表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
100/349

後輩に言伝を頼まれたら

 遠巻きにしておきたかった、というのが本音。

 本音も本音。

 とはいえ、殿下が妙な女に絡まれているのを心配していない、というわけでもなく。

 ただ、まだ様子見、とそういうつもりで。

 ただ。

 父さんに言われれば、接触しなければいけないのは、そう、貴族に生まれた以上は仕方のないこと。

 あぁ、面倒くさい。

 何が、ってそう。

 しがらみが。

 後輩である彼女の格が分からないので、後々の面倒にならないように少し真面目な格好に着替えたのを目ざとく見つけられた。

 クック公爵家。公爵の格でありながら、国内の魔物討伐の利権を持つ、と思われているゆえに、だからこそ、御し易い、などと勘違いをする輩も出るもので。魔物討伐の利権というものを正確に理解していない馬鹿ばかりで困る。特に、貴族の社会を知らない側は、ただの人事権と思っている節がある。

 直接に言えば、魔物素材もダンジョン産の諸々も。

 間接に言えば、ダンジョン管理やその道中の関税も。

 我が家に全ての権利がある。

 魔物に対峙する英雄的な役割から王国からの報奨金も高く、魔物襲来を恐れる町村からの贈呈品も、そして帝国や冒険者ギルドのコネクションから流れてくる品々もある。

 まぁ、ぶっちゃけ、うちは金が唸るほどある。

 それゆえに、ポーズというものも必要で。

 うん、妹たちはまだそこらの事情はまだ知らされてないので本気で「公爵家の女たるもの例え家計が苦しくても豪奢な振る舞いをしなければならない」と思っているのだが。歴代の公爵たちにとっては、「小娘にもこれくらいの贅沢をさせられる」と誇示するための政治の道具。

 あぁ、まぁ、殿下の誤解を誰も解かないのも、魔王討伐を一念に政治には関わらせないという、王国貴族たち合意の体のいい子ども扱いだったりする。勇者が魔王討伐のその後を心配して、利権争いに参戦してくれば面倒。適当に我が家に押し付けて、クック公爵家の利権の範囲に元勇者の利権も押しとどめておきたい。反面、我が家は元勇者を取り込んで、さらに利権を拡大させるべく今から暗躍をしている、というところに国内事情は落ち着く。

 まぁ、アシュリー伯母はその建前を逆手に取られて婚家に無体をされたわけだけれど。

 舐めてもらっては困る。彼女本人をこちらに取り戻したのだから、あとはそれ以外を倍にして返して貰えばいいだけの話。……まぁ、それにどう扱えばいいのか少し迷うおまけがついてきてしまったのは、父さんが結論を出すことだし。

 そのうち、あの家も痛い目を見るだろう。

 反撃の準備が整うまで、もうしばらく。

 魔王なんぞが出現してしまえばなし崩しにスキャンダルに構っていられなくなるだろうから、なるだけ早い時期、一年内には動くだろうから。その時になれば、自分はこの魔法学校で噂を振り撒いたりなど忙しくなるだろう。

 そう。

 だから、ある程度は、人とのつながりも必要。

 勇者パーティの数にこそ入らなくとも、周辺、あるいは影で参与する未来は確実。なれば、人付き合いの苦手な殿下のカバーも要されるだろうし、人脈はあるだけあって越したことはない。

 まぁ、それが、対魔王戦を名目に相手に犠牲を強いるものになっても。

 というわけで。

 邪険にしづらい二人、王国で冒険者ギルドに食糧を卸す金穀商会エヴァンス家の長男と、マンヴィル男爵家の傍流で国境付近の警備を任されているボイト家の三男を腰巾着よろしく引き下げながら、食堂に向かう。

