【それでも私は】到来の期待【愛を謳いたい】
【それでも私は】の期待と【愛を謳いたい】
「それでも私は愛を謳いたい」は、「39スレ目 安価で大学決めたら異世界の魔法学校に行くことになった。続30」までのネタバレを含みます。
39スレ目を読んでから、読むことをお勧めします。
以下、緩衝材代わりに短編を挟んでおります。
―――――――――――――――――
地図の上でしか知らない場所に案内しろと言われましても。
アルフレード君にはさっきの意趣返しを喰らって、彼はさっさと立ち去ってしまいました。まぁ、どうやら属性適性を初めて知ったようでしたし、時間割を考える時間は本当に必要でしょうからね。帝国では王国よりも事前情報もないでしょうし、僕みたいに楽するがために手を抜こうとかそういう余裕とかなさげでしたしねー。まぁ僕も初めてお目付役がいない環境なので全力で楽しに行きたいんですが、勇者の称号が出ている以上、勇者させられるんでしょうしそうも言ってられないですよねぇ。なんというか、結局魔王はまだいないわけですし、そもそも存在してもいない魔王から世界を守れとか言われても「現実味がない」、この一言に尽きます。
僕が守りたいって思えないものを本気に守れなくないです? まぁ、この世界が嫌いというわけじゃなくて、僕は王城と行かされた場所しか知らないわけで、好きにも嫌いにもなる程、世界のこと知らないしそもそも考えたことがないわけで。
考えなくちゃいけなんですかねー。でも、その結果、結論が否定に振り切ったらどうするんですかね? 軽く他人事にして流しておくほうがいい気がしますよねー。まぁ、いざとなってから考えてもいいんじゃないですかとかそれくらいにしておいて。
ちょっと思考が逸れて現実逃避していましたが、僕、聖教会に案内とかできるんですかね。と、思ってたら、悪魔が無言でうるさい動作をし始めました。悪魔は、彼女の後ろに立っていて、カネさんはその激しい手の動きに全く気づいていません。彼は、彼自身を指差してから、人差し指をあちこちに向けます。
なんですか、そのわかりにくいジェスチャー。
相変わらず怪しい言葉で捲し立てるカネさんに、適切に相槌を打ちつつ、とんでもないことをさせられないように内容も理解しようとしつつ、としていたら、悪魔は謎のジェスチャーを十数回繰り返す羽目になりました。
あぁ。
もしかして、彼がこっそり指示を出して案内してくれるってことですか?
僕の目に理解が宿ったらしく、悪魔は親指を立ててきました。ていうか、僕を立てようとしてる……わけがないから、カネさんに聖教会の場所を知ってるってバレたくないってことですよね。
まぁ、僕がそれとなく悪魔の指示を受け取ってカネさんを案内するという、ちょっとややこしいことになりそうですが、まぁ、それなら……と思いましたが、面倒に変わりはないですね。
内心、辟易としていると僕がまだ食べ終わってないのに彼女は立ち上がりました。「えっ」という驚きを口に出す間もなく、彼女に腕を引っ張られます。悪魔もそんな彼女に呆れてはいますが、流石に僕を助けてくれはしないようです。
まだ食べきっていない食器を片付けさせられて引っ張られながら思います。
……ところで、王都の聖教会の場所を把握してる上級悪魔って、本当になんなんですかね?
部屋を出た途端にマディナ様の声が聞こえて、そちらの方へ向くと水色のローブをきた彼女がいて目を疑ってしまいました。しかも、その横にはクラウディウス様の姿が。例の悪魔は、と思えばエロイーズさんの真後ろから、頭二つ分ほど覗かせてこちらへ謝るように会釈してきました。……不干渉の契りがあるのですから、そういった意思の疎通も避けるものと思っていましたが。
あぁもう。
どういうことか、もう、一気にきた情報を整理できないままに。
幸か不幸か、私がそんな悪魔へ何かしらのアクションを起こす前に、満面の笑みのエロイーズさんに両手を握られていました。
「あのね! 聖女さんにお願いがあってきたの!」
「え、えーと、私にできることであれば……」
なんでしょうか。今更ですが、部屋割りを変えたいとか? それなら私も大歓迎ですけれど。それでも、どうして聖教会までクラウディウス様と足を伸ばされたのか不思議ですが……。
彼女の口から出てきた言葉は予想の斜め上で、アナベラ様と彼女の対面を望んですぐに彼女の姿を見た驚きを忘れ去ってしまうには十分でした。
「わたしも治癒術をちょっとだけ使えるんだけど、ちょっとだけだから、聖女さんに教えてもらいたいんだ!」
「えっ」
私に、ですか?
