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【それでも私は】最悪の邂逅【愛を謳いたい】


 「それでも私は愛を謳いたい」は、「39スレ目 安価で大学決めたら異世界の魔法学校に行くことになった。続30」のネタバレを含みます。


 39スレ目まで読んでから、読むことをお勧めします。


 以下、緩衝材代わりに短編を挟んでおります。



――――――――――――――――――――

 誰もあいつを止められなかった。

 悲劇だ。

 悲劇が起こった。

 なんでだよ。なんでだ。別に聖女と同じ部屋が嫌とかそういうわけじゃない。だって美人だもんなー柔らかそうだもんなーとかそういうことじゃないぞ俺。この前、エロイーズという女に何をされたか思い出せ。王都は、都会は怖いんだぞ俺。あの帝国のど田舎の誰も彼も母様の悪評知ってて俺に誰も話しかけてこない世界とは別世界なんだ。

 いや落ち着け俺。

 いや、でも待て。ちょっと待て。

 ここは心話で抗議しよう。よかったー俺よかった、こいつと心話つなげててよかった。

 なんかクラウディウスも聖女も立場あるから、これといった提案に踏み切れずに間を図って、「まぁそうだよねー」って男女別れる手筈が、これ。これだよ。なんだよあみだくじって。普通ないわー。

 いや、こいつが普通じゃねーってこと俺はもうよーく知ってるんだけど、とりあえず今は抗議だ抗議。

 なんか心話でも捲し立てられた! 何言ってるか分からないんだよ、えーと結果は結果?

 なんでそんなドライっていうか切り替え早いっていうかおかしくね?

 いや、おかしいのは今更だけどよ?

 ……?

 あれ? え?

 ちょ、クラウディウスーなんか言えお前が言えーなんとか言えー反対しろー。念じてみたけどだめだった。目が死んでた。何が起こってるか理解できてないって目だった。

 聖女をちらっと見たら、こっちはこっちでまた顔伏せてるし、何なの?

 俺、どうしたらいいの?

 って、思ってる間にエロイーズが今後の予定に話題を持って行っちゃって、えっ、この部屋割りまじで決定なの?

 俺たちは、この出会いの日に、決定権をあいつに握らせてはいけないこと、普通を求めてはいけないこと、何か言い出したら流れで決定になるという恐ろしい悲劇が起こるということを学んだ。

 勢いや流れというのは本当に恐ろしい。

 どうしても、変えようのないものだから。

 落ち着きましょう私。

 嬉しいとか思ってはいけないのです。

 なにか折れたとかそんな余韻はとうになく私の心は舞い上がっていました。

 アルフレード様と、同室。

 それも、平等なあみだくじの結果ですから、あのお方にも言い訳が立ちます。すべて運に任せて、なり行きを見守るのも時には良いのではないでしょうか。

 アルフレード様と同室。

 駄目ですね、私。どうしても浮かれてしまって。

 荷物を運び入れる、という段になって特に何もすることがないと私は気づいてしまいました。

 あのお方に報告を、と行きたいところですが、いえそうしなければならないのですが、私、つい、欲を出してしまいました。

 そんなこと望んではいけなかったのに。

 私は、できるだけ誰とも関わらないで、ひっそり消えたかったはずなのに。

 好きな人と過ごす、そんな幸運に恵まれる立場じゃないのに。


 学生に与えられる部屋は、縦長の部屋です。ドアから入ると、両手の壁側にベッドがあります。真正面に机が二つ並んでいます。机は窓へ向けられていて、机を踏み台にして外のベランダへ出ることができます。

 どの部屋も同じ作りだと聞いています。

 私は、窓を開けて外へ出てみたかったのですが、なんだかはしたないような気がして、ベットに腰掛けました。

 アルフレード様は二往復ほどで部屋へ荷物を運び入れられました。

 生活雑貨と、冒険者としての装備。私は最低限の生活用品だけですから、それに比べればアルフレード様の荷物はほんの少し多いことになります。なんだが、それがとても好ましいように思えました。色々と苦労されている身ですが、それでも彼が、この世に私よりも望まれている証左のように思えました。もし何かあっても、きっと彼を支える人がいるだろうと思えました。

 私は、欲を出してしまって、

「白山の囚人の件は非常に残念でした」

 と、言葉を作りました。

 言ってから、個人的なことに立ち入るのはとも思ったのですが、私が多少なりとも彼を知っていると伝えたかったのです。彼と親しげにしていたエロイーズさんに嫉妬して、私もあなたに興味があるんだと伝えたかったのです。

 もっとマシな話題がなかったのかと思いますが、アルフレード様の境遇を思えば、もっとも同情的な姿勢を示せたと思います。お母様や、ご姉兄との確執は、初対面で口にするのは憚られるました。

 そして、私は今度は自分から、右手を差し出しました。

 彼は、なんの疑問もなく、その手を握ってくれました。

 この思い出だけを抱いていれば、私は、と思いました。どれだけ惨めな最期だったとしても、アルフレード様とわずかでも触れ合った思い出があれば。私は幸せに死ねる、と思いました。

 欲を出してはいけなかったのです。

 彼は、数度瞬きをしました。私はその様子を、可愛いと思って見ていました。

 そのアーモンド型の綺麗な目が、私を上から下まで見ました。胸の中を、何かが満たしました。女としての矜持と言いましょうか。私がそんなものを持っているなんて、馬鹿らしい話ですけど、その時はそう感じました。

 気まずい沈黙に変わる前に、私は用意していた言葉を言いました。

「これからよろしくお願いしますね」

 言えた、と思いました。

 多分、その時、私は笑顔だったと思います。滑稽なほど、心からの笑顔を浮かべていたはずです。

 手と手が離れて、その名残惜しさに、私はその右手をちらっと見ました。また、この手が彼に触れることはあるのでしょうか。そんなことを考えていました。

 アルフレード様も、私と同じように、握手を交わした右手をじっと見つめていました。

 浮かれていた私は、この時初めて、異常に気づきました。

 彼の赤毛に縁取られた小さな顔は、恐怖を押し殺した無表情になっていました。まだ幼い彼に、そんな罪深い表情をさせてしまった、その原因は明らかでした。

 私です。

 私は、先ほどまでぬくもりしかなかった右手を見ました。この手が、何か、余計なことをしたのです。この手を伝って、伝わってしまってはいけないことが、彼に伝わってしまったのです。

 それが何か、など、考える前に分かってしまっても良いものです。でも、私は考えるのを止めてしまいました。それだけは、違う、と答えを出す前から、心が悲鳴をあげて、その答えを止めていました。

 でも、私が悲鳴を漏らすよりも先に、彼の方が悲鳴を漏らしました。

 その悲鳴は、私の心と共鳴して、私は答えを知ってしまいました。

 彼は、私が人間じゃないと知ってしまった。

 どうして。

 いえ、私がそんなことを望んではいけなかった。それだけです。

 彼は何かに怯える小さな動物のように、私を見据えたままドアまで後退しました。そして、ドアに達するや否や、小さな体を開いたドアの隙間に無理やりねじ込んで、そのまま外へ行ってしまいました。

 私は、呆けて、右手をそのドアに伸ばしました。

 もちろん、その手は何にも触れることなく、虚しく宙を掴むだけでした。

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