 父さんから与えられた任は、1特のエロイーズを通して、零彪の魔術師ユーリへの調査依頼。

 冒険者ギルドを通せば済む話ではあるものの、レティシアを経由するとテオの方がやってくるので少々、厄介。結果は同じでも、御し易い方を選ぶのが定石というもの。

 でも、まぁ。

 朱と零彪が、彼女にそして隣国の皇子を加えてパーティを申請しなおした――というまだ表沙汰になっていない情報に驚いたのも事実。あそこ二人が、言うことの聞かない重騎士トリオみたくなれば、王国の守りが崩れ去ることこそないものの、面倒がつきまとうことになる。

 とはいえ、あのディエゴが連絡役を務めているところを無視して、我が家の人間が正式に彼女に近寄るのも悪手。あの悪名高き女たらしに気まぐれに報復されたらたまらない。我が家、女多いし。王子殿下の婚約者がいる我が家で、彼に誰ぞが口説かれたなんてスキャンダルが立てば、事実無根でもダメージが計り知れない。

 なればこそ、魔法学校で軽く後輩に挨拶をする体を装って、用件を伝えつつも彼女の動向を探るのが良策。

 のはず。

 とはいえ。

 とはいえ、奇想天外を地でいく彼女にどこまで迫れるかと言われれば、疑問が残る。

 なんだかんだ付き合いがある貴族たちが忙しくしている夜の時間を狙ったものの、格下の暇人に見つかってしまったわけで。そこは想定外。まぁ、公務に口を挟むような根性もないだろうから、ただの喋る装飾品だと思おう。それに、適当に言い繕って撒いてもいい二人をこうして連れているのも、一人では不安という気持ちがそうさせているのも否めない。

 さて。

 いつも通りの喧騒に満ちた食堂。

 そして、水色のローブを纏う彼女と、そして上級悪魔の周辺がぽかりと空いているのも、日常になりつつある。一週間の不在を挟んでなお、目立つその存在を誰もが受け入れていた。なんというか。王太子殿下に通ずる、そこに存在するだけで視線を集める妙な風格がある。

 ……。

 どう話しかけるか考えてなかった。

 でもまぁ、食事が終わってないようだから、終わってからでいいな。

 近くに座って待っているか……。

 あー……。

 この、実はファーストネームを覚えてもいない二人と会話をしなきゃならないのも嫌だな……。

 ちらりとこちらを見た彼女、そして自分たちにそれとなく注意を払っている周囲の面々。キース&ジュリアスの姿が見えないのが救いか。それでも、彼女をマークしているらしき獣人と、そして帝国貴族の中でもエリートの顔を発見してゲンナリする。呆れた視線を感じるのは、特定の取り巻きを作らずにその場しのぎの面々を連れている自分を馬鹿にしているのだろう。

 だって、面倒だし。

 正直、殿下のことがなければ。一人でいい。それが、楽だ。

 貴族の面々は、我が家の力を理解しているから別段自分が無視しても利権を削ごうとにこやかに話しかけてくるし、国王の名もとの公務であれば適切な協力をせざるを得ないし、そして王国の発展に欠かせない特殊魔法を持つ自分を邪険にする輩なんてまずいない。

 諸々に支障がなければ、人に関わらなくていい。

 煩わしいだけなのだから。

 まぁ、そういうわけにもいかず。こうして、居るわけだが。

 ん?

 ……ん?

 どうしたものかと歩調を緩めた向こう。

 いなかったはずの青髪の女性が出現していた。

 率直な青というよりも、リアの白のように紫みを帯びた髪色。髪は耳の下までと短いが、女性らしい丸みを帯びている髪型で違和感はあまりない。モノクルの奥の目尻が下がった眼は温和に見えるが、紅を引いた気配のない、妙に赤い唇と合間って、狂気が見えなくもない。王帝の、そして海の向こうの国の意匠でもない、レースがひらめく黒を主色としたドレスを纏っている。

 あぁ。なるほど?

