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【それでも私は】ばけもの、のけもの①【愛を謳いたい】

 「それでも私は愛を謳いたい」は、「39スレ目 安価で大学決めたら異世界の魔法学校に行くことになった。続30」のネタバレを含みます。


 39スレ目まで読んでから、読むことをお勧めします。


 以下、緩衝材代わりに短編を挟んでおります。



――――――――――――――――――――

 当日になって入学セレモニーの司会がいない、ということになったらしい。宰領生何してるんだ。室内で花火打ち上げようとか言ってる場合じゃないだろ。

 本当に。

 で、俺に話が回ってきた。

 こういう場は女性の方がいいのではと、俺は固辞した。しようとした。

 まぁ、こういうわけらしい。

 第一、この授業が始まる長期休みに学校に残ってるやつときたら、「帰る場所がない」「遠出する目的もない」「遊ぶ金もない」のないないづくしだから、確かに人選には苦労するだろう。積極的に残ってるやつは事前に残るって決まってた奴ら、つまり運営陣だからな。で、司会の人選漏れてました、と。

 場慣れして、新しい宰領生がこの休み期間に頼める人じゃなきゃならない。その点、俺は学内イベントで実況をしているし、追試の疲れを癒すために相方の素材狩りについていかなかったから暇をしている。ちょうどいい、ジュリアスに頼もうと、こういうことになったらしい。

 さて、こうなるんだったらキースについて行った方がマシだったかと、過ぎた後悔をして、ミニョンのところへ礼服を借りに行った。魔法学校に来てから縦にも横にも俺は成長してしまった。実家から持たされた形ばかりの礼服を無理に着ようとでもすれば、布の破片と化してしまう。とはいえ、仕送りも雀の涙な帝国貴族四男なれば、そんな役に立たない礼服をとっとと売ってしまいこそすれ、新調する余裕もない。まぁ、なぜかあいつは服の当てもあるぞ、と宰領生にバレているのがまずかった。俺に白羽の矢が立つはずだよ。

 話を持ってきたのは、ユージニアだ。いや、お前がすればいいじゃん、と。

 彼女は無言で、自分の髪をもふもふと両手で押さえた。そうだな。そのパンチの効いたアフロヘアじゃぁ、魔法学校の良識を問われると。まぁ、大女って陰口を叩かれるほど背が高いし、エキゾチックな雰囲気と合間って、その髪型をなんとも思わなくなっていた自分が怖い。

 うん、新入生も初っ端から、彼女が出てきたら度肝を抜かれるだろう。

 となると、宰領生でも適任がいるだろ。フランさん。彼女は鎧しか持ってないから、と言われた。まぁそうだな。うん。同じ帝国の貧乏人としては、それ以上の追及を避けてその話をのむしかなかった。

 ゲラシウスは寝るしリアとカルロスは服持ってなさそうだし。まじかー。ついにピンで入学式の司会をするぞーとキースに心話で報告入れてたら、この通りに進行してくれればいいからってプログラム渡されて、まーちょろいなって思ったわけだよ馬鹿な俺は。

 あれ、特殊に四人いるな、って思いながら、開会の宣言をする。なんか今年、平民多めだな、服装的に、って会場を見渡しながら思う。こりゃ、競技会の情報集め苦戦するぞー。第一、主席の名前聞いたことねぇもん。誰だこいつ。勇者殿下じゃないのかよ。嘘でも勇者殿下にしとけよ。何かの間違いでも俺知らねーぞ、と思いつつその名前を呼んだ。

 水色のローブって魔法学校舐めてんのかって格好で、まー浮いてる浮いてる。平民の出なのかな? って考えてたら、なんか、魔法ブッパしたんだよな。攻撃系なら俺が一番真っ先に死ぬじゃん! 一番近いから! 俺これ死んだかな!


 気がついたら入学式は無事に終わっていた。俺はどうやらなんとか入学式の司会を務めたらしい。

 うーん。まぁ、五体満足だし、どこも痛くないし、だるくもないし、大丈夫だろ。俺もゲラシウスみたく意識がなくても活動できるようになっちゃったのか。これは流石にキースに自慢できるんじゃね? まぁ、自慢しても馬鹿かって言われるだけだろうけど、一応自慢はしないとな。

 新入生支援会議とかいうのに、出席してた。メンツは宰領生。つまり、俺とゲラシウスとフランとジーンとカルロス。片付けだの新入生歓迎会だので空いている部屋がなくて、大部屋をパーテーションで仕切っている部屋にたどり着いた俺たちは、誰かの部屋に行くという結論になった。今年度のパーティ結成時でもあるからなー。相談したいことは山ほどあるんだろうな。

 俺はハーヴィと二人部屋なので、一人部屋のやつだ。ハーヴィが急に入ってきたら不都合だし、あいつがわざとを装って入ってくる、そのことを俺たちは重々知っていた。ゲラシウスとカルロスとジーンが全力であらぬ方をみて、結局フランの部屋に決まる。