私がエロイーズさんに治癒術を教えるんですか?
どうしてまた、急にそんな話に……。
しかも、彼女の話を聞くに、聖教会で民間治癒事業のご奉仕の場を借りたいとのことでした。
思わず、悪魔の顔を見ると苦笑いをしていました。事情は全てわかっている、だけど止めようのない……またもやそんな表情です。どうして……どうして、そしてどこまで知られているのか、いえ知られていたとしても組織の都合までなぜ……。
組織にとって私は正式なメンバーというよりも便宜上の所属と言ったほうが近い扱いです。至極簡単に行って仕舞えば、まぁ、居候、間借り人ですね。そういうわけですから、私に「彼女も参加させたい」という権限はありません。確かに、こういった類の魔法の例に漏れず治癒術は実践こそに一番の学びがあります。
悪魔に続いて、マディナ様の顔を伺いました。彼女は、どこか他人事に面白いことになったとばかりに肩をすくめられました。
え、どうしてですか。
助け舟を出してくださるとばかり思っていたので、裏切られた心持ちがします。やはり、先日の件から、彼女と私のことには距離を置くという結論を出されたのでしょうか。
よって、エロイーズさんは止まらずに。
「だって、聖女さんすごいじゃん!?」
「はい?」
私の疑問など、聞かず。
そこから、怒号の勢いで褒め称えられました。
……?
何が、起こっているのでしょう……?
いわく、私は唯一無二とか、私を産んだ人に感謝しなきゃとか……。
はぁ……えーと……。
あのお方に、感謝、ですか……。
勝手に自分の都合で治癒術だけしか使えない存在を産んで、運命共同体なのに勝手な行動をして、しかもそのまま頑なに自分の現状にさえ沈黙を守っている、あのお方に感謝、ですか……。
助けを求めてマディナ様を見ても、傍観を崩さないままでした。彼女にもにこやかに微笑まれて動揺しているうちに、なんとクラウディウス様がアナベラ様のお部屋に入ろうとしていました。慌てて止めようとしても、エロイーズさんの猛攻は続き、手を離してくれず言葉が出てこないうちに、なぜかその後にあの悪魔が続いていきました。出かけた言葉は驚きで押し戻されてしまいます。クラウディウス様が挨拶をしようというのは分からなくもないですが、あの悪魔が彼女に何の用があるというのでしょう。
それに、アナベラ様は聖教会に保護されている身のはず。どうしてマディナ様はクラウディウス様に彼女のことを話してしまったのか解せませんでした。
組織でも異端者とされ、外部と積極的に関わっている彼女の考えは簡単には分かりません。分かりませんが、決して悪い人ではないようですから、第二王子であるクラウディウス様にアナベラ様の苦境が伝われば状況が改善する見込みがあると踏んだのでしょうか……?
クラウディウス様はともかく悪魔も底が知れませんし、アナベラ様のことが心配でつい後ろが気になってしまいます。悲鳴を聞いてからでは遅い気がしますし、彼女は耐え忍ぶことが癖になっていますから何かあっても助けを求めないかも知れませんし……。
でも、ともかく目の前のエロイーズさんを何とかしなければ、身動きが取れないようです。私が教えるというのは傍に置いて、どこも治癒師を喉から手が出るほど欲していますから組織としても早くから縁を結ぶことに否応はないでしょうけれど……。組織に紹介して彼女と私の立場にどう影響するかが問題です。第一、組織はまだ彼女をどう扱うか決めていないようですし、私が下手に動いて彼女の立場を悪化させれば、大陸の隅々まで根を張っている組織のことですから海の向こうに逃げない限り生きづらい人生を送ることになります。
エロイーズさんはそんな気苦労など知らずに、大きく、よく見ると黒ではなく焦茶の瞳をキラキラと輝かせて私を崇めてきます。
……えーと? 彼女は私に治癒術を教えてもらおうと頼み込んでいるんですのよね?
