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同級生が行方不明になったら②

 話の中心は言葉の怪しい彼女で、僕たちはなんとなく言葉を繋いで話をしていました。時間割の話から、彼女のおそらくどの属性魔法が得意かという質問を受けて、僕たちはそれぞれ思惑もありつつ答えます。

「私は治癒術しかできませんから……」

 と遠慮がちにまず聖女さんが言い、自重の流れになったので「僕も器用貧乏なんですよねー」と笑いながら言いました。アルフレード君の睨むような視線を感じつつも、カネさんの「でも、光魔法とか得意なんでしょ? カッケー」という言葉をうけ、最後の「カッケー」はどういう意味だと頭を悩ませながら、曖昧な肯定を紡ぎます。

「でも、光魔法って意外にやれること少ないですよ? 治癒術は別ですし、昼間は明るいですしね。夜の灯なら火魔法で十分ですし」

「私もあまり使えませんから、生活魔法の方が使いやすいくらいですの」

「あぁ、そうですよね。光属性に関係ないような生活魔法の上位互換が多いですよね」

「え? そうなの? 浄化系とか、そういうのってこと?」

 思わず漏れたらしいアルフレード君の疑問に、僕はうなずきました。

「えぇ、生活魔法の身体浄化は一時的なものですけれど、光魔法のは恒常的というか……持続系の身体強化みたいなものですね。万事が万事、そんな感じです」

「えー……? それじゃぁ、まぁ、便利は便利なんだろうけど……」

 アルフレード君は少し気まずそうにしながら、それでも気にしていない体を装った僕に合わせて相槌を打ってくれました。

「大々的に光魔法と銘打って、他の属性に並ぶようなものじゃないですね」

「ま、まぁ、でもあれですのよ? 古く伝わる装備などは光属性に優れていないと使えないものが多いですものね?」

 聖女さんのフォローに僕は苦笑いを噛み殺しました。確かに、そうなんですよね。そのためだけに誰かが取ってつけたみたいに、一部の人間しかそれらが使えないように諮ったかのように、光属性がないと鞘から抜けもしない剣なんてものがあるんですよね。なんというか、勇者という称号だけじゃ、その称号を授かった個人だけではどうしようもなく、その者の戦力増強を図りつつも他の者に悪用されないようにと言った不思議な意図を感じてしまうのは僕だけなんでしょうか? まぁ、こんな性格をしているから恩師たちに勇者に向いてないとか散々言われたんでしょうけどねぇ。そんなの一番僕がわかってますし、むしろ魔王の思考だと、そんなことを言われたら、もとの性格から捻くれている僕でも流石にいじけますよ?

「え? ちょっと待って、魔法で身体綺麗にする系の世界なの? わたし、聞いてないんだけど。風呂は? 大浴場せっかくあるのにみんな毎日入らないの?」

 カネさんの支離滅裂な言葉は大体このようなことを言っていたと思います。

 なんというか、急に挟まれた言葉を理解するのに時間がかかり、そしてその意味することを理解するのにまた時間がかかり、自分が確かにそういう意味の言葉を聞いたのだと肯定するのに、その言葉を聞いてからの時間と同じくらいかかりました。

 毎日風呂に入るとか、どこの王侯貴族ですか?

「えー……俺、そもそもここに来るまで大浴場とかみたことなかったよ?」

 隣国の皇子のあるまじき発言は聞き流しつつ、不満そうな彼女に一応、理論で説明を試みました。

「大浴場とはいえど、あそこに魔法学校生が全員は入りきれないでしょう」

「う……マジか……。お湯……お風呂……」

 初めて彼女の憂鬱そうな表情を見た僕たちは思わず顔を見合わせます。そんなにショックを受けることかと思うと同時に、彼女の出自の謎がまた頭にかまけてきました。

「ていうか、その生活魔法ってやつ色々覚えなきゃじゃん……!? やばー笑えなーいやだー」

 ……ていうか、生活魔法を身につけてないって、どこでどう生まれてどう育ったんです?