「リア、どうした?」

 そう言われて、俺は顔をあげて笑った。

 なんか、変な気配を感じていた。誰のものか分からないまま、フランに彼女の部屋に招き入れられた。

 誰がどこにどう座るかでちょい揉めた後に、全員床に直座りする。輪になって座って、まぁなんというか。幼少に戻ったような心地になる。

 新入生支援会議。まー、そういう名前の入学式反省会って感じ。

 カルロス以外、まだ自分とこの学生も把握してないし、新入生の支援どころじゃない。

 とはいえ、俺たちは、別段反省するつもりなんて微塵もなく。

 基本的に、俺らは面識もあるし、割と喋ったりする中だけどさ。例年の宰領生だと、この会議が本格的な5人だけの顔合わせの場になる。だから、ま、気負わずにお話してお互いをわかり合いましょうってことなんだろ。

 でもさ。

 ま、そう言うわけにもいかないんだ、これが。

「まー、司会の手配がついてなかった以外は問題なかったよね」

 と、ジーンことユージニアが腕を組んで言って、入学式の反省は終わる。

 言外に、私たちには、という言葉がつく。ゲラシウスがカルロスを見て、それに釣られてフランの視界も彼へ向く。俺はちょっと窓の外が気になっていた。

「まぁ、ともかく本題にいくか」

 カルロスがジーンに言葉を続けさせない。その視線はフランへいく。

「何かあるか?」

 会話の主導権を勝手に奪って、フランに渡す。

「えーと、防御はメリルかな?」

 話題を会議に戻して、煙に巻くつもりなんだなーカルロス。下手というかもうどうでもいいのかね。ヤケだねこれは。

 俺は帝国のことは、というか王国のこともよくわからないんだけど、メリルというのは帝国でも有名な貴族の名家の生まれらしい。国境を守る結界使いたちの一族なのだとか。

 ジーンが眉間に思わず手をあてた。まぁ、カルロスもあからさまに話を逸らしたからなー。

 俺はちらっとゲラシウスを見る。様子を伺っている、というところか。

 まーどのみちカルロスが不利だからな。

「あ、でもメリルもそうだけど、わたしはグラハムの方が気になるかな」

 とことん真面目なフランに、ジーンが軽く手をあげる。

「多分、彼に合わせてメリルも入学しているし……結構、非凡な魔法を使うと思う。だから……?」

 ジーンは、なおも勢い止まらず喋る彼女を遮るように、手のひらを差し込んだ。

「あのさ」

 また、その手は眉間に戻る。

 うん。まぁ。確かに、フランはちょっとめずらしく空気を読めてなかった。

 そのまま、ジーンの指が、彼女の紅を載せた唇をなぞった。カルロスが、どういう気まずさからか、目を逸らす。

「カルロス、言うことあるんじゃない?」

「なんだ、あの四人目は?」

 ゲラシウスがここぞとばかりに追撃をする。

 カルロスの視線がゲラシウスの目を射抜いた。

「わからん」

 他に何かあるだろう、とゲラシウスが顎を少し上げる仕草で問いかける。

「……わからん」

 カルロスが腕を組んで、身体中の空気を出すんじゃないかと思うほど深いため息をついた。

 ジーンに戸惑いが浮かぶ。

「どう言うこと? 悪魔召喚はどうなったの?」

「……さぁ?」

 ゲラシウスが若干イラついているが、カルロスのこれは完全に知らないってことだ。

 俺は、窓の外を見ている。うーん。なんか、隠蔽系の魔法の気配があるんだよなー。この会議の場所だってたらい回しにしたのに、なんだよ。ハーヴィじゃないんだけどさ。まー、このメンツだと、フランの部屋でやってもおかしくないもんなぁ。

 獣人かなぁ、これは。

 俺は、立ち上がって、窓へ近づいた。フランが不思議そうに見てくるが、あまり気にしない。その間にも、ジーンとカルロスは言い合っている。

 壁に張り付いてる馬鹿なら、普通に壁をぶっ叩いて揺らしたら落ちていく。話は早い。早いんだけど、みんな壁に張り付いて移動してるから、そんなことをしたら俺は超怒られる。宰領生になったのだって、ハーヴィの気の間違いだもんなー。みんな、ピリピリしてんのよ。先生たちがうまく言ってくれたからいいけど、そうじゃなきゃ、俺らに向かって一気に向かってきそうで怖い。

 ポケットから、礫を取り出した。と言っても、そこらへんの石を拾って綺麗に飛ぶように磨いただけなんだけどな。

 ほーい。これをちょいちょいと打って、と。

 気配が消えるまでやる。

 んー獣人かなぁ。

 姿は見えないから、全裸で姿消し系のかけてることになるんだよな。そうすると撃墜したら恥ずかしいじゃん。だから、適当にやってるだけでも消えてくれるはず。

 そういうの使うの、獣人だし、商会がガチで探りに来てんだよな。さて、どうしてだ?

