【それでも私は】ばけもの、のけもの③【愛を謳いたい】
「それでも私は愛を謳いたい」は、「39スレ目 安価で大学決めたら異世界の魔法学校に行くことになった。続30」までのネタバレを含みます。
39スレ目を読んでから、読むことをお勧めします。
以下、緩衝材代わりに短編を挟んでおります。
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「おう、今日はどうしたよ?」
「まーいね」
キースがこの世の終わりのような顔をして朝の食堂にやってきた。珍しい。
「どさ?」
「あー? うん? 今日、俺は授業ないけど?」
キースの「どさ」って「どこに行く?」なんだよな。なんでこれが二音になるのか。朝とか頭ボケてるときに聞くと咄嗟に反応できん。キースは俺の隣に座ったものの、朝飯を取りに行くそぶりもないし、頭を重そうに支えている。
「何? どした? 呑みすぎ?」
「いや? 誰かが大型妨害系の練習しやがった。夜中に。ふざけんな。フラン宰領生にチクろうかな?」
「お前なー……」
そういうところだぞ。急に共通語に戻し寄ってからに。しかも大声で。
第一、同じ部屋で寝ていた俺はなんの問題もないんだよな。俺への当てつけってほどキースはものを考えてないのはわかっているが、周囲の魔力変化に全く影響を受けないほどしか魔力がない自分が憎い。あーていうか、あれか。アベルが泣きながら飯かきこんでたのはそれのせいか。あそこまで敏感なのも考えものだな……。
で。
「お前も授業ねーの?」
「さぼたーじゅ」
訛っているのかと思ったら、1特のジョーカーが言っていた言葉だ。
「いやいや、初っ端からそれはまずいだろ」
「いーんだな、これが。午後からちょい鍛冶屋の公式会議に出なきゃならんでな?」
「あー、そういう。公認。公認サボタージュ」
「んだ」
それっきり黙ったキースに、俺も試し書きをしていた本提出用の時間割に目を落とす。んーなんか、授業数少ないんだよなー。でも、これで必須の条件は満たしてるし……四年になってまた難しくなるだろうし、少ないにこしたことないけどさ。
んー……。少ないとなんかそれはそれで不安なんだよな……。
で、必須絞りきれずに去年のあれだ。課題課題課題にほぼ追試よ……。
「カルロスって、意外と口悪いよな」
何を言い出したのか分からなくて顔だけ横に向ける。こめかみに手のひらを押し当てて机を睨んでいた。何を言い出すんだ、急に。
「……お前のが悪いけどな」
「わー態度だびょん?」
「自分で言うな」
また俺たちの間には沈黙が落ちる。俺が時間割を投げ出すとキースがそれを引き寄せて、小さく自分の時間割を書き入れ始めた。クラスが全く違うから、出会った当初みたいに授業が被ることはほぼない。ただ、実況やら素材集めとか色々一緒にしたいことがあるからなー。素材集めは別に俺はしたいわけじゃねーけどな?
「ジュリアスが土曜空くなら、俺もどうにかできんかやってみる」
「おー、別に先生希望とかあるならいいぜ? どうせ午前だろ?」
「やるって言ってるだろ。あとは水曜午後と木曜午前か。ここは金曜午前にならないか?」
「んー、ほんとお前は人の話聞かんな? 金曜午前な。俺は午後も抜くかな。実習系課題やりやすくなるし」
「俺もそこは魔法具実技だから、例年通りなら三週間に一度くらいの授業だと思うんだが」
「となると、月曜も抜いとくと長期遠征できるけどなぁ……」
「いや、そこまではいいだろ。あんまり魔法学校の事情に疎くなると実況できなくなるぞ。水曜に食堂でぐだぐだ課題やるくらいでちょうどいい」
「んー……」
キースのこういうちょい楽をしようとするところ、嫌っている奴も多いけど俺が去年一昨年と授業詰めすぎたのも「もうちょい息ぬけ」って忠告してくれたくらい、そういうバランスの取り方がうまいんだよなこいつ。だから、素直に従っておくことにする。土曜前日、水曜午後、金曜午前と後々時間割を組んでいて分からなくならないようにメモを残しておく。
と、走り書きでも文字にできないような罵詈雑言が聞こえてきて顔を上げた。どうやら、誰か机の脚に小指でもぶつけたらしい。その言葉が聞こえていた、貴族出身の子女だけではなくいいとこ育ちの坊ちゃん方も顔を赤く染めていることには気づかずに、緑髪を揺らして彼は食堂を出ていた。