 直接話をしていた僕たちだけではなく、集まってきた周りの学生たちもつい漏れ聞こえてきた言葉に黙り込んでしまいました。

「ま、まぁ、光魔法よりも闇魔法の方が強い攻撃系があって羨ましいですけどねー」

「そうですわね。私は防護系もあまり使えませんから、攻防共に富む闇属性に憧れますわ」

「え? そうなの? 闇魔法ってあまり見ないから……」

 周りの注目に耐えきれず、カネさんの言葉を流してしまおうと言葉を取り繕ったところ、聖女さんが会話に乗ってきてくれ、アルフレード君もぎこちないながらも会話をつなげてくれました。

「まぁ、それこそ魔法学校くらいですもんね? 闇魔法を実用レベルまでに引き上げてくれるのは」

「一子相伝の系統がいくつかあると噂では聞きますけれども……」

「あぁ、あるみたいですね。帝国系に多いようですが、王国でもいくつか流派があるみたいですよ」

「闇魔法の防御ってどんなの? ……攻撃もよくわからないけど」

 興味津々のアルフレード君に救われながら、急に黙ったカネさんを横目で見やると壁際に立っている悪魔とアイコンタクトをしていました。どうやら、悪魔が彼女を嗜めてくれたようです。もし本当に生活魔法が使えないのだとしても、ここで大声で言ってしまう類の話ではないですからね。生活魔法が全く使えなくても、効果的な軍事的魔法を使えるような方は王国軍人にもいますから、魔法学校への入学自体は特殊ということもあって不自然さはないのですが……。

 ともかく、周囲に怪訝に思われないことを優先して、僕はアルフレード君の質問に答えました。

「どちらも大体方向性が二つあって、デバフ系と精神系に分かれるんですよ」

「へぇ……。危険っていうのうは、やっぱり精神系だから?」

「いえ、どうでしょう? 僕も素質がないからあまり詳しく知りませんが……。デバフとか精神系は闇属性の中でも入り口で、それこそまさに秘術のようなものがあるみたいですね」

「……。本当に危険ですわよ? 命を代償にするようなものもありますから……」

 聖女さんがアルフレード君を心配そうに伺い、アルフレード君はびくりと身体を震わせて僕の方へ身を逃すように寄せきました。なんですかねこれ。この二人、こんな調子でぎこちないですけど、何があったんでしょう。

「そんなものもあるんですか? 最大火力は闇だと言われる所以ですねぇ」

 僕はそんな二人の様子に気づかないように言葉をつなげました。

「えー、最強は火じゃないの?」

 急に話に戻ってきたカネさんは、唇を尖らせていました。視界の端に、苦笑いを隠しきれていない上級悪魔の姿が写って納得します。彼の悪魔の得意魔法が炎系なのでしょう。

「って、悪魔と人間比べるのやめてよ。悪魔の火力出すとか無理無理。なんのために召喚があると思うの? 人間じゃ無理だから悪魔に力を借りるんだって」

「んーじゃぁ、悪魔さんが最強ってことでオケ?」

「知らないけど、この講堂内では最強なんじゃない?」

「えーせまー。せめて魔法学校内とか、王都内とかくらい言おうよー」

「まぁ、魔法学校には常識ではあり得ないような魔法の使い手がいますからね……」

「クラちゃんも? クラちゃんもなんかすごいヒッサツワザとか使えるの?」

「ヒッサツワザってなんですか……?」

 つい、言葉をなぞって聞き返してしまいます。

「必ず殺す技?」

「こわ」

 アルフレード君は軽く言いながら本気で身をこわばらしました。

 んー……レイが渾身のバフかけてくれたら魔王でも必ず殺す技に……うーん。まぁ、あの魔法、そもそもが自爆ですしねー。どうしてこうも僕は勇者らしい力が備わってないんでしょう?

「ま、まぁ、そういう、のも、あるかもしれませんね?」

「にっくーい。奥の手はそう簡単に晒せないよねー」

 まぁ、勝手に誤解していてもらう分にはいいですから……いえ、ここにいる面々から「勇者、必殺技あり」の噂が広まったら困りますね。そんなものないですから。

「殺傷能力高いだけ高いのは不便だよ。仲間巻き込むもん」

「えぇ、そうですわね」

 聖女さんがアルフレード君の言葉に笑顔で同意して、なぜかアルフレード君がまたびびります。いや、本当にこの二人の間に何があったんです? 初日にアルフレード君が泣いてたのは、聖女さんのせい? いや、彼女がそんな年下をいじめるような真似はしないと思うのですけど……。どういうすれ違いがあれば、ここまでぎこちなくなるんでしょうか。

「聖女さん、授業、何とるの? 治癒術しかできないって言っても属性の授業取らなきゃでしょ?」

「そうですね、私は、水と木、それから光……この三つですわね」

「そっか。じゃー、よかったら、基礎一緒に同じ時間で取ろうよ」

「いいですわね。私、できれば週末には入れたくなくて、他も午後か午前かできるだけ時間を空けて聖教会へ顔を出したいんですの」

「そなの? じゃぁ、午前中に固める? てか、それ、わたしもついていっていい感じ?」

「ちょっと、エロイーズ。あのこと忘れてないよな?」

「あ、そっか。アルちゃん、それもあった」

「は? お前、自分から言ってて忘れるとか最悪だからな?」

「もーごめんて。ね?」

 ンンン?

