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【それでも私は】ひとときの静寂【愛を謳いたい】

 「それでも私は愛を謳いたい」は、「39スレ目 安価で大学決めたら異世界の魔法学校に行くことになった。続30」までのネタバレを含みます。


 39スレ目を読んでから、読むことをお勧めします。


 以下、緩衝材代わりに短編を挟んでおります。


―――――――――――――――――


 人間、意味が分からないことが続いたら、脳が停止する。

 まぁ、俺の人生そればっかだよ。


 いやー……色々あった。ていうか、母さまあれだから、俺自分のことガチで皇子だって思ってなくてさ。毎日星が落ちてくるとか、窓から男が覗いてたっていうけどその外崖とか、手の甲の傷は居場所がバレる魔法具を入れられた跡とか、まぁ、そういう人だから。

 現皇帝に見染められて半年だっけか、一緒に過ごしたとか、それで俺が産まれたんだとかお馴染みの嘘だと思うじゃん?

 でさ、なんだっけか。

 皇太子は女で、その弟は不具? だから俺が実質皇太子?

 いやー……あのさ、誰が信じるってんだよ?


 でもまぁ、あれよ。あれだったんだよ。

 どっかの誰かから結構なカネが毎週届くんだよ。毎週だよ。毎月じゃねーんだ。毎週。

 ただ単に、不審なわけだよ。うん。

 元から、母さまがそーゆー人なんで、町どころかそこから離れた村の外れに住んでんだけど、ほら森ってあぶねーじゃん。だから、冒険者ギルドはピリピリしてて、町に住め、金がないのか、あるなら町に住めって調子なわけ。

 でも、母さまはなんつーかな。カネを奪うために探ってるって思うわけだよ? まぁ、冒険者ギルドも母さまの性格知って、かなり穏便な人がくるわけだけど、母さま、その人にカネ握らせて黙らそうとするわけ。何考えてんだかっていうか、何もかも支離滅裂なの、あの人は。で、その人、リモンさんっていうんだけど、俺のこと心配してきてくれるんだよ。

 この母親に育児能力ねーぞって事でね。二人暮らしの幼い息子死んでないか確認に来てくれるわけ。で、毎回かなりの額握らせようとするわけで、カネがあるのは結局バレちまうの。


 俺も幼心におかしいと思ってたよ。この母さまがまともに働けるわけねぇし、男をよしなにとかそういうこともしてない。俺が食ってるこの飯は何? 着ている服は何? ってなってはいたの。

 でも、まぁ、現皇帝はないでしょ。どっか偉い人の弱みを母さまが握ってんだ、その人も母さまの頭のおかしいことをいいことに悪戯して俺が産まれたもんだから、いくばくかの良心の痛みと弱みにつけ込まれないために、カネを匿名で送りつけてくんだってことに、周りの意見は落ち着いてたわけ。俺もそう思ってた。

 で、まぁ、問題があってさ。この母さまが俺に偉い人の出自とか名前を教えられないってこと。いや言ってるんだけどさ。誰が気づくよ? なぁ?


 まぁ、一番何考えてるのか分からないのは父さまだよね。

 父さま、何考えてんだよ。なんでこの母さま選んで、なんでいちいち全部教えた? 


 あぁ、えっと。

 こんなこと考えてる場合じゃない。ちゃんと話聞いとかなきゃ。

 後から聞ける相手もいないし、ちゃんとメモもしなきゃ。

 どうも、想像以上の事態になったら、一番の理不尽を思い出してしまう。

 紙、ぐちゃぐちゃにしちゃった。これもタダじゃねーのに。クラウディウス殿下は上質の真っ白な紙持ってたけど、俺はもうあれよ。ちり紙同然のやつよ。

 ぱっと見、聖女も同じ感じだったけど、なんかいけすかねーな。清貧ですってアピール?

 あーぁ。この紙、後でこっそり伸ばして使わなきゃ。

 エイニー先生のわかりやすい説明を丁寧にメモしていきます。まず、魔法学校の生活の規則について。全ての施設が、朝5時から深夜零時まで。時間外で利用したい場合は、申請をしなければならないとのことです。クラスごとに使う施設は違うから、授業担当の先生や上級生に聞いた方がいいらしいのですが、いったい私たちは誰に聞けばいいんでしょうか。宰領生のベントリーさん?

