【それでも私は】動き始めた刻【愛を謳いたい】
「それでも私は愛を謳いたい」は、「39スレ目 安価で大学決めたら異世界の魔法学校に行くことになった。続30」のネタバレを含みます。
39スレ目まで読んでから、読むことをお勧めします。
以下、緩衝材代わりに短編を挟んでおります。
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勇者とか、王子とかが目立つんじゃないんですよね、と思いました。
この衣装と、この席が目立つんですよ。
なんですか、この、一番前に四つだけ席が並んでるの。目立つとかそういう問題じゃないですよね、浮いてますよね。
ていうか、なんで四脚あるんですかおかしくないです? 誰です後の一人。
僕とアルフレードくんと聖女さんだけじゃないんですね。誰ですか後の一人。
久々にレイに会って、ここまで案内してもらいました。が、あの真面目な性格ですから、案の定、何も無駄口は叩きません。久々なんですから、もっと何かあるでしょうに。いえ、まぁ、こちらが一方的に懐きすぎなのかも知れませんけど。彼にも彼の学校生活とか貴族生活とか色々あるでしょうし。まぁ、でも、義理の兄になってもあんな感じなんですかね。クック家から嫁とる意味がゼロになるんですけど、それって。
まぁ、いいです。
もうすでに、アルフレードくんと、誰かわからないもう一人がいます。アルフレードくんの方は帝国貴族の正装をしていますが、なんですかもう一人。その水色のローブはなんですか。どこで買ったのか知りませんが絶対に王国ではないですね。えぇ、こんな奇抜なの絶対に王国には売ってないです。
アルフレードくんは面識がありますし、向こうは立場が不安定ですから、会釈と軽い挨拶だけですまします。お互い、そのくらいの距離がいいでしょう。向こうは廃嫡したいという立場ですから、勇者と仲良くなりすぎたら困るでしょうしね。ただでさえ、言い寄ってくる人たちに苦労しているようですから……。
それで、もう一人ですよ。
誰ですか、この人。
ともかく笑顔で挨拶をしておきます。何か、僕の行動のどこかに気分を害したらしい様子ですが知りません。
で、あと言葉が怪しい。なんですかね。どっかの田舎から出てきたんですか。それで特殊ってことは相当な実力者なんでしょう。
多分、解読するに、
「先日はどうもお世話になりました。お父上によろしくお伝えください」
って言われたんですが、あれ、僕が誰かわかってます?
父上、面識あるんですかこれと。あぁ、これって言っちゃいました。
なんか、ここ数日僕は幽閉というか、まぁ幽閉されてました。なんか夜中に侵入者が入ったらしく、夜中に起こされたんですね。で、ちょっとイラッときまして。「僕が一番強いんだから当たりましょうか」って言ったら「魔法学校入学前に問題を起こすな」としこたま怒られまして。入学後のトレーニングの確認とか言う名の幽閉を受けてました。
まー、息子の僕だって父王にそう簡単に会えるわけじゃないし、幽閉されていた間は情報断絶状態だったので、何が起こったか知らないんですよね。兄上が何かやらかしたと思ってましたが、あのジジイども、何か彼女がらみの緊急事態が起きてたから情報遮断してきてたんですかね。
まぁいいです。適当にセレモニーが始まるまで喋って時間潰しました。いやまぁ、意思の疎通が怪しいので、アルフレードくんはあらぬ方向をみて、戸惑った聖女さんは無言で下を向いてたので僕が相手してました。
えぇ。
で。
なんで、僕じゃなくてこれが新入生代表なんですか。聖女さんならわかりますよ。あぁ、またこれって言っちゃった。いや、一応色々考えさせられて、予行とか何度も何度もさせられたんですけどなんだったんですかあの時間。あのジジイどもにさんざ「気品が足りない」って言われたあの時間は。五十回くらい暴れて逃げ出してやろうかと思いましたね。えぇ。
百歩譲ってそこはいいです。なんで急に魔法を唱え始めたんだと身構えた十数分後に学校長がすごい勢いで彼女の腕をつかんでどっかに引っ込みました。
なんですかコレ。
魔法学校の入学式には少ない荷物を持って一人で向かうこととなりました。本当は今日こそはマディナさんが案内してくださる手筈だったのですが、何やら聖教会の手が足りてないようなのです。銀の舞踏。シルバーワルツ。その言葉を漏れ聞いて、私の気持ちは暗く曇りました。