 これが、例の上級悪魔以外の、悪魔。

 まぁ、とりあえず、名乗っておくか……。

「3特のレイ・クックですが、少し話がありまして」

 ゆっくりと言外に「待っていますから」と匂わせつつ話す。そして、その言葉を続けようとしたものの、それを遮られた。

「お嬢に話がありはるんなら、ちっと待ってもらうさかい。食事中や」

 共通語でもあるものの、発音が少し違う。とはいえ、悪魔の話す言葉となると数百年あるいは数千年ほど昔の言葉なのかもしれない。

 頷いて、「待ってますよ」と肯定をしようとしたら、秘境をひたすら守っている方の装飾品が前のめりで口を開いた。

「こちらは王国公爵家の御嫡子であられる――」

 はぁ。

 ほら、だから面倒だと。

 とはいえ、躾をするなどわざわざ手間暇を割くのも勘弁願う。

「この魔法学校では、身分など何の関係もありませんよ」

 だから、あなたたちとも付き合って差し上げてるでしょうと彼を一瞥して、無言のうちに語る。本心はそこになくとも、自分に関わってくる人間という時点で同じくらいの面倒を感じているし。

 まぁ、でも。

「自己紹介くらいは返してもらいたいものですけれどね」

 一応、魔法学校の建前のもとでも、格というものは消えるわけではないので。まぁ、魔法の力量で覆されるくらいのものではあるけれど。

「ウイ」

 その妙な返事をしたのは、エロイーズ自身。青髪の女悪魔が一歩引いて、見えるようになった彼女は、これまた妙な片手を頭に添える仕草をしている。返事とポーズの意味が全く分からず、図りかねている中、彼女は食事を止めて。

「1特エロイーズ = カネでーす。このソテーのカクトウしてるんでちょい待ってくださーい」

 にこやかに彼女に頷きながら、間に挟まった「カクトウ」という魔法語を何か考える。……まぁ、文脈的に手早く食べるとかそういうこと……のはず。

 で。

 まぁ、それまで座って待つかと思ったら。

 青髪の女悪魔が話しかけてくる。

 ……。

 人間でさえ面倒なのに、悪魔……。

 悪魔との時間を潰すための軽い世間話、なんて引き出しはない。そして、参考になる定型も。

 そして、馬鹿な連れは悪魔と気づいていないので。

 何が逆鱗に触れるかも分からないので、立て板に水のように適当なことをつらつらと自分が話しておく。女悪魔は斜に構えたまま、適当な相槌を返してくる。まぁ、向こうもこちらと同じように彼女待ち、というところか。

 それなら、まぁ、えぇ。

 このまま。待ちで。

 その思惑は、彼女の一言で潰される。魚のソテーを食べ終わった彼女はそのままトレーを持って立ち上がって。

「エファサンヨロシクー。わたし食器返してくる」

 と。

 ……。

 いやいやいやいや。

 まぁいいですけど。

 軽く手を上げて返す女悪魔は、彼女に従うようで。それが、どこか面倒な雰囲気はありながら、全くの嫌々という様子でもない。

 ……正体不明の上級悪魔というだけでも剣呑なのに、また、ことごとく厄介事を持ち込んでくる。さて、これが吉と出るか凶と出るか。宰領生の選抜で馬鹿を踏んで、劣勢に追い込まれた王国勢……その力関係がこの混乱でリセットされればそれに越したことはない。いや、混乱に乗じて、うまく王国の要請を通せればそれでいい。

 ……とはいえ、あの学長がただで受け入れるはずもないものの。

 という一瞬の思考を挟んで、彼女を静止した。

「その後でも、話を聞いてもらえれば」

「エットー……ウザガラミは遠慮しますけど?」

 笑顔のまま固まる。

 何を言っているのか分からない。

 彼女の後ろでやれやれと上級悪魔が首を振った。

 いやいやいやいやいや。

 うん。

 ここまで意思の疎通ができないとは。

 そして。

 ……あれ?

