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【それでも私は】絶えぬ議談【愛を謳いたい】

 「それでも私は愛を謳いたい」は、「39スレ目 安価で大学決めたら異世界の魔法学校に行くことになった。続30」のネタバレを含みます。


 39スレ目まで読んでから、読むことをお勧めします。


 以下、緩衝材代わりに短編を挟んでおります。



――――――――――――――――――――

 ちょっと僕、勇者なのに置いてけぼりくらってませんか。

 いや、僕が世界の中心とか主役とかいうつもりはさらさらないです。

 でも、周りがあれだけお膳立てしておいて、入学セレモニーの挨拶が僕じゃない。

 で、なんか勝手にカネさんってのが挨拶して、しかも部屋割りを強行で決めてしまった。

 ちょっと、状況を理解する時間が必要です。

 ともかく、レイに「なんか女性と同じ部屋になったんですが」と報告したら、特の宰領生に文句を言うべく突撃しそうだったのでそちらを止めるのが忙しかったです。

 問題増やしてどうするんですか、僕。兄上じゃないんだから。一つひとつクールに片付けていきましょう。

 カネさんという女性と同室になった。これは決定事項のようですから、ちょっと理解は追いついていないものの、何かしらルールというものを決めなきゃいけないでしょう。お互いのベッドには近寄らないとか。朝寝坊しそうだったらその限りではなく、起こすために近寄っても構わないとか。

 うん。そうですよ。

 さ、やることが決まったんですから、部屋に戻りましょう。

 ……。

 アルフレードくんがカネさんに縋り付いて泣いているんですけど、これ、どういう状況ですか……?

 あれ、えーと。えー……?

 アルフレードくんに何があったのか、カネさんとそういう仲なのか、何もかもわからないですよ? 一つ分かるのは、僕のプラン、これからの生活のルールを考えるってのが、絶対にできない状況だってこと。

 ともかく、しれっと部屋にいることにします。聞き耳を立てて状況を探ろうとしましたが、二人の会話が全く噛み合っていないということだけが分かりました。

 なんだかんだ、カネさんという女性は、情が深そうだって事は分かりましたが、できれば関わらないほうがいいと思うんですよね。それが一番だって、僕の勘が叫んでいます。うちの兄上と同じタイプの人ですね、きっと。僕からは積極的に関わるつもりはありませんが、絶対に彼女から巻き込んできますよこれ。

 できるだけ関わりたくないですから、できるだけ知らないという顔をしておきます。アルフレードくんが消灯までに帰ってくれたので、なんとかなりました。とはいえ、当の彼女は物思いに沈んだ様子で、そのままシーツにくるまって眠りについてしまいました。

 夕食を食べ逃した、と思いながら、僕もベッドに横になります。

 すぐに聞こえてきた彼女の寝息を聞きながら、思います。これから、前途多難になりそうですね……。

 とはいえ、私が相談できるのは、あのお方だけですから、今日からお世話になるベッドにのろのろと横たわりました。両手をお腹の上に載せます。

 いつもの姿勢です。

 私は、大きく息を吸い込みました。

 辛い時間が始まります。辛いと感じることさえ、自分に禁じてしまった。そんな時間が。

『問題が起こりました』

『あの悪魔の召喚者が、すぐそばにいる、それ以外に何か』

 私は言葉に迷いました。

 まず、あのお方が、すっかり例の悪魔の件で頭に血が上っています。

 それに、実際にどこまでアルフレード様に見透かされたかわからないこと。

 ありのまま起こったことを話しても、なんでも悪魔の件に絡めて、とんでもない方向へ邪推を進めてしまうでしょうし、かといって、「正体がバレてしまった」と断定することもできません。