あのお方が資金を稼ぐためにやっている活動です。私の同胞、「人ではないもの」たちも少なからずこの王都に潜んで活動していました。とはいえ、そろそろ資金集めは引き上げると聞いています。でも、そう聞いて安心はできません。最後に、荒稼ぎをしているようなのです。詐欺まがいのことを言って王国貴族がお金を巻き上げられたお話は私も耳にしました。あのお方の指示に違いありません。とはいえ、私ができることはありません。治癒術では時間も巻き戻せませんし、心の傷を癒すこともできないのです。そして、あのお方を止める術は私にはありません。私はあのお方の魔力供給で生きているのですから。
とはいえ、おめでたい席に出席するわけですし、ついにアルフレード様に会えるわけですから、弾む心もあります。
平常心を装って魔法学校へ向かいます。今日くらいは、多少、頬が緩んでいたって許されると思うのです。私の命の中で、おそらく一番の日になるのですから。「これからよろしくお願いいたします」、その言葉を胸の内で何回も唱えます。
魔法学校に近づくにつれ、初々しい、同級の学生と思われる方達が増えていきます。期待とともに不安を抱え、どこか落ち着かない様子の彼らにつられて、私もだんだんとソワソワとしてきました。
とはいえ、聖教会の装いをしていますし、年恰好から私が誰かバレてしまいます。できるだけ平静を装って、魔法学校まで辿り着きました。
門を潜ってすぐに、新入生は数列に並んでいました。私もそこへ並ぼうとしますが、すっと列が自然に割れていきます。受付まで開けた道に、どうしようかと逡巡して足を止めました。聖女として、遠慮をしたほうがいいのか。それとも、要人として通った方がいいのか。答えを求めて、視線をめぐらせます。
すると、受付役の後ろから、背の高い痩躯の男性が手招きをしてくださいました。私は、その好意に甘えて足を前に進めることにしました。周りの方々に感謝を示すために、軽く一礼してから、歩き始めました。
そうすると、顔を上げた先に、先程の男性はいません。もしかして見間違えかと思いましたが、顔格好は思い出せます。不思議だと思ったとき、はたとその方が誰か分かりました。痩躯の白髪、顔に赤い刺青。反転の里のリアさんに違いありません。思わず止まりそうになる足を慌てて動かしました。
なんにせよ、私が、人でない私が、魔法学校で生活する上で、気をつけないといけないお方です。こんなに、魔法学校に入ってすぐにお会いするなんて思ってもいませんでした。不意をつかれた心持ちを立て直せないまま、私は案内に従って魔法学校へ足を踏み入れました。
魔法学校に入った瞬間、私の身体にいろんな魔法が走るのを感じました。魔法学校が外敵を排除するための魔法、そしてそれに対抗するためのあのお方の魔法。せめぎ合ってやがて落ち着くまで、目を閉じて佇みたい衝動に駆られました。
それでも、立ち止まって不審に感じられるわけにはいきません。笑顔と会話をたやさないようにしながら、案内についていきます。
足を踏み入れた魔法学校の内部は、若い方々のあの独特の熱気で満ちていました。どんな新入りが入ってくるのか見極めようとばかりに、それとなく私たちを眺める方々。すぐに私が誰か悟って、ひそひそと声が交わされます。
私は、どうしようもなくその雰囲気にのまれていく自分を感じました。
案内された広間は入学試験を受けた場所です。魔法を学ぶ身に、身分の上下は関係ない。その理念に則って、誰であろうと一律にこの場で試験を受けることになっているのです。
まだ疎らな席は、新入生用のものでしょう。私は、一番前へと言われ、そこで案内の方とは別れることになりました。前へ前へと歩いているうちに、いやようもなく気が張り詰めるのを感じます。
最前列に用意されている席は四つ。
しかも、そのうち三つは埋まっています。
私は一瞬のうちに混乱に包まれます。あとの一人は誰でしょう。
クラウディウス様と言葉を交わしていらっしゃるその姿に見覚えもなく、私の足は止まってしまいました。
聖女かと問われたその質問に、なんと返してしまったのか。クラウディウス様と言葉を交わしているうちに私の中ではっきりとしてきました。
あぁ、違うのです。
あのお方がよく言うのです。
人と馴れ合うなって。馴れ馴れしくするなって。