混乱した頭で、ともかく聖教会に彼女を紹介するか否かだけを考えます。そもそも、身分があやふやな彼女ですが、私もそうですものね。身元の不確かさだけに焦点を当てれば、背後にあのお方がいるか、隣にあの悪魔がいるかの違いしかないかもしれません。どこの誰とも知らない出の者……。私が組織の名声を利用して身を立てたように、彼女も組織と縁を結んでおけば、王帝両国も冒険者ギルドも無下にしないでしょう。彼女のためを思えば、私が間に入って組織へ紹介してみてもいいかもしれません。
もしあのお方に何か言われれば、あの悪魔の召喚者に恩を売れると言えば言い訳は立つでしょうし、もし彼女がとんでもない事を起こして私と組織に軋轢が生まれても聖教会と疎遠になるいい機会になるでしょうし……。
こんなに言い訳を考えるなんて、あんな出会い方をしたのに私は随分彼女に肩入れしたくなっているようです。
心を決めたのなら、「はい」と返事をするだけのはずなのですが、彼女は瞳を輝かせながら私を賛美し続けます。ここで「はい」と言ったら、この恥ずかしい褒め言葉を肯定することに……。あのお方の趣味でそうなっているだけの金髪碧眼を讃えられるなんて初めてで身を焦がすような羞恥を感じてしまいます。普通は、優れた魔法の才がある方の珍しい色の髪が褒められ、金髪碧眼は「聖獣」らしいと嫌われるものですから。私はまだ治癒術という聖獣と共通する取り柄があるからいいですが、世間ではわざわざ染めたり幻術で瞳の色を誤魔化したりと苦労があるそうです。
会った時はあんなにギスギスしていたのに、それを忘れたかのような彼女の振る舞いには私も少なからず驚いてしまいます。けれど、どうしてでしょうか、彼女の言葉が大袈裟なところはあるけれど、それでも嘘や嫌味やその類のものでないと素直に信じ込んでしまうのです。そんな不思議な魅力が彼女にはありました。
マディナ様もつい苦笑を隠せない彼女の暴走を止めたのは、例の悪魔でした。彼の姿にクラウディウス様を探して私の瞳は揺れました。クラウディウス様は私の視線を認めると、軽く会釈をされました。アナベラ様のお名前を聞いた以上、軽く挨拶をしただけで王城のいざこざに深く切り込まれたわけではなさそうで私は安心します。せめて聖教会にいる間だけでも、彼女には安泰があって然るべきですから。
エロイーズさんは悪魔に後ろから抱きすくめられ、何を囁かれたのか、急に頬を真っ赤にして彼の腕から激しく身を捩って抜け出すと、これまた激しい烈情でもって彼を睨め付けました。そんな彼女の激情に私たちが気圧されている中、なんということもないというようにその視線を受け止めた悪魔は軽く肩をすくめると彼女の頭を撫で、身をすくめた彼女の肩を抱きました。
今度は俯いて抱かれた肩を震わせている彼女が、怒っているわけでも屈辱を感じているわけでもこの悪魔を憎んでいるわけでもなく、ただ苛烈な反応で照れているだけだと私たちにも十分伝わってきました。私はなぜかつられて頬が上気しそうになって、そんな彼女たちから軽く顔を背けました。
「さて、私からも彼女の願いを聞き届けてもらえるよう願いたいのだが」
悪魔の私に向けられた落ち着いた声の意味するところがすぐに分からず、戸惑ってしまいました。それが、エロイーズさんの言っていた私に治癒術を教えてもらいたいということを指すと理解すると私は軽く頷きました。
「えぇ、それは構いませんが」
「やった!」
私が言い終わらないうちに、エロイーズさんは私の手を取ってくるりと一周しました。私も手を引かれるままに彼女と一緒にその場で回ります。悪魔が、なんともいえない苦笑いを浮かべているのが見えました。
「ね、ね、わたしたち、友達だよね!?」
「えぇ、あの、えぇ」
そのままの勢いで意気込んで聞かれて、私は曖昧ながら頷きました。花が弾け咲くように笑顔になっていく彼女をみて、私の顔も自然とつられるように笑みを形作るのを感じます。
「もちろんですわ」
そして次にははっきりと答えました。
あぁ、もしかしたら、この人は本当にいつかアナベラ様を助けてくださるかもしれない。
それと同時に、あのお方にこれからの聖教会での奉仕活動に対する言い訳ができた、大義名分がたったと安堵しました。上級悪魔の召喚者に近づき、その素性などを探るため。そして、そんなことを真っ先に思い浮かべてしまう自分に一抹の嫌悪を感じながらも。