 食堂入口から人を割って歩いてくるのは。

 黒髪に、白い貴族服。まごうことなき殿下。

 ちょっとあー疲れで目が霞んでるとかそういう感じで……はなく、間違いなくいる。

 ……一応、彼女の側にその姿がない時を狙ってきたのに。

 こういう時は心話がくるわけでもなく。

 あぁ。

 だから面倒だというのに。

 要らない取り巻きに、よくないタイミングで殿下。

 彼は自分には一目もくれず、ただ彼女を止めるように声をかけた。

「あ、わざわざありがと~」

 という返事をした彼女は、こちらが王国貴族と知って殿下に何かしら助けを求めたことになるわけだが。悪魔たちが動いた様子はなく。パーティを組んでいるという皇子か? あるいは、他にも手足のように使う悪魔がいるのか。

 どちらにせよ、厄介の気配がする。

 殿下と彼女の会話から察するに、彼女に自分が何か因縁をつけると思われていたようで。

 いや、何を好き好んで上級悪魔召喚者にけちをつけなきゃいけないのか……。もしそんなことができるなら、獣人たちがブラフでもなんでもとっくにやって彼女の正体のヒントを手に入れているというもの。

 でも、まぁ、確かに。

 得体の知れない、そして実力のあるふりをしている新入生がいれば、ちょっかいの一つを出す学生がいてもおかしくはない。ただし、上級悪魔の召喚や空間移動をするような明らかな実力を見せられて、要らぬ出しゃばりをする愚か者は、流石に魔法学校にはいない。

 あー、でも、その愚か者と思われていたのか。

 うーん。

 ……どう出るかな。

 そして、女悪魔にトレーの返却という雑事を頼んで、周りを戦々恐々とさせてから、彼女が切り出した。

「で、用件はなんですか?」

「最近の魔物被害の深刻さは公式に発表されています。ご存知ですよね? さらには、ダンジョンの活性化も報告されており、状況は発表よりも深刻です」

 伝わっているか分からないのもあって、言い聞かせるような口調となる。殿下が何かを思い出したのか、他の誰にも分からないくらいに、それでも確実に視線を逸らした。

 彼女が一言一言頷いており、その目に理解の色が灯っていることを確認して本題に入る。

「零彪の魔術師ことユーリ殿とお知り合いと伺っております。勝手ながら、彼への調査依頼を言伝していただきたいのですが」

 考え込むように真剣な表情になる彼女に反して、雑然とする周囲を意識から切り離す。まぁ、そう、彼女と王国の二つ名冒険者に関わるがあるとは思われていないはず。彼との繋がりが知れれば、まぁ、誰も知らない土地からその魔力ゆえに見出されて魔法学校に入学した、というシナリオが俄然信憑性を帯びる。

 魔法同盟の誰それの隠し手、あるいは誰かの隠し子、そういった剣呑な可能性が潰れる。男が少ない上に、直系と言い難い流れの我が家は隠し子説だけは早々に潰しておきたい。けれど、まぁ、最終的に綺麗に否定できればそれでいい。

「それって、公式な?」

「えぇ、そうなりますね」

 すんなりとオフィシャルなんて言葉が出てくる彼女が、ただの平民とは思えないけれど。

 彼女は首を傾げる。さらりと焦茶の髪が流れた。

「それなら、公式なところを通してしてもらえません? わたしに言われても決定権ないし」

 一瞬で考えるのは。

 このまま流すか。

 それとも、パーティの件をここでバラしてしまうか。

 冒険者の権力層と結びついていると思われれば、我が家の隠し子説が濃厚にはなるけれど。

 上級悪魔の召喚、時間系魔法の行使、そして他の悪魔さえ使役している。全系統の魔法に素質があるらしく、そして聖女について聖教会に出入りしている時点で。

 まぁ。

 そう。

 有名冒険者とパーティを組んでいたという情報が加わったところで、混乱が、増すだけ。

 そして、我が家としては。

 スキャンダルではなく、ゴシップであれば、今は歓迎。

 我が家に関わる凄烈な噂話がもうすぐ出回る。ならば、その下地を作っておくとなおいい。いきなり噂が跳ねると不自然だが、「こんな話もあったけれど、そういえば……」という関心が欲しい。

 そう、「彼女は妾腹の現当主の隠し子かも知れない……」という、ゴシップでも。

 だから、こうしてわざわざ食堂に出向いている。

 彼女が、有名冒険者とパーティを結成しているとなれば、彼らとつながる伝手として我が家が意識の上に上ることもあるだろう。もちろん、その他の可能性もあって、決定打は何もない。だからこそ、そんな想像は噂で終わる。