この空気に酔って、アルフレード様を意識して上がって、予想外の彼女に驚いて。
つい、ついあのお方がよく言っている言葉が、口から出てしまったのです。
それこそ、「これからよろしくお願いいたします」でよかったのに。
ともかく、クラウディウス様と言葉を交わした後、何か彼女に聞かれましたが、その言葉が分からず曖昧に返事をするに留まります。
しまった、と思いました。挽回の機会も逃して、私は空いていた席に座ります。それが、気まずいことに、アルフレード様の隣なのです。反対側にはクラウディウス様がいらっしゃいますが、誰かわからないままの彼女とお話しされています。
アルフレード様にいけすかない女だと思われていないかと不安になって、チラリと横目で伺います。身体をそもそも私とは反対の方へ向けて、柔らかな栗毛しか見えません。真っ青になった私は、きつく拳を握りしめて俯きました。
それに、誰かわからずじまいですが、この女性は私と同室になるはずです。こんな気まずい始まりで、これからどうやっていけばいいかわかりませんでした。
アルフレード様にも声をかける機会も失って、俯いているうちに、セレモニーが始まりました。
その、趣向の凝らした演出に、普段であれば、身の程も弁えず心が踊ったことだろうと思います。
『例の上級悪魔の召喚者は見つかったか』
そう、あのお方からの連絡が入りました。ですから、せっかくの花火やなんやを見逃してしまったのです。
『いえ……』
言葉を濁しながら、ともかく今は入学セレモニーで、勇者さまにはご挨拶申し上げたこと、怪しまれないように今日はやり過ごすつもりだということ、そして特殊にもう一人女性が入学することを、手短に報告しました。
私たちはてっきり今年の特殊一年は三人と思い込み、私が一人部屋になるという手筈でしたから、あのお方も言葉にせずとも当惑している様子がはっきりとわかりました。
兎にも角にも、彼女の身元などを早急に調べるという話になったところで、その当の彼女が立ち上がって私は驚きました。
彼女は、その質素なローブながらも派手な水色の衣服を、恥じることなく翻しながら、登壇しました。驚きの声が会場のあちこちから上がっています。
ちらっと、司会の方を確認して、頷きをもらうと、大きく息を吸います。どうやら、新入生代表として挨拶をするようです。私は、横のクラウディウス様を伺いました。何も浮かんでいない表情は、どこか憮然としていて、自分だと思っていたのに彼女に代わられてしまったという事情がありありと分かりました。
私も余裕のないなか、これは異常な事態だと思ったので、あのお方に報告いたしました。
『勇者を差し置いて? 誰が決めたのかな』
私も同様の疑問を感じました。
『教師陣だろうね。そこから、見えるかい?』
あのお方の声のなすままに、私は少し振り返りました。居並ぶマントをつけた先生方の中で、先頭に立つ年長の方だけが平然としています。マントを羽織っている方の中にも、動揺や怪訝を隠さない方がいました。
あの方は、おそらく学校長のオーティスという方でしょう。私は直接面識がありませんでした。魔法学校の入学の折に、聖教会からは事前に話し合った方が良いと言われていたのですが、彼が入学試験に受かったものは受け入れる、そうでなければ受け入れないとはっきりと聖教会に断ったのです。ですから、事前の顔合わせを行えなかったのでした。
『おそらく、学校長の独断のように思います』
『あの、オーティスってやつだよねえ』
あのお方は少々考え込みます。私は視線を前に戻そうとしました。
その時、彼女の声が耳に入ってきました。
何を言っているのか分かりません。
私は、動揺して、あたりを見渡しました。一地方の方言かなと思ったのです。
でも、動揺の波紋は会場中に広がって行きました。司会の方は、身構えて頭を手で守っていらっしゃいます。
「あーあ。やっぱそういうことするよねー……」
横から漏れ聞こえた、呆れたように呟く声に私は意識を奪われました。アルフレード様の生声ですよ。生声。何か録音する類の魔法具を買っていなかった自分を悔やみました。
ちょっとした油断が生じてしまいました。何が起こっているか分からないという動揺が、あのお方に届いてしまったのです。
『どうした? まさか、あいつが……』