 起こったことは、私に悲鳴を上げて逃げられたという、それだけなのですから。

『まず、例の召喚者が、あみだくじで部屋を決めようと言い出しまして』

『……何か、細工でも?』

 私と同じ言葉に、私の心がなぜか沈みます。

『いえ、それも疑ったのですが、クラウディウス様が持っていらっしゃった道具を使いましたし、クラウディウス様と彼女は初対面のようでした。その心配はないかと』

『そう……』

 その考えに耽る物言いに、私の心にさざ波が立ちます。

 私は、ぎゅっと強く瞼を閉じました。

 このお方が悪いわけではないのです。

 私が、ヘマをしたのですから。

 私が、欲を出さなければよかったのですから。

『それで、問題というのは?』

 ひとまず、アルフレード様と同室になった場合の懸念点は棚に上げることにしたようです。

『アルフレード様と挨拶の握手を交わした時に、何か悟られてしまったようです』

『何か、と言うのは?』

 鋭いその質問に、知らずと私の手に力が入っていました。つよく強く、シーツを握りしめます。自分がそこにいることを確かめるように。

『私が人ではないと、気づかれたようです』

『それは、厄介だね。殺そうか』

 私は動揺だけは伝わらないように、押し隠して、それでも息をのみました。

 聞き間違いでも、勘違いでも、なんでもありません。

 このお方は、目的の邪魔になるのならば、誰だって殺そうとするのです。

 私は、先程までの浮かれていた自分を呪いました。こうなることだって、よくよく考えれば分かっていたはずです。

 この方にとって、全ての人は憎む相手。誰だって例外はないのです。

『入学すぐに動くのは好ましくないかと』

『考えものだね。皇子を殺すなら今だろう?』

『……そうなのですか? アルフレード様についてはあまり聖教会で情報が集まらず……』

 私がアルフレード様に過分な興味を持っていることはこのお方に隠しています。だって、そうでしょう? 私がこのお方の意向に沿わないなんてことがあれば、それが誰かのせいなんてバレてしまえば、早々にその原因は取り除かれてしまうでしょう。この差し出がましい想いは誰にも気づかれてはいけないのです。

 私はアルフレード様に関して聞いたことは覚えているつもりです。ですが、それを知らないふりをして、アルフレード様の状況を聞きます。いえ、私はソリティオ様の事情にも通じていますから、彼の境遇は私の方が知っていると言ってもいいでしょう。ソリティオ様の件については、説明が難しく、いえ、私が彼女の幸せを願っているからですね。だから、あのお方には何も伝えておりません。どういう形であれ、勇者のクラウディウス様を私は裏切り、人々を一掃する計画に手を貸すことになるのですから、せめてその日まで誰もが幸せに生きてほしいと思うのです。

『……というわけだから、魔法学校に入学して早々、帝国の第三皇子が死んだところで、誰も不思議に思わないんじゃないかな。皇太子が暗殺した、王国が暗殺した、魔法同盟が暗殺したって噂くらいで落ち着くよ』

 私は、絶対にダメです、という言葉を飲み込みます。この方は、強く反対されたことは、絶対に押し通したがるという悪癖があるのです。私の我儘を押し通したければ、一旦、退く必要がありました。

『では……どういう手になるでしょうか。毒物の類?』

『食事に混入することはできそうかな?』

 そういえば、なんだかんだ騒動があって昼食も食べていません。この調子だと、夕食も食べ損ねたと思ったほうがいいでしょう。

『……まだ、食堂を確認できていないので、なんとも』

『まぁ、混入経路が複雑化しそうだから、食事に毒物はありだな……』

『調べられるとすぐにバレてしまいますが』

 そう、魔法学校は案外、治安がいいのです。学生の大半が貴族だということもありますが、王国と帝国だけではなく獣国の手の者、今年は技団という暗殺集団、つまり国からは独立した人たちも入学しています。どこよりも、さまざまな勢力の坩堝となるここは、しっかり規律を作らねば、暴力や策謀が横行して、魔法を学ぶどころではなくなるのです。とはいえ、暗殺などが全くないかというと、そうでもありません。暗殺といえば、リア様が同郷の方に殺されかけた事件もありますし、今年の攻撃宰領生ゲラシウスさんという方も暗殺されかかったとか。確かに、帝国では疎まれているアルフレード様が亡くなったところで、十分な調査がされずに済む可能性もあります。

『とはいえ、そこまでリスクを侵す必要もないか……』

『クラウディウス様に気取られないことが第一ですしね』

 どのみち、作戦を立てる段で、他の手段も検討します。ですから、こうしてアルフレード様に危害が及ばない方へ行った時には、全力で追随します。

『アルフレード様に関しては、こうして同室になりましたし、いくらでもチャンスはあるかと。彼が、何か言っても戯言で済まされるでしょうし……』

 アルフレード様の言葉が軽んじられる現状は、私としては悲しいですが、事実です。その言葉が必要以上に悲しそうに捉えられないように、細心の注意を払いました。今日の私は十分過ぎるほどにミスをしています。これ以上、ミスを重ねるわけにはいきませんでした。

 とはいえ、「同室」「チャンス」という言葉ににわかに私の頬が熱くなりますが、心にまで動揺が及ばないように必死になってしまいました。浮かれてもいいことはないと、もう十分すぎるほどわかっていたはずなのに。

『そうだね……まぁ、要検討だけど、魔法学校の環境にお前を合わせることが第一かな……』

『えぇ、お願いいたします』

 私の身体を維持する魔法を変更する、安定化する、言葉はなんでもいいですが、このお方がいじる事になります。もとから、このお方に生み出された身。それがなければ生きていくこともできない身。それでも、なにか、腹の底からゾッとするようなものを感じます。それでも、私は礼を述べるようにしています。