ふと、キースと目が合う。
「な? 口、悪いだろ?」
「あぁ、そうだな……」
全く。キースのいうことはいつも正しくて参る。
こんなことあっていいはずがない。
そんなことが、おこるはずがない。
ハーバードが何か叫んでたけど、手を伸ばして俺を止めようとしたけど、それを無視して振り切って走った。
だって。
ありえない。ありえない。ありえない。
この前みたいな、空間転移じゃない。
忽然と、人が消える。
そんなわけない。
そんなこと、おこるはずがない。
自分の目で見るまでは信じられない。だから、とにかく走った。俺に気づいた奴らが道を開けようとする、その動きがうるさい。違う。俺が避けるからいい。動くな。後を追いかけてくるハーバードも気にしてられない。
だって、ありえない。
なんの魔力反応もないとか、ありえない。
なんで、この前みたいな、瞬間移動の時みたいな、魔力が一つに集まって弾けるような不思議な感覚がなかったのか。でも、そう。
そんなはずない。
人が、そしてあの悪魔かさえ怪しい変な気配の上級悪魔が痕跡もなく消えるなんて、そんなことありえない。
ありえないし、信じられないし、ありえない。
だから、走って走って、大講堂に走り込む。
たくさんの人がいる、静まり切れない妙なざわめきが弾けてどよめきに変わっていく。その自然なはずのことが、とてもうるさかった。あれだ。善良? 善良すぎる。なんで、気づかないんだ。なんで、平気なんだ。
なんで?
同じ空気を吸う距離にいて、人が一人忽然と消えたことにも気づかないんだ。気付けないんだ。
なんでなんでなんで。
イライラが爆発しそうになるのを抑えて、俺はまだ走る。
「あれ、誰?」「身体強化の宰領生……」「リア」おい「なんで、ここにいるわけ?」「ちょ、身体強化一年、初っ端から何やった?」うるさいぞ「え、技団?」「暗殺未遂とか?」「すごい血相」「むしろ私情じゃね?」「辺境のだもんな」うるさい「おい、お前ら何かやったか?」「何もする暇もなかったすよ」うるさいうるさい「ルビーのやつじゃないすか」うるさいうるさいうるさい「あれがリアか大したことなさそうだな」うるさいうるさいうるさいうるさいうるさい「さすがリヴェラ様」うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい――――
息が切れていた。
信じられないものを見るのが。
そう。
怖くて?
大講堂の一番、前の席。
そこだけ、静まり返っていた。
俺と同じく、何が起きたのか探ろうとして失敗していた。
言葉を失ったまま、彼女がいたはずのそこをみて固まっていた。
どこに、なんて馬鹿なことは言えない。
だって、分からないんだから。
でも、そこにいる金髪の女を見た途端に、俺の中の何かが弾けた。
「お前が、お前――」
その青い瞳が大きく揺れて、俺の中の疑問は確信になった。
「お前、何をしたんだ?」
周りは、ただの雑音だった。
その何かと、俺だけが向き合っていた。
それだけが事実だった。
他は、他は、何もわかってない知らない知ろうともしないただの善良な奴らなんだから。
彼女は答えない。ただ、肩を震わして何かに耐えるだけだった。頭に血がのぼる。
「お前は――」
お前は。
そもそも、なんなんだ。
「ちょっと、聖女さんは関係ないでしょう。ただ、カネさんがまた空間転移でどこかに消えたというだけで」
言葉を遮られて、怒りが先に来た。
「空間転移で? 消えた?」
俺は相手が誰かなんて考えずに言葉を返した。立ち上がって俺を見据える黒い瞳を睨み返す。
そうじゃない。そうじゃないのに。そんなはず、ないのに。
どうして、誰も気づかないんだ。
聖女は、人間じゃない。
エロイーズは、人間の枠を超えている。
あんな、気持ち悪い気配の悪魔がいてたまるか。
どうしてどうしてどうして、一人ひとりそんなにうるさい存在のくせに、どうしてそんなに善良で。いや、馬鹿でいられるんだ。
「リア君、ちょっと落ち着こうな」
後ろから肩に手をかけられた。振り向かなくてもわかる。ウェイン・バート先生だ。
「そう、じゃない。忽然と、消えたんだ」
どうして、みんな、分からないんだ。
俺は、金髪碧眼の女の形をしたやつをただただ睨みつけていた。