 施設の利用でともかく知っておかなければならないのは、食堂の食事提供時間。食堂自体はずっと開いているのですが、提供時間外は食事がでないのです。私は聖教会の生活で、そのような生活様式には慣れていますが、貴族の皆さんはある程度自由にお食事を取られるでしょうから。念には念を入れて説明されました。

 そして、8時から一時間目が始まり、一つの授業は二時間。昼休みは正午から一時間あります。午前中に二つ授業があり、午後からは最大三つあるそうです。最終授業は19時に終わります。開始時間は厳守なので、移動時間などを考慮して時間割を組むようにと注意がありました。実際に教室の位置を確認した方が良さそうですね。

 朝の5時から外出は可能ですが、門限は夜の8時。その時間以外に外出をする場合は、出入り口での申請が必要とのことでした。もし、時間を守らなければ、よほどの事情がない限り何かの罰則が課されるそうです。

 この罰則を含め、大抵の罰則は各クラスの宰領生が決定します。もし、異議があれば、三日以内に申立書をもらって申し立ての手続きを取らなければならないそうです。エイニー先生は困ったような微笑を浮かべて言いました。なんと、今の在学生に宰領生と揉めに揉めて、私刑を課された上、異議申立書の交付を妨害された方がいるそうです。その方は、三日以内に異議申し立てを行うことができず、公式書面のない弾劾書をご自身で作成されたとか。妨害を証明できるのではあれば、異議申立書の書面を自分で作成してもよいというルールが追加されたのだといいます。「そんなことは、本当に稀で、もうないと思いますが」と枕詞付きで説明されました。

 その私刑に走った宰領生がどうなったのか、先生は触れませんでした。そして、王国法で罰を問われる場合は自動的に退学となり、王国へ身柄が引き渡されるそうです。この点は、私も真剣に聞かざるを得ません。リア様の暗殺へ走ったアンソニー様は死刑ではなく終身刑として牢に捕えられました。もし、魔法学校在学中に勇者暗殺に手を汚さなければならないことになれば……。いえ、今、考えるのはよしましょう。

 生活の上で何か困ったことがあれば、まず同じクラスの上級生か宰領生に相談するようにとのお話があって、魔法学校の生活についてのお話は終わりました。

 続いて、魔法学校の卒業要件はクラスごとで異なりますが、一年度の授業はどのクラスでも同じとのことでした。二年までは魔法の基礎を、三、四と本格的な魔法を習得し、五、六の上級生は各人の志望進路に合わせて自由に実習を行います。進路といっても、私はともかく、アルフレード様は冒険者でしょうし、クラウディウス様にはお役目があります。一番将来の自由があって、この話を聞いていないといけないのはエロイーズさんでしょう。しかし、なぜか将来を揺るがせない私たちが、今ここに座って静かにそのお話を聞いていました。

 エイニー先生はここで、一年生で受けなければならない授業が書かれた紙と、時間割申請書を二枚配られました。彼女の「どなたか配ってくださいますか」という声に、アルフレード様がいそいそと立ち上がって私たちの分も取ってきてくださいました。不用意にアルフレード様と物理的に接触してはいけないと重々わかったので、このような間接的に触れ合ったものは全て取っておきたいという衝動に駆られます。

 時間割申請書の一枚は本提出用ですが、もう一枚はそれ以前に現段階の希望を書いて提出するそうです。明日以降、随時適性検査が行われますから、その時に一枚目を提示するとのこと。私は元から治癒術以外は十人並み以下にできていますし、クラウディウス様も十分、ご自身の適正はわかっていらっしゃるでしょう。アルフレード様は、何かご質問があるようで、片手をあげかけておろしました。エイニー先生は見えていらっしゃらないようですから、きっと後で時間をとってくださるでしょう。

 さて、一年で取らなければならない授業の説明です。まず、高等魔法語初級。入試成績が秀でていた場合は、飛び級になるそうです。後々、宰領生か上級生を通して連絡がいくとのことでした。あのお方に多少教えてもらったので、私は連絡が来ないと困ります。些細なことであのお方に嘘をつくと、後々面倒になりますから。えぇ、初級からでは許されないでしょう。チラリとクラウディウス様を伺いますが、彼は特に重圧を感じていないようでした。明らかに肩へ力が入ったアルフレード様の方が、何か事情がありそうです。御兄姉から何か圧力がかかっていらっしゃるのかもしれません。