こうなって仕舞えば、このお方は手のつけようがありません。私はどう言い逃れしようかと逡巡しました。ともかく、例の上級悪魔の姿は見えないのですから、かのものの襲撃ではありません。私の正体を知って、攻撃を仕掛けているわけではないのです。
『彼ではありません。例の、特殊一年の女性が、登壇して挨拶をする代わりに……』
する代わりに何をしているのでしょう。
無闇矢鱈に喚いているだけのように聞こえます。
それにしても、初めて近くで聞くアルフレード様のお声が、呆れ声なんて。いえ、押し出すような低い声は素敵だと思います。まだ声変わりの終わりきっていない少年の声で、無理やり作られたその低い声。もう一度聴きたくて、どうしたらいいか、などと思います。
「なんの、魔法ですか……?」
クラウディウス様が腰を浮かしかけながら、問います。
魔法。
そうです。
聞いたことがない類のものですが、確かにそうです。
この律動は、この抑揚は。
これは、魔法の詠唱です。
ざわざわと混乱が広がります。チラリと後ろを振り返ると、先生方も疑問を隠さず、学校長へ強く詰問している様子でした。
『そいつが召喚者で、あいつを喚んでいるんだ! 逃げろ!』
あのお方が喚きます。そんなはずはない、明らかに理論の飛躍だと私は咄嗟に思います。しかし、私は状況を把握できないまま、もうどうしていいか分からず、慌てふためいて逃げようといたしました。
そのとき私の袖をアルフレード様が掴みました。
「大丈夫、きっとなんてことはないから」
少年の世間に晒されて荒れた、それでいてどこか柔らかい手が、布一枚向こうにあります。つい、握ってしまいそうになった自分を恥じます。
その手を胸に抱いて、元の位置に座ります。
「なんですか、アレ」
クラウディウス様も浮かせていた腰をおろして、ため息をつきます。
「あー……。上級悪魔召喚したり王城に侵入したり、なんか、意味わかんねーんだよね……」
私ごしに交わされるその会話は、騒然となった会場の喧騒でかき消えそうでした。
「あー……王城の侵入者って彼女でしたか」
アルフレード様の言葉を私は一言さえも聞き漏らさないつもりでいましたが、別の意味で聞き逃せない言葉でした。
やがて、学校長が暴れる正体不明の彼女を取り押さえて、別室へ消えました。
そして、何事もなかったように司会がセレモニーを続けました。
私は、それどころではなく。
あのお方と侃侃諤諤の議論を交わしておりました。誰と同室になるか。あの正体不明の女性と同室になったとき、あの悪魔もそばにいることになりますから、私の正体がバレてしまうやもしれません。そうなったら、元も子もありませんから、どうにかして避けなければならないのです。でも、男性二人と女性二人。もう、部屋割りは決まったようなものです。クラウディウス様、勇者様と同室になったらば、それは工作に便利ですが、懸念を抱かれないようにしなければなりません。最長六年も、かたときも、となると非常に難しい話です。
では、アルフレード様と同室ならどうか。私の心が保つ保たないの問題は置いておきまして、帝国の云々に巻き込まれ、聖女としての地位が危うくなるやもしれません。人間のようなものとして生まれた私には、人とまぐわうこともできませんが、噂は止められません。もし、もしと問いかけ始めたら止まりません。
侃侃諤諤、たった二人、あのお方と私だけしか知ることのない議論は紛糾し、止まるところを知りません。
気づいたら、セレモニーは終わり、私とアルフレード様、クラウディウス様を残して会場に新入生はいなくなってしまっていたのでした。
セレモニーが終わるなり倒れ込んだ司会を介抱する人たち、慌ただしく会場を片付ける人たち。にわかに怒声も混じります。その中、私たちだけが自分たちのするべきことを知らず、たたずんでいます。
その椅子を片付けたいとばかりにちらちらと視線を感じたところで、クラウディウス様が立ち上がりました。アルフレード様は我関せずと座っていたかったようですが、クラウディウス様の顔を立てて、それに倣います。そうなったら、私だけ座っているわけにもいきません。
ちょっとその場を離れて、片付けの方達に場所を譲りました。
そして、私たちはついに座る場所さえ失いました。
「僕たちこれどうするんですかね?」
「さぁ?」
……あぁ。今なんとも惜しいことをしました。物思いに耽っていました。アルフレード様、その「さぁ?」もう一度言ってくださらないでしょうか。