 なぜか、カネさんを聖女さんとアルフレード君が取り合ってるように聞こえるんですが。

「あら。無理をしなくて結構ですわよ?」

「えーでも、ほら、治癒術は絶対いるじゃん?」

「じゃぁ、授業とれよ……」

「でもさー、聖女さん以上の先生もいないと思うの、わたし」

 どうやら、聖女さんとの話は、彼女に治癒術を教わりたいということらしいですね。聖教会で奉仕活動をする彼女の側でその技を学び取りたいから、予定を合わせる必要があるんですね。

「い、いえ、あの、私の治癒術は独学に近いですから、ちゃんと座学なんかも受けた方が……」

「えーと、アルちゃん、そこは要相談だ! わたしたちの都合だけじゃないし、大人二人に聞いてから決めよ! 今日これ終わってから心話入れてさ」

 一方、アルフレード君との予定が何かいまいち掴めません。

「まぁ、うん、そうなるんだろうけどさ。マジ、忘れんなよ? 俺、本業冒険者だしさ……」

 ……皇子じゃないんですね、本業。

 どうやら、アルフレード君の冒険者業にカネさんが付き合う、というか他に大人の冒険者二人とパーティを組んでいて、彼らと予定を合わせて冒険者業に出かけたいということのようですね。

「学生のうちは勉強が本分だよ? ね?」

「だから、金がねーつってんだろ?」

 普通、皇帝の五親等くらいまでは生活に困らないというか、一生贅沢に遊んで暮らせるお金は貰えるのと思うんですけれど……。チラリと後ろを伺うと、帝国貴族らしい面々がアルフレード君の言葉に動揺を隠せていませんでした。まぁ、そうなりますよね。

「仕送りとかもらえないの? まぁ、わたしもこっちに身寄りないから似たようなもんだけど」

「いや、そういうのマジねーから。お前、その服とか立て替えてもらったんだろ?」

 アルフレード君、カネさんのせいでだいぶん砕けて話していて気付いてないようですが、彼女の生活魔法を使ったことがないと同じくらいの衝撃発言をしてるんですが。

 皇太子殿下がなぜか婚姻しない上、第二皇子殿下は子が期待できないような皇族情勢でなぜ、第三皇子の彼が冷遇されているのか全くの謎です。第一、冷遇以前の問題でしょう。生活に困るというわけですからね。

「あーそれはね、あそこの悪魔さんが返したよ」

「い、意味わかんねー。なんで悪魔が金持ってんだよ?」

「普通の悪魔と一緒にしないで? わたしの良い人なんだからね?」

「それなら俺にも分けろよ」

 仮にも皇帝の血に繋がるものが堂々と乞食行為をしないでください……。

「ええー。パテメンとして報酬配分増やすとか、必要装備に融資とかならいいよ?」

「マジで? 本当に? 本当に言ってる? 俺、皮の胴当てボロで、国境越えてきたら分解してどっか行っちゃったからせめてそれ買いたいんだけど」

 え、帝国領からここまで一人で旅してきたんですか? 確かに、お供を連れているところとか想像できませんけど。帝国には実力派が多いと聞きますから、それこそ冒険者パーティを装っての護衛とか、そういうことはできなかったんですかね。

「んー、言ったらお古とかもらえそうじゃない? わたしが聞いてあげよっか?」

「体格全然違うけど……まぁ、もらえたら、嬉しいかな?」

「あれじゃん。小は大を兼ねないけど、大は小を兼ねるよ? ちょっと仕立て直したりしたら使えるかもじゃん? それに、うちのパーティリーダー顔広そうだから処分に困って格安でとか話あるかもだし」