 そして、身体作り。体力向上のため、全員に課されるそうです。私は内心、ため息をつきます。聖女として方々を旅する身ですから、多少頑丈に作ってもらえればよかったのですが。あのお方は何より叛逆を警戒しておられますので、当然、私は体力などのステータスがお世辞にも良いと言えません。えぇ、本当に、治癒術だけに特化した生き物なのです。勇者一行に選ばれるには、多少、体力はあった方がいいと思うのですが。もし、選ばれなかったならば、意地でついていく必要がありますので、えぇ、多少真面目に努めなければなりませんね。

 次から、必須の選択の説明になり、余計なことを考えている暇は無くなりました。火、水、木、土、闇、光の六属性にはそれぞれ、基礎、戦闘、防御の授業が開催されます。適性検査の結果を反映して、基礎を3つ以上、戦闘を1つ以上、防御を2つ以上取らなければならないそうです。基礎と、戦闘・防御の属性は被って良いとのことでした。私は、光・水・木ですね。あのお方が、比較的無害と思っている属性になります。えぇ、例の悪魔は火属性が得意とのことですから、それを避けるのはわかりますが、闇属性など醜悪と適性を後付けでなくされまして、その代わりに光属性を後付けで習得するという、あの時は本当に大変でした。聖女だから、光属性を重視するのは致し方ありませんが、最初からつけてくだされば、なんの苦労もなかったのに。

 属性ごとの魔法に関しては、基礎・戦闘・防御を必須以上にとることができるそうです。私はそもそも適正がないので、最低限に留めておきます。それでも、課題や試験がどうなるか、今から不安なのですが。最大限とると、基礎を四つ、戦闘を四つ、防御を四つ、という具合にできるそうです。そのような大変そうなこと、誰がするのだろうと思いましたが、エロイーズさんの顔が何故か頭によぎりました。

 そして、専門技能を自由に三つから五つまで選べるとのこと。治癒術と薬草学以外どうしましょうか。例の悪魔を言い訳にして対悪魔・聖獣訓練……いえ、あのお方を納得させられても、他の学生に不審に思われてはいけませんから、やはりやめておきましょう。同じクラスの方が悪魔を召喚したから対悪魔の授業を受けたなんて、エロイーズさんとはそもそも初対面がうまくいってないのに、わざわざ波風を立てる必要もありませんもの。あとは、魔法史あたりが無難でしょうか。あのお方のいうことは聖獣という立場以上に歪んでいますし、人間が正史としているものを学んでみたいですから。

 ついつい、思考は横道にそれてしまいますが、エイニー先生は私たちを見ていないはずなのに、絶妙な間を開けてくださいます。私はひとまず頂いた用紙の治癒術・薬草学・魔法史に印をつけておきます。

 同じ科目の授業の多くは週に二度取らなければなりません。属性ごとの授業だけが週に一度となります。開講授業一覧を見て、受講時間は自由に選べるようです。聖教会での奉仕活動の時間をなるべく確保したいですから、午前か午後は開けておきたいですね。それに、週末も自由にしておきたいところです。あのお方からどのような指令があるかも分かりませんから。あまりに多く科目を取ると大変になるので気をつけるようにと注意を受けるとともに、最大は19科目でそれ以上は時間割を組むことができないので目安にするようにと告げられました。

 そして、これからのスケジュールについてのお話になります。今日のオリエンテーションの後から、適正試験が行われます。その日程表が配られました。今日と同じ部屋で全て行われるようです。なんと言いますか、私たちが隔離されているような錯覚を覚えますが、決して間違いではないでしょう。

 その扱いのおかげでクラウディウス様に接近できるのか、そしてどのように事を運べば不自然ではないかを考える暇はありませんでした。適正試験の結果から、受講する授業が最終的に決まります。授業に慣れた頃に九月二十一日に新入生のみ、クラス対抗での競技会が行われるそうです。人伝に聞いた話ですが、特殊は人数が少ないあまりに何もできず最下位に甘んじるイベントだそうです。治癒術しかできない私では戦力になりませんし、クラウディウス様やアルフレード様もさほど勝負事にこだわる方ではないですから、今年も例年通りとなるのでしょう。