「おっけー」

 そう言いながら、俺は輪に戻る。

「それで?」

 そうカルロスに聞いたのはゲラシウスだ。

 主導権握りたがるよなーこいつ。

「だから、俺も何も聞いてないんだ。上級悪魔を召喚したのは確かなようだが、それが認められたかも知らないし……今日のは何なのかさっぱり」

「ありゃ、魔法じゃなかったしなぁ」

 と、俺も相槌をうつ。

 そしたら、ジーンが身を乗り出してきた。

「上級悪魔を先生らに報告したの、リアだったって?」

 うわぁ。

 来た。

 俺はバレないように生唾を飲む。

「ま、見たらすぐ分かるだろ?」

 ゲラシウスが分からんだろうという気配を出したので、慌ててウインクを付け足した。えー分からないのかよ普通は。あれ、めっちゃくちゃ異質だぞ? 出てきた瞬間から、食堂に移動して、そして王城へ消えるまで肌と心臓がヒリヒリしたってのに。

「ほとんど、人と同じ格好をしていたらしいからな」

「うん、私も見た人からは、キースの親戚か何かだと思ったって聞いた」

 なんでキースなんだ……。あぁ、肌の色と、服の感じか。

 とはいえ。

 情報を集めてきているジーンとゲラシウスは手強いな。それでも、カルロスは髭を撫でながら言う。

「学校長から、魔法学校の案内をするように言われて、皇子閣下含めて案内したが……」

 言葉に迷って、視線をそらすカルロス。

「ともかく、よく分からん……何を言ってるかそもそも分からないし。とはいえ、魔力は折り紙付きなのだろうし、図書館やらに行ってるようだし、何か魔法を作っているところも見たし……」

「それで?」

「よく分からん」

 結局、そこに落ち着くようだった。

 俺は、時間を無駄にしたくなくて、口を開いた。新入生支援会議なんて形式上のものだって誰もが知っているし、そう長い時間やっているわけにはいかない。その間に、俺は絶対に聞いておかなきゃならないことがあった。

「それより、俺、聖女さまが気になるんだけど?」

 その会話の流れを切ることになった問いかけに、四人分の「?」が返ってきた。

 俺は、言葉に詰まる。

 そして、あ、と思った。

 これは、話しちゃダメなことなんだ。

 後ろに立っている人に気付いちゃいけないように。視界に入っていない人の動きを知っていちゃいけないように。その気配で少なくとも人間じゃないってわかってしまうのが普通じゃないように。

 これは、他の人には分からないことなんだって。

 魔法学校には、人の気配に敏感な人も多いけど、俺のそれはなんか、違う。

 人と違うってのは、だめなことなんだ。

 俺が、人の魔法に干渉して人そのものを操れるとかそういうことと同じ。

 しちゃダメで。

 言ってもダメで。

 えーと。

「リア?」

 フランに顔を覗き込まれて、我に帰った。

「聖女さまとか、勇者さまとかも気になるよなーって」

 俺は、なんとか笑顔を浮かべながら言う。

 まだ、みんなは不思議そうだけど。それで誤魔化されてくれたみたい。

「まぁ……」

 と、俺の横槍のせいで勢いを削がれたジーンがいう。

「一応、形だけやっとく? 魔法具はホセが気になるかな。商会と取引しているけど、独断で魔法学校に入ったようだし、ちょっと揉めるかもしれない」

 気をつけてるに越したことはないよ、と続けるジーンの声を俺はどこか遠くのことのように聞いていた。

 みんな、分からないんだ。

 ゲラシウスは街一つ軽く破壊できるくらいの攻撃魔法の使い手なのに。それで、王国貴族で、いろんなことに長けてるのに。どこでもどんな時でも寝ちゃうのはちょっと困るけど、なんともないように宰領生をしているのはすごいと思う。

 フランは特に秀でた魔法は使えないけど、それでも、俺は尊敬してる。行事のたびに彼女がいなきゃ、俺たちは何もできないなって思う。人を動かすのが本当に上手い。彼女が一言感謝するだけでみんな気持ちよく働ける。俺が同じこというと嫌味みたいになるのにさ。

 ユージニアは、結界の使い手だった。いや、今も使い手なんだけど、どんどん上手くなっているみたいなんだけど、さらに魔法具も作るようになった。自分の目的のために、迷いなく突き進む彼女はすごいと思う。俺は、目的なんかないから。

 カルロスも、すごい。その支援魔法は、誰にも真似できない。それに、絶対に諦めない。誰かに助けてもらわなきゃ絶対に間に合わないだろうってことも、気付いたら彼一人でなんとかしてる。

 そんな、彼らでも気づかないんだ。宰領生として学生の一番に立つ彼らでも。

 これは、口にしちゃダメな類のことなんだ。

 目を閉じる。唇をなんとか結んで震えを止めた。

 思い出したくないのに、思い出す。

 あの、ゾッとする気配を。

 あれが魔法学校の敷居を踏んだ途端感じた。

 何度か、故郷で彼女の姿を見ているはずだけど、その時は感じなかったのに。

 化けの皮が剥がれた。そんな感じだった。

 この敷地の中には確か、たくさんの魔法が走っている。それに影響されて、うまく取り繕うことができなくなった。

 そんな感じの、気配の変わり方だった。

 彼女は、人ではなかった。魔物でもなかった。

 俺の知らない、何かだった。

 少なくとも、人ではなかった。

 間違いなく、聖女は、人ではない、何かだった。

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