Zenith 2
私は混乱していた。何の見返りもないのに、何の接点もない者の世話ができるのか──少なくとも私の周りにはいなかっただろう。全ては利害関係ではないのか。
あの吸血鬼は冷酷で残忍そうだった──猫の殺し方も荒々しいし、人間の血だけでなく肉まで取ってくる神経は猟奇的な殺人鬼そのものだ──。私は生きるための血を採るだけなので、よっぽど理性的で良心的だと思う。しかし、なぜだろう…。彼が怒鳴り散らしていたとき、明らかに牙をむいた狂犬のようだったが、その中に妙に人間くささを感じた。
私もそこまで色々な吸血鬼と関わったことはないが、戦場に行ったときに見る血の気のない顔で無心で死体をあさる屍のような者たちを見る限り、とても人間の心があるとは思えない。私が頼る医師クレタスは、親切ではあるが常に冷静であり、人間味があるかは微妙だ。第一、私自身どの程度人間らしさが残っているか不明だ。
*
ゼニスは風でガタガタ揺れる窓に目をやった。部屋の中もとても肌寒かったが、外の空気を吸いたいと思った。
血を摂取して若返ったせいか体が軽くなった様に感じた。しかし、窓の取っ手に手をかけたとき、手の甲に赤い斑点がついていることに気づいた。思わず袖をめくり、腕を見ると、そこにも赤い斑点が広がっていた。
階段を駆け下り、洗面所の鏡を見ると、フレツェリックの言ったとおり、顔にも広がっていた。シャツを脱いで見ると、首から腰にかけても斑点は存在していた。
以前もこのようになったことがあるので、恐怖は感じなかったが、感知させるのに一週間は安静にしてなければならなかった。もし、あの夜、フレツェリックでなく他の人間に出会えていたなら、今頃この屋敷を出て、他の国に旅立っていただろうに…。フレツェリックに会ってなどいなければば猫のシチューを飲むことはなかったし、あの重篤なアレルギー症状や赤い斑点が現れることもなかった。
ゼニスはため息をついた。せっかく元の年齢に戻れたというのに、赤い斑点のせいで台無しだ。そして、ゼニスは精悍な顔立ちをしていたが、今はまぶたが腫れて間の抜けたような顔になっている。
手ぬぐいを水で濡らし、まぶたに押し当てて、部屋へ戻り、ベッドに入った。そして、この二日間自分に起こったとことをたどっていった。考えれば考えるほどわからなくなった。