 なんのためにか、もう分からなくなっているのだけれど。

 最初は、確かに、生きたかった。そのためでした。

 聖教会へ拾われたあとは、もっと新しいものを、知らないものを見てみたかった。でも、それ以外の辛く苦しく悲しいものをたくさん見てしまいました。ソティリオ様のこともそうですし、アルフレード様のこともです。クラウディウス様は懸命にご自身の立場の中で健闘されていますが、一筋縄には行きません。

 今は、あのお方の計画の一旦を見届けることが使命だと思っています。あのお方とこれだけ言葉を重ねているのは私だけでしょうから。その計画も完全にとは言いませんが、おおよそは知っているつもりです。ある上級悪魔との争いが元で、あのお方はこの世の人々を一掃しようとしているのです。そして、私のような新しい生き物で新たに地上を埋め尽くそうとしてるのです。海の生き物にさえ、その関心は向いています。どうすれば聖獣と悪魔たちを一掃できるだろうかなどと夢物語に近いことを真面目に言います。とかく、地上から人々を一掃しようという、それ自体が夢物語でしたが、今それが現実になろうとしています。ですから、本当に今ある全ての生き物を葬って、新しい生命を溢れ返らせようとする目論見も将来には実現しているかもしれません。

 クラウディウス様が簡単に散ることはないでしょうが、私が毒に刃になります。勇者を失った人々は、それでも完全に絶望に沈むことはないでしょう。魔王となったあのお方に抵抗を続けるでしょう。私の同胞も、人々も、どちらかが滅びるまで争い続ける事になるのでしょう。

 新しい世界はどうあれ、私はそれを見届けずに逝きます。

 あのお方の計画の半ばに倒れると決まっている駒。その私には、少しでも彼を理解する、それくらいしかやることがないのです。

『それで、他に何かなかった?』

 他にと言われても、今日あったこと、全てが大変でした。

 ちょっと待ってくださいと言って、一つ一つ思い出す事にします。何か、伝え忘れているような気がして仕方なかったのです。

 シルバーワルツの件で聖教会が忙しいことは私から伝える必要はないでしょう。それから、魔法学校へ行って、会場に行ったらエロイーズという方がいて、この方が例の悪魔の召喚者だったんですよね。この件については直ちに伝えていますから、大丈夫。そして、彼女が一騒動起こして、部屋割りの時にもまた揉め、先程のアルフレード様の件。

 食事を食べ逃しているとか、些細なこともありますけれど……。

 何か忘れているような気がするのです。

 また、今日のことを一通り思い浮かべます。えーと。魔法学校に行って、そこで……。

 そうでした、リア様を見たのでした。

 あの時の、不思議な感覚。

『リア様をお見かけしたのですけど……』

『リアか。宰領生だろ? 入学セレモニーで出てきてたんじゃないか』

『いえ、何かお勤めという感じではなかったですが、えぇっと』

 私は言い淀みました。そのままの出来事を伝えるしかないけれど、それでは私の感じた懸念は伝わらないのです。何かいい言葉はないかと考えあぐねている間に、先を越されました。

『リアと身体的に接触は? アルフレードにバレるのなら、彼にもバレるだろうけど』

『それはありませんでしたが……』

 と言って、はっとしました。

『魔法学校に入った途端のことでした。何か、感づかれたかもしれません』

『それはどうだろう。外見上の変化は何もないし、流石に』

『そう、ですよね』

 そういうしかありませんでした。確かなのは、私の小さな懸念だけで、他に確たるものがないのですから、言葉を作っても感覚はうまく表しようもありません。

『ともかく、リアに気をつけるのはいいよ。危険人物だしね。でも、警戒を悟られないように』

 と、諭されてしまいます。それが難しいのですが、という言葉は押し殺します。

 そんな巧妙なことができれば、アルフレード様に嫌われるような失態を演じることもなかったはずです。ともかく、すぐに彼を殺す、ということにならず、話が流れて胸を撫で下ろしました。

 それから、私の身体を構成する魔法の調整や、勇者クラウディウス様とどのように接するか、そして例の悪魔の召喚者について、魔法学校で私はどう過ごすべきか、どの程度の授業に入り込めるようするか、などという今後の打ち合わせをしました。

 そうしているうちに、私の顔にかかる光がふっとかげりました。どうやら、消灯の時間のようです。消灯とはいえ、柔らかな光が窓から降り注いでいます。ドアの開く音がして、アルフレード様がお帰りになりました。

 私は彼にかける言葉も持たず、目を硬く閉じていました。

 彼は、私の方をしばらく見ていた様子でしたが、そのうち、ベッドへ入りこむ音が聞こえてきました。私はまだあのお方と色々と心話でやりとりをしていましたから、いつアルフレード様が眠りについたのかは定かではありません。私たちが長い話し合いを終えた後、私が寝ようとする時には、すやすやとかわいい寝息が部屋を満たしていました。

 浮かれてはいけない、とあれだけ心を戒めたのに、頬が緩んでしまう私がいました。

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