 そして、冬には一年生にはあまり関係がないそうですが、冒険者や軍属を目指す学生向けの特別実習があります。その前に一旦、授業は終わるそうです。そこから一ヶ月冬休みとなるわけですが、その前に十月に全学年参加のクラス対抗戦というものが、そして十一月の頭に試験があるようです。えぇ、ちょっと私が役に立てる想定ができないですが、アルフレード様の格好いいところとかが見れたりするかもしれませんよね。楽しみです。そして、そのお楽しみイベントの後には試験が待っているというわけです。えぇ。こちらも今から気が重いですね。あのお方が試験期間中に無茶を言い出さないとも限りませんし、そうなると普段からの積み重ねがものをいうわけですけども普段もあのお方の無茶が……。普段からありますものね、あの悪魔が出現してしまった今、どうなることか全く予想ができませんし、いえ、そもそも結構無理に今こうして私もここに座っているわけですが、先ほど心話で断りを入れてから一切何も言ってこないわけですから、この沈黙も何を意味しているのかつい穿ちたくなります。

 ため息を押し隠します。心配しても仕方ないことですから。

 さて、今日の、初めての授業はどうやらここまでの様子です。

 エイニー先生は優しげな笑みを浮かべたまま、言葉を区切ると「何か質問はありますか?」と問いかけられました。チラリとアルフレード様が後方の私たちを確認してから、遠慮がちに口を開きます。

「あの、俺、そんなにたくさん、属性の適正ないかなって感じなんですけど、三つも選べるかどうか分からなくて」

「えぇ、大丈夫ですよ。闇や光はなかなか教わることもないですから、今後の適正試験で初めて適正を知る方もいます。火や水は普段から使うでしょうけれども……」

「えーと、普段使うのも苦手で」

 エイニー先生は言葉を遮られたことに怒るでもなく、ただ優しく微笑みを返します。

「攻撃魔法や防御魔法に特化すると、普段から使う魔法とは違った結果になるものですよ」

 普段から使う日常魔法で適正がなくても、攻撃魔法や防御魔法は使えるかもしれないということのようです。つまるところ、適正試験次第、受けてみるまで分からないということ。私も少し気が楽になった気がしましたが、私の結果は分かりきっていますものね。光・水・木です。もし、攻撃魔法の適正があったとしても黙っていようかとは思います。けれど、そうですね、どこから話が漏れるか分かりませんし、あのお方が私に全幅の信頼を寄せているわけではないことは知っていますから。私だって守るべきものがあります。聖協会での奉仕活動が第一に優先でしょうか。多少は行動の自由を認めてほしいとなると、嘘をつくわけにもいかないので、難しいところです。

 アルフレード様は納得のいかないように黙ってしまいました。私もその御心は理解できる部分があります。アルフレード様は身体強化、私は治癒術。得意な魔法がそれしかないのですから。

「先生、もしも、もしもですけれど、本当に適正がなかったらどうなるのでしょうか」

 つい、口を挟んでしまいます。

 エイニー先生は、問う声が変わっても一つ頷くだけで受け入れて、答えてくださいます。

「そうですね。もう入学試験には皆さん受かっているわけですから、その場合でも退学ということにはなりません。安心してくださいね。ときどき、身体強化や魔法具の学生さんで1つか2つしか適性がない方もいらっしゃいます。そういう方は、特別に座学として学んでいただいて、課題や試験はレポートという形になります。いずれにしろ、仮提出の授業と異なるものを受けていただく場合は、適正試験の後にお話がいきますから、そこで相談となります」

 私の声に驚いたのはむしろアルフレード様の方でした。しかし、エイニー先生のお答えに幾度か頷いて、メモをとっていらっしゃるところを見ると、余計な口出しではなかったようです。