「あーそれはマジありがたいかも。皮でも浸魔力素材、超高いもん」

 ……またチラリと背後を窺ってしまいました。王国貴族は立地上、誰彼構わず入学させろという色がありますが、魔法学校へ入学する支援をしてもらえる帝国貴族って才能にも立場にも恵まれている方が多いんでしょう? 僕の言えたことじゃないですが、それこそ育ちのいい貴族の子弟なわけで。我関せずとばかりに澄ましていた残りの帝国貴族にもどよめきが走るのを感じましたよ、今。

 なんというか、僕や聖女さんには遠慮があっても、どこの誰ともわからない彼女には心を開きやすいんでしょう。いや、彼女が誰彼構わず懐に飛び込んでくると言った方が正しいでしょうか。アルフレード君は少し僕たちよりも早く彼女と接していたことも関係しているのかもしれません。注目を浴びている、噂の中心だということを忘れたかのように、気心の知れた同士にありがちな周囲を憚らない大きな声で喋っていますからね。

 僕でも、今十回くらい耳を疑ったんですけど、帝国勢、これ、今から集中して座学とか受けれますかね……?

「で、アルちゃんは何受けるんだっけ?」

「んー、適性試験とか初めて受けたしー。なんか、俺、身体強化特化だと思ってたんだけど土以外はいけるっぽいしなー」

「いーじゃん。土ってなんか地味そうだし」

「いやー土は、あれじゃん? 冒険者以外でも重宝されるじゃん? 道作るとかそういう感じで」

「あー、土木工事ができるのか。公的な仕事があるわけね」

 ……土木工事とか公的な仕事とか語彙があるのに、訳のわからない言葉も多く喋るの、彼女、本当になんなんでしょう……。

 聖女さんと僕を置いてけぼりにしたまま、二人の会話は続きます。

「まー出来ないのは仕方ねーからなー。AとBのやつ中心に受けようかな。光は迷ってたけど、今の話じゃまぁ、基礎もいらないかな。授業数増えても大変そうだし」

「んー基礎中心な感じ?」

「やーだって、あれじゃん? 今まで適性ないと思ってたもん。そうなるって。戦闘防御どうしようかなーって」

「じゃぁ、あれか。戦闘1、防御2で行くんだ」

「だね。まぁ、防御は木と水かな。魔法のイメージもつくし。戦闘はどうしようかな」

「AとかSとかのやつから選んだらいいんじゃない?」

「Sはないよ、Sは」

「身体強化Sだもんねー」

「いや……知らないけど」

「攻撃魔法と、防御魔法って同じ系列のがいいのかな?」

「んー、わからないけど、攻撃は最大の防御っていうよ?」

「……どういうこと?」

「いや、だから、長じた攻撃は防御にもなるってこと。だから、攻撃系の魔法を覚えたからってそれが防御に応用できない訳じゃないだろうし逆もまた然りってこと」

 ……なんか、かなり深いこと言いますね? ジジイどもも似たようなことを言ってましたねぇ。魔王とか怖いので、防御系ばかり覚えたがった幼かった頃にそういう説教を食らった覚えがあります。しかしまぁ、怯えてる五歳児にそういうこと言いますかね?

「んーじゃぁ、防御は木と水以外にする」

「きっと、それがいいよー」

「で、お前はどうすんの?」

「わたし? 基礎は全部でしょ? 水は好きだから防御でとって、闇はカッコよさそうだから攻撃でとって、木はなんかすごいことになったから基礎みっちりやろうかなって」

 あぁ、天井突き破った事件のことですね……。

「うん……それがいいよ。木属性、攻撃でも防御でも大変なことになりそう」

「だよねー。わたしも自信ないもん。ちょっと魔力込めてあれよ? 思いっきりやったらどうなるって話」

「じゃぁ、残り一つ防御どうすんの?」

「土?」

「地味そうだから嫌なんじゃなかったっけ?」

「地味そうだからほら、防御に向くかなって」

 今、土属性系を敵に回しましたね、彼女……。

 聖女さんがニコニコと二人の話を聞いているので、僕もつい口出しをせずに聞いているだけになってしまいました。

 その間に、大講堂は人でいっぱいになっていました。帝国系は同じ出身者を見つけるが否や先ほどの大事件について熱狂的に語り合って、他の面々も出身やクラスなどの共通点を見つけて仲間を作っているようでした。広い大講堂が話し声で満ちて、礼儀と格式の中で育った僕にはあまり馴染みのない熱気を感じました。魔法学校に入学してから、食堂でも毎回戸惑うのですが、いずれ、これに慣れる日が来るのでしょう。

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