 だから、ここは。

「決定権?」

 と、何も知らないふりで聞き返す。

 すぐさま、彼女は。

「エ? ユーリさんに依頼ってことはユーリさんのパテに依頼ってことですよね?」

「まぁ、ありていに言えば」

 調査といえば、彼一人や、彼を中心に冒険者を集める方が定石ではあるはず。そういう言葉が出てくるということは、彼女はどうやら冒険者ギルドのやり方には疎いらしい。ただの冒険者であれば知らないこともあるだろうが、二つ名持ちと長らく接していればそんな言葉は出てこないはず。

 とはいえ、パーティに言及させたいがために曖昧に返す。

「わたし、ユーリさんのパテの一員ですもん。入学して早々授業に出れなくなるとか嫌ですよ?」

 へぇ。

 一応、彼らを立てるつもりはあるのか。そして、魔法学校で学ぶつもりも。

 五月蝿くなる周囲にうんざりする。まったく。

 こちらの取り巻き二人も動揺をしているが、みないふりをする。これに懲りていちいちついてこないでほしいものだけれど。

 ただただ傍観していた上級悪魔がやれやれと疲れを顔に滲ませていた。こちらも大概、嫌気がさしているが。

 さて、お披露目は終わった。

 誤解を修正するか、それとも、伝言を頼めば零彪が訂正してくれると思うべきか。

 しかし、こちらが口を開く前に殿下が彼女の袖を引いて小声で囁く。

「その話、パーティ申請はしているでしょうが、正式に発表とかはまだですよね?」

 唇を読む限り、そんなところか。

 ……さて。

 パーティの件はまだ我が家が止めているはず。

 彼女か皇子が殿下に話したと見るべきか。後々、「僕らもパーティ組めないんですか」などとまた返事に窮する心話が殿下からくる様を想像して、勝手に心労を溜めつつ思う。

 とはいえ、彼女が殿下になんの壁も感じずに接しているのは会話を見てもわかる。そして、なぜか殿下も彼女に接する様子は……。

 心に湧くのは、あぁ、面倒だという、そちらの方が大きい。

 自分は、ただ、臣で民である。

 たとえ、一等気に入られていても、幼少を共にしても、彼のために命を差し出すと決めていていも。

 だから、そう軽々と会話もできない。

 普通はそうあるべきで。そうではない彼女は、我々の理屈の外側に生きていることになる。

 さて、その正体は、となると。

 分からない。

 軽口の応酬の中で、一週間の不在に触れられると彼女の方から話を逸らした。

 しかし、殿下。半分くらいは魔法語か謎の言葉の彼女とよく会話が成立しますね。

 彼女は自分の方へ向き直って、真顔に戻る。

「彼に話はします。でも、どうなるかはわたしの知るところでは……」

 堅苦しい単語を選び取ろうとして言い淀む彼女。

 うーん。

 そういう礼儀、いや常識はあるのが逆に不思議に思える。

 調査依頼はパーティに行くのではない、という誤解の修正は諦めることにした。

 ほら、ここまでの会話がスムーズに行っていたのも不思議だし。

 魔法語がいつ混じり始めないとも限らないし。

 ここは、戦略的撤退ということで。

「それでは、お願いします。わざわざお時間取らせて。それではまた」

 軽く礼を言いながら、立ち去る。

 向けた背の向こうで、殿下と彼女が部屋に戻ろうと話をしているのを聞きながら。

 何か口を開きかけたその場限りの装飾品たちに、笑顔で「他にも用がある」と言って厄介払いをして階段を登り始める。

 誰もいないところへ行きたい。

 そんなところはどこにもないけれど。

 すれ違ったリアが歩調を緩めて肩越しに自分を振り返ってきた。

 あぁ。

 作り笑いに歪んだ顔をどうすればいいか分からないまま、階段を登る。

 束の間、一人になりたくて。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