構成の学生が駆り出されるとか、それこそ短期夜営演習とかで一週間留守のカルロスさんを呼び戻すとか、そういった動きが一切ないんですよね。だから、魔法学校が彼女の扱い困って殺害したのだ--なんて噂まで流れる始末。まぁ、いずれにせよ、そのおかげで、リアさんがなぜか聖女さんを糾弾したことについては人の口にそれほど登らなかったのですけど。
彼女がいなくなった今、僕たちはそれぞれに時間割を決め、朝も各々に起き、食事も各々で食べ、同じ授業を受けていても肩を並べることはなく……確かに無味乾燥とした、ただし安定はしている日々を送っていました。
彼女のはちゃめちゃさに慣れかけていたのと同じように、いずれ彼女がいたことも忘れて僕たちはこの日々に慣れていくかのように思われました。
計らずして一人で独占することになってしまった部屋で寝転びながら天井を見て、知らず知らずのうちに彼女のことを考えている自分に気づかずに、僕はゆっくりと眠りに落ちていきました。




