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二年の話 その2

 ちょっとした事件が起こったのは、二年生の夏のことである。

 私と洋香は、高校進学のことを考えて、一緒に隣町の塾へ通っていた。塾ではいつでも隣の席。そのため、洋香はしょっちゅう授業中に手紙やら落書きやらを渡してきた。真面目に授業を受けるつもりはなかったようだ。かく言う私も先生の話なんて上の空だったかもしれないが。

 そしてこの日も手紙は私の手元に投げられた。七月二日、今でも忘れない。

 手紙には、洋香の好きな深夜ドラマについて書かれていた。

『今夜の十二時、私の好きなドラマの最終回だから絶対に見てね。一話からは今度DVD貸してあげるから。あと、明日やる映画も録画しておいてね』

 もちろん、私自身そんなものに興味はない。頼んでもいない。正直見たふりをしてやり過ごしたいのだが、洋香の場合、次の日に私がちゃんと見たかどうか確認するため質問をしてくるに違いない。

 私は彼女に気づかれないように机の下でそっと、手紙を握り潰した。この出来事が私にとっての起爆剤となったのだろう。この苛立ちを沈めるべく、誰かに愚痴を聞いてもらいたくなった。今まで心の中に溜め込んでいた毒を、絞り取ってしまいたくなった。


 次の日、私が学校のトイレに行くと、たまたま夏実と出くわした。その時私は少しの間、彼女と話をした。それが一体どんな内容だったのか、あまり覚えていない。しかし、何か余計なことまで話してしまったことと、夏実に「このことは内緒にしておいてね」と口止めしたことは確かだった。

 その日の夜、洋香から突然電話がかかってきた。

「明日、話があるから」

 洋香は、私が「もしもし」と言い終わる前に低い声でそう言うと、ガチャりと勢いよく電話を切ってしまった。

 この時点で私はすべてを悟った。おかげでその夜は一睡もできないまま朝を迎える羽目になってしまった。

 翌日私が洋香のいる教室に行ってみると、既に彼女のとなりには怯えた様子の由奈の姿があった。彼女だって気まずいだろうに。何やら申し訳なさそうにこちらを見つめてくる。そんな目で見ないで欲しい。

「お、おはよう」

 私が声を掛けると、由奈だけが「おはよう」と返した。洋香は濁った目でこちらを睨みつけると、すぐにそっぽを向いた。

 一言も喋らない。微動だにしない。死んだ目をして、ただ机に座って、たまに苛ついたように小さくため息をつくだけなのだ。

 彼女が言葉を発しなければ、私も何も喋ることができない。そういう呪いがかかっている。事情を何一つ知らないらしい由奈はかなり困惑していた。当然だ。

 そしてお昼休みになった頃、ようやく洋香は口を開いた。

「来て」

 彼女は私だけをトイレに呼び出した。

「ねえ、あんたってさあ、どんだけ性格悪いわけ? 夏実になんか変なこと言ったでしょ。ほんとやめてくれない? 意味わかんない。そんなに私を悪者にしたいの? まあ、今回は夏実が教えてくれたから、良かったけど」

 「やっぱりな」と私は思った。夏実にチクられた。私が言ったことの悪い部分だけ切り取って、彼女は洋香に密告した。もう二度と信じるものか!

 私は頭にきて、何か言おうとしたが、洋香は容赦なくそれを遮った。

「あんたさ、いっつもいっつも控えめで、自分の意見もはっきりしないくせに、それなのに本人に隠れて愚痴言うとか、最低だと思わないの? 言わないよね、普通は」

 最もだと思った。しかし、私は洋香が私一人を責めていることに対し、強烈な違和感を覚えた。だが口には出さなかった。口に出すような勇気はどこにもなかった。

「ごめん…… もうしない」

 私は情けなくそう言った。

 


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