 エイニー先生の「他にありますか?」という言葉に応えたのはまたもアルフレード様でした。

「時間割、自分で組めるか分からないっていうか、仮提出の時に間違ってたりしたら、どうなりますか」

「仮提出は、希望を確認するものですから、間違っていても構いません。絶対に取りたい科目と、もし希望の先生がいるのならばその先生の授業を書いてください。全部埋めることができなくても大丈夫ですよ。何を取りたいか迷うとか他に分からないことがある場合は、仮提出用紙の備考欄に書いておいてください。必ず確認してから、本提出になります」

「もし、本提出で間違えてたら……?」

「本提出は宰領生の方が確認して、その後に認可されますから、心配入りませんよ」

「あ、あと、その、時間割って本提出しちゃったら手元に残らないですか?」

「そうですね、念を入れて写しを取っておいた方が安心はできるかもしれませんね。攻撃など人数が多いクラスは、間違いがないわけではないですから……。ただ、基本的には認可後に提出した用紙が返却されます」

「戻ってくるんだ……。あ、えっと、ありがとうございます。俺は多分これくらい……?」

「もし他に聞きたいことができたら、上級生の方か宰領生の方に聞いてくださいね」

「あ、はい。ありがとうございます」

 ふと、クラウディウス様の視線を感じて、そちらへ顔を向けます。呆れたようななんとも言えない表情。何か粗相をしてしまったかと心配になりましたが、私もあまりにも真剣にその会話を聞いていたからだと思い当たりました。アルフレード様と同じ疑問を持っていたから、というわけではなくて、その、アルフレード様のお声を聞いていただけなのですが。

 エイニー先生は馬鹿な質問をしても、そのまま答えてくれそうな雰囲気でしたが、アルフレード様が確認のため振り返るとクラウディウス様と私は「質問はない」と頷きました。アルフレード様がエイニー先生に「他の人ももう質問はないです」と伝えると、今日の授業は終わりとなりました。


 さて、終わってからと言っても、私たちは直ちに解散するわけにはいきませんでした。いえ、してもよかったのですが、アルフレード様と私は妙な監視体制がまだ続いていて、お互いのその後の予定を確認しておきたかったのです。少なくとも、今夜まで顔を合わせないでいられるように。

「お二人は、この後どうされますか?」

 私はクラウディウス様を引き止めるような調子で口火を切りました。

「昼には少し早いですし、図書館でも見学してこようかと」

「ご一緒してもよろしいでしょうか」

「えぇ、もちろん。アルフレード君はどうしますか?」

 クラウディウス様の言葉に、アルフレード様は少し身を乗り出します。

「俺はここに残って時間割考えようかなって」

 用意されていたんでしょう言葉を口早に唱えるアルフレード様につい、口の端が緩んでしまいそうになるのを真顔を作って堪えなければなりませんでした。

「あぁ、それもいいですね。では、また明日」

「そうでした、クラウディウス様。私、午後から聖協会へご奉仕に行く予定ですの」

 クラウディウス様が話を切り上げようとするところに、無理矢理重ねます。それとなく私の予定を伝えておけば、アルフレード様に、午後から部屋に戻っていただいて構わないと伝わるはずです。

 私の場違いな言葉にクラウディウス様は少し怪訝そうにしたものの、すぐに頷いてくださいました。

「それでは、ご飯までご一緒しましょうか」

「えぇ、そうしていただけると有り難いですわ」

 私たちはそう言葉を交わしながら、初めての授業を受けた部屋を後にしました。チラリと尻目に見たアルフレード様は机へ向かってペンを走らせていらっしゃいました。

 そうして、私はクラウディウス様と魔法学校を一刻ほど見学した後、少し早く食堂へついてしまって多少待ってから昼ご飯を食べました。そこで、王帝貴族双方に挨拶をされるというクラウディウス様と別れ、聖協会へ向かいました。

 アルフレード様との緩衝に成功したこと、そしてエロイーズさんの姿は見かけたもののあの悪魔の言葉通り何の接触もなかったものですから、知らぬ間に油断をしてしまっていました。

 聖協会でのご奉仕といういつもの行いが待っていて、つい気が緩んでしまったのでしょう。

 あのお方が何もおっしゃらない、その沈黙にもっと気を払っておくべきだったのです。

 聖協会へ着くと、いつものように病人や怪我人を癒しました。私の、あのお方の罪が少しでも雪がれるように祈りながら。

そのとき、あのお方の罪を重ねようとしていることも、知らずに。

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