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二つの影
霧で包まれた街角で、街灯によって二つの人影がぼんやりと浮き上がっていた。それらはほんの少しの間、微動だにしなかった。
背の高い影が口を開いた。
「お前、まさか…」
「残念だったな…。僕も君には用はない」
背の低いほうの影はそう言い残して深い深い霧の奥に姿を消した。
もう一つの影はしばらくそのままたたずんでいた。
その様子を一人の背骨の曲がった老婆が見ていた。彼女は何かきいきい甲高い声を挙げ、近くの家のドアを叩き始めた。家の主人は小言を言いながら老婆を閉め出した。彼女の話を聞く人など、昔からいなかった。
彼女の影もまた、霧に飲まれた。