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あれ……光魔法の適性試験受けてるはずなんだけど?

 迷子になったエロイーズは、翌朝いなかった。

 また朝から俺たちは部屋の前で顔を合わせる。何これ。毎朝、俺らここで合流すんの?

 何ていうか……。

 マジで? 俺、基本的に今年は、こうなんというか、一人でいるつもりだったんだけど……?

 「結局戻ってこなかったんですねー」というクラウディウスと、「え? 朝方に一緒に戻ってきましたけど……」という聖女。また「どこ行った!?」って俺ら、プチパニックになりかけたんだけど、そういえば俺、あいつとパテメンだった。

 色々あって忘れてた。

 というか、忘れたかった? のかもしんない……。

 で、だから、えーと、心話で『どこ居んの?』って聞いたわけ。なかなか返事をしてこないからイライラしながら、三人で朝食。

 つーか、俺何も覚えてないんだけど、聖女、夜中にどっか行ってたの? 俺、何も覚えてないんだけど? なんで熟睡してんの俺? こいつが夜中に何かやり始めたら気づかないってことだよ?

 って、気づいてさらにイライラしてた。

 飯食って、移動して、今日のテストの説明受けるってときになってようやく、

『ちょっと取り込み中〜』

 だってさ。

 何だよ。おい。

 なんか先生の方には話が通っているらしくて、彼女のいないことに触れなかったから、もう知らね。


 で、夕方になって鍛錬してたら、聖女の居場所を聞かれた。

 何?

 なにあいつ勝手に聖女と仲良くなってんの?

 昨日の夜に何があったの?

 いや……マジ?

 あいつ距離感ゼロだもんな。初日、俺に抱きついて寝た女だもん。どうやって絆されたか、何があったか考えたって無駄だろーし。

 でも、テオさんとユーリさんとお近づきになれた恩があるし……と思って、感情を抑えて対応しておいた。

 ……。

 ……ここって、鍛錬しちゃダメなところなのかな?

 でも、みんなしてるし……。さっきから変な視線感じるんだよな。

 しかも、女性の視線が多いような……。年齢層もなんか上め? 俺には今まで縁のなかった妙齢のってやつ。なんで?

 こわ。

 気にしない、と思っても気になるもので。

 しかも、なんか、良家っていうの? 身なりがちゃんとしてるっていうか、魔法学校に合わせて簡素にしてるけど、それでもバッチリドレスですよーみたいな女性からの視線が多い気がする。

 どーゆーこと?

 俺、兄さまにはそんなちんちくりんでとか言われるんだよ? なんで?

 俺なんかより、ほら、そこにいる焦茶の長髪で、すごい長身の人のがかっこいいじゃん。すごい鍛えてるし、黒い魔導素材のスーツがその身体の線を筋肉ごと浮き立たせてて、なんというか、セクシーってやつじゃないの?

 そういう大人の男がたくさんいるなかで、なんで俺?

 やっぱり、皇位継承権があるせいだよなぁ……。さっさと廃嫡したい。


 で、翌日。光・闇の素養を見る日。あと、なんか昨夜は聖女が偉い人が病気だがなんかで帰ってこなかった。

 なるほど。

 時々は心の休息があるわけな。ちょっと安心したついでに、王国で暗殺ブームとか起こったらいいのにとか罰当たりなことをつい考えてしまった。

 ダメだよな。影響されて帝国でも暗殺ブームとか起こったら、帝国がなくなるかもしれないじゃん。ね。

 で。

 土は評定Dだったんだよ、俺。

 まぁ、全部に素養があるわけないし、土とかなんか地味だし、いや土系だと地面ぐわーって派手だけど「山壊すな」とか「洞窟壊すな」とかギルドに怒られてる冒険者多いし、面倒だし。それに、道の整備とか畑を広げるとか冒険者以外の仕事ばっかしてるし。

 別に使えなくてもいいよ。

 マジで。

 今日は聖女もいなかったから、自分のペースで動くことにして朝飯食って、昨日教えられた魔法学校の一番上っぽいところまでちょい急ぎめに行った。そしたら、もうエロイーズと悪魔はいて、なんか彼女は空に両手を広げて唸っていた。どういうことよ、と俺よりちょっと前に来たらしいクラウディウスに目配せ。視線はあったものの、分からないらしい。

 そうだよな。

 理解しようとするだけ無駄。

 悪魔にきくとかもできないし。

 いつ始まるのかなって思ってたら、バート先生じゃなくてドレスを着た女の先生がきた。中位の獣型の聖獣を足にじゃれつかせ、肩には小人たちが乗っている。大猫とかに近いのかな、あの聖獣。ブリジット・ボスウェルと名乗ったその人は、肩へ緩やかに広がる銀髪にピンクの瞳と、およそこの世の人とは思えないような風貌だった。でも、なんか、頑丈すぎるベルトを幾重にも巻いてるあたりには親近感を覚えなくもない。ロープ代わりにってそうしてる冒険者が時々いるから。

 彼女は、天に伸びをして、ちょっと浮いて落ちてを繰り返しているエロイーズをやんわりと注意する。上品な物言いに、エロイーズは少しキョトンとしながらぎこちなく両腕を下げた。俺が言えたことじゃないけど、なんか、ときどき野生で育ったやつが急に人の街に降りてきたみたいな反応するよなこいつ……。

 一通り、今日は光と闇の適性試験をするとかなんとか話を聞いて、光の適性検査をするための剣が配られた。俺たちは一人ひとり、それを受け取る。

  普段使わない礼儀作法に頭を使っていた俺は、つい固まってしまった。

 ……エロイーズ、真っ先に受け取ってんだけどお前いいの? 俺はともかくクラウディウスを優先しろよ。俺が順番とかどうしようとか考えてんの何だと思ってんの?

 クラウディウスと目があって、硬直が溶ける。あっちも苦笑していた。かくん、とぎこちなく頷いて「先にどうぞ」と伝えようとする。彼は軽く会釈して先に進み出た。

 やっぱ、おかしい……国も育ちも何もかも正反対なはずのクラウディウスとのが意思の疎通に問題がない……。

 俺たちに剣を渡しながらも、先生はその剣の性能を説明していた。俺は、想像より重いそれに身体を持っていかれそうなりながら何とか切っ先を下にして持つ。

 魔法用語が多すぎてよく分からないけど、なんとか聞き取ったところによると、光魔法に反応する魔法回路が組み込んであるらしい。闇魔法もだけど、光魔法は生活に使うことがほとんどないから、魔法学校に入学したての一年生もその素質があるかどうかほとんど自分で認識してないんだって。だから、他よりも魔力をこめるだけでいいような仕組みの素養検査になるとか。

 で、うんうん頷いていたと思ったら急にエロイーズが悪魔にその矛先を向けた。速攻でボスウェル先生に怒られる彼女。

 ないわー……。普通の剣でもそれはないわー。チラッとみたクラウディウスの表情も無になってる。

 普通に引くよな。

 は?

 これで反省しないのが、こいつのこいつたるところというか……。

 いや、振り回すなバカ!

 こっち向けんなバカ!




 カネさんがまた……何をしてるんですかね?

 急に切っ先を悪魔に向けたかと思うと、先生の怒りの声を聞かず、阻止も聞かず、くるりと回って魔法語で何か叫びました。

 何ですか?

 これ、彼女、言葉、分かってないんですかね……?

 今、危険だと注意を受けていた途中だと思うんですが……?

 そんなことを思っている間に、上級悪魔は吹き飛ばされたのかというくらいの勢いで後退。その間に、特殊な回路が仕込まれている剣がチカチカと瞬き始めました。

 僕の光魔法とは違ってエネルギッシュな光に、思わず目を奪われたとき、強烈な光を放たれました。一瞬の後、雷が落ちたのかと思うほど耳障りな怪音に、思わず手にしていた剣を取り落としそうになります。アルフレード君は目を瞬かせて棒立ちになっていました。

 思わず目を逸らすと、ボスウェル先生の髪がキラキラと輝きを帯びているのを見てしまいました。彼女の肩で髪に戯れていた小人たちが慌てて髪や襟に飛び込んで光から逃げています。獣型の聖獣の目も宝石のように緑に輝いていました。彼女は右手を正面に伸ばすと、掲げた手の指を握り込んでいきます。何もないはずの空間が何か抵抗のあるように震えながらゆっくりとその手が握り込まれた時には、カネさんが放った光は明滅していました。

 悪魔は光を直視したらしく、目を覆いながらも彼女に近づき、その手から剣を奪い取ります。そして、その剣をボスウェル先生の方へ差し出しました。

 魔力吸収の反動で茫然としていた彼女は、そこでようやく我に返り、神妙な顔つきになりました。先ほどまで柔らかな笑みを浮かべていた唇を一文字に結び、カネさんを睨みつけます。まーそうなりますよね。

 獣型の聖獣は我関せずと言ったように、彼女の足元から出てとぐろを巻くように身体をくねらすと前足を重ね合わせて寝そべると、深い緑に戻った瞳を閉じてしまいました。

 彼女は怒るだろうけど、自分は知らない、止めようとも思わない、ってところですかねー……。

 おおよそその外見からは思い及ばないような低い声でカネさんは叱責されます。

「……?」

 当の彼女は不思議そうに手を見つめてから、尋ねるように悪魔を見上げました。先生は最後まで言い切らないうちに、言葉が尻すぼみになってしまいました。

「……」

 目を覆っていた手を額にやって、彼はため息をつきました。

「……もしかして、構えて云々という説明を、構えなくてはならないと聞き間違えたか……?」

「構え……構えた? 説明?」

 カネさんは剣を構えるジェスチャーをしながら首を傾げます。上級悪魔は一度開きかけた口を閉じ、意をけっしたように先ほど辞めた形と同じように唇を動かしました。流暢かつ早口な魔法語が溢れ出てきました。そして、彼女もつられるように早口になりながら同じ言葉を鸚鵡返しに尋ねます。

 幾らかの魔法語の応酬の間に、どんどん彼女の顔色が青くなっていきます。

 先生へ向けてがばっと平伏しそうになった彼女を上級悪魔が慌てて身体で止めました。いやーなんか、悪魔の方が常識あったりします?

 先生も、独断で魔法を使おうとしたのではないという状況を把握して、また別の難しい顔をしています。

 いや、これ、本当に言葉わかってないやつじゃないですか?




 えーと。おい。腕がだるくなってきたんだけど?

 早く済ましてくれない? とは思うものの、そういうわけにはいかないんだろうけど。

 なんなのかな。言葉怪しいと思ってたけどマジで日用語使えないの? 魔法語でコミュニケーションってそもそも取れるもんなの? 喋ってて魔法発動したらどうすんの?

 「いやー今日は暑いわー」って意味のことを言った人が炎魔法に包まれる場面を想像してしまって、にやけかけた顔を背けて隠した。

 大猫型の聖獣の瞳が俺を捕らえているような気がしたけど、気にしないでおく。

 地面に足をじゃりじゃり擦り付けて、だるくなってきた腕から足に意識をすり替えようとする。この剣、標準的な両手剣だとは思うんだけど、標準的な重さ以上に重いし、俺の身長考えてほしい。マジで重い。

 エロイーズとじゃなくて、悪魔と先生が言葉を交わしているのを聞きながら、この剣、切っ先を地面に少しだけ刺して支えたりしていいかなとか考える。でも、魔法回路って複雑だよな。勝手なことして壊したりしたら、さっきのエロイーズみたいに怒られるだろうし、それは絶対に嫌だ。

 ちらっとクラウディウスを覗き見ると、辛くはなさそう。軽々と持ってる。マジかー勇者様は違うってことかー。

 いや……これ、重いよ。

 限界が来たら、そっと地面に置いたらいいのかな? 取り落とすよりはいくらもマシだよね。

 腕を伸ばしたり縮めたりしていたら、聖獣が動いた。何をしてるんだろうと思ったら、先生の足に擦り寄る。彼女の視線が俺を向いた。

 あ、う、あっ、えー……。

 聖獣に見透かされてたってこと?

 恥ずかしさに、じわっと熱を持った顔を伏せる。

 しばらくの沈黙が、俺の肌に更にちくちく刺さるみたいだった。大丈夫、冒険者少年その1ってな服で宮廷に連れて行かれた時みたいに、大勢に見られてるわけじゃないし、俺何もダメなことしてないんだから……。

「それでは、クラウディウス様からやっていただきましょうか」

 先生の言葉に、なんで俺からじゃないんだよーと思わずクラウディウスを睨みそうになったけど、考えれば説明の途中で馬鹿が馬鹿やり始めたから、俺、よくやり方わかってないんだ。

 それなら、先にクラウディウスがやったのを真似した方がいいに決まってる。

 もう少しだけでいいってわかると、都合よく腕は少し元気を取り戻した。これで剣を壊しそうだって心配しなくてもいい。はず。

 クラウディウスは軽く剣を構える。先生が「では徐々に魔力をこめてください」と言って、どうやら彼女の指示通りにしたら良さそうだってことが分かる。

 よかった。俺までエロイーズみたいに説明聞いてないみたいに思われたら嫌だし。

 クラウディウスの構えた剣は白く光り輝き始めた。炎魔法が得意な人が、火力を自在に調整するように、その光はコントロール下にあるらしく一定に強さを増してピークを迎えたかと思うと、輝きを増した時と同じようにゆっくり消えていった。

 うわー。何これ。見本? 見本ってやつ? まぁ、勇者様だし光魔法は得意なんだろうけど? 前言撤回。俺、勇者様より先にやりたかった。

 絶対、俺、しょぼいじゃん。エロイーズみたいに爆発的に光るわけないし、勇者様みたいに既にコントロールできるわけないじゃん。

 嫌だなー……。

 でも、俺の順番が回ってきて、腕の限界も来そうだったから、やけくそでやることにした。先生の言葉に従って、両手で剣を構える。魔法回路が組み込まれた良い剣だと重くなるのかな……これくらい軽く扱えるようにならなきゃ冒険者としてもやっていけないだろうなって心のどこかで思いながら、ゆっくりと魔力をこめていく。

 何も起こらない。

 なんなんだよ。身体にあるだけの魔力を全て手から剣に入っていくところを想像する。歯を食いしばって、身体を駆け巡る血液に乗せるようにして、手に意識を集中させた。思わず強く瞑ってしまった瞼が、弱々しい光を受けて何度か赤く透けて見えた。

「うっ……」

 食いしばった歯の間から、漏れ出た息が変な音を立てた。取り落としそうになった剣を慌てて握りしめる。

 その俺の手に、冷たくてしなやかな手が重なった。びっくりして目を開けると、ボスウェル先生がいた。俺に伸ばした腕の上を小人が一人、両手をひろげてバランスをとりながら手の甲まで歩いてきた。そいつを反対の手で優しく包み込んで肩へ戻しながら、彼女は俺に手を差し出した。両手で持っていた剣を渡す。彼女は軽々とその剣を片手でくるくると回した。

「え、嘘……」

 思わず漏れてしまった声にきまりが悪くなる。思えば、さっきエロイーズもぐるっとやってたし。

 マジか。俺、剣も握れんの? まずくね?

 そう思った瞬間、先生がその疑問を解いてくれた。

「この剣は、光魔法の素養に反応するように回路が組んであります。魔力をこめた時はもちろんですが、持った瞬間から魔力に反応します。そもそも、光魔法の適性がない場合、重くて持ち上げることもできません。ですから、この剣を持って構えられた時点で、適正ありと判断します」

 エイニー先生とはまた違った感じの優しい声で、彼女は流れるように説明する。エロイーズが聞き逃すのも分かる気がする。さっきエロイーズが全然理解できてなかったから間で含めるような速さで喋っているのに、声が綺麗すぎて。葉っぱと葉っぱがすれあう音とか、声というよりも、そういう自然の音とかに近い感じ。

 なんとか理解したところによると、俺もC以上にはなるのかな。クラウディウスとかエロイーズがおかしいだけで。さっきの剣の説明の間、持っていられるかっていう試験がもう始まってたわけか。エロイーズが暴走して説明がそこまでいかなかっただけで……。

「それから、魔力をこめた時に光が安定して灯ればA・S判定になります。評定は後程、闇魔法の適正と一緒に書き込みますからね」

 特にエロイーズに向けて先生は念を押す。コソコソと小声で悪魔に確認していたエロイーズは、真顔で何度も頷いてみせた。

 あーコイツ本当にわかってんのかなー